5.決意
掌から出て行った白い光が、鬼にぶちあたる。
至近距離での出来事だったせいで、爆風が和希にも襲い掛かってきた。頬の傷がヒリヒリする。
爆風が眼球を刺激する。
和希は目を細めた。
けれど、決して瞼を閉じず、視線も逸らさない。
自分が行ったことから、決して目をそむけないという決意を込めて。
やがて爆風が収まると、そこには鬼がいた形跡はなにひとつ残らなかった。固そうだった皮も、肉片も、丸太も。
「あー……やっちゃった」
何に対する言葉なのかは、自分でもあんまりわかっていない。制御を考えなかった魔法なのか、生命を奪ったことに対してなのか。
でも、仕方がない。
和希がここで生きていくために、今のは必要だった。
だって、和希はまだ二十年しか生きていない。これまで生きるのに必死で、遊ぶことだってあまりできなかったし、食べられないものだってたくさんあった。
そんな我慢だけをした人生を、こんなところで、こんな風に終わらせるなんて絶対に嫌だった。
でも、死にかけたおかげでわかったこともある。
「いつか」の幸せのために、ずっと我慢していたって、「いつか」が来る前に死んでしまうのかもしれないのだ。
「大学を卒業して就職したらきっと……」なんて夢見ていたけれど、今みたいな状況で死んでしまったら、永遠にその日は来ない。
「うん、決めた!」
和希は拳を作って、決意をした。
「我慢をしない! 今できることを全力でやって、今ほしいものを全力で手に入れる! 明日死んでも、後悔しない生き方をしよう!」
幸いここは異世界。すべてのしがらみを捨てて一からやりなおすにはもってこいだ。身元引受人も、この世界の常識もないけれど、それでもやってみせる。
「まずはお肉をお腹いっぱい食べるぞー!!!」
和希のみみっちい目標が、異世界の空に響き渡った。