ゴミ処理場
どうも。
ケーキやクレープなど、甘いもの大好きです。狂風師です。
私の作品の中では、割とまともな部類に入ると思います。
ジャンルとキーワードに悩んだのは秘密。
ここは使われなくなった古いゴミ処理施設。
そんなゴミ処理施設でも、人はやって来る。
生ゴミ、道端に落ちている空き缶、他人の人生。
全てを捨てることが出来る。
そう話しているうちに、ほら、また一人。
暗い。
こんな場所に一人でいるだなんて…すごく怖い。
クラスの人が場所を言ってたけど…冗談だと思ってたし、信じられない事だったし。
でも、それでも私は来るしかなかったんだ…。
右手に黒いビニール袋を持った女子が一人。
どうやら学校の噂話を聞いて、ここへ来たみたいです。
いったい彼女は何を捨てるのでしょうか。
そして彼女は、ここから狂ってしまうのでしょうか。
ここに捨てればいいのかな?
確かに捨てられそうな場所だけど、底が見えない…。
周りが暗いから? それだけじゃない気がするけど。
数秒後、私の手から離れていくビニール袋。
中身は、私をいじめていた奴の数学の教科書。
消し去りたい相手の所持品を、ここに投げ捨てる。
すると、その物の持ち主が消えてしまう。
という胡散臭い話。
私だって完全に信じているわけじゃない。
ただ、ノートをとられた仕返し。気休め程度にしか思っていない。
…教科書を盗って来るのは簡単だった。
捨てるのも一瞬で終わった。
とてつもない罪悪感が、私に降りかかった。
走って家に帰ると、全身に冷汗が流れていた。
遠くの音まで、よく聞こえてきそうだった。
物音一つない自分の部屋で、心臓の鼓動と虫の音だけが耳に入ってきた。
汗が染み付いた気味の悪い服を脱いで、寝巻へと着替えた。
早く寝てしまおう。
どうせ何の根拠もない、ただのつまらない噂話なのだから。
寝付きは悪かった。
朝になってから、いつの間にか眠ってしまったことに気が付いた。
いつも通りの目覚ましの音。
いつも通り、いじめられる一日が始まった。
学校なんて行きたくなかった。
今日はいったいどんなことをされるのか。
家族には言えないし、学校の先生にも言えない。
言う度胸がなかった。
なおも鳴り続ける目覚ましを止める気力もなく、だらしなく服を着替えた。
つい数分前に着替えたかのような気がして、どうにも妙な感覚だった。
リビングに行くと、いつも通りの朝食が並べられていた。
食欲なんか無い。
牛乳でトーストを流し込んで、後から来る吐き気に耐えた。
親の前では普通の子でありたい。
いじめなんて受けていない、普通の子で。
吐き気を悟られぬよう、ゆっくりと歩きたいのを必死で我慢し、部屋に戻った。
全部吐いた。
あんな事やらなければ良かった、と今さら後悔した。
ベッドに寝転がり、時間を潰した。
吐いたせいもあって、少し気持ちは落ち着いた。
止めなかった目覚ましは、知らぬ間に鳴りやんでいた。
やがて家を出る時間になり、鞄に弁当を詰め込んで家を出た。
どうせほとんど食べる事なんて出来ないのに。
登校している時は、比較的気が楽だった。
学校に近づくにつれて強くなる吐き気、鬱。
行かなくて済むなら行きたくない。
私の机なんか…見たくない。
毎日のように置かれている花瓶。
白い花びらが一枚落ちていた。
今日は場所が違った。
昨日、ゴミ捨て場に捨てた教科書の持ち主の席。
教室内は、重くて冷たい空気が占領していた。
私のせいじゃない。
ただの偶然かもしれない。
そのままの空気で時間は進んでいき、やがて先生がやって来た。
夜中、病院に運ばれたらしい。
救急車の中で息絶えたとか、絶えなかったとか。
沈んでいる空気で悪いが、私はとっても気分が良かった。
いじめる奴が一人消えた。
偶然にしろ何にしろ、消えたという事実に変わりはない。
あのゴミ捨て場は本物だ。
しかし私の高揚感は、昼頃になると一気に崩れ去った。
私をいじめる奴は一人だけではない。
「あんたがやったんだ」「お前のせいだ」「お前が悪い」
ドアの向こう側から聞こえてくる、私を責めたてる言葉。
上から入ってこようとする奴ら。
半分ほどしか食べていない弁当は、便器の中へと吸い込まれていった。
一人いなくたって、やられることは変わらない。
むしろ、私に対する攻撃は激しさを増した。
昼休みが終わってからは体育だった。
奴らがここに目を付けないわけがなかった。
体操服を隠すだなんて、そんな在り来たりな事じゃなかった。
汚し、刻み、燃やす。
どうにか燃やされるのだけは防いだけど、それでもハサミで切り刻まれた。
少し焦げたかもしれない。
もちろん体育の授業に着て行くことは出来ない。
忘れたと嘘を吐いて、その日は見学することにした。
日陰に座り、やる気もなく青い空を見上げていた。
熱血の汗流す体育の先生にトイレに行くと嘘を重ね、教室に戻った。
教科書一冊捨てたら、いじめっ子が死んだ。
それなら、ノートや教科書の切れ端ならどうなるだろう?
