親狐の策略
「あいあいあー、あいあいあー、あい、あい、あー」
遠くから聞こえる愛娘の楽しそうな歌声に、読んでいた資料から視線を外して顔を上げる。
周りを歩いてた眷族の銀狐達もその声に気づき、ふいに立ち止まった。
小さな子供を間違って蹴り飛ばしてしまわないようにと、恐る恐ると言った感じで足元をよく確認しながら歩き始める。
狐種の魔物の中では最強の名を欲しいままにする銀狐達の可愛らしい仕草に、思わず笑みがこぼれてしまう。
巨体を持つ銀狐達の間を縫うようにして、不思議な物が目に入る。
特徴のある半笑いの顔を持つ白いラウネが、まるで空中に浮いてるかのような動作で、こっちに向かって近づいて来る。
複数の根っこの隙間からは、可愛らしい2本の足が見えていて、誰がそれを持っているのかすぐに分かってしまう。
白ラウネの後ろには眷族の1匹がおり、まるで白ラウネを護衛するかのように、楽しそうにその後をついてきている。
私の目の前まで近づくと、白ラウネが立ち止まった。
「今日はまた、随分と大きなのを見つけてきたのね」
「あいあいあー!」
白ラウネが横にずれると、愛娘のレイナが顔を出す。
自分の顔よりも大きな、白いラウネを両手で抱きしめてる姿はとても愛くるしい。
褒めて欲しいのか、金色の瞳で私を見上げるレイナの頭を撫でてあげる。
「今日もちゃんと、自分の食糧は取ってこれたのね。偉いわよ~、レイナ」
「あいあいあー!」
嬉しそうに大きな尻尾を、激しく左右に振るレイナ。
私の隣に座ると、白ラウネに歯を立てて齧り始めた。
上級者迷宮で取れる上級白ラウネは、高級な治療薬の材料にもなるくらいに栄養はあるが、とてもじゃないが食べれるような物ではない。
レイナの真似をした眷族が、白目を剥いて気絶するくらいに不味いのだ。
迷宮で厳しい生活を強いられた親の血が、迷宮で生き残るための力をレイナに授けたのだろうかと、いつも不思議に思う。
「美味しい?」
「あいあいあー!」
その嬉しそうな笑顔に、救えなかった同胞の顔が重なり、心臓に刃を立てられたように小さな痛みが走る。
時は傷を癒すと言うが、私の心の傷は完全には癒えきってないようだ。
神獣とも呼ばれる自分の心の弱さに、思わず苦笑してしまう。
「あいあいあ?」
自分の感情が、表情に出てしまったのだろうか?
レイナが心配そうな顔で、私を見上げている。
聡い子だ。
「大丈夫よ、レイナ。貴方がいるなら、私は何でもできちゃうわ。ほ~ら、レイナ。高い、たかーい」
「あいあいあー! あいあいあー!」
私に両手で身体を持ち上げられて、楽しそうに笑うレイナ。
ついでにいつものように、レイナを持ち上げながら横に回ってあげると、更に嬉しそうにレイナがはしゃぎだす。
自分でも、親馬鹿だとは思う。
例え血が繋がっていなくても、私にとっては初めての子であるレイナは、目に入れても痛くないくらいに可愛い。
子の作れない身体を持つ自分だからこそ、そう思うのかもしれないけど……。
この子の笑顔が守れるのなら、本当に何でもしてあげられる。
「セツナが、帰って来たようですね」
レイナの護衛をしていた眷族が、顔を上げて迷宮の奥を見つめる。
ふと視線を動かすと、魔狼を口に加えた銀狐がこっちへ駆けて来た。
「レイナ! 獲物を取って来たわよ。さあ、狩りの練習よ!」
「あいあいあー! あいあいあー!」
抱き上げたレイナを降ろすと、嬉しそうに飛び跳ねながらセツナのもとに走って行く。
上級者迷宮の深層から、わざわざ中級者迷宮にまで足を運んで、ご苦労様としか言えないわね。
まあ、可愛いレイナのためならばと思う気持ちは、分からなくはないけど。
種族が違えども、同じ乳母に育てられた姉妹だからか、セツナにとってもレイナは可愛い妹のようね。
実の妹以上に、世話を焼くのはどうかと思うけど……。
セツナが吐き出した魔狼が、よろよろと動き始める。
自分より大きな銀狐達が周りを囲む状況に、明らかに魔狼から怯えた感情が見え隠れてしている。
「レイナ、昨日の復習よ。私達と違って身体の小さな貴方は、やれることが限られてるのよ。相手に致命傷を与えれる爪を持たない貴方ができることは、まずは相手の目を奪うことから始めるのよ。例えばこうよ!」
「キャイン!」
そう言って、セツナが魔狼の目を狙って腕を勢いよく振り下ろす。
でも、腕が大きすぎるためか、顔どころか胴体にまで爪の跡が残る一撃を食らわしてしまった。
「こうやって両方の目を見えないようにした後は、相手が動けなくなるまで弱るのを待てばいいのよ。そして、止めに喉元に噛みつくのよ。こうやってね!」
「キャイン!?」
魔狼が子犬と思ってしまうぐらいの体格差のある銀狐が、魔狼に襲いかかる。
たぶん喉元を狙おうとしたつもりなのだろうが、口が大きすぎる為に喉どころから胴体にまで牙が食い込んでいる。
これは、お手本になってるのかしら?
