2. 生きるためには何がいる?
気が付くと、濃い緑の中にいた。
チチチチッと何かが泣く声がする。
「森、だよね……」
和希は呆然としながらあたりを見回す。
なぜスーパーにいたのに、いきなり森の中?
思う存分、唖然とし続けたけれど、いくら待っても何も起こらない?
こういってはなんだが、こういうときはお告げによってイケメンが迎えに来たり、神様が「めんごめんご、間違えて転生させちゃった。お詫びにスキルをあげるよ」とか言って出てくるものなのでは?
和希は肉も好きだが、ネット小説も大好きである。
その大好きなネット小説では、そんなお約束によって玉の輿にのったり、チートになったりするのだが……
どうやらイケメンが現れることはないようだ。
動物の声と葉擦れの音しかしない。
あとは……記憶がないうちに、実は神様との交渉を終えてチートになっているとか?
そういえば意識を失う前に、誰かの声を聴いた気がする。
和希は気を取り直し、近くの太い樹をじっとみつめる。
和希の7人分ぐらいの太さがある。
和希はおもむろに拳をつくり、力いっぱいなぐりつけた。
「いったーーーー!!!!」
右拳を抱え込み、ぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。
むちゃくちゃ痛い。当然、樹は傷一つついてない。
和希の手は真っ赤に腫れ上がっている。
「全然チートじゃないじゃん!」
ひどすぎると和希は思ったが、当然和希が愚かなだけである。
誰もチートになったとは言っていない。
結局、ひと気のない森で、傷ついた手を抱えてひとりである。
だが、和希は前向きだった。
貧乏人から前向きさを奪ったら、みじめさしか残らない。
「いや、魔術チートなのかもしれないしね!」
和希はぐっと手を握る。
が、先ほど全力で気を殴って、手痛いしっぺ返しをくらったばかりである。
とりあえず、自分の害がない方法をえらびたい。
やがて右手をかざすと、気合を入れて先ほどの樹に向かって叫んだ。
「ふっとべ!!!!」
――バアンッ!!!!!
ふっとんだ。それはもう粉々に。
ちょっと樹に恨みがあったとはいえ、あまりのふっとびぶりに申し訳なくなってくる。
己の成したことにしばし呆然としていた和希は、ハハハ…と乾いた笑いをこぼした。
「マジか、魔力チートか」
とはいえ、さすがにふっとばしすぎた。
このままだと恐ろしすぎて、軽い気持ちでは使えない。
和希はあたりを見回すと、先ほどの樹と同じぐらいの太さの樹を見つけ、再び手をかざした。
手の先に意識を集中しつつ、樹に向かってささやく。
「静かに倒れてー」
―ーズゥン。
静かに倒れてくれた。
臨機応変な己の魔力が恐ろしい。
さらに和希は続ける。
「武器になりそうなものをつくりたいから……私のイメージ通りの、魔力を増幅してくれる杖を作り出したい!」
次の瞬間、パァッと光が散った。
思わず目をつぶってしまう。
次の瞬間、光がちったあとには一本の木製の杖があった。
「マジで……」
自分の万能っぷりにびっくりな和希であった。
が……
チートでも杖を手にしても、ここがひと気のない森の中であることは変わらない。
「まずは、こっから出なきゃなぁ……」
町がどこにあるのか、水場がどこにあるのか、さっぱりわからないこの状況で必要なのは魔力ではなく、ボーイスカウト的知識だと和希は思った。