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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第1章 異世界のご主人様と5人の奴隷娘
8/60

初魔法習得(前編)


「ま、魔法を覚えたいのですが」


 俺は恐る恐ると言った感じで、夕食の支度をしているアイネスに尋ねてみる。


「はぁあ?」


 そして、可愛らしい顔をしながら俺を睨む、鬼兎娘ことアイネスからの返答がこれである。

 今は料理用の包丁を握り締めてるから、下手すれば刺されるんじゃないかと思ってしまうぐらいだ。

 とてもじゃないがご主人様に対する返事の仕方とは思えない雑な対応だが、これでもマシになった方である。

 何しろさっきまで『猫耳少女強姦未遂事件』という冤罪で、目の前の兎娘にメイスで殴り殺されるところでしたから。

 まさか、お風呂に入るだけで死亡フラグが立つとか思わなかったから、正直あれには参りました。

 

 とにかく土下座してアイネスに弁明をしてる最中に、アクゥア達が助け舟を出してくれなければ明日の朝日も見ることができなかった。

 もう、ポロリイベントは勘弁して下さい。

 お風呂でのラッキースケベイベントは即、死亡フラグに早変わりするので、お願いですから神様わたくしに平穏な日々をお与え下さい。

 

「なぜ祈りを捧げているのですか? 旦那様の国では夕食の際に、そのようなことをする決まりがあるのですか?」

「え?」

 

 アイネスに尋ねられて、周りを見渡せばいつの間にか食卓に料理が並べられている。

 畳部屋に四角テーブルが2つ並べられ、皆が座布団を敷いた上に着席し、食事を取る体勢に入っている。

 狼娘のアカネなんかは涎を垂らしながら、ご飯から視線を外さずに睨み続けている。

 そういえば、アカネに奴隷の心得を教える為にも夕食は俺が命令するまで食べ始めないようにさせるとか言ってたな。

 アホ狐娘のエルレイナですら、黒猫娘のアクゥアの真似をして大人しくしている。

 お風呂から出た後に、先程までの地獄を回想しているうちに夕食の時間になってしまったようです。

 いつの間に!?

 

「魔法の講義でしたら、食事の後でも宜しいでしょうか? 先に、彼女達に食事をさせてあげたいのですが……」

 

 アイネスの台詞に、皆の視線が一斉に俺へ集中する。

 アカネなんかは牙を剥き出しにして、俺を睨んできてる。

 これ以上お預けの状態にしてたら、ご主人様である俺にすら襲いかかってきそうな雰囲気だ。

 

「う、うん。そうだな。食べよう。いただきます」

『いただきます』

「あいあいあー」

 

 手を合わせて日本式の食事の挨拶をしてみる。

 おろ? アクゥアさんも同じ動作を。そのアクゥアを見て、真似をするエルレイナがちょっと可愛かった。

 

「サクラ聖教国では、食事の際にそのような作法をされるのが普通なのですか?」

 

 アイネスに不思議そうに尋ねられるが、ただの偶然です。

 

「アイネスぅー、お・さ・け」

「はいはい」

 

 不良牛娘のアズーラが可愛らしく片目ウィンクをしながら、アイネスに酒を要求する。

 呆れた表情をしながらもアイネスが酒を入れてる冷蔵庫に向かう。

 この家には、冷蔵庫なる食材を冷やす魔法を使った備え付けの設備がある。

 

 魔法を使うには魔力を使う必要があるのだが、なんとこの家には各設備に魔力を送る魔力炉が、地下にある隠し部屋に備え付けられている。

 しかもその中には迷宮の心臓が入れられており、アイネスに教えられた迷宮の心臓の話を思い出して一瞬冷や汗をかいたが、アイヤー店長の話だと問題無いらしい。

 迷宮の心臓を魔力炉として使用する場合は、きちんと国に申請をしてる場合は使って良いのだそうだ。

 この家の大家が正式な手続きをしてるので、盗品では無いとのこと。

 ひとまずは一安心である。

 

