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れびびーる  作者: 真草
第三章
13/15

「あ、ザクロさん。そういえば、言うのを忘れていましたが、一度私の上司に会ってくれませんか」


 アパートにつき一息入れるのかと思いきや、白砂は唐突な提案をザクロにしてきた。


「なんだよいきなり。上司って、天送課のお偉いさんってことか? なんで会わないといけないんだ?」

「まあまあいいですから、とにかく、行きましょー!」

 そう言うやいなや、白砂は再び転送装置を起動させた。


 気づけば、ザクロがこの世界に初めてきた時にいたビルの目の前だった。


「なんだ、わざわざここに転送しなくても、最初からお目当ての部屋にいけばいいんじゃないのか?」

 ザクロは白砂にそう尋ねた。


「いやー、このビルに関しては、そうはいかないんですよ」


 そうして白砂が説明するところによれば、彼女たちが働くビル、ラ・オフィシーナはいわゆる政府機関にあたるため、防犯上の関係で外部から直接内部へ転送できない仕組みになっているらしい。そのため、面倒ではあるが一度正規の手続きをしてセキュリティを通過しなければ中に入ることはできないとのことらしい。


「で、さらに転送できるのは1階から他の階へと、他の階から1階への二方向のみ。つまり、2階から3階へ行きたいときには、わざわざ1階を経由しないとダメってことか」


 ザクロが、先ほど白砂に説明されたことを反芻する。すでにザクロたちは、お目当ての部屋がある階へと転送してきている。ザクロの目の前には、『天送課本部』というプレートが掲げられた部屋がある。


「そそそ。そういうことです。ザクロさんなかなか理解がいいですね。それじゃあ、いきますか」

 そう言って、白砂は目の前の扉を開いた。


 その部屋にはデスクが五つ置かれていた。部屋の左右に二つずつと、奥に一つ。左右のデスクには誰もいない。奥のデスクには、縁のない眼鏡をかけた男性がひとり鎮座している。これが白砂の上司なのだろうと、ザクロは当たりをつけた。


「那須さん、例の男性、海別ザクロさんを連れてきましたよーっと」


 白砂が、上司に対するものとは思えぬ言葉づかいで男性に話しかける。那須と呼ばれた男は白砂の言葉づかいを特に気にした様子もなく、ただこくりと頷いた。


「初めまして、海別くん。私は天送課課長の那須春暁(はるあき)だ。まだこの世界に慣れていないだろうに、わざわざ呼び出してすまなかったね」

 そう言って那須は、ザクロに向かって軽く頭を下げた。


「いや、それは別にいいですけど。どうして僕を呼んだのか教えてもらってもいいですか?」


 白砂のものよりもはるかに心得た口調で、ザクロが那須に尋ねる。


「ふむ、まあそう生き急ぐこともなかろう。キミ、もう死んでるけど」

 そう言って、那須はくくくと笑った。その微笑みは、ザクロと白砂から奪われたもののようだった。


「課長、そんなことより、早くザクロさんに説明してあげてください」

 白砂は思わず嘆息し、那須に本題に入るよう促した。


「ああ、すまない。海別くん、君を呼んだのはある任務を課すためなのだよ」

「任務?」

「うむ、これは非常に重要なものだ。ちなみに残念ながら君に拒否権はない」


 那須の目つきが厳しいものにかわった。


「拒否はしませんけど、どうして僕なんですか? まだ死にたての新米ですよ」


 ザクロは当然の疑問を口にした。そもそも、ベールは天送課に所属しているものなのだろうか。そのあたりのことを、白砂は特に何も説明していなかったように思えるが……。

ザクロのそのような疑問を知ってか知らずか、那須が話しを続ける。


「君である理由は、話せば長くなるのでいずれ。とりあえず、任務の内容を説明しようか」


 そう言って、那須は書類の束を取り出し、ザクロの方へと差し出した。ザクロはそれを無言で受け取り、ぱらぱらとめくってみた。


 書類は履歴書のようであった。右上に何者かの写真が貼り付けてあり、その下には何事か文章が長々と書かれている。


「誰だ、こいつら?」

 ザクロは書類から目を外し、那須へと尋ねた。


「うむ、誰だと思うね」

「そういう問答は時間の無駄だと思うけどな」


 ザクロが無機質な応えを返す。もっともだとでも言いたげに、那須は軽く頷いた。白砂はこの書類のことを知っていたのか、先ほどから何も言わずただ二人のやりとりを見守っていた。


「白砂くんから、インフィエルノ、いわゆる地獄についての説明は受けただろう。覚えているか?」

「ああ、あのプントが高すぎた奴が入れられる監獄みたいな所のことか。いまその話をするってことは、この書類の奴らはそこに収監されている大犯罪者ってところか?」


 ザクロの応えに満足したのか、那須は深く頷いた。


「理解が早くて助かるよ」


 そう言って、那須はにやりと笑った。


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