推理小説
「あなたは、知っていたんです。それを隠ぺいしようと新たな工作をした。しかし、それが仇となった…あなたは結局、その人のために罪を暴いてしまうことになったんです。」
疑われて必死に非がない事を証明しようと冷や汗を掻いてた人たちは、その一言を聴いて静まり返る。
「……そんな」
犯人の偽装を手伝っていた女性は、砂で必死に作られた城が暴かれてしまった真実という波に押しよされ、いとも簡単に崩れ落ちた。ひざまついた女性は、溢れ出す涙を堪えられず叫びだした。
それもそうだ。
犯人がミスしてした内容を、親友だと思っていた彼女は隠ぺい工作をした。
しかし、犯人はそのミスに気付かないまま色んな捏造を作り上げた。そして、ある時気が付いた。犯人は擦りつけるつもりで自殺したのだろう。それもまた、犯人を特定させる糸口にもなり事件解決へと導いた。
快斗の付き添いの有美が、彼女を哀れに想い近づこうとした。
「やめとけ。」
快斗はそっと口を開く。
「…だって、野月さんは悪くない。彼女は、ただ親友の麻穂さんを庇ってしまっただけじゃない?」
有美が快斗にの意見に対して意表を突いた。快斗はそれに対し、眉をしかめながら答える。
「いや、野月さんは悪いんだ。そもそも、人を殺めたのだと知っていたのなら自白をするように説得をするべきだった。いくら、殺された高見が悪かったとしても、それはハッキリ言って…彼女には関係ないんだよ。そう…犯人の麻穂さんが、自身で解決するべきだった。時には自分の意思を高見さんに訴えるべきだった。どう考えても…麻穂さんは、高見に言われ続け、どうしようもなくなって自分の気持ちがようやく吐き出せたのが『殺めてしまう』という行動に繋がってしまっては俺は味方にはなれないよ。人は口以外にも手段はある、頭だって、口だって、手だって、足だってある。それを全身そのものを悪に使ってしまっては何の意味もないんだよ。それに麻穂さんは悔やんだはずだ、少しでも…それは」
野月は狂った何かのように、床でバタバタする。
それをみて、ハッとした有美は呟きながら彼女のもとへ歩いていく。
「ごめん、快斗…。言い方、間違えた…。私、彼女のために悪を使うところだった。うん、いい意味で私、天使として手を貸すことにする。」
「そうか…」快斗は軽く返事する。
「…野月さん?」
野月は一時停止する。
「悪く思わないでね…」
有美は顔をひきつらせた顔で、彼女の頬を染めるぐらいに強くはたいた。
「痛いっ!!」
野月は意味が解らない出来事に、しゃがみ込んでいる有美を両手で投げ飛ばそうとした。
「野月さん、あなたの気持ちが解らなくなっちゃった。今の…痛かったでしょ…。でも殺された高見さんは、もっと痛い思いをしたはずよ。確かに高見さんが一方的に悪かったのかもしれない。親友の…いや、親友だとおもってた麻穂さんは、実は貴女にお節介に想われていたのも知っていたのよね。でも野月さんは…そんな麻穂さんでも、高見さんと良好になるためのアドバイスをしてあげたりしていたのよね?でも、私バカだったのね。野月さん、野月さんは麻穂さんのために隠ぺい工作するのではなくて、自白するように説得して欲しかった。それが、彼女への最大の良き事だったの!お互いの気持ちを新たにする一歩でもあったのよ!私、悔しい。悔しすぎる!どうぞっ、気に食わないなら受けてみせる。でもね、何の貴女のためには絶対、絶対ならないんだから!!!」
「有美……。」快斗は、有美の成長ぶりに涙した。
有美は、とにかく人に優しくすればいい。話を聴いて笑って、頷けばそれでいい。ただの上辺だけの関係で問題視していたのに、何が大切なのか少し気づけたことに快斗は心を潤した。
野月は、有美の胸の前にある惨めな両手を静かに引っ込めて微かな声で口にした。
「……そう………なんだ…よね。……んとうは、そうなんだよね、あたし、なに、やってるんだろうね…、んね。」
周りにいる従業員たちは、ぐっと唇を噛みしめて現実を感じた。
「野月さん…手、貸しますよ…」有美はそっと、今までか弱かった手を今回ばかりは力強く差し出した。
野月さんは、薄笑みながら「…ありがとう。」とつぶやいて、有美の手にしっかりと握り合わせた。
犯人、麻穂さんは遺書を残していたらしく自白の言葉とともに野月さんのことが永遠と書かれていた。それは人見知りから出る素朴な態度だったといい、でも本当は心の居場所だったと記されていた。ただ、麻穂さんがしたことも野月さんがしたことが許されるわけがない。
「快斗、麻穂さんに遺書があったんだね。なぜ、教えてくれなかったの?それを知っていれば、野月さんに痛い思いをさせずに、それにもっと違う言い方できたかもしれないじゃない?というか、何て書いてあったの?」
「あってもなくても、有美が野月さんに云ったことは変わりないだろう?それに俺も、勉強になった。中身は、有美、知らなくていい。知らない方がいいこともある。」
「うん、じゃあ、わかった。でも遺書…今頃、中で読んでいるのかな?」
「いや、出所してからになる。」
「何で?」
「それは、犯人、いや麻穂さんの意向だからだ。」
麻穂さんの遺書は、事件の重要参考物になったあと、あとは記載通りに彼女が出所してから渡される。
この遺書は間違えれば野月さんも犯行に及ぶかもしれない内容も記されていた、だが野月さんへの思いはひとつ。あとは野月さん次第だが、この手紙を読んで社会への大いなる復帰への第一歩になればと快斗は密かに願った。
ネット世界がとさらに一段と増し続けている。
別に知らなくてもいいような内容。またはデタラメすぎる情報。目的、趣向問わずにどんどん押し寄せてくる。そんな中でも、それに囚われずに人間は生きていかなければならない。
たとえ、いくら気が合ったとしても。