「さあ、レイナ。貴方も喉元に噛みついて、息の根を止めてみなさい!」
「あいあいあー! あいあいあー!」
セツナの真似をするように、レイナが魔狼に飛び掛かる。
案の定というか、レイナが胴体に噛みついた。
「レイナ~。そこは喉じゃないわよ~」
もともとセツナに致命傷を負わされて、息絶える寸前だったから魔狼は死んだみたいだけど。
まあ、レイナの経験値にはなったでしょうから、結果的には良いんじゃないかしら?
「あいあいあー! あいあいあー!」
「止めを刺せたのね、レイナ。偉いわよぉ~」
「あいあいあー!」
口の周りを魔狼の血で赤く染めたレイナが、「褒めて褒めて」と私のもとにやってきた。
いつものように頭を撫でてやると、レイナが嬉しそうに尻尾を左右に振る。
「身体が汚れちゃったわね、身体を洗わないと。どうせなら、温泉に行きましょう」
「温泉? 私も、行く」
「あいあいあー! あいあいあー!」
口についた血を乱暴に手で拭き取るレイナを見て、身体を洗うために温泉へ行くことにした。
温泉好きのセツナの実妹も予想通りやってきたので、レイナがセツナとチトセのどちらに乗るかを悩んだ後に、チトセを選んでいつもの場所によじ登る。
あらら、セツナがしょんぼりしちゃったわ、後で慰めてあげないとね。
背中にレイナがよじ登ったのを確認すると、チトセが動き出した。
レイナと眷族達を引き連れて、温泉がある場所へ足を運ぶ。
「あいあいあー、あいあいあー、あい、あい、あー」
「レイナ姉さん、動く、駄目。落ちる」
「やっぱり狩りを見せる相手が、小さすぎるんじゃないかしら?」
「でも、母さん。本当の狩りを見せる為に、レイナを連れて行くのは、まだ早いんじゃないの?」
「貴方が守ってあげればいいじゃない。次の狩りは、貴方を副リーダーにしてあげるから、負傷した子を護るつもりでやってみなさい。リーダーになる者は、ただ強いだけでは駄目よ。群れを守りきれる力を持ってこそ、初めてリーダーになれるのだから」
「分かってるわ! 大丈夫よ。レイナには指一本、触れさせないように守りきってみせるわ!」
道中、セツナがレイナの護衛をしていた眷族と、レイナの狩りについて話し合ってるのを聞きながら、温泉を目指す。
1年で大人の身体になる銀狐と違って、狐人のレイナは5歳になってもまだまだ身体は小さい。
そうは言っても、上級者迷宮は一瞬の油断が死を招く、弱肉強食の世界。
上級者迷宮の魔物に勝てとまでは言わないが、せめて逃げきって生き残れるくらいにはなってもらわないといけないわよね。
温泉が放つ独特の臭いに導かれながら歩いていると、目的の場所に辿り着く。
まるで湖のように、広大に広がる温泉地帯が目に入った。
あら?
既に先客が来ているわね。
私達に気づいた火竜が、顔をこちらに向ける。
何となく、私を見て嫌そうな顔をしてるように見えるのは、気のせいかしら?
見上げる程に大きな巨体をゆっくりと上げると、滝が流れ落ちるように、大量の熱湯が周辺に降り注ぐ。
大きな尻尾を左右に振りながら、火竜が温泉を離れて行った。
「レイナ姉さん、温泉、入る」
「あいあいあー! あいあいあー!」
レイナを背負ったまま、チトセが温泉に入ろうとする。
チトセの背中の上でレイナが器用に服を脱ぎ捨てると、楽しそうな表情で温泉に入って行った。
レイナの脱ぎ捨てた服を拾い、自分の脱いだ服と一緒に置くと、身体を温泉に浸らせる。
「レイナ、こっちに来なさい。洗ってあげるから」
「あいあいあー!」
身体に付いた血糊を落とすように、レイナの身体を温泉の湯で洗ってあげる。
温泉は匂いに癖があるが、慣れてしまえば大したことは無い。
モモイもこの温泉を気に入って、街のどこかにある別荘に、わざわざ温泉を組み上げるように水路を作ったらしいわね。
どこだったかしら?
