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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第5章 中級者迷宮攻略<ラウネがいっぱい編>

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紅のラウネ

 

「ラウネ! ラウネ! あいあいあー!」


 突然にエルレイナが奇声を上げると立ちあがり、嬉しそうに指を差す。

 迷宮灯に照らされて、俺達の目の前を横切る2つのラウネ。


 1つは、初級者迷宮でもお馴染みの白いラウネ。

 なぜか半笑いの顔をこちらに向け、犬が散歩しているかのようにトコトコと歩いている。


 お前の前足はそっちなんだね。

 相変わらず何しても、きめぇの一言しか思い浮かばない。


「お! 赤ラウネじゃん」


 壁に背を預けて座っていた不良牛娘が、珍しく目の前を横切るラウネに食いついた。

 初級者迷宮が白ラウネ1種類だったのとは違い、中級者迷宮はラウネの種類が豊富だよな。

 

 実が赤いもう1つのラウネが、マイペースに歩く白ラウネの隣でピョンピョンと飛び跳ねて移動している。

 中級者迷宮のラウネは、その移動の仕方が標準なんだね。

 「飛べねぇラウネは、ただの白ラウネだ」と渋ボイスで喋る赤ラウネが脳内再生されたが、飛べても飛べなくてもキモイのに変わりはないな。

 

 いつも通り野獣姫に捕獲された白ラウネと、悪魔騎士に捕獲されてこっちにやって来る赤ラウネ。

 実と葉っぱが紅く染まっただけで、白ラウネと大して変わらないじゃないか。

 真っ赤に染めた半笑いの顔が、やっぱりきめぇ。

 

「これがまた、すげぇ辛くてうめぇんだ。アイネス、明日のつまみに宜しく」

「はいはい」

「ウシシシシ。祝勝会の良いつまみが手に入ったぜ」

「よくそんな辛い物が食べれますね。私も一度食べたことがありますが、口が火傷するかと思いました。牛人の好みはよく分かりませんね」

 

 嬉しそうに笑いながら、アカネの背負い袋に赤ラウネを入れるアズーラ。

 俺の隣に座ってるアイネスが、その時の記憶を思い出したのか苦々しい表情をした後に、呆れた様な顔でその様子を見ている。

 4本角を持った悪魔騎士が、他人の荷物袋をゴソゴソとまさぐってるから、傍から見ると強盗してるようにしか見えんな。

 

「これと味噌を使って、辛味噌にしても旨いんだぜぇ」

『アカネさんが、戻ってきたようです』

 

 赤ラウネを使った料理を上機嫌にアズーラが語りだしたところで、アクゥアが立ちあがった。

 黒猫娘が見つめる先に、迷宮灯の明かりに照らされながら、こちらに近づく集団がいる。

 

 どうやらアカネが、近くを通りがかった迷宮騎士団の分隊を連れてきてくれたようだ。

 でも、なぜかアカネが不思議な生き物に乗っている。

 

「アカネの話を聞いても信じられなかったが、本当に迷宮蜘蛛を倒すとはな」

 

 分隊の中で、一際大きな身体を持った女性騎士が声をかけてくる。

 誰かと思えばツアングさんだ。

 

「ハヤト達なら、近いうちに迷宮蜘蛛を倒すと副団長に言われてたが、本当にやるとはな……」

 

 ツアングさんが呆れたような表情で、地面にひっくり返った迷宮蜘蛛を見ている。

 アカネは不思議生物から飛び降りて、興奮したような表情でこっちに駆けて来た。

 

「すごいであります! 騎竜に、乗せてもらったであります!」

 

 ほう。

 アレが前に、サリッシュさんが言ってた騎竜とやらかね。

 馬ほどの大きさの竜に、騎士と同じような銀色に輝く鎧のような物が着せられている。

 竜種は頭が良く、人語を理解できる魔物らしい。

 飼いならせば、移動手段としてはかなり役に立つと言ってたな。

 重い全身鎧を着てる騎士も軽々と乗せて、素早く走れるみたいだしね。

 

「ツアングさんは、どうしてこちらに?」

「ん? ああ。今日の私達の担当が、鉱脈へ行く商隊の警護だったから、たまたまこっちに寄っただけだ」

 

