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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第1章 異世界のご主人様と5人の奴隷娘

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初迷宮探索(中)

 

 魔物が外に出ないように囲われた頑丈な柵の入口を騎士さんに開けてもらい、柵の中に入る。

 石造りの祠のような入口の中を覗くと、床にぽっかりと穴が開いていた。

 薄暗い洞窟のような感じの通路がやや下に向かって続いている。

 ただし、奥に行けば真っ暗というわけではなく、アイネスが教えてくれた光苔という特殊な植物が壁に生えているため、足元が見えなくて躓くということは無いようだ。

 ランプいらずとは、迷宮さんは探索者に優しいのう。

 

 さて、ようやく迷宮に入ったわけだが。

 

「アカネ。昨日の夜に、打ち合わせした通りでお願いします」

「分かったであります。スンスン……こっちであります!」


 兎娘のアイネスの指示を受けた狼娘のアカネが、匂いを嗅いだ後に俺達を誘導する。


「アカネは何をしてるんだ?」

「不用意な争いを避けるために、人がいない所と魔物の匂いを嗅ぎ分けてもらっています。これで、魔物のみに集中して戦えるので、余計な心配事が減る確率が更に上がりますね。ついでに、魔物のいない所をうろついて、無駄に時間を浪費せずにもすみます」


 なるほどー。

 アイネス、どこまで戦略家なんだ!

 

「これくらいはパーティーのリーダーに考えて欲しいことなんですが、お猿様には無理でしょうね」


 ウッキッキー。

 ぐすん。猿真似も悲しくなってきたよ。

 本当に申し訳ないです。

 アイネス様には足を向けて寝れないです。

 

「頼りないご主人様で、すまんな」

「かまいません。初めから、頼りない旦那様っていうのは気付いてましたし」

 

 アイネスの言葉が、俺のメンタルライフをガリガリと削っていく。

 心が折れそうです。

 もう、ゴールしても良いよね?

 

 この辺に『辛いです。評価して下さい』って地面にメモしといたら、別次元からソウルメイトが評価して、メンタルライフが回復したりとかしないかなー?

 

「獣の匂いがするであります」

「どうやら、早くも魔物に出会えそうですね」

 

 俺達が進んだ先にいるのは、小さな尖った角が額から生えた、灰色の体毛の不思議な兎。

 

「さっき教えた、迷宮が生み出す餌の方の魔物ですね」

「どうする? 倒すか」

「とりあえず、捕まえましょう。経験値にはなりませんが晩御飯にはなります」

「え? 晩飯!?」

 

 アレって魔物用の餌だけではないのか!?

 く、食えるのか?

 

「あまりおいしくは無いですけどね。初級探索者は、まともなお金が稼げるようになるまでは、あの一角兎をおかずの肉にします。パンと野菜スープだけだと、体力がつかないと思いますが宜しいですか?」

 

 き、厳しい世の中ですたい。

 

「ぐぬぅ。仕方ないな。捕まえよう」

「アカネ、アクゥア、エルレイナ。捕まえてきて頂戴」


 アイネスの呼びかけに反応して、アカネが一角兎に向かってフラフラと歩き出す。


『捕まえるのですか?』

 

 名前を呼ばれたのに気付いたのか、黒猫娘のアクゥアが反応する。

 そういえば言葉が通じないんだよな。

 この場合は俺が通訳しないとな。

 

『アイネスが晩御飯のおかずにしたいらしい。エルレイナと一緒に、あの兎を捕まえてきてもらえるか?』

『分かりました。エルレイナさん、行きましょう』

 

 アクゥアの呼びかけに、アクゥアの尻尾とじゃれて遊んでた狐娘のエルレイナが反応する。


「あい?」

 

 アクゥアが一角兎に向かって走り出すと、エルレイナもその後を追いかける。

 

「あいあいあー!」


 言葉が通じてないはずだが、感覚的に分かるもんなのかね?

 

「あれはあれで、良い組み合わせかもしれんな」

「エルレイナは、なぜかアクゥアに懐いているようですからね。エルレイナの扱いには困ってましたが、アクゥアをうまく誘導すれば、なんとかなるかも知れませんね」

 

 確かスラム街で暴れていたエルレイナを抑え込んだのが、アクゥアって話だよな。

 拳を交えて男同士が友情を結ぶっていうのがあるけど、そんな感じでアクゥアを認めて追いかけるようになったのかな?