「レイナ姉さん、小さい、可愛い」
「あいあいあ?」
チトセがレイナを見つめた後に、レイナの顔を大きな舌で舐める。
次に実姉のセツナを見つめると、なぜか大きく溜息を吐いた。
「お姉ちゃん、大きい、邪魔」
「邪魔!? チトセ、お姉ちゃんに向かって、その言い草は何よ!」
「ヴァルディア語、難しい。お姉ちゃん、煩い、あっち行け」
「何ですって!? 貴方、絶対わざと言ってるでしょ!」
いつものことではあるが、実姉には冷たいチトセの言葉をきっかけに、実の姉妹が喧嘩を始めだした。
「貴方達、煩いわよ? 騒ぐのなら、出ていきなさい。レイナが溺れるでしょ?」
熱湯が激しく上下しだしたので、母親が睨みを利かせると姉妹が喧嘩をやめる。
しばらくすると、レイナを挟んで姉妹が大人しく温泉を楽しみだした。
「5年か……」
「ヨウコ様?」
「レイナと出会ってから、もう5年も経つのよねと思って……」
「そうですね。私も、まだ昨日のことのように、あの日のことを思い出せます」
温泉に浸かりながら、レイナと初めて出会った時のことを思い出す。
* * *
いつものように読書をしていると、周りが騒がしいことに気づいて顔を上げた。
眷族達が、慌ただしく迷宮内を走り回っている。
不思議に思って、近くを通りがかった眷族に声をかけた。
「どうしたの?」
「それが、身ごもった子が突然に暴れ出しまして……」
「私も行くわ」
眷族に案内されて後をついていくと、異様な光景が目に入る。
出産間近の眷族が激しく暴れており、数匹がかりでそれを押さえつけていた。
「動いては駄目よ!」
「赤ちゃんが……赤ちゃんが……」
「大丈夫よ! 赤ちゃんは、まだ貴方のお腹の中にいるから!」
「赤ちゃんが……赤ちゃんが……」
身ごもった眷族が、同じ言葉を繰り返しながら、他の者達を振りほどこうとしている。
私から見てもその異常さはすぐに気がつき、慌てて一緒にその子を押さえつける。
「よくあることなの?」
「いいえ、このようなことは初めてです……。初産とはいえ、妙ですね……」
いくつものお産に立ち会った経験のある眷族が、困惑したような表情を見せる。
なぜか、まだ産まれてもいない赤子を探すように、視線を彷徨わせる眷族。
その視線の先を、思わず私も見つめる。
「赤ちゃんが……死んじゃう……」
「ヨウコ様?」
「……シッ!」
それは一瞬感じた違和感、胸騒ぎとでも言えばいいのか。
私に声をかけようとした眷属に、静かにするように指示を出して、耳を澄ます。
意識を極限まで集中させ、研ぎ澄ませる。
「ヨウコ様!」
気づいた時には足が動いてた。
迷宮内を駆け抜け、存在しないはずの何かを探す。
耳に強く残った眷族の言葉が、私の中で何度も繰り返される。
この階層ではないのか、ならば……。
転移門に飛び込み、別の階層に移る。
違う、ここじゃない!
初めての感覚なのに、焦燥感だけが自分の中を支配し、早く目的のモノを探せと叱咤する。
「ここなの?」
いくつもの転移門を通り抜け、ようやく目的の階層に到着したようだ。
上級者迷宮の浅層に位置する階層で、私の耳にもその声を聞くことができた。
迷うことなくその声に向かって、私は全力で駆け抜ける。
「間に合って……」
焦りにも似た言葉が自然と口から滑り落ちた時に、目の前に現れた光景に思わず舌打ちをしそうになった。
食事中なのか、迷宮蜘蛛よりも硬い鱗を持つ鋼蜘蛛を、強靭な顎で噛み砕く大きな魔物が1匹。
赤でなく紫の瞳を持つ鋼蜘蛛が、腹を食い破られて無残な姿をさらしている。
鋼黒鉄をも溶かす高温の体液を、美味しそうに飲み干す魔物。
見上げる程の巨体を持つ土竜の幼体が、最短の通り道を塞いでいる。
「ついてないわね」
当然ながら、遠回りをするという選択肢はない。
背中に背負った、2本の聖刀を引き抜く。
「もちろん、貴方のことよ」
聖銀が編み込まれた服が私の魔力を吸い取って、風の属性である緑色に輝く。
己の中にある『古き血』を目覚めさす為に気を練り上げると、視界が赤く染まりだした。
血のように赤く染まった世界で、欠伸が出てしまうくらいに、土竜がゆっくりとした動作でこちらに振り向こうとしている。
竜種の中でも最も硬い鱗を持つ土竜が相手では、例え鋼黒鉄で作られた剣といえども、直接斬り刻めば剣の方が駄目になっただろう。
しかし、私は迷うことなくその身体に、全力で聖刀を刻み込んでいく。
こういう時ばかりは、サクラ聖教国の鍛冶師達に感謝するしかないわね。
サクラ聖教国の秘術により、上級者迷宮でしか取れない聖銀と、竜達の楽園である黄金島にしか存在しない金剛鉄を混ぜて作られた、神鉄と呼ばれる物から作られた神具だからこそできる芸当。
土竜にとっては刹那にも近い時の中で、その身体に数えきれない程の斬線を刻み込む。
「さようなら」
赤く染まった世界が元に戻ると、解体された身体の中をすり抜ける。
私の背後で肉片という名の岩石が、地面に落ちる音が耳に入るが、振り返らずに先へ進む。