 ツアングさんの話によると、迷宮騎士団には5階層のゴブリン達の間引きをする仕事の他に、鉄鉱石を取るために鉱脈へ行く商人達の商隊を護衛する仕事もあるらしい。

 鉄は街の資源としても大変貴重な物なので、国と商人ギルドの契約で積極的に迷宮騎士団が参加しているようだ。

 

 こっちに来る前に鉄鉱石が多く生えている所を見つけたので、商隊は先にそちらで作業をしているとのこと。

 手が空いたら、こちらにも何人か人を回してくれるらしい。

 それまでの間を、先にツアングさん達の分隊が様子を見に来てくれたみたいだ。

 

「ほらな。言った通りだろ?」

「珍しく、アズーラの予想が当たりましたね」


 このでかい迷宮蜘蛛を運ぶのにどうしようかと頭を悩ませていたら、「鉱脈なら商隊が来るだろうから、しばらく待ってようぜ」と言うアズーラの意見に従ったが、正解だったみたいだな。

 時間つぶしの為に、ツアングさんと雑談を興じることになった。

 本当はツアングさんが若手育成の為に迷宮蜘蛛を倒す予定だったことや、迷宮蜘蛛を倒すまでの経緯をアイネスが語ったりしていたら、商隊がほどなくしてやって来た。

 

 何というか、多種多様な集団だな。

 商人らしき狐人に、2mはありそうな大柄な身体を持つ牛人の探索者達。

 労働奴隷なのか、従属の首輪を付けて大きな背負い袋を運ぶ男性もいる。

 それと騎竜より大柄な、荷竜と呼ばれる魔物が大きな荷車を引っ張りながらやって来た。


 状態を確認しているのか、商人らしき狐人が迷宮蜘蛛の周りを移動しながら、片眼鏡のモノクルで覗き込んでたりしている。

 後、何か棒のような物を迷宮蜘蛛のケツに差し込んだ。

 確認が終わると他の人達に声を掛け、牛人達が迷宮蜘蛛を荷車に乗せようと作業を始めだした。

 ニコニコと笑みを浮かべながら、商人がこっちにやって来る。


「初めまして。私、商人ギルドに所属してます、ビュガント=オゼアルトと申します。以後お見知りおきを、クロミコ様」


 あれ?

 初対面なのに、この人は何で俺のことを知ってるの?


