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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第7章 亀裂

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サクラ聖教国<師>

 

「ここに来るのも、随分と久しぶりですね」

 

 長い階段を登る途中で立ち止まり、後ろへ振り返る。

 雲一つない夕焼け空と、見渡す限りの広大な森が目に入った。

 

「お師匠様がいれば、『絶景かな』とでも言うんですかね?」


 息を吸うと、澄んだ空気が口に入る。

 1000段は超える石階段を登り続け、ようやく目的の場所に辿り着こうとすると、見知らぬ顔が現れた。

 掃除をしていたのか、箒を持っている小柄な女性が、驚いた顔で私を見下ろしている。


「こんにちは」

「こ、こんにちは」

「……?」


 挨拶をしてみるが、随分と警戒されてますね。

 何かあったのでしょうか?

 

「えっと……シバサクラ家の方で、宜しいのでしょうか?」

冥土メイド服を着る者が、シバサクラ家以外にいるのですか?」

「す、すみません! その……下からわざわざ来られる方を、ヤミサクラ家以外の者で知らなくて……」

「……あっ」

 

 申し訳なさそうな顔で答える彼女の言葉で、自分が誤解を招くような失敗をしていたことに、ようやく気づいた。

 頭痛を覚えた様に、思わず手を額に当ててしまう。

 

「もしかして、エンジェ様ですか?」


 初対面のはずなのに、すぐさま素性もバレてしまいました。

 まあ、そうでしょうね。

 上級者迷宮に出るような魔物達が徘徊する樹海を、たった1人で通ろうとする物好きは、シバサクラ家でも私くらいですからね。

 シバサクラ家の者であれば、上にある転移門を使うのが普通ですし。

 無意識のうちに面倒臭い樹海を通ってしまうとは、修業時代の癖とは恐ろしいものです。


「……そうですよ。ごめんなさいね、驚かしてしまって」

「いえいえ。あっ、私、ここの門番を務めさせて頂いてるクイナと申します。以後お見知りおきを。エンジェ様のお噂は、モモイ様から聞いてます」

 

 深々と頭を下げ、丁寧な挨拶をされてしまって疑問がわいたが、その後の噂とやらですぐに合点がいった。

 クイナと名乗った豹人が、やや顔を紅潮させて、尊敬するような眼差しで私を見ている。

 武神の眷族であるヤミサクラ家の者が、目を輝かすような噂ですから、どうせ碌でもない噂でしょうね。

 

「言っておきますが。お師匠様のように、竜の髭を素手で(・・・)引き千切ったりはしませんからね」

「えっ、そうなんですか?」

 

 やっぱり……。

 そんなことだろうとは思ってました。

 お師匠様の真似をしてそれをやったのは、もう1人のお馬鹿豹のクエンですからね。

 若気の至りと言いますか、2人でいろいろとやらかした時期があるのは認めますが、少なくとも私は常識人・・・のつもりです。

 お師匠様に騙されて、クエンと2人っきりで黄金島にある『竜の巣』に放り込まれた嫌な記憶が甦る。


 石畳の上を歩きながら、彼女が知ってる私の酷い噂を1つ1つ訂正していく。

 どうやら彼女は、屋敷の門番を最近任されたらしく、道理で面識がないわけですね。

 彼女も、お師匠様にはいろいろと振り回されてるようだ。

 黒い豹耳を、クイナが悲しそうに垂れさせる。

 

「うう……。まさか天界人様をお迎えする役目だとは思わず、モモイ様の言われるがまま、大変失礼な態度を演じてしまいました」

「気にすることはないですよ。事前に何も言わずに、その役目を与えたお師匠様が悪いのです。後で言っておきますよ」


 最近与えられた大役で、大失態を犯したと沈んでいるクイナを励ましてると、門の前に辿り着く。

 見上げる程に大きな門が目に入ると、先程までの悲壮感が漂う顔とは違って、クイナが真剣な表情に変わった。

 瞼を閉じ、息を整える。


「……」


 ……ほう。

 流石に、気の練り方が上手いですね。

 