 

「待つでありますぅー」

 

 俺が思考の波を漂いながらボーッとしてると、アカネが一角兎を追いかけるのが視界に入る。

 フラフラとした危なげな足取りで、一角兎を追いかけるガリガリに痩せた自称狼娘。

 だがしかし、一角兎がピョンピョンと素早く逃げていくため、アカネは追いつくことができない。

 

「早過ぎるでありますぅー」

 

 ショボーンとうなだれた様子で、アカネが走って逃げていく一角兎の背を見つめている。

 

 違いますぅー。

 アカネさんが遅過ぎるんですぅー。

 

「アカネはまだ無理そうだな」

「予想の範囲内です。アカネにはとりあえず、危険人物と当たらないように嗅ぎ分けさえしてもらえれば充分です」

 

 予想の範囲内なのに一角兎をアカネに追わせたのかい?

 何気に鬼だな。

 あれか? 机上の空論だけではなく、現場で実践して確認しないと納得できない主義か?

 

「あいあいあー!」

『捕まえました』

 

 なぜか口に一角兎を咥えたエルレイナと、一角兎を両手に持ったアクゥアが戻ってくる。

 口の周りが血塗ちまみれなエルレイナはまじで野生児だな。

 

「アズーラ、箱を」

「あいよ」


 アイネスに言われて、アズーラが背負ってた大きなクーラーボックスを空け、その中に一角兎を放り込む。

 

「とりあえず、この2人がいれば何とかなりそうだな」

「そうですね。後、何匹か捕まえれば、今晩のおかずは何とかなりそうですね」

 

 途中、迷宮の入口で出会った騎士団と同じような鎧を着た人が、数人集団になって歩いているのとすれ違ったが、基本的には問題なく迷宮探索は進んだ。

 

「お腹が減って、力がでないでありますー」

 

 なるほど、顔がふやけて力がでないのか?

 顔を黒パンで交換すれば、元気100倍になるかもよ?

 

「少し早いですが、昼食にしましょう。この先にちょうど良い小部屋があったはずです」

 

 剣を杖代わりにしてヨロヨロ歩きながら、飯の催促を始めだしたアカネの言葉に、アイネスが反応して昼休憩をすることになった。

 

「こっちに小部屋があります! 近くに誰もいないので、大丈夫であります!」

 

 途端に杖変わりにしていた剣を放り出して、大食い狼娘ことアカネが勢いよく走り出した。

 目的の場所を指差しながら、安全である旨を俺達に報告してくれる。


 元気だな?

 まだ、食わさなくても良いんじゃねえか?

 

 俺の思考に気付いたのか、アイネスが俺の顔を見て苦笑しながらも、皆に露天で買った携帯弁当を配ったりして、昼食の準備を始める。

 

「むぐ、はむ! おいしいであります! おいしいであります!」

 

 こいつ。

 まだ、ご主人様である俺が食べ始めてないのに食い始めやがった。

 奴隷の立場的にそれは良いのか?

 まあ、俺はそんなに気にしてないが。

 

「これから教育させますので、しばらくは見逃してあげて下さい」

 

 俺の考えてることが分かったのか、アイネスに宥められてしまう。

 いや、別に怒ってはないんだけどね。

 

「さっきから、迷宮騎士団とよくすれ違うけど。巡回ってやつかね」

 

 昼飯を食いながら、ふと思ったことを口にした。

 

「そうですね。最近、迷宮の心臓を狙った盗難事件が起こりましたからね。警備も強化されているようです。前に何度か迷宮に潜った時は、もっと数が少なかったはずでしたから」

「盗難事件? そんなんあったの? 物騒だなー」

「はい? かなり大事になった事件のはずですけど、旦那様は知らないのですか?」

 

 やべ、また妙な地雷を踏んだか?