 ただ、迷宮の心臓がこの家にあると分かれば盗みに来る人が出てくる可能性があるので、この件に関しては俺達とアイヤー店長だけの秘密ということにしておいた。

 魔力を使わずに魔力が必要な設備を使うことができるので、この魔力炉の件に関してはアイネスのこの家に対する好感度をかなり上げる要因になったようだ。

 癖がある設備にも文句一つ言わずに、一生懸命にアイヤー店長の話を聞いて使い方を覚えていた。

 まあ、なんかあればアクゥアにフォローしてもらえば良いしね。


 「ある意味では、貴族並みの家ですね。永住しようかしら」とアイネスが言ってたくらいだから、外観の見た目さえ気にしなければかなり良い物件なのだろう。

 今までの人達はこの家の外観を気にして住むのを諦めていたから、今考えてみれば本当にもったいない話である。

 

「おいしいであります! こんなにおいしい兎肉は、初めてであります」

 

 アカネの喜びの声に、沈んでた思考から浮上する。

 目の前にある皿に、今日捕まえた一角兎を焼いて食べやすいサイズに切り揃えた物が乗っている。

 それと、ラウネを使った野菜サラダとスープ、テーブルの真ん中に黒パンが重なるように置いてある。

 

「おかわりであります!」

「はい、どうぞ。今日は沢山捕まえてきたので遠慮せずに食べなさい」


 たしかに、大きめのクーラーボックスがいっぱいになるまで捕まえてたな。


「ぷはぁーっ! 俺はこの至福の一時のために生きてるようなものだぜ。やっぱり酒は命の水だな」

「大袈裟ね」

 

 アズーラの素敵な飲みっぷり後の台詞に、アイネスが呆れたような表情を浮かべる。

 口の周りについた白い泡を手で荒々しく拭うと、ブーツかと思うようなごついビールジョッキをテーブルに叩きつける。

 そのせいでテーブルに置いてる皿達が、煩い音を奏でて揺れた。

 もう、行動パターンがおっさんだなと思いながら周りに視線を移す。

 

 席順をアイネスが決めた結果、俺を正面にした四角テーブルの右前に給仕係のアイネス、左前にアクゥア。

 俺達のテーブルにくっつけたもう一つの四角テーブル席に、アイネスの隣にアカネ、アクゥアの隣にエルレイナ、俺と対面になる形でアズーラが座ってる。

 

 俺も今日は動き回ってお腹が減ったので、兎肉を食べてみる。

 

「うまいなこれ。なんかたれでも漬けてるのか?」

 

 甘辛い味付けがまた良いな。

 アイネスがおいしくないって言ってたから覚悟して口に入れたけど、普通においしいぞこれ。

 どういうこと?

 

「フフフ、昨日の夜から一晩寝かした秘伝のたれに漬けて焼いてますからね。侍女時代の賄い料理でよくお世話になってた肉ですから、おいしくなる料理の仕方は心得てるんですよ」

『すごく美味しいです。本当にこれは、あの兎肉を使った料理なのでしょうか?』

『みたいだぞ。アイネスがうまく料理したらしい』

 

 アクゥアも目を丸くして驚いたような表情で食べているから、かなり上手く料理してるのだろう。

 

「すごくおいしいであります! アイネス殿は、料理屋をするべきであります。おかわりであります!」

「ありがとう、アカネ。そんなに美味しそうに食べてもらえると作りがいがあるわ。はい、どうぞ」

 

 手放しに褒められて嬉しかったのか、目に見えてご機嫌な様子でアイネスがおかわりをアカネに渡す。

 ていうか、アカネはこの短時間でもう3皿目かよ。早いよ。


「あいあいあー!」

「はいはい、エルレイナも落ち着いて食べなさい。口の周りが大変なことになってるわよ」

 

 エルレイナも口の周りを肉汁とたれでベタベタにしながら、嬉しそうな顔で喜びの奇声を上げる。

 味覚のおかしい野生児でも美味しいと美味しくないの違いくらいは分かるのか。

 