先ほどまで土竜と呼ばれた魔物を迷宮の餌に捧げると、更に迷宮の奥へと駆け抜ける。
目的の場所に近づいてるのか、壊れたように泣き叫ぶ赤子の声がしっかりと耳に入ってくる。
小部屋らしき所に近づくと、なぜか魔物が周辺にいないことに違和感を覚える。
しかし、部屋に入った瞬間にその理由に気づいた。
背後にある光苔がうっすらと光る様子から、相手が狐人だと分かる。
壁に背を預けるようにして座る狐人に抱かれているのか、赤子の泣き声がはっきりと聞こえる。
薄暗闇の奥から、こちらを見つめる2つの赤い眼。
『豪腕の血』と呼ばれるような、『古き血』の1つが覚醒した者に見られる現象。
こちらを威圧するような、血のように紅い眼光から、『夜叉の血』の覚醒者であることが分かる。
片眼の『夜叉の血』が覚醒したという話はよく聞くけど、狐人で両眼が覚醒したという話は数える程にしかいない。
ここに来た目的は分からないが、上級者迷宮に潜る程の実力者となると厄介ね。
ただ、両眼が覚醒したとしても、大抵は……。
「貴方に、危害を加えるつもりはないわ。そっちに行ってもいいかしら?」
聖刀を鞘に収めると、それを静かに地面へ置く。
私に向けられた殺気が先ほどより弱くなったことから、敵意がなくなったと判断して相手に近づいた。
さっきから、部屋に充満する血の臭いが気になって仕方がない。
この臭気が、目の前にいる者から放たれているものだとすると……。
いつだって、嫌な予感は的中する。
狐人の目の前までに近づくと、首に従属の首輪がされていることに気づき、奴隷であることが分かった。
一緒にいた主人は迷宮で亡くなったのか、従属の首輪は既に起動しており、首から大量の血を流している。
「私はヨウコ。貴方は知らないかもしれないけど、この迷宮の主をやってる神獣の1人よ。法律には違反するかもしれないけど、これから貴方を治療するわ。その子、貴方の子供なんでしょ?」
子連れという時点で、私は目の前の同胞を助けると決めていた。
例えモモイに怒られたとしても、親が死ねばこの子はこの迷宮では生きていけない。
私が背負い袋から治療用の魔道具を取り出したところで、私の腕が握りしめられる。
赤い2つの瞳が、こちらを見上げる。
近くで見れば、女性だと分かった。
正確には焦点の合ってない瞳で、赤い涙を流す女性が、私の顔より少し上の方を見ている。
器が完成されてない状態で『夜叉の血』を完全解放した代償か、目の前の女性は既に視力を失っていた。
「これは……あっ、ちょっと!」
何か布きれのような物を私に渡すと、女性が力を失ったように倒れる。
慌てて彼女の身体を支えながら、治療用の巻物を1つ取り出す。
私の魔力を吸って、光魔法の輝きを放った後に巻物は消失したが、彼女は目を覚ますことはなかった。
「ごめんなさい……」
静かに息を引き取った彼女の頭を、優しく抱きしめる。
器も完成されてない状態で、『夜叉の血』を完全解放した場合には、常人には耐えられないような激痛が走っていたはず。
視界を奪われた暗闇の中を、彼女は泣き言も言わず、誰かの助けがくることだけを信じて待ち続けた。
「辛かったよね……苦しかったよね……頑張ったよね……」
心のどこかで、間に合わないのではないかとは思っていた。
彼女の周りは、既に致死量とも言っていいほどのおびただしい血が流れていた。
『夜叉の血』の力で、かろうじて命を繋いでいたのだろう。
私にとっての唯一の救いは、光魔法で照らされた彼女の顔が、満足気な笑みを浮かべていたこと。
彼女が本当に救いたかった命を、誰かに託せたことで安心できたのだろう。
血文字で『エルレイナ』と書かれた布を握りしめる。
「貴方が命懸けで守った命を見捨てたとなれば、神獣の名が廃るわね」
名も知らぬ同胞から託された赤子を自分が育てると決めると、『エルレイナ』を抱き上げた。
母親の命が天に召されたのを悟ったのか、さっきまでの大泣きが嘘のように静かになっている。
「不思議な子。貴方が彼女を助けるために、私を呼んでくれたの?」
金色の2つの眼が私を見上げ、小さな手が私の服を握りしめている。
しばらくして、私の後を追ってきた眷族達が合流したので、彼女の亡骸を丁重に葬るために住処へ移動する。
愛称をレイナと決め、乳母の代わりになってくれそうな眷族にレイナを託す。
亡くなった狐人のことが少々気になったので、独自に迷宮内を調査しながら、同じ神獣であるモモイに今回のことを話すことにした。
数日後、桜色の耳と尻尾を持つ着物姿のモモイが、再び私の所に姿を見せた。
「お前がこの前言ってた奴隷の話だが、上級者迷宮に挑戦するような探索者の中に、そのような者はいなかったと報告が上がってる。連れ子となると目立つはずだから、街でも多少の目撃情報があってもよいはずだが、それすらないようだ」
「そうね。私もそこが少し気になってたの。レイナは産まれたばかりのようだったし、それなら出産に立ち会った者が、この街にいそうなものだけど……」