 無意識のうちに反応してしまう己の『夜叉の血』を抑えながら、彼女の仕事を静かに見守る。

 目を開けた彼女が扉に両手を触れると、腰を落として力を入れた。

 重々しい音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと左右に開かれていく。


「……ふぅー」

「お疲れ様です」

「いえいえ。これが門番の仕事ですから」


 クイナが笑顔を作って答える。

 呼吸を整えると、紅くなっていた両目が青い瞳に戻った。

 

 「古くなったせいか、うちの門は開けづらくなってるな」とお師匠様はよく言うが、『夜叉の血』を完全解放しないと開けれない扉というのは、いろいろ酷いと思います。

 もともとは修業用にと、重鉄を意図的に仕込んだ特別製の扉ですからね。

 門から入るより、周りの塀を飛び越えた方が早いというのは、お師匠様のお屋敷くらいなものでしょう。


「中の案内は、大丈夫ですよ」

「あっ、そうでしたね」


 勝手知ったる場所なので、屋敷内を案内しようとした彼女を門番の仕事に戻らせると、目的の人物を探して敷地内を歩く。

 ヤミサクラ家の者達が、慌ただしく敷地内を移動していた。

 この騒がしさこそが、屋敷の主が帰って来た証拠だろう。

 大酒飲みの主のために用意してるのか、酒蔵から次々と大量の酒樽が運ばれている。

 

 本人の居場所を誰かに尋ねるまでもなく、その気配を辿って敷地内を移動する。

 これだけ広い屋敷内でも、本人が気配を隠そうとしなければ、すぐに分かってしまいますよね。

 感覚的には、同じ階層に竜がいると気付いた時くらいに、大きな気配ですからね。

 目的の部屋に到着すると、ふすま越しに中へ声を掛ける。


「……?」

 

 気の抜けたような返事が聞こえて、思わず首を傾げてしまった。

 取り敢えずふすまを開けると、灯りをつけてない薄暗い室内から、窓の外を静かに眺めるお師匠様が目に入る。

 机の上にはなぜか、『500セシリル硬貨』が1枚置かれていた。

 座椅子に深く座り、肘掛けに置いた腕で頬杖を突きながら、何かを考えているようにも見える。


 畳の上には、『呪』と書かれた謎のお札が貼られた水晶玉が、無造作に転がっていた。

 『50万セシリルで買えば、1億セシリルが手に入る』と、詐欺師に騙された友人から譲り受けた物らしいが、それをわざわざ倉庫から出して来たというのも珍しいですね。

 何に使ったのでしょうか?


「どうした、エンジェ」


 身体は動かさず、黒い瞳だけが動いて私を見上げる。


「どうしたじゃないですよ。お師匠様がルイネスのことを聞いて来いと言ったから、それの報告に来たのですよ」

「……ああ。そういえば、そんなことも頼んでたな」


 すっかり忘れていたような言い方のお師匠様に、思わず頬が引きつる。

 「突然にいなくなったかと思ったら、前触れもなく私の前に現れて、ルイネスに例の件を聞いて来いだとか。聞いたら聞いたで頼んでることも忘れてるし、本当に人遣いの荒いお師匠様ですね!」と文句を言いたいところですね。

 

 しかし、お師匠様の無茶を言う性格はいつものことです。

 怒るだけ無駄だと諦めて、ルイネスの件に関する報告をする。

 話し始める前はどこか遠くを見るような、心ここにあらずな顔でそれを聞いていたが、その表情がみるみると変化していく。


「夜叉の血に目覚めた『豪隻腕』の父親と、『紅騎士』が認める才能を持った蒼狼の一族が母親か……。なるほどな。ルイネスが超えれなかった壁を、超える理由にはなるか……」

 

 報告をし終える頃には、よく分からない独り言を呟きながら、明らかに愉しげな笑みを浮かべている。

 こういう表情をしてる時は、碌でもない悪巧みを考えてる時でしょうから、あまり私は関わりたくないですね。

 お師匠様の悪巧みに巻き込まれた人がいるのなら、同情するしかない。

 