『エルレイナさん。手掴みは良くないです。これを使って下さい』

「うー、うー、あいあいあー」

 

 いつも手掴みで食べるエルレイナに、アクゥアがフォークを持たせて食べさせようと一生懸命に教えている。

 エルレイナは叱られたと思ったのか、狐耳を垂れてしょんぼりとしながらもアクゥアの動きを真似しようとしている。

 刺してから食べる動作だけでも覚えてくれたら、幾分マシにはなりそうだな。

 

「なんだかこうやって見ると、仲の良い姉妹みたいですね」

「まったくだな」

 

 微笑ましい表情のアイネスと一緒に、二人のやりとりを見つめる。






   *   *   *






 夕食を食べ終え、一段落したところで魔法の講義を俺の部屋でしてもらうことになった。

 

「アイネスって料理うまいよな。あの兎肉料理なら毎日でも食べられそうだな」

「嫌いな貴族に高級食材ですと嘘ついてよく食べさせてましたからね。舌の肥えた貴族でも騙せるくらいなので、味は実証済みですよ」


 さらりとすごい話を聞いたが、それはそれで問題無いのか?

 なんというか、テレビのドラマで女性社員が嫌いな上司のお茶に、雑巾絞った水を混ぜて出すみたいな感じだな。

 気づかれなければ大丈夫みたいな。

 強気と言いますか、俺にはとてもそんなことはできんな。

 

「それでは魔法の講義を始めます。私も早くお風呂に入りたいので、さっさと終わらせましょう」

「ほいさ」

 

 アイネスは侍女経験が長いせいか、妙なこだわりを持ってる。

 例えば、お風呂に入るのも皆の世話することがなくなった時間帯に入るとか。

 他の女性陣と一緒に入ればいいのにと思うが、夕食の準備をしないといけないからと入らなかったし、もう我が家のお母さん状態になってるな。

 まだ、14歳なのに。

 これで性格さえよければ嫁の貰い手として引っ張りだこにな……。

 

「何か言いましたか?」

「何も言ってません」

 

 あいかわらずのエスパーである。

 俺を訝しげな表情で一睨みした後、アイネスが口を開く。

 

「さて、魔法の講義ということですが、まず魔法を使えるようにするためには職業、魔導書、魔力の3つの条件を満たすことが前提となります」

「ふむ」

「私が覚えてる火球ファイヤーボールを例として説明しますと、まずは魔法使いの職業になる必要が有ります」

「戦士だと駄目なのか?」

「駄目です。各魔法毎に覚えることが可能な職業があります」

 

 ファンタジー小説とかで定番ではあるが、魔法を使うためには魔法を使える職業にならなければ駄目だと。

 これは予想の範囲内だな。

 

「次に魔法を覚えるために必要なのが魔導書。これを読むことによって魔法を覚えることが可能となります」

 

 本を読めば魔法を使えるようになると。

 魔法を覚えるために変な修行とかしなくていいなら楽だな。

 

「まあ、魔導書を読む事については問題無いでしょう。何しろホーキンズの出した奴隷契約書は貴族用でしたけど、旦那様は気にする事なく読んでましたしね。平民だと理解できない文字が沢山あったんですけどねぇ?」


 意味深な笑みを浮かべ、俺に探るような流し目を送るアイネス。

 おーおー。こりゃまた、俺の貴族疑惑が濃厚になってしまいましたな。


「読むことはできるけど、書くことはできないぞ」


 と、俺は貴族では無いですよとアイネスに釘をさしておく。

 まあでも、この世界の言葉が話せることや文字が読めることについては前から引っかかってはいたんだけどね。

 書く方はできないから日本語でサインしてみたんだけど、特に奴隷商人は気にした様子もなかったから、今はその件については保留にしてるんだけどね。


「たしかに、奴隷契約書を見た時に知らない文字を書かれてましたね。でも、読めれば十分です。書くことに関しては、私が代筆すれば問題無いですからね」

 