迷宮内も調べてみたが、結局は彼女の主人らしき死体も見つからなかった。
気になっていたことを話すと、モモイが1つ頷く。
「どうにも今回の件には、私も引っ掛かりを覚えていてな。うちの眷族達を使って、この街を中心に未開拓の土地を広範囲に渡って、しらみつぶしに調べさせてみた」
「何かあったの?」
「うむ。気になる施設があった。巧妙に隠された地下施設のようだが、魔物達の襲撃にも耐えられるように鋼黒鉄でできた、無駄に頑丈な建物だった」
「そこには何があるの?」
「……」
私が問うと、なぜかモモイが押し黙った。
「お前には、酷な事実を知ることになるかも知れん。だが、お前はエルレイナの親となったのだ。ならば親として、その事実を知っておく必要があるだろう」
モモイの意味深な台詞に、胸騒ぎに近いものを覚える。
「それでも私は行くわ。亡くなった彼女の過去も、私は知っておきたいしね」
「分かった。それでは案内しよう」
私は眷族達を引き連れると、『研究所』と呼ばれる所に向かった。
研究所に到着すると、既にモモイの眷族であるヤミサクラ家の者達が、研究所を制圧していた。
研究所内に入ると、目を覆いたくなるような光景に遭遇する。
牢獄に入れられ、従属の首輪を嵌められた獣人達。
耳や四肢の一部が、欠損しているのは当たり前。
まるで探索者のような、薄汚れたボロボロの皮装備に身を包んでおり、ほとんどの者達の目には生気がなかった。
研究所の一室に捕えられた、研究者と呼ばれる者達から聞かされた驚愕の事実。
『夜叉の血計画』と呼ばれる、極限状態に追い込んだ獣人達から『古き血』を強制的に呼び起こす人体実験。
使い古された皮装備と安物の鉄剣を与えて、研究所の近くにある中級者迷宮に放り込むことで、その結果を観察していたらしい。
初級職業にも転職させず、いきなり中級者迷宮に放り込む実験に、半数以上の者が亡くなったと聞かされる。
まるで動物を使って実験したような言い草で、研究者達は淡々とその経緯を語った。
親族争いで敗れたイシュバルト家に代わって、名乗りを上げたヴァルディア家は、獣人を人と同列と認めてないと聞いてたけど、ここまでひどい者達だとは思わなかった。
ヴァルディア教会の上層部の命令で、最終的には少数精鋭の部隊を作って、ヴァルディア教会の兵力にするつもりだったらしい。
主にスラム街の子や奴隷達、果ては平民の子供を誘拐してまで行われた非人道的な実験の数々に、彼らの正気を疑った。
彼女はスラム街に住んでいたという理由だけで攫われ、出産した直後に脱走した所を、研究所の者達に追われてるところだったと教えられる。
上級者迷宮に逃げこまれたので、捕まえられないからと重罪人に使う従属の首輪の力を使って、命を奪うことにしたらしい。
「研究していた中では、一番の優秀な実験体を失ったのが惜しまれるな」という所長の言葉に、私の中で抑えきれない怒りが湧き起こる。
「貴方達は……獣人の命を、何だと思ってるの!」
「ヒィッ!」
「よせ、ヨウコ」
聖刀を抜き放った私の腕を、モモイが掴む。
「なぜ止めるのモモイ!」
「この者達からは、まだ聞かねばならぬことが沢山ある。殺してはいかん」
「……ッ!」
乱暴にモモイの手を振りほどくと、怒りそのままに聖刀を振り下ろした。
鋼黒鉄でできた壁を斬り裂いて、斬線が所長のすぐ横を走っていく。
「二度と私の前に顔を出さないで。次に会った時は、生きたまま眷族達の餌にして、ヴァルディア教会の馬鹿共にその首を見せしめにしてやるわ」
「心配するな。どのみちこいつらは、二度と日の目を見ることは無い」
「……」
恐怖に口から白い泡を吹いて、気を失った所長を冷めた目で見降ろすと、踵を返してその場から足早に去った
苦笑いを浮かべるモモイの台詞も、最早耳に入らない。
私は眷族達に研究所を跡形も無く壊すように命令して、レイナの待つ上級者迷宮に帰ることにした。
「ヨウコ様?」
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」
「いいえ、レイナはよく眠ってます」
乳のでない私の代わりに、乳母としてレイナを育てている眷族がこちらを見る。
先に産まれたセツナが乳離れをし始めたところだったので、すごく助かった。
乳を飲んでお腹いっぱいになったのか、眷族の体毛に包まれながらレイナが静かに眠っている。
今の荒れすさんだ私の心には、この子の幸せそうな寝顔が唯一の救いだ。
この子があの馬鹿達の手に渡らなくて、本当に良かったと思う。
レイナの母親は、研究所に捕えられた獣人とたまたま子を作り、レイナを産んだ。
極限状態になると生存本能が刺激されるのか、お互いを優秀と認めた者同士で子を作り始めるから、強い子が生まれやすくて効率が良かったと語る研究者達に、思わず吐き気を覚えた。
彼女は望んで、レイナを産んだのでは無かったのか?
