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れびびーる  作者: 真草
第一章
7/15

「どうですか、ザクロさん。懐かしの景色ですよ。感傷に浸ってくれてもいいんですからね。ってかむしろ、泣いちゃってください。ほら、早く」


 先ほどから10分ほど、白砂がひとりでしゃべり続けている。その全てが、ザクロに向けて発せられた言葉であったが、ザクロは今のところ完全に無視している。


 確かに、偶然にも担当する人間が住んでいるのはザクロが以前住んでいた街と同じ街だったため、懐かしの景色というのは嘘ではない。しかし、死後せいぜい八時間のザクロに、懐かしいという感情が湧いてこないのは当然のことであった。


 いま、ザクロと白砂のふたりは、道路から5メートルほど上空を移動中である。転送装置でムンドにきてから、既に一時間ほどが経過しようとしていたが、いまだにザクロは自分が担当することとなる人間に出会えていない。

 自分が担当する人間は、赤城(あかぎ)(あおい)という、17歳の女性だということを、ザクロは白砂から聞いていた。


「幽霊だからって、お風呂とか覗いたら駄目ですからね」

 17歳の女性だということを言った後の、白砂の第一声が、それだった。幽霊になって、女の子の入浴を堂々と盗み見るというのは、男ならば、誰もが一度は夢見たことがあるだろう。しかし、ザクロの場合は、そんなことを考えたことはなかった。


 女性に興味がないわけではない。客観的に見れば、ザクロの容姿は、非常に整っていると言えるだろう。身長も、平均よりはやや高い。実際、ザクロにアプローチをしてくる女性は数多くいたし、その中の女性と付き合ったこともある。しかし、ザクロの恋人というポジションに、三か月以上ついていた女性はひとりもいない。ザクロの、あまりの無関心さに、女性が耐えられないのだ。ザクロとしては、それなりの態度で接してきたつもりだったのだが、あまりに希薄すぎて、分かってもらえなかったようだ。

 女性が別れを切り出してきた時も、ザクロは特に悲しそうな顔もせずに、それを承認してきた。それがさらに、その女性を傷つけていることに気付いていても、ザクロは、そのような態度しかとれなかった。

 そうした過去の自分の恋愛事情を少しだけ思い出しながら、ザクロは白砂の話を聞いていた。


「おっ、見えてきました。あの高校ですよ、ザクロさんが担当する女の子が通っているの。すっごく綺麗な学校ですね。私もあんな学校に通いたかったなー」

 そう言いながら、白砂が指差した学校は、いかにも、『お嬢様学校』という感じの学校だった。


 私立鹿鳴(ろくめい)高校。県内でも屈指の進学率を誇る進学校であり、ザクロでも名前だけは知っているような、全国的にも有名な女子高である。見たところ敷地面積は非常に広く、少し小さめの大学くらいはある。ゴシック様式の教会をモデルにして建てられたであろう校舎は非常に繊細、かつ荘厳な印象を見るものに与える。校門の脇には、警備室があり、セキュリティも厳重なようだ。

 現在、校門のあたりに生徒の影はない。まだ授業中なのだろう。ザクロたちは、警備員の目を気にすることも無く、堂々と、その校門から学校に入って行った。


「本当に、見えてないんだな」

 ザクロが警備室の方向を振り向きながら言う。


「そりゃ、当たり前ですよ。なんたって、私たちは死んでるんですから」

「でもさ、さっきの警備員たちにも、担当のベールがいるんだろ? なんで、そいつらの姿も見えないんだ? 今は、たまたまいないとか?」


 ザクロは先ほどから気になっていたことを尋ねた。ムンドに来てから、既に何人かの、生きていると思われる人間とすれ違ってきたが、その人間の近くには、ベールとおぼしきものの姿は見えなかった。


「んー、常に担当の人間の近くにいなければいけないわけではないので、たまたま不在ということも考えられますが、いたとしても基本的にその姿は見えないですね。説明はなかなか面倒なんですが、まあ、分かりやすく言うならラジオの周波数みたいなもんですかね」


「周波数?」


「そう、周波数です。ラジオは、聴きたい番組の周波数に合わせないと、番組は聴こえてきませんよね。それと似たようなもので、ムンドでは、私たち、ひとりひとりにも周波数みたいなのがあるんです。だから、その周波数が違うものの姿は見えないのです」

「じゃあ、今、おれとあんたの周波数は一緒ってことか?」

「そうですよー。ちなみに、生きている人間の周波数は全て同じです。だから、彼らはお互いの姿が、ちゃんと見えるんですよ」

「ってことは、おれらの姿もあいつらに見えるんじゃないのか?」

「いやいや、むこうの姿は見えても、彼らには私たちの姿は見えません。これも説明が非常に難しいのですけど、まあ、AMとFMの違いだとでも思っといてください」


 いまひとつ理解できないザクロではあったが、そういうものだと割り切って諦めることにした。

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