 なるほど。

 

「後は魔導書を読む権利を買う必要があります。旦那様に覚えて頂く予定の魔法は、ちょうど今は無料で読める期間なので好都合です」

「魔導書は有料なの?」

「有料です。けち臭いですよね。でも、この街では教会が巫女を募集するために、探索者ギルドに魔導書の一部を貸し出しています。ですので、無料で読む事ができますから問題無いです」

「ちょっと待って、アイネス。巫女の話だよね? 神子の話ではないんだよね?」

 

 俺の不安げな顔を見て、アイネスがなぜか笑みを浮かべる。

 

「安心して下さい、旦那様。巫女も神子も覚えれる魔法は同じと聞いてます」

「いや、気にしてるのはそっちじゃないんだが」

「私に任せてください。作戦は考えてます」

「既に嫌な予感しかしないんだが……」

 

 アイネスの黒い笑みに、アズーラの不良装備の件があっただけに、不安で胸がいっぱいになる。

 

「最後に魔力です。これは魔法を使うために必要なものですが、誰にでもある程度は魔力があります」

「俺には無いかも知れんぞ」


 なにしろ魔法の存在しない、異世界から来た人間ですからね。


「その場合は迷宮に潜ることをきっかけにして、魔力を体内に宿す身体になります。魔物を倒した時に発生する魔素には魔力が含まれてますからね」

 

 そう言うと昼間に見せてくれた光石を俺の前に差し出す。

 ペンダントのような細い紐付きの白い石に、不思議な文様が描かれている。

 

「ものは試しです。これに触れて、魔力を流してみて下さい」

「流すってどうやるの?」

「体内で水が流れるような感覚を作って下さい。そうすれば魔力を知覚できるはずです」

「いや、分からんよ」

 

 そもそも魔力って何さ。

 だから俺は異世界人であって、魔法が無い世界の……なぜため息をつく。

 

「手を出して下さい」

 

 面倒くさそうな顔をしながら、俺が差しだした手の平の上にアイネスが手を重ねる。

 

「目を瞑って下さい。今から魔力を流してみますので、その感覚を覚えて下さい」

 

 アイネスに言われて目を閉じる。

 視覚が遮断されたことにより、アイネスが触れてる手の感触を強く感じることができる。

 

 ん? 何だこれ?

 アイネスが触れた手の部分から、何かが身体の中に流れ込んでくる感覚を覚える。

 

「今、魔力を送ってます。どうですか?」

「妙な感じだな。身体の中に何かが流れ込んでる気がする」

「そうです。それが魔力です」

 

 今までに経験した事の無い不思議な感覚に、何とも言えないむず痒い気分になる。

 触覚や味覚等の五感以外の別の感覚を発見したみたいな気分だ。

 

「では次に、己の心臓から魔力を出すように意識して、さっきの感覚を思い出しながら魔力をその石に流してみて下さい」

 

 目を閉じ、アイネスに言われた通りにやってみる。

 胸の辺りから何かが体の中に溢れ出した不思議な感覚を感じながら、それを手に移動させるように意識してみる。

 

「目を開けてみて下さい」

「おぉ……。アイネス、光ってるよ」


 いつの間にか暗くされた部屋の中で、俺の手の上に載せた光石が鈍い光を放つ。

 すげぇ。これで俺も魔法使いの仲間入り?

 ちょっと、感動……。

 

「明かりを点けますね。これで魔力を流す感覚は覚えましたね。その魔力をもう一度、今度はこっちの玉に流し込む練習をしてみて下さい」

 

 俺が持ってた光石とは別の物が渡される。

 手で握れるくらいの不思議な白い玉だ。

 さっきの光石とは違う複雑な文様が全体に描かれている。

 

「ただし、次は己の中にある魔力を全て出し切るつもりで、その玉に流し込んでみて下さい。少し私は席を外します」

 

 アイネスが部屋を退室した後、さっきのやりとりで覚えた感覚を忘れないうちに、白い玉に魔力を流し込むイメージを浮かべる。

 

「おお!」


 俺の注ぎこんだ魔力に反応するように、白い玉が点滅を繰り返す。

 さっきの光石に比べて、光りの強さが段違いだ。

 豆電球から家の蛍光灯に変わったくらいに違う。

 だんだん魔力を流すコツも覚えてきたぞ!