血文字で『エルレイナ』と書かれた布きれに目を落とす。
「望んで産んだ子でなければ、その子の名前を考えようとは思わないわよね……」
ましてや、出産した直後にわざわざ赤子を連れて、逃げ出そうとするわけがない。
生き残る確率を増やすのであれば、自分1人で逃げればすむ話なのだから。
従属の首輪が起動し、死を悟った間際でも彼女は、『夜叉の血』を完全解放してまでも赤子を助ける道を選ぼうとしたのだ。
「レイナ、貴方は望んで生まれた子よ」
「ヨウコ様?」
「……大丈夫よ、少し疲れただけだから。でも、レイナの顔を見たら、すぐに疲れも吹き飛んだわ」
私が目を背けてはいけない。
レイナを育てる者として、その過去を全て知っておくことは私の使命だ。
「いつかまた、貴方が大きくなった時に、本当のことを話さなければいけないのよね。でも、今は……」
己の過去を知らず、安らかに眠るレイナの頭を、優しく撫でてあげた。
* * *
『そうだったんですか』
レイナを迷宮で拾ってから、どのように育てていたかを語り終えると、クロミコ様が納得したように頷いた。
研究所やレイナの実母の話については、今回は触れなかったが……。
レイナが言葉をきちんと覚え、物事を理解できるようになった頃に、私の口から直接伝えるつもりだったしね。
『レイナの強さの秘密が、少しだけ分かったような気がします。銀狐に育てられたのなら、狐人の子供でもここまで優秀なのが納得できますね。非凡な剣術の才能があるのも、神獣であるヨウコ様に育てられたということで、納得できますし……』
サクラ聖教国の黒い忍装束を着たアクゥアも、納得したように頷く。
正確には、私がレイナに剣術の指導をしたことはないんだけどね。
レイナは白ラウネを齧りながら、時々私の所に顔を出すモモイと武術稽古しているのを眺めてるだけだった。
剣術の才能があるのは、単純に優秀な親の血を受け継いでいるからなのだろう。
研究者の話だと彼女は、運動神経と剣の使い方は飛び抜けていたみたいだったから。
てっきり剣術には興味がないのかと思っていたが、迷宮で生き残るための指導者としてセツナ達を見てたせいか、レイナは自分の意思で剣を握ることがなかっただけなのだろう。
アクゥアと出会って、アクゥアをリーダーとして認めたからこそ、アクゥアの言うことを聞いて剣を握った可能性もあるわね。
群れと認識してるのが銀狐だったからこそ武器を持たず、アクゥアを次の群れのリーダーと認めたからこそ、武器を持つようになったと言う事かしら?
クロミコ様達からレイナの話を聞いて、整理した内容から1つの仮説を立てる。
『レイナは、クロミコ様のお役に立ててますか?』
『最初の頃は噛みついたり、引っ掻いたりしかできなかったんですけど、最近は剣もきちんと使ってるよね?』
『そうですね。レイナは戦闘に関しては、とても才能のある子です』
クロミコ様達の語るレイナの話に耳を傾ける。
最近の魔狼の亜種や、蜘蛛の巣の戦いのくだりを聞く限りでは、レイナに副リーダーとしての自覚が芽生えてきてるような気がするわね。
群れを厳しく統率する権利を持つ代わりに、どんなことがあっても群れを守り抜くのがリーダーや副リーダーの務め。
囮になったアズーラとやらに怒ったということは、正にレイナ自身が副リーダーの立場にいると自覚している証拠ね。
自分が群れから副リーダーを任されてないと気づいて、その後は積極的に遊撃をしだしたということかしら?
