表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2. 生きるためには何がいる?

 気が付くと、濃い緑の中にいた。

 チチチチッと何かが泣く声がする。


「森、だよね……」


 和希は呆然としながらあたりを見回す。

 なぜスーパーにいたのに、いきなり森の中?

 思う存分、唖然とし続けたけれど、いくら待っても何も起こらない?


 こういってはなんだが、こういうときはお告げによってイケメンが迎えに来たり、神様が「めんごめんご、間違えて転生させちゃった。お詫びにスキルをあげるよ」とか言って出てくるものなのでは?


 和希は肉も好きだが、ネット小説も大好きである。

 その大好きなネット小説では、そんなお約束によって玉の輿にのったり、チートになったりするのだが……


 どうやらイケメンが現れることはないようだ。

 動物の声と葉擦れの音しかしない。


 あとは……記憶がないうちに、実は神様との交渉を終えてチートになっているとか?

 そういえば意識を失う前に、誰かの声を聴いた気がする。


 和希は気を取り直し、近くの太い樹をじっとみつめる。

 和希の7人分ぐらいの太さがある。


 和希はおもむろに拳をつくり、力いっぱいなぐりつけた。


「いったーーーー!!!!」


 右拳を抱え込み、ぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。

 むちゃくちゃ痛い。当然、樹は傷一つついてない。

 和希の手は真っ赤に腫れ上がっている。


「全然チートじゃないじゃん!」


 ひどすぎると和希は思ったが、当然和希が愚かなだけである。

 誰もチートになったとは言っていない。


 結局、ひと気のない森で、傷ついた手を抱えてひとりである。

 だが、和希は前向きだった。

 貧乏人から前向きさを奪ったら、みじめさしか残らない。


「いや、魔術チートなのかもしれないしね!」


 和希はぐっと手を握る。

 が、先ほど全力で気を殴って、手痛いしっぺ返しをくらったばかりである。

 とりあえず、自分の害がない方法をえらびたい。


 やがて右手をかざすと、気合を入れて先ほどの樹に向かって叫んだ。


「ふっとべ!!!!」


 ――バアンッ!!!!!


 ふっとんだ。それはもう粉々に。

 ちょっと樹に恨みがあったとはいえ、あまりのふっとびぶりに申し訳なくなってくる。


 己の成したことにしばし呆然としていた和希は、ハハハ…と乾いた笑いをこぼした。


「マジか、魔力チートか」


 とはいえ、さすがにふっとばしすぎた。

 このままだと恐ろしすぎて、軽い気持ちでは使えない。

 和希はあたりを見回すと、先ほどの樹と同じぐらいの太さの樹を見つけ、再び手をかざした。

 手の先に意識を集中しつつ、樹に向かってささやく。


「静かに倒れてー」


 ―ーズゥン。


 静かに倒れてくれた。

 臨機応変な己の魔力が恐ろしい。

 さらに和希は続ける。


「武器になりそうなものをつくりたいから……私のイメージ通りの、魔力を増幅してくれる杖を作り出したい!」


 次の瞬間、パァッと光が散った。

 思わず目をつぶってしまう。

 次の瞬間、光がちったあとには一本の木製の杖があった。


「マジで……」


 自分の万能っぷりにびっくりな和希であった。


 が……

 チートでも杖を手にしても、ここがひと気のない森の中であることは変わらない。


「まずは、こっから出なきゃなぁ……」


 町がどこにあるのか、水場がどこにあるのか、さっぱりわからないこの状況で必要なのは魔力ではなく、ボーイスカウト的知識だと和希は思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