 

「こ、この街には昨日来たばかりだからね! そういえば、その迷宮の心臓って何?」

 

 俺を探るようなアイネスの視線に、言い訳に失敗したか? と考えてると、アイネスがため息を一つ吐く。

 弁当を食べていた手を止めて目を閉じると、しばしの沈黙の間ができる。


 しばらくするとアイネスが目を開ける。

 どうやら講義をしてくれるようだ。

 できれば、罰ゲーム無しのイージーモードでお願いします。

 

「迷宮の心臓でしたね。それは心臓を持つ生き物と同じように、迷宮が持つ重要な生命線です。それが壊されたり迷宮の外に持ち出されたりすると、迷宮は活動を辞めて崩壊します」

「迷宮の心臓っていうのは、俺達にも触れたりできるものなのか?」

「国に喧嘩を売るのを前提とする条件であれば……」

 

 え? どういうこと。

 

「迷宮の最深部にある特殊な部屋に、迷宮の心臓というのがあります。本来は国がそこに頑丈な扉を作り、中に探索者が勝手に入らないようにしてます。その扉を無理にこじ開けて中に入れば、すぐさま国のお尋ね者になりますが、挑戦してみますか?」

「遠慮します」

 

 なぜ自ら死亡フラグを立てるようなことをしなければならんのだ。

 俺は平和主義者なのです。お断りじゃ!

 

「そう思うのが普通ですね。もし、私達奴隷も巻き込んでそのようなことを考えれば、即座にメイスで殴るところでした。及第点ですね。しかし、時には国に喧嘩を売ってまでそれを手に入れようとする輩がいるのです」

 

 今回の死亡フラグは回避できたようです。

 良かったナリー。

 いやいや、アイネスよ。俺をどんな人間だと思ってたの?

 

「それがさっきの盗難事件? ちなみに興味本位なんだが、そこまでして迷宮の心臓を手に入れる理由ってあるの? 価値がすごい高いとか?」

「迷宮の心臓には、様々な噂があります。特に有名な噂だとそれを砕いて煎じて飲めば、不老不死の霊薬になるとか?」

 

 本当かよ。

 うさんくさいなー。

 

「あくまで噂ですが、それでもそれを欲する人もいるのです。先日、この迷宮都市イルザリスでは2つの迷宮の心臓が同日に盗まれ、大騒ぎになったのです。それで、残りの迷宮にも侵入されないように、今は警備や迷宮の巡回、受付での不審者検査が厳しくなってるのです」

「迷宮が無くなれば、せっかく魔物を減らしてた所が無くなるのにね。みんなが困るのになんでそんな事をするのかね? 警備が強化されているってことは犯人はまだ捕まってないのか?」

「犯罪者の意図は分かりませんが、迷宮の心臓が無くなると迷宮は急速にその活動をやめて、崩壊を始めます。この迷宮都市イルザリスは、文字通り迷宮の上に街を作っています。なので、一部の土地が崩れたりして被害が出ました。犯人はその騒動の最中に街の外に逃げ出したという説が濃厚ですが、はっきりとは分からない状況みたいですね」

 

 たぶん、迷宮の心臓とやらが盗まれた直後は、街から出る時に検問で荷物チェックがされただろう。

 わざわざ捕まりに街に残る馬鹿はいないだろうしな。

 油断してる時だからこそ盗めるのであって、今みたいに厳重警戒してる時に危ない橋を渡ってまで挑戦する必要も無いよな。

 俺が犯人なら、間違いなく街の外にさっさと逃げてるな。

 もちろん街から出るのではなく、街の外にある別の迷宮入口の方から出るけどね。

 

「むー、全部食べてしまったであります。量がもう少し欲しいであります」

 

 俺がアイネスと喋ってる間にアカネの食事が終わったようである。

 しかも物足りなさそうに弁当箱の底をペロペロなめてる。

 

「しょうがないな。ほら、俺のを少し分けてやるよ」

 

 ご主人様の優しさを受け取るが良い!

 

「あん? 俺も全部いらないから、ほら、残りをやるよ」

 

 ぬ? アズーラ、不良娘のくせに朝からその優しさは何?

 俺の優しさが目立たなくなるじゃないか!

 

「アカネ、私のでよければ少しあげます」

 

 おろ? アイネスさん、あなたもですか?