それだけで効果があるなら、一冊盗むなんてリスクを犯さなくてもいい。
すでに終わった教科のノートを取り出し、少しだけ千切った。
気付かれなければ、あとは捨てるだけ。
それをポケットに入れ、再び日陰に戻った。
すっかり忘れていた高揚感が私を包み込んでいた。
手に握ったままのノートの切れ端は湿り気を帯びていた。
昨日教科書を捨てた場所。
死にかけの蝶々のように舞い落ちていく紙切れ。
闇夜の暗闇に飲み込まれていくそれは、より一層私の心を昂らせた。
意気揚々と家に戻った。
前回のような罪悪感は、ほとんどなかった。
代わりにあるのは、確証のない安心感と期待。
いつもより明るめに学校に着いた。
やられることは変わっていない。
上履きにゴミ? 机に落書き?
勝手にすればいい。
私は、誰でも簡単に葬り去ることが出来る。
私をいじめる奴全員、消し去ってやる。
しかし、そんなところに入り込んできたのは悲報だった。
死んでない。
どうやら風邪で休みらしい。
そんなの一日寝ていれば治ってしまう。
切れ端だけでは、やはり効果が弱かったのだ。
それだけではなかった。
二日も続けて私に関わった人が休んだ。
先生は気付いていないだろうが、クラスの人ならすぐに勘づく。
「魔女」や「呪い女」。言いたい放題。
攻撃的ないじめから、無視、拒絶に近いいじめに変わった。
それでも私は動じない。
やり返せばいいだけだから。
一人ずつやらずに、まとめてみんなの分を捨ててしまえばいい。
もちろん、そんな簡単の事ではない。
私をいじめる奴なんてたくさんいる。
全員分のノート類を集めたら、かなりの量になるだろう。
それをどうやって怪しまれずに持っていくか。
今日の授業が終わり、みんな私を置いて帰っていく。
部活に行く人もいる。
私の机の中は、自分の教科書だらけ。
少しでも空きをつくって、少しでも多く持って帰るために。
目一杯詰め込んだ鞄は、かなりの重量だった。
その重さは、これから自分が行うことの代償だと思い、ひたすら我慢した。
私は夜が大好きになっていた。
夜になると胸の昂りを抑えられなかった。
これほどまでに楽しいことがあるだろうか。
暗闇に閉ざされているゴミ処理施設も、私に微笑んでいるかのよう。
半分踊りながら、黒いビニール袋に詰め込まれたモノを投げ捨てた。
重たい袋は、あっという間に消えてなくなった。
私は、あの袋の中身など確認していなった。
明日の学校が楽しみで仕方なかった。
いったい、どれだけの生徒が消えているのだろうか。
半分…もう少しか。
全部私がやった。
全部、全部、私に逆らう者は、全部いなくなった!
気が付いていなかった。
いじめっ子にとられた私のノートが、あの袋の中に入っていたことに。
最後まで気が付くことはなかった。
お久しぶりでした。
実はこの小説のネタ、半年ほど前から温めていたものです。
それからしばらく新しい小説のネタに埋もれ…。
昨日「突発性小説書きたくなる病」が発症し完成させました。
他の完結させていない小説も書いていけたらと思っています。
リストカット少女の続編も考えていたり。