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れびびーる  作者: 真草
第二章
12/15

 今、部屋には生きている人間はひとりもいない。


「不登校ってやつか」

 ザクロが静かに話し出した。葵が出ていったドアのほうを見つめている。


「そういうことです。彼女、今年に入ってからほとんど授業に出ていないみたいです。最近になってようやく、保健室登校ではありますけど、なんとか学校には行けてるみたいですね」


 白砂が神妙な面持ちで、ザクロに語りかける。口調からして、白砂はこのことを知っていたようだ。


「確かに、体調不良で保健室にいるとしたら、本屋に寄ったりなんかして、元気だなとは思ったよ。にしても、不登校か……。これも、プントに加算するべきなのか?」


 そう言いながらザクロは、白砂から渡された白い紙をひらひらとさせている。悪いことをしたらこの紙に書き記すということだったが、ザクロにはまだ、いまいちその基準がわかっていなかった。


「もちろんそれは、ザクロさん次第ですよ。前にも言いましたけど、プントの計算はベールに一任されているので。もし、ザクロさんがこれは悪いことだなと思ったなら、その紙に書き込むべきです」


 珍しく、少し強い口調で白砂が言う。心なしか、悲しそうな顔をしているようだ。葵が不登校だったことがショックだったのだろうか。しかし、白砂はこのことを知っていたような口ぶりだったが。そんなことを考えたザクロだったが、到底答えにはたどり着けそうになく、たどり着く必要性も感じなかったので、すぐに考えるのをやめた。ザクロにとって、他人の思考を理解しようとする行為は、非常に煩わしくて無意味なものであった。


「とりあえず、あいつを追いかけるか。たぶん、2階の部屋にいるだろ」


「そうですね。ここにいても、仕方ないですし」


 ザクロは結局、紙になにも書き込むことなく、ポケットにしまった。そして葵を追って、白砂とふたりで2階へと上がっていった。


 葵の部屋は、広さこそあまりないが、その部屋に足を踏み入れたものは皆、壁一面に張り巡らされた本棚に目を奪われることだろう。6畳ほどの図書館、と形容しても決して言い過ぎではないだろう。この部屋では完全に本たちが主役となっている。本棚以外には小さな勉強机とベッドが置いてあるだけだ。ベッドがなければ、書斎と勘違いしてしまいそうだ。


 この部屋をみるだけで、葵がかなりの読書家だということがうかがえる。


 そして今、葵の手によって、この小さな図書館に新たな仲間が加わった。さきほど富士山書店で買った、3冊の小説たちだ。どうやら葵は、買った本はとりあえず本棚に並べておくタイプのようだ。


「学校なんて、行っても無意味じゃない。あんなところ」


 葵が突然、強い口調で言い放った。やはり、その目には涙が浮かんでいる。


「あんな授業なんて受けなくても、教科書を読むだけで勉強はできるじゃない。それならもう、学校に行く意味はない。そう判断したまでよ」


 ややヒステリック気味に独り言を解き放った葵は、そのままベッドに倒れこんだ。しばらくすると、寝息が聞こえてきた。どうやら、制服すら脱がないまま眠りに落ちてしまったようだ。


「うーむ……。どうやら、いじめられているとか、そういったことはなさそうですね。少し、安心です」

 白砂が胸をなでおろしてつぶやく。どうやら、不登校になった理由までは知らなかったようだ。


「随分と頭がいいみたいだな、こいつは。でも、授業を受けなくても勉強はできるからって、学校に行かないなんてな。別に学校は授業を受けるためだけにある場所でもないだろ」


「あ、ザクロさん珍しくいいこと言いましたね。もしかして、部活か何かやってたんですか?」


 白砂がにやにやしながらザクロに問いかける。


「いや、なにもやってないよ。おれも別に学校なんて行く必要なんてないと思ってたけど、休んで親にうだうだ言われるのもめんどくさいからな。だから、行ってた」


「おお、なんともザクロさんらしい理由ですね……」

 半ば呆れたような口調の白砂だが、どこか可笑しそうでもあった。


「今日はもう、こんなものでいいんじゃないか。どうせこの後は、飯食って寝るだけだろ。そろそろ引き上げよう」


 もう飽きてしまったのか、ザクロはどこか気怠そうだ。この男の場合、飽きてしまう以前に、興味があったのかも怪しいところだが。


「んー、そうですね。大体、仕事の流れはわかったでしょうし、今日のところはこの辺で切り上げますか。明日からも、また頑張りましょうね」


 そう言うと、白砂は右手の中指にはめている指輪に手をかけた。これが、転送装置になっているらしい。白砂が指輪を真上にかかげると、白い光がふたりを包んだ。


 気付くと、ザクロと白砂は、もといたアパートの部屋へと戻ってきていた。

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