銀狐達との厳しい環境での生活をしてきたレイナには、戦うことに関しては問題無いはずだ。
ここを出る直前には、セツナが捕まえてきた魔狼相手でも、時間は掛かったがきちんと1人で倒すとこまではやってのけた。
後は、迷宮で1人でも生き残れるようにするために、獣側に特化してしまったその本質を、どうやって人側に傾けるかということなのだけれども。
『夜叉の血』に対応できる器を作るために、身体作りを最優先してしまったのは仕方のない事だ。
さすがに、弟子を育てることが得意なモモイのようには、上手くいかないわね。
特にレイナは、語学力に関しては……。
『ヨウコさん?』
『あっ、すみません。いろいろと考え事をしてましたので……。レイナが思ったより、そちらの環境に適応してるみたいなので、とても安心しました』
『まあ、最初の頃は大変でしたけどね。アクゥアが、いろいろ頑張ってくれたからね』
『手間の掛かる子でしたが、戦いに関しては素直に覚えてくれましたので、探索者としては困ったことがありません。むしろ、飲み込みが早すぎて、少し驚いたというか……』
ここまでアクゥアに大人しく従っているということは、最初の出会いの時によっぽどの実力差を見せつけられて負けたようね。
レイナはとても才能がある子だけど、アクゥアが相手となると流石に勝つことは難しいだろう。
モモイがベタ褒めをするだけのことはあって、私も剣を使って手合わせをした時に、子供にしては中々良い反応をすると驚いた記憶がある。
物心がついた時からいろんな所を連れ回してるらしいから、私が以前会った時からどれほど成長しているのか予想がつかないわね。
銀狐と生活をしていたレイナが認めるくらいだから、よっぽど才能を持った子に育ってるのだろう。
皆の視線がレイナに移る。
久しぶりの家族に会えたから、セツナとチトセと一緒になって姉妹のように仲良く団子になっている。
『アレって、大丈夫なんですか?』
『いつも通りなので、大丈夫です』
『レイナもご家族と会えて、嬉しそうですね』
クロミコ様が困惑するのも仕方のないことだろう。
丸くなったセツナとチトセの間に挟まれる形で、レイナの足が上に向かって生えている。
わざわざ狭い所に潜ろうとして、あのようになってしまったのだろうが、大きな尻尾が左右に揺れているので遊んでいるだけだろう。
全部の身体が隙間に吸い込まれた後に、しばらく見ているとレイナが違う所から顔を出した。
「あいあいあー!」
「あー、レイナ。そこ気持ちいいわ~」
「お姉ちゃん、ずるい。レイナ姉さん、私も」
セツナの顎のあたりを撫でているレイナを見て、ヤキモチを焼いたチトセがレイナに大きな顔を寄せる。
両方の手を使って、レイナが器用に姉妹の顔を撫でている。
『ヨウコさん。エルレイナがあいあいあーとよく言ってるのですが、あれは前から何ですか?』
『あー、アレは、銀狐が赤子の時に出す鳴き声ですね。赤子の時は、親狐が迷宮の奥深くで隠して育てるので、普通の探索者がそれを目にする機会がありません。だから、あまり知られてない話ですが……。銀狐に育てられたレイナはそれを間近で見てるせいか、それからはずっとあの言葉しか喋らなくなってしまいました』
『そうなんですか』
ヴァルディア教会の馬鹿達が裏で何をやってるのかを調査するために、ヤミサクラ家と協力していろいろなことをやっていたので、レイナの子育ては眷属に任せきりになってしまった。
狐人の子供が周りにいないのも、レイナが自分自身を銀狐の子供だと思い込むような、変な常識を持ってしまった原因だとモモイが言ってたけど。
やっぱりモモイの言う通りにして、外に出して正解だったみたいね。
『これからも、レイナが色々とご迷惑をお掛けするかと思いますが、宜しくお願いします』
『あっ、はい。で、できる範囲で頑張ります……』
帰り支度をするクロミコ様達を見送る。
魔樹の頑丈な蔦でアクゥアがクロミコ様の身体を縛ると、眷族が蔦を口で咥えながらゆっくりとクロミコ様を下に降ろしていく。
レイナが不意にこちらに振り返る。
「ヨウコ! ヨウコ! またね!」
予想もしなかったレイナの行動に、思わず息を呑んでしまう。
動揺する気持ちを抑えながら、小さく手を振ってあげる。
レイナが嬉しそうに手を大きく左右に振った後、クロミコ様とアクゥアが降りて行った後を追うようにして、レイナが飛び降りた。
「ヨウコ、ですって……。フフフ、レイナに名前で呼ばれたのは、初めてね」