 金色の狐耳を生やした商人が、深々と下げた頭を上げる。

 優しげで温和そうな表情をした青年が、ニコリと微笑む。


「クロミコ様のお噂は、商人ギルドでも有名ですよ。探索者に登録して、わずか10日で魔狼の亜種を討伐した、期待の大型新人と聞いてます」


 んー、その噂もどうかと思うんだが。

 基本的に俺は何もしてないし、うちは戦奴隷が優秀過ぎるだけだしね。

 まあ、奴隷の活躍は御主人様の活躍となるらしいから、そう認識されるのは仕方ないけど。

 ていうか、もうそんな噂になってるんかい。


「食事をしたばかりなのか、適度に身体も熱くなってました。これなら体内に黒鉄も多そうですし、良い額で買い取れそうですね」

「身体が熱い方が、高く買い取ってもらえるのですか?」

「はい、その通りです」


 アイネスの問い掛けに、青年商人が嬉しそうな表情で頷く。

 迷宮蜘蛛は食べた鉄鉱石を消化する時に、高温で鉄鉱石を溶かしながら新たな黒鉄を体内に生成するらしい。

 鉄が溶ける程の高温になるので、その際には身体全体が熱くなるとのこと。

 ついでに魔道具を体内に差し込んだら、かなりの黒鉄が作られてることが分かったみたいなので、高く買い取れそうだと判断したようだ。


「あの、ご主人様は個人契約をしてるのですが」

「あー、大丈夫ですよ。そちらの方は問題無いです」


 アイネスがギルドカードを胸の谷間から出した所で、青年商人が手を差し出して問題無いと頷く。


「ナンデモアルネ雑貨店ですよね?」

「はい。ご存じでしたか」

「クロミコ様と個人契約をしてる者がいる話も、既に私の耳にも入ってますので大丈夫です。残念ですね、私もクロミコ様と個人契約をしておきたかったです」


 本当に残念そうな顔で、ビュガントさんが溜め息をつく。

 それでも諦めきれないのか、もし契約を変える気があるのなら是非に私めをと、マシンガンセールストークを繰り広げられた。

 よく喋る人だなーと思い始めたところで、労働奴隷らしき男性がビュガントさんに声をかける。

 最終的な買い取り価格の決定は、アイヤー店長と立会いのもとでやるので、明日また雑貨屋に寄れば正確な金額を教えてもらえると言われた。

 荷車に迷宮蜘蛛が運び込まれたのを確認すると、ビュガントさんが荷竜の頭を撫でる。


「さあ、お願いしますよ。それを運んでくれたら、三角兎をご褒美にあげますからね」

「グルルル!」


 それが好物なのか、突然に荷竜が興奮したように首を振ったり、後ろ足で土を蹴ったりし始める。

 竜種の中では小さい方だと言われたが、重い鉄ソリのような物を運んで競争するばんえい馬くらいの大きさなので、なかなかに迫力がある。

 これで小さいと言うなら、大きい方の竜種はどれくらいのサイズなのだろうか。

 正直な話、聞くからにやばそうな竜とかとの戦闘は勘弁願いたい。


「しゃ、しゃんかくうしゃぎでありましゅか!?」


 そしてなぜか、うちの獣人も興奮し始めた。

 なぜにと思って、隣を見ればアイネスが苦笑いを浮かべている。


「三角兎は、上級者迷宮で取れる高級な兎肉です。貴族の旦那様がそれを知らないのは、いつも通りなので置いとくとして。平民ではなかなか食べられない物なので、アカネがそれを聞いてああなるのは仕方ないのかもしれませんね」


 どうやら三角兎と言うのは、貴族達が好んで食べる高級料理のようだ。

 アカネが豹変した所からして、かなり美味いんだろうな。

 アイネスに、値段が二角兎に比べたら桁1つは違うと言われた。

 2人前の二角兎が500セシリルで買えるとして、三角兎だと5000セシリル相当になるということか?


「私も、しゃんかくうしゃぎを運ぶでありましゅ!」

「落ち着きなさい、アカネ。迷宮蜘蛛が高く売れたら、明日の祝勝会に高級メリョンを買ってあげますから」


 滑舌も台詞もおかしくなるくらいに興奮してるハラペコ狼娘の隣で、アイネスが高級メリョンをネタにしてなだめている。

 三角兎を人数分買おうとしたら、うちのパーティーだと破産するからね。

 前回と同じく高級メリョン1個を買ってあげるから、それで我慢して下さい。

 迷宮蜘蛛討伐でいつも以上に頑張って動いたり、お腹が減りやすい咆哮を惜しみなく使ったせいで腹をかなり空かしているのか、アイネスの声も耳に入ってない感じだ。


 運ぶのは迷宮蜘蛛であって、報酬で貰えるのが三角兎だし、貰えるのは荷竜だけだから。

 ごちゃ混ぜにするな、お馬鹿。

 腹が減り過ぎると、思考が獣レベルに落ちるのかね?


「ハハハ。今のアカネだと、迷宮蜘蛛を運ぶくらいやりかねんな」

「おい。おめぇはこっちだろ」


 ツアングさんも笑ってないで、止めて下さいよ。

 迷宮蜘蛛を運ぼうと商隊に参加しようしたアカネを、アズーラが皮鎧の首元を掴んで、こっちに引き摺って来る。

 「グルルル」と唸り声を出しながら涎を垂らした狼娘が、悪魔騎士に人攫いにあってるみたいで、なかなかシュールな光景だ。


 商隊は大人数で移動し、迷宮蜘蛛を運んだりするから荷車も大きい。

 広めの道を選んで通る遠回りの行程になるそうなので、ツアングさん達とはこの場で別れることになった。

 アカネが名残惜しそうに、商隊の後ろ姿を見つめている。

 これで明日の祝勝会で高級メリョンを買わないと言ったら、大暴れしそうだな。

 俺と同じ考えにいたったのか、アイネスを見ると苦笑いを返された。


「迷宮蜘蛛も無事に引き渡せたようですし、今日は引き揚げましょう」

「だな」

 