 これは、機会があれば一生に一度はやりたいネタをやれる絶好のタイミングではないのか!?

 

 調子に乗って、全ての魔力を一気に白い玉に注ぎこむ。


「バロスッ!」


 決め台詞を唱えた瞬間、眩いばかりの強烈な光に目が……目がぁああああ!

 

「アイネスゥウウウ! 目がぁああああ!」

 

 目が開けられないくらいにヒリヒリする痛みに、両手で瞼を押さえて涙を流しながら畳の上を転げ回る。

 部屋の扉を開ける音がして、誰かが俺の体に触れる感覚がする。

 

「予想通りの結果になりましたね。すぐに調子に乗る癖のある旦那様には、良い薬になったでしょう。はい、手を退けて下さい。目を冷やして痛みを和らげますので」

 

 瞼の上からひんやりとした冷たい何かが当たる感触がする。

 

「アイネスゥー、目が痛い」

「大丈夫ですよ。すぐに回復します」

 

 畳の上に仰向けになった状態でアイネスに看病されてると、少しずつ目の痛みが和らいでくる。

 

「お? ちょっとぼんやり目が見えてきだしたぞ」


 一瞬、失明したかと不安になったが、徐々に視界がクリアになってきて安心する。


「さっきの白い玉は何?」

「先程渡したのは特殊な光石で、閃光玉と呼ばれる魔道具です。魔力を大量に注入した後に投げ、相手の目を眩ました際に逃げます。山賊や魔物から一時的に逃げる場合によく使われます。まあ、パーティー戦では使いどころが難しいですがね。これでまた、1つ賢くなりましたね」

「ちょっと今のは酷いんじゃないか、アイネス。あやうく失明したかと思ったぞ」


 俺がアイネスに文句を言うと、なぜかムッとした顔で睨まれる。


「これは魔力の流し方を覚えてすぐの子供に、魔道具を使うことによる危険性を教えるのによく使う手です。大抵これを経験した子供は、次からは知らない魔道具を警戒して勝手にいじることがなくなります」

「俺は子供扱いか」

「これを経験した大人は、魔道具を使う時にまず警戒します。普通はその魔道具を使う前に、用途を必ず尋ねます。今回起こったことは、回避できる予測の範囲内です。以後、もう少し慎重な行動をとるようにして下さい」

 

 なぜか、14歳の少女に説教される俺。

 

「旦那様は疑うということをあまりしませんしね。相手の真意を読み取り、時にはそこから危険を回避するという事が必要な場面もあります。世の中には人の心の隙をついて、騙す輩がたくさんいますからね」


 妙に説得力のあるアイネスの説教を受けつつ、しばらく目が回復するまで看病してもらう。

 

「アイネス。なんか妙に身体が……だるい」

「体内にある魔力を全て使いきったので、極度の疲労感を感じてるのでしょう。迷宮内で同じ事をすれば即座に魔物の餌になりますので、魔力をすべて使い切らないように身体で覚えて下さいね」

 

 アイネスに支えられるように移動しながら、布団に横になる。

 

「なるほど。それもふまえて、魔力を全て込めろと言ったのか?」

「そうです」

「でも、できれば最初から全部教えて欲しかった」

「旦那様は『痛みを伴ってこその経験』を方針としてるみたいなので、それに合わせてみたのですが?」

 