 アカネの弁当にご飯を分けてあげる俺達の行為を、遠巻きに見ていたアクゥアとエルレイナも近寄って来る。

 

『私ので良ければ、少しですが、どうぞ』

「あいあいあー」

 

 こうしてあっという間に、空になってたアカネの弁当が埋まってしまった。

 

「すごいであります! 戦奴隷になったら、お昼が二食分になったであります! 皆さん、優し過ぎるであります!」

 

 みんなの優しさに感動して、泣きながら弁当を口にかき込む狼娘。

 良かったな。

 本当は俺の優しさに感動して欲しかったところだが、仕方あるまい。

 

「戦奴隷になって、良かったであります!」

「「それはない」」

 

 やっぱりアズーラと俺のツッコミがハモッてしまった。

 何度もツッコミを入れるが、奴隷になって良いわけがないだろ。

 

 昼食を食べ終えてからしばしの休憩をとっていると、アイネスが背負い袋から何かの紙を取り出す。

 

「何それ?」

 

 少し濁った色の紙に、何やらビッシリと小さな文字が書かれている。

 

「気になったことを記録した紙です」

 

 何を書いてるのか気になったので、魔力を通せば光る特殊な光石というものを使って、アイネスに照らしてもらいながら書いてる内容に目を通してみる。

 ざっと見たところ、料理のレシピ、どこぞの店の食材や値段、迷宮や魔物の情報、家計簿等のいろいろな情報が書かれている。

 なんとなく紙を裏返してみたら、裏側も隙間なくビッシリと文字が書かれていた。

 とりあえず、字が多過ぎて目が痛い。

 

「貴重な情報源なので汚さないで下さいね。紙は安くないので、破いたりしたらメイスで殴りますよ?」

 

 メイスで殴られるのは嫌なので、すぐにアイネスに返しておく。

 さすが我がパーティーのブレイン担当。

 内容を見た限り、ここまでいろいろ考えてくれる人がいれば、これから先は問題なさそうである。

 本当に頼りになる人材である。

 一人で納得したようにウンウンと頷いていると、アイネスが呆れたような表情で俺を見る。

 

「はぁー。面倒ごとを私一人に押し付けようとしているみたいですが、迷宮探索に関しては旦那様にも協力して頂くことになりますからね? 他人事じゃないですよ」

「んー、やっぱり?」

「はぁー」

 

 笑顔で首を傾げてみたが、ため息をつかれてしまった。

 可愛さが足りなかったかな?

 

「迷宮探索で効率よくお金が稼げないと、いずれ我がパーティーは悲惨な状況になります。旦那様が持っていた残りのお金だけで生活をするとした場合、下手をすれば来月には黒パンすら買えなくなる予定です」

「えー、それ本当?」

「はい」

 

 我が家の財政状況は、意外とピンチでござるか?

 まだ数十万単位で結構なお金が残ってたと思ったんだが、やっぱり6人は大所帯なのかな?

 装備も少し買っちゃったしな。

 これから食生活が改善される予定なのに、悪化するのは困りますなー。

 

「しかも雑貨屋の店長には、かなり無理を言って後払いをお願いしてる物もあります」

「え? そうなの」

 

 それは初耳だね?

 どれくらい借金してるんだろう。

 

「大丈夫ですよ。支払いきれなかった場合は、その金額の分だけ旦那様が侍女服を着て、雑貨屋の受付をするとお話をしてますので問題無いです」

「ええー!?」


 な、ナンテコッタイ!

 それ何て罰ゲーム?

 これは早急になんとしても早くお金を稼げるようなパーティーにしないと、俺の身が大変なことになる!


「みんな、いつまで昼休憩をしてるつもりだ。出発だ!」

「は? さっき、ゆっくりして良いって言ったじゃねえか。ブーブー!」

 

 昼寝の体勢に入っていた牛娘がぶーたれる。

 すまん、アズーラ。

 ご主人様はいろいろとピンチなのです。

 ご協力をお願いします!

 

 横暴だー、詐欺だー、と文句を言う不良牛娘を急かしながら、少しだけ昼休憩した後に午後の探索を始めることにした。

 

「午前中は1階層を回ってみましたが、ほとんど魔物を狩りつくされたのか、餌以外はいませんでしたね。午後は2階層を探索してみましょう」

 

 アイネスの指示に従い、やや階段っぽい下り道を見つけて2階層とやらに降りてみる。

 

「むむむ。さっきと違う匂いがするであります。たぶん、ゴブリンであります」

 

 アカネの誘導に従って先に進むと、違う魔物と遭遇したようです。

 とりあえず、岩壁に隠れながら覗いて見る。

 薄暗くて遠目で分かりにくいが人型の魔物がいる。

 やっぱり肌は緑色なのかね?

 数は3匹かな?