 迷宮蜘蛛の討伐でアイネスもほぼ魔力切れの状態だし、アクゥアも投擲ナイフを全部使い切ってしまった。

 なので少し早いが、今日は迷宮探索を終了することにした。

 中級者迷宮に潜ってから結構な数の魔物を倒してるので、レベルの確認と魔吸石の報酬を受け取るために、探索者ギルドへ寄ることにした。






   *   *   *






 探索者ギルドの応接室内を、重々しい空気が支配している。

 レベル更新の結果報告が来るまでの時間を、アイネスが最近の近況報告をしてる時も妙な空気が流れていたが、今はそれ以上に重い。

 他の職員から渡された身体検査の結果が書かれた書類を、真剣な表情で見つめるマルシェルさん。

 

「ハヤト君は、神子のレベルが6から11に上がってるわね。これはまだ良いわ。巫女や神子は、初級職業の中でもレベルが上がりやすいと言われているし」


 ようやく口を開けたかと思えば、ボソボソと呟くように話すマルシェルさん。

 レベルが上がってわーいと喜びたいところだけど、妙に室内の空気が重くて素直に喜びの反応ができない。


「アイネスちゃんが魔法使いのレベル5から7に上がって、アズーラちゃんとアカネちゃんがこの前転職したばかりなのに、もう獣戦士のレベル6になってるわね」


 穴が開くんじゃないかとばかりに資料を睨みながら、マルシェルさんが書かれた内容を読み上げる。

 そして、ゆっくりとマルシェルさんが顔を上げた。

 

「アクゥアちゃんとエルレイナちゃんは中級職業に転職したのに、もうレベルが3になってるんですって。良かったわねぇ~。随分、沢山の魔物を倒したみたいねぇ?」


 垂れ耳の犬人であるマルシェルさんが、ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべる。

 その笑顔が、怖く感じるのはなぜでしょうか?


「アイネスちゃん。もう1回、今日まで迷宮でしたきたことを説明してくれるかしら? 今度は包み隠さず、詳細に全部教えて頂戴」

「は、はい……」


 さっき近況報告をしてた時は、ゴブリンウォーリアのあたりで雲行きが怪しくなって、空気を読んだアイネスが迷宮蜘蛛を倒したことをぼやかしたが、どうやらバレてるみたいだな。

 アイネスが恐る恐るといった感じで、全てをありのままに報告する。


「『蜘蛛の巣』と戦ったですって! しかも、迷宮蜘蛛を倒した!?」

「は、はい。倒しました」


 目を吊り上げたマルシェルさんが、両手でテーブルを叩きつけて吠える。

 アイネスが必死に説明を続けるが、マルシェルさんは全然納得してくれない。


「そんなわけないでしょ! 投擲ナイフを4本同時に投げて、都合良く当たるわけないでしょ! 嘘を付くなら、もう少しマシな嘘を付きなさい!」


 確かに、目の前で実際にあれを見せなければ、にわかには信じがたいものがあるだろう。

 どうやらマルシェルさんは、俺達が迷宮蜘蛛に何度も挑んだと思ってるみたいだ。

 そうじゃないと、短期間でこんなにレベルが上がらないと言われてしまう。


「そもそも、『蜘蛛の巣』に子供の貴方達が1パーティーで挑むなんて、何考えてるの! 貴方達は、レベルがいくつだと思ってるの!」

「それはそのぉ……」

  

 アイネスもマルシェルさんのあまりの剣幕に、たじたじになっている。

 魔狼亜種を彷彿させるような表情になっていて、正直かなり怖い。


「落ち着け、マルシェル。ツアングが手伝ってくれたんだよ」

「……ツアング? ツアングって、もしかしてサリッシュがいるところのツアング大隊長?」

「そうだよ。たまたま商隊と鉱脈で会ったから、ハヤトを早く守れるようにレベルを上げたいからって頼み込んで、手伝ってもらったんだよ」


 さっきまでだんまりを決め込んでいたアズーラが急に入ってきて、嘘の話を始めだす。

 その言い訳はちょっと苦しいんじゃないかと思ったが、マルシェルさんの怒りが少し収まりだした。


「ふーん。ツアングがねぇ~」


 でも、マルシェルさんが疑わしげな目でこちらを見る。

 しばらく俺達をじーっと見た後、散らかった書類をまとめて一度頷く。


「いいわ。迷宮蜘蛛に関しては、商人ギルドに聞けばすぐ分かるでしょうし、とりあえずは明日になれば、探索者ギルドへの定期報告でサリッシュとも会えるしね。その時に、ツアングの話も聞けるでしょう。迷宮蜘蛛討伐の称号授与については、その時に改めて検討します。明日が楽しみねぇ~」