「良かったですね、ヨウコ様。思ったより、レイナが元気そうで」
「本当ね」
変わった人。
人間の姿を持ちながら、考え方、感じ方、全てがこの世界の人間とは明らかに異なる。
神獣と呼ばれる私を前にしても、特に気にした様子も怖じた様子もなかった。
この世界については常識知らずなようで、語学力や頭の良さはガヴァネスに教育された貴族並みのものを持っている。
天界人。
モモイの『計画』の中にでてきた言葉が、脳裏によぎる。
「うわーん! 何でお姉ちゃんには、またねを言ってくれないのよー! レイナの馬鹿ー!」
「レイナ姉さん、いなくなった、さみしい……」
「まったく、レイナが新しい所で一生懸命頑張ってるというのに、この子達ときたら……」
お腹を出して、激しく空中で足を動かして暴れるセツナ。
耳を垂れさせて、しょんぼりとするチトセ。
気持ちはすごく分かるわ……。
「ヨウコ様、可愛い子には」
「旅をさせよ、でしょ? はいはい、分かってるわよ。レイナがあまりにも楽しそうにしてるから、ちょっと嫉妬しただけよ」
「それこそ、あの子がひとり立ちしたという証拠です。子は親が思ってる以上に、上手くやってるものなのですよ」
むー。
子持ちに言われると、さすがに説得力があるわね。
なんだかんだで、セツナもチトセもそれぞれの群れを作って、リーダーとして上手くやってるみたいだしね。
「さて、当初の予定通り、天界人もこちらにやってきたわ。私の用事も終わったし、後はモモイ達に任せるだけね」
「例の計画も、いよいよ大詰めですか」
レイナ達が先ほどまでいた所を見つめる。
「ヴァルディア教会は、少々やり過ぎたわ。私達神獣の中では、唯一人間との平和的関係を望む魔王を怒らせるほどにね」
「モモイ様を敵にまわすとは。ヴァルディア教会に同情はしませんが、心底あわれに感じますね」
「正直、天界人まで呼んでくれるとは思わなかったけど、これでいろいろやりやすくなるわね」
「後は計画の最後まで、天界人を守りきれればこちらの勝ちということですね。しかし、今回の天界人はこう言ってはなんですが、随分と戦いに不慣れに感じますね。大丈夫でしょうか?」
心配そうな顔で私を見る眷属。
まあ、その気持ちは分からなくはない。
「そのために、アクゥアを最初から潜りこませたのでしょ? 他にもモモイが目を付けた優秀な子を、モモイが潜り込ませたって言ってたから、大丈夫でしょう。まあ、アクゥアさえいなければ、うちの子が世界で一番優秀なんだけどね」
「親馬鹿ですね」
「失礼ね。本当のことでしょ?」
なぜか眷属が、呆れたような顔で私を見ている。
「捕まえるべき鼠の規模も、住処も判明した。そして、今回の計画に必要な最後の駒である天界人も、予定通りサクラ聖教国側についた」
「新しい教会設立の件も、私達がクロミコ様に接触するのも、予定してたより少し早くなってしまいましたが」
「カリアズの行動が、ちょっと予定外だったからね。まあ、計画を予定より前倒しにするだけだから、モモイは問題ないって言ってたけど」
正直、ヤミサクラ家の包囲網を綺麗にすり抜けて、エンジェにアクゥアのことを教えるのは予想してなかったからね。
お陰様で、まだ秘密にしていたサクラ聖教国の人達に、計画の一部がバレてあっちでは大騒ぎになってるみたいだけど。
ヤミサクラ家の報告だと、カリアズの悪運の強さは昔からみたいだし、今回は仕方無いわね。
黄金島にしか生息しない黄金ラウネをこっちの大陸で見つけるとか、正直どうやって見つけたのか私が聞きたいくらいだわ。
モモイの予想だと、黄金島から移動してきた竜にくっついてきた可能性があるとか言ってたけど、本当かしら?
「当初の予定では、クロミコ様にはしばらくこちらの世界を、のんびり観光してもらう予定だったけど、少しだけこちらの計画に付き合ってもらうしかないわね」
「後はこちらの仕掛けた餌に、鼠達が食いつくのを待つだけですね」
「ヤミサクラ家の者達に、報告しておきましょう。レイナは継続して、クロミコ様に預かってもらうと」
「レイナも、今回の計画に参加させるのですね?」
「そういうことになるわね。まあ、アクゥアもいることだし、問題ないでしょう」
さあ、ヴァルディア教会。
大勢の獣人達の命を理不尽に奪った罪を、今こそ貴方達の命で償ってもらうわよ?
「フフフ……。私達も行きましょう。ここに私達が長居すると、他の人達に迷惑がかかるからね」
黒い笑みを浮かべながら眷属達を引き連れて、その場を後にした。