「どうする?」

「俺が行くぜ。朝は何にもしてなかったからな。少しぐらい運動しとかないとな」


 おや? めずらしくアズーラが積極的に動いたな。

 

「そうですか? では、今回はアズーラを主軸にして攻めてみましょう。複数いるので、牽制と逃がさないようにアクゥアとエルレイナは遊撃要員となって頂けますか?」

 

 アイネスの指示を俺はアクゥアに伝える。

 

『アクゥア達には遊撃要員として動いて欲しいそうだ。アズーラがゴブリンを倒すから、逃がさないようにエルレイナと一緒にゴブリン達を誘導してもらえるか?』

『分かりました。エルレイナさん、行きましょう』

「あい?」

 

 エルレイナは良く分かってないのか首をかしげるが、アクゥアが走り出すとそれを追いかけるようにして走り出す。

 

「あいあいあー!」

 

 エルレイナの奇声に気付いたのか、ゴブリン達が一斉にこっちを振り向く。

 

「オラオラオラー! 死にたい奴から前に出ろ!」

「ゲギャッ!?」

「グギャッ! グギャギャギャギャ!」

 

 尖ったモヒカンのような、謎の毛を生やした兜を被った牛娘が、棘付きメイスを振り回してゴブリン達に襲い掛かる。

 アズーラのメイスでボコボコにされるゴブリン。

 俺がさっき急かしたせいで機嫌を損ねたのか、若干ヤケクソ気味にやってるように見えるのは気のせいかね?

 

 なんか傍から見てるといじめているようにしか見えないんだが。

 あっ、1匹死んだ。

 

「ん、逃げ出したな」

 

 絶命したゴブリンを見て、他の2匹が慌てて動き出す。

 木の棒に腰巻程度の装備から見れば、アズーラの不良戦士装備は見た目が恐ろしいからな。

 そりゃあ逃げるわな。

 

 アズーラが逃げた1匹を追いかけている間に、もう1匹をアクゥアとエルレイナが追いかける。

 

 アクゥアが手に持っていたサバイバルナイフでゴブリンに切りかかる。

 俺の指示に従い、アクゥアが足止めしようとしてるみたいだが、エルレイナが直接ゴブリンに襲い掛かった。

 

「あいあいあー! あいあいあー!」

 

 奇声をあげてゴブリンを殴ったり、蹴ったり、引っ掻いたりするエルレイナ。

 エルレイナの素早い動きに、ゴブリンは全然ついていけてないようである。


「あの様子ですと、エルレイナがゴブリンを倒してしまいそうですね」

「あっ、首に噛み付いた」

 

 なんという野生児。

 ゴブリンの息の根を止めてしまいましたよ。

 

 アズーラの方も逃げた1匹を仕留めたようです。

 

「アクゥアの後を追ってくれる所までは良かったのですが、牽制というのを教えるには無理がありますかね?」

「エルレイナは脳みそがあいあいあーだからな。子犬に便所の躾をするみたいに、長い目で繰り返して覚えさせないといけないだろうな」

「正確には子狐ですけどね」

 

 細かいツッコミは無しですよ、アイネスさん。

 

 安全を確認した後、俺達はアズーラ達に合流する。

 足元にはすでに虫の息になったゴブリン達がいる。

 見た感じは猫背な子供サイズの人型の魔物である。

 不細工な顔だな。

 口は耳まで裂けており、噛まれるとかなり痛そうな牙が生えている。

 そして、予想通り肌は緑色。

 

「あいあいあー!」

 

 口の周りを緑の血でべったりな狐娘が、笑顔でこちらに振り向く。

 なんという、グロテスク!

 ホラー映画にエキストラとして参加すれば良いと思うよ。

 もちろん、特殊メイク無しのモンスター役の方でね。

 

 アクゥアが背負い袋から布を取り出して、エルレイナの口の周りをふき取る。

 

「うー、うー、あいあいあー!」

『エルレイナさん、動かないで下さい。すぐに終わりますから』

 

 嫌々と首を横に振るエルレイナを、かいがいしく面倒を見るアクゥア。

 なんというか、出来の悪い妹の面倒を見るお姉さんって感じだな。

 

「旦那様の言うとおり、エルレイナは長い目で見ながら、1つ1つ教えていくしかないですね。アクゥアと行動を共にしているうちに、自分の役割を理解するかもしれませんしね」

「だな」

 

 我がパーティーは、まだまだ前途多難のようである。


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