 やっぱりアイネスはいじわるだ。

 俺が昼間言った台詞をわざわざ言いやがって。

 笑えば天使のように可愛いが、性格は悪魔な兎娘が悪い笑みを浮かべながら俺を見下ろす。


「誰が悪魔ですか?」

「兎人は皆、心が読めるのが普通なのか?」

「旦那様は顔に考えてることがでやすいだけですよ。しばらく観察すればすぐに分かります。今まで見てきた貴族達の中では、一番考えてることが読みやすいですからね」

「だから、俺は前から言ってるように貴族じゃ……」

「はいはい。一晩寝れば魔力も回復するでしょうから、今日はおとなしく寝て下さい」


 兎娘がご主人様の話を聞いてくれません。

 

「むー」

「男がいじけても可愛くないですよ。これで魔法を使うための魔力の流し方は覚えれましたね。それと、魔道具を使うことによる危険性も。後は魔導書を読んで魔法を覚えるだけです。良かったですね」

 

 ここまでアイネスの計算のうちか、腹黒兎娘にまんまと手の平の上で転がされる俺。

 くやしいのぉ。

 今日は大人しく寝ますか。

 

「明日の朝は旦那様の魔導書の件も含めて、探索者ギルドに寄りますので、早く寝て下さいね」

「うぅ、分かった。おやすみぃ」

「おやすみなさいませ。旦那様」

 

 アイネスが深くお辞儀をして扉の閉める音がした後、しばらくして俺の意識は夢の中に沈んでいった。






   *   *   *






 ざわ……ざわ……。


 周りが騒がしい。

 まるで隔離された室内で、命がけの賭博大会が始まりそうな雰囲気だ。

 そのせいか、伸びるはずの無い顎が、なぜか伸びそうな気がしてくる。


 その時、俺に電流が走るっ! てことはなく、探索者ギルドに到着したら女性子供パーティーの俺達に周りからの視線が集中して、ギルド内が少し騒がしくなってるだけだ。


 ざわ……ざわ……。


 大人達は俺達を見て、「子供が何しに来た?」と軽口を叩こうとした瞬間に口を閉じ、とある人物を遠巻きに眺め始める。


「えらい注目の的だな」

 

 俺は周りから最も視線を浴びてる人物、俺の隣にいる人物に目を移す。

 

 その鎧は漆黒に染まり、肩から凶悪な棘を何本も生やし、屈強そうな全身鎧にその身を包んでいる。

 禍々しい兜からは牛を思わす角が左右から生え、頭からは鶏冠の如く天に向かって髪が生えている。

 凶悪なデザインの兜で顔を覆ってる為に、中の人物が何を考えてるか分からない不気味さを醸しだしている。

 時折、手に持っている棘付きのメイスを撫でている様子から、もしかしたら全身鎧の中の人物は、次の獲物を早く狩りに行きたくて疼いてるのかもしれない。

 最近何かを狩ったのか、鎧に無数の傷や謎の液体を付着させ、外見からの情報だけだと歴戦の猛者ではないかと予想してしまう。

 その威圧的な雰囲気から、とてもじゃないが子供を守るタイプには見えない。

 

 俺の隣にいる危険人物に、俺は迷う事無く声をかける。

 

「すまんな、アズーラ。ちょっと暑苦しいと思うが我慢してくれ」

「いいよ。本格的に暑くなる時期だったら、勘弁してくれと言いたくなるが、今日はまだ我慢できる。それにこれはこれで、周りの馬鹿共を牽制する重要な役目だ。アイネスの言うように、こういう対策を取っておくのが正しいよ」

 

 囁くように俺が声をかけると、見た目だけは完璧な用心棒が反応する。

 顔を動かす度に、新たな生贄を探してるのように見える牛人のアズーラ、14歳。

 中味は仲間想いの優しい女性です。

 未成年の癖に酒好きという不良牛娘ではあるがね。

 

 凶悪不良戦士と見た目は巫女というこの組み合わせは、かなり異色のコンビに見えるだろうね。

 並んで立ってるけど、たぶん周りからは巫女を守る用心棒とか思われてるんだろうね。

 

「あいあいあー!」

『駄目です! エルレイナさん、その紙は勝手に取ってはいけません!』

 

