嫁威し
むかしむかし、越前国に与惣治と清という夫婦がおりました。その夫婦は信心深く昼間は家業に専念し、夜になると蓮如上人の教えを乞う為、蓮如上人の元へ足繁く通っておりました。しかし、与惣治の母は信心というものがなく、夫婦が誘っても断るばかりか、家業に影響が出ると快く思っておりませんでした。
ある日のこと。与惣治が用事の為その日は通えなくなり、清のみが蓮如上人の元に行く事になりました。日頃から快く思っていなかった与惣治の母は好機と考え、行動に移すことを決意しました。
神社より鬼の面を盗み出し、白い帷子を身に纏い、道中にある山中に身を隠しました。
そして清が知らずに通り過ぎようとした時、それはそれは恐ろしい容貌の鬼が立ち塞がりました。その鬼は、
「我は神の使いである。母の意に背き、吉崎参りをするとは何事か。その不孝の罪からは逃れられぬ。許されたくば母の意に従え」
と、脅しました。清は恐怖のあまり自宅まで逃げ帰りました。
さて、この神の使いと申した鬼ですが正体は与惣治の母でございました。これでもう吉崎参りは行うまいと思いつつ面を外そうとするも皮が攣るような痛みが走り外す事が出来なくなってしまいました。まるで面が顔にくっついてしまったかのようでございました。ほとほと困った与惣治の母は夫婦の待つ自宅へと帰り、夫婦に自分の企みを告白しました。
泣き叫ぶ母を連れ、夫婦は蓮如上人の元を尋ねました。蓮如上人は優しく諭され、母は改心し己の軽率な行動を悔い懺悔されました。すると肉がくっついていたかのように外れなかった面がするりと落ち、離れたという。
この面が後の「嫁威し肉附きの面」と呼ばるようになりました。