「よし、風呂に入るか!」

「……」

 

 どうやら自己完結したらしい。

 突然に立ち上がると、ご機嫌な表情で着物を脱ぎ始めた。

 性別は確かに女性ですが、どうしてこうも男らしい性格なんですかね……。

 目の前で飛んでいく衣服を呆れたように見ていると、産まれたままの姿になったお師匠様が、『500セシリル硬貨』を指で弾きながら鼻歌まじりに部屋を出て行く。

 

「はぁー……」


 ため息を吐きながら、乱暴に脱ぎ散らかされた着物を拾い始める。

 下着から生えた(・・・・・・・)猫の尻尾が、蛇のように畳の上を動き回っているのを捕まえると、部屋の隅にある箱の中に入れる。

 お師匠様の魔力の残滓で、いまだに動いてる桜色の猫耳もついでに拾うと、それを尻尾と同じ箱の中に入れて、蓋を閉じて鍵をしておく。

 部屋のふすまを開けて、割烹着を着た侍女が顔を出す。


「あれ? エンジェ様? ……モモイ様は、どちらに?」

「……そうですね。とりあえず、それは私が持って行きますよ」


 ヤミサクラ家の侍女が持っていた物を運ぶ代わりに、お師匠様の脱ぎ捨てた衣服を渡す。

 屋敷内にある露天風呂へ向かうと、脱衣所で服を脱いでから私も中に入る。


「お師匠様。忘れ物ですよ」

「おー。そういえば、頼んでいたのをすっかり忘れていたな」


 お盆に徳利とっくりとお銚子ちょうしを載せた私を見て、湯船に浸かっていたお師匠様が嬉しそうな顔を見せた。

 広い湯船を行儀悪く泳ぎながら近づいて来ると、お盆からお銚子を1つ取る。

 徳利を傾けてそれにお酒を注ぐと、すぐさま口につけて飲み干した。


「くぅーッ! たまらんなぁ~」


 見た目は黒髪の綺麗な女性ですが、中身は完全におっさんですよね……。

 岩肌に背中を預けて、ご機嫌な表情でおかわりを催促してくる。


「そう言えばエンジェ。お前達が、イシュバルト迷宮に挑戦した時は、何階層まで辿り着けたか覚えているか?」

「……?」


 唐突な話を振られて戸惑うが、すぐに古い記憶が脳裏に甦る。

 忘れもしませんよ。

 あれ程の凶悪な迷宮を、私は知りません。


 なんでしょうかね、あのミノタウロスパラディンとか言うふざけた魔物は。

 聖銀の全身鎧に、おまけに強力な回復魔法も使えるとか、反則というレベルを超えてますよ。

 魔物1体ですらそのレベルが普通なのに、まるで迷宮と言う名の城を攻略してるかと勘違いしてしまうような、統率のとれた大軍勢。

 後からお師匠様に、『神獣達の訓練所』と言われて、思わず納得しましたよね。


 最初から、異常に質の高い魔物達の屍を乗り越えて、ようやく辿り着いたらあの10階層ですよ。

 上級者迷宮でも、1階層にドラゴン種は1体までしかいないのに、1つの階層が『竜の巣』になってるとか……。

 雑魚魔物の代表であるゴブリンのように、数えきれない程の竜が迷宮内を歩いてましたよね。


 お陰様で20階層に辿り着く頃には、珍しく全員が疲労困憊状態。

 そして、数の暴力の次は質の暴力だと言わんばかりに、あの『お化け竜』ですよ。

 なんですか、あのヒュドラというふざけた竜は……。

 首が複数ある上に、ようやく斬り落とした思ったら首が再生するとか、ふざけすぎにも程があります。

 合成獣キメラですら、裸足で逃げ出すような酷い能力ですよね。

 