 声のする方に振り向けば、掲示板に張られた紙を勝手に剥がして遊んでるアホ狐をアクゥアが叱咤していた。

 元が迷宮生活疑惑がある野生児だけに、じっとはしてられない性分だから仕方ないか。

 何にでも興味を持ち、周りを引っ掻き回す所があるが、悪戯娘のエルレイナにはちゃんとした教育係がいる。

 

 しょぼーんと狐耳と尻尾を床に垂らしながら哀愁の漂う背中で、掲示板に紙を張りなおすアクゥアを見つめるエルレイナ。

 普段は真面目でおとなしいアクゥアだけに、怒った時はすごく怖いんだよな。

 妙に迫力あるというか、怒ったときの殺気の出し方が半端ないというか。

 まあ、怒られてるということを理解してるだけ、エルレイナには成長の余地がまだあるとは思うがな。

 

 座るところも無いので壁に背中を預けてぼーっとその様子を眺めてると、しばらくしてアクゥアがエルレイナの手を引っ張りながらこっちにやってくる。

 背丈は同じで体格も似てる二人だが、中味は正反対だ。

 傍から見るとしっかり者の姉と悪戯っ子の妹だよな。

 

『すまんな、アクゥア。エルレイナの面倒を見るのは大変だろう』

『いえ、もう慣れました。エルレイナさんは少々世間を知らないようで、1つ1つ教えていこうと思ってますので、大丈夫です。ハヤト様のご迷惑にならないように、エルレイナさんの指導係の責任を全うして、立派な遊撃要員に育ててみせます』

 

 あいかわらず、真面目な性格である。

 俺が何気なく言ったお願いを忠実に守ろうとする姿勢は、逆にこっちが恐縮するくらいだ。

 

『いつもエルレイナのことをさん付けで読んでるけど、もう呼び捨てで良いじゃない?』


 せっかくの機会なので、前々から気になったことを聞いてみる。


『出会ってすぐは、名前をさん付けで呼ぶのは私の癖なんです。でも、今更呼び捨てというのも……』

『傍から見てると、エルレイナはアクゥアの妹みたいな感じだし、さん付けだと違和感があるんだよね』

『妹ですか……』


 アクゥアが隣にいるエルレイナをじっと見る。


「あい?」


 エルレイナが、可愛らしく首を傾げながらアクゥアを見つめ返す。


『妹となれば話は別ですね。故郷にいた時も少し変わった妹のような者がいましたので、同じように対応すれば良いのでしょうか?』

『へー、妹いたんだ。ちょうど良いじゃん』

『分かりました。エルレイナ、今日からあなたは私の妹です』


 お? 何やらアクゥアが、今まで見た事ない真剣な表情に。

 

『私のことは、これからお姉様と呼ぶように』

「あいあいあー!」


 ええええええ?

 なぜにお姉様?

 その故郷にいた妹やらと、アクゥアの姉妹関係がすごく気になるんですけど……。


『よくできました』

「あいあいあー!」


 えー、まさかの会話成立?

 ツッコミどころが多すぎるんですけど!?

 

『ハヤト様、ありがとうございます。エルレイナとはうまくやっていけそうです』

『そ、そうか。それは良かった』


 うーん、本当にこれで良かったのかな?

 俺が提案したことをきっかけに、何かいけない扉を開けてしまったようで不安なんだが。

 

「ご主人様。魔導書が借りられるそうです。今、お時間宜しいでしょうか?」

「え? うん、良いよ」

 

 待っていた俺達の元に戻ってきたアイネスとアカネに声を掛けられる。

 そういえば今日は、昨日の夜にアイネスと話してた魔導書の件で、探索者ギルドに寄っていたと思い出してアイネスとアカネの後を追う。

 アクゥアに頭を撫でられて、尻尾を振りながらご機嫌そうな表情をするエルレイナを見ながら、もやもやした感情を抱えて俺はその場を後にした。


異世界生活2日目【完】

異世界生活3日目


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