 そう言って、意地の悪い笑みを浮かべるマルシェルさん。

 この表情は、どう見ても信じてないようである。

 まあ、少し無理がある言い訳だから仕方ないよな。

 ようやく応接室から解放されて、若干お疲れな様子のアイネスが溜め息を吐く。


「はぁー。確かに、信じてくれと言うのが難しいですわね」

「だな」

「私でも、皆さんの実力を目の当たりにせずに同じことをいきなり言われたら、鼻で笑って一蹴するような話ですしね」


 根掘り葉掘りと聞かれて、本当のことを全部喋ったのに、結局は嘘だと決めつけられると中々に辛い物がある。

 まあ、仕方ないのかも知れないけど。


「ありゃあ、何言っても信じてもらえんと思うぞ」

「アズーラの嘘話もどうかと思いますが、今回はそちらに辻褄を合わせるしかありませんね。まだ、そちらの方が現実味がありますし……」


 アズーラの呟きに、アイネスが苦笑いを浮かべる。

 とりあえずは、夜にでもサリッシュさん達が風呂を借りに来るだろうから、そこで辻褄合わせのお願いをするしかないということになった。


『すみません。私が出しゃばり過ぎたばかりに、皆様にご迷惑を……』

『気にすんな。アクゥアは、悪い事をしたわけじゃないんだ』


 落ち込んでるアイネスを見て、事の顛末を俺が語るとアクゥアがしょんぼりしたので、フォローしておく。

 今回は探索者ギルドの特別報酬ではなく、商人ギルド関係者からの買い取り報酬になるから、例え称号が授与されなくても俺達には痛くも痒くもない話だ。

 これで報酬金が貰えないとかいう話になるなら、アイネスも目を吊り上げて感情的に吠えてたかもしれないが……。

 下手すればキャットファイトに突入して、応接室に血の雨が降らなかっただけ良しとしよう。


 報酬金を受け取れる窓口がある部屋へ移動すると、案の定というかアイネスの目に生き生きとした光が灯り、全員の魔吸石の腕輪が強奪された。

 皆の魔吸石を握り締めると、目を爛々と輝かせて、兎娘が一目散に窓口へ駆けて行った。


『アレを見て、迷惑をかけられて、困ってるように見えるか?』

『いえ、見えませんね……』


 いつも通りのアイネスに、アクゥアが苦笑する。

 しばらく長椅子に座って皆で待っていると、ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべた兎娘が戻って来る。

 ご機嫌な様子のアイネスと一緒に、探索者ギルドを出て家路に着く。


「いっぱい貰えた?」

「ええ、貰えましたよ。今回の魔吸石の報酬は18万セシリルでした」

「18万か……」


 前回が6万くらいだっけ?

 そうなると、今回の稼ぎは……。


「前回の魔吸石の報酬は、6万5300セシリルですよ。ちなみに今回は、6日間で18万セシリルの稼ぎです。さっき窓口で計算してきましたが、1日だと1人5000セシリルの稼ぎになりますね。初級者迷宮の頃が1200セシリル程度の稼ぎだったのに比べれば、かなり稼ぎが良くなってますね」


 俺の考えを読んだのかニコリと微笑むと、アイネスが饒舌に俺の知りたいことを語ってくれる。

 何やら窓口で一生懸命に算盤を弾いてるように見えたが、ちゃっかり計算してたのね。

 さすが、お金好きは伊達じゃない!

 約4倍か……そう考えると、確かにかなり稼ぎが良くなってるよなぁ。


「旦那様は、何もやってないですけどね」


 ご機嫌な表情で、しっかり毒を吐く兎娘。

 一言多いですよ、アイネスさん。


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