 後から考えれば治療も竜への対処も、ルイネスに頼り過ぎたのが失敗でした。

 当時の『紅の騎士団』は攻めを重視し過ぎてましたから、その弱点を突かれた場合の危険性を知らせる為に、あの迷宮に放り込んだのは分かりますが、もうどこからツッコミを入れていいのやら……。

 ヒュドラの弱点を探ってるうちに、後ろからもう1体ヒュドラがやって来てる事実に気づいた時は、流石に全員が会話を交わすことなく、全力で撤退を始めてましたよね。

 「上級者迷宮を3つも攻略して、最近ちょっと調子に乗ってるようだから、放り込んでみた」で、いきなりあんなふざけた迷宮に私達を放り込むとか、本当にこの人は……。

 

「エンジェ、『夜叉の血』が完全解放してるぞ」

「こうなったのは、間違いなくお師匠様のせいですよ」

「そうなのか?」

 

 わざとらしい笑顔で、とぼけたふりをしても駄目ですよ。

 きっとお師匠様のことです。

 私の内心も分かったうえで、からかってるのですよね?

 

「あの頃から随分経っただろ。どうだ、今のお前達なら30階層にいけそうか?」

「ヒュドラの攻略法はもう分かってますので、当時の仲間が集まれば20階層は超えられると思います。しかし、アレよりも恐ろしい魔物達が棲んでいる30階層となると……少し、自信がありませんね」

「この10年以内に、その30階層に到達できるパーティーが現れるとしたらどうする」

「……は? 冗談ですよね? そんなの現れるわけが……」


 先程までのニヤた顔でなく、真剣な表情でお師匠様が私を見ている。


「そんな者達が……いるのですか?」


 お師匠様が、肯定とも否定とも取れぬ笑みを浮かべた。


「賭けるか?」

「賭ける?」

「その者達が10年以内に現れるに、お前はいくら賭けるのかと聞いている」

「えっと……。ちなみにですが、お師匠様はいくら賭けるおつもりなのですか?」

「1億セシリル」

「……は?」


 一瞬、聞き間違いかと思ったが、そうではないらしい。


「もちろん、お前は現われない方に賭けるよな?」


 ……本気ですか?

 呆気に取られた私が見ていると、お師匠様が心底楽しそうな笑みを浮かべる。


「エンジェ、決まったぞ」

「何が決まったのですか?」


 何か思い入れでもあるのか、わざわざ風呂まで持って来た硬貨を、お師匠様が指で弾いた。

 自然と私の目も硬貨を追いかけて、夜空を見上げてしまう。


「クロミコへの礼の内容がな。これは近いうちに、私の神酒ソーマが飲み尽くされるかもしれんな」


 空高く舞った『500セシリル硬貨』が、月明かりに照らされる。

 お師匠様の豪快な笑い声が、静かな夜の森に木霊した。






   *   *   *






「さて、後はお師匠様を迎えに行くだけですね」


 昨晩頼まれた用事を終わらせて、お師匠様の屋敷へ向かう。

 最近は、イルザリスとの往復が多くて忙しいですね。

 まあ、転移門なる便利なものがあるので、長距離の移動はそんなに困らないのですが。

 屋敷の隣にある地下聖堂の転移門を使って外に出ると、見覚えのある顔が石畳を駆けて来た。

 

「おはようございます、エンジェ様。今日は、上からなんですね!」

「おはようございます、クイナ。ええ、今日は上から来ましたよ」

 

 門番と挨拶をすると、屋敷の門を開けてもらう。

 お師匠様の気配を探りつつ、屋敷内を移動する。

 

「お師匠様、おはようございます」

「うむ。おはよう」

 

 ふすまを開けて挨拶をすると、昨日とは違って力強い言葉が返ってきた。

 侍女達の話だと、昨日も陽が昇るまで飲み明かしてたらしいが、酔った様子など微塵とも見せない。

 普段は自分で手入れをしない水晶玉を、お師匠様が鼻歌まじりに磨いている。

 まあ、今日は大事な会議があるので、酔った状態で出席されても困りますが……。


「エンジェ。オーズガルドの件はやってくれたか?」

「はい、既に手配はすんでおります。もともと、彼女の件は冤罪の可能性が濃厚でしたし、どっちにしろ証拠をそろえて、こちらから動く予定でしたので」

「うむ。これで借りが返せるな」


 互いに急な話でしたが、彼も快く了承してくれたのでおそらく問題無いだろう。

 紫色の水晶玉を小箱に納めると、机の上にあった500セシリル硬貨を拾い、お師匠様が楽しそうに指で弾く。

 侍女達に見送られながら、地下聖堂にある転移門を使って、目的の場所へ転移する。

 

「そう言えば、クイナがお師匠様に騙されたって嘆いてましたよ」

「騙された? 何の話だ?」


 昨日、クイナと会話した内容をお師匠様にかいつまんで話す。

 するとお師匠様が納得したように頷いた。


「あー、その話か。心配するな。クイナには、後でまた別の仕事を与えて、改めて顔合わせをするつもりだったから、誤解はすぐに解ける」

「そうなのですか?」

「うむ」


 それは良いことを聞きましたね。

 彼女には、後でその事を教えてあげれば喜ぶでしょう。

 

 目的の場所へ到着すると、施設の周りを大勢のヤミサクラ家の者達が警護している。

 非公開の会談とはいえ、出席者が普通の者達ではないことが、容易に想像できた。

 煌びやかな絨毯を進んで、会議室の扉を開けるとお師匠様が室内に入る。

 出席者全員いることを確認すると会議室の扉を閉め、部屋の隅に移動して待機しておく。


 これはまた、そうそうたる面子ですね。

 最近までお師匠様が私的にやっていた会議らしいが、うちの国にも知られずにこの面子と裏でいろいろやっていたというのは、凄いとしか言いようがない。

 お師匠様から聞いた話だと、10年以上も前から計画されていたらしいですからね。


 我が国の代表として、大司教カルディアも当然ながらいるし、法王様も出席している。

 今朝、彼女の件でやりとりした彼も、何食わぬ顔で出席していた。

 また見事に、腹芸の得意そうな面々ですね。


「さて、諸君。いつもの会議を始めようか」


 無数の髑髏が埋め込まれた、おどろおどろしい主催者席に座ると、お師匠様が口を開く。

 お師匠様の後ろには、腕を高々と突きあげた、雄々しい戦女神様の石像が鎮座している。

 神話の時代では、戦女神様は魔王としても人間達に恐れられていたらしいですけど、この姿を見れば納得してしまいますね。


 しかし、あの椅子もそうですが、お師匠様の美的感覚はどうにもずれてますよね。

 以前も、牛人の女性が装備するようにと、お師匠様が考案した全身鎧がありましたが、ものの見事に売れませんでしたから。


 一流職人が作ったとはいえ、見た目がアレではどうにも……。

 角を増やせば良い物ではないですし、あのような全身鎧を着た者が迷宮にでも現れたら、探索者に間違って討伐しかねませんからねぇ。

 100万セシリルの価値はありましたが、結局は70万セシリルでも売れなかったらしいですしね。


 鋼黒鉄で売るならまだしも黒鉄ですし、あの大きさでは牛人の子供くらいしか買わないでしょう。

 ……あれ?

 そういえば、昨日侍女達の手伝いをしたさいに、屋敷の倉庫から最近お師匠様が持ち出したという話をしてましたよね……。

 誰かに譲ったのでしょうか?


「……というわけで、これからの我々の行動はそうなるわけだ。本作戦に賛成のものは、挙手を願いたい」

「……」


 私が考え事をしている間も、会議は粛々と進んでいる。

 お師匠様が提案した内容に賛成の者達の手が、次々と上がっていく。

 

「うむ。全員賛成ということで、問題はなさそうだな。では、それでいこう。皆の衆、宜しく頼むぞ。フフフ、派手にやろうか?」


 裏の世界では、猫人の皮を被った魔王と恐れられたお師匠様が、不敵な笑みを浮かべる。

 さて、どうなることやらですね……。


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