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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第4章 中級者迷宮攻略<蜘蛛の巣編>

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蜘蛛の巣(後編)

 

「いやぁー、さすがにあの数を1人で相手するのは肝が冷えたぜ。黒鉄の全身鎧があるとはいえ、同じことはあんまりしたくねぇな」

「本当ですよ! 無茶をし過ぎです! 死んだらどうするんですか!?」

「おーアイネス、心配してくれたのかい。まあ、ばっちゃんと一緒に中級者迷宮に潜った時に、似たような経験をしたことがあるから、適当に暴れてれば俺1人でも逃げれるから大丈夫だと思ってたんだけどねー」

「そういうことは先に言って下さい! 意味深なことを言って残ったから、無駄に心配したじゃないですか!」

「あん? そんなこと言ってたっけ? あれー、おっかしいなー。黒鉄の全身鎧だから、大丈夫だって言ったつもりだったけど……あー、もしかして言ってないか?」

「言ってません!」


 悪魔騎士兜を取った不良牛娘が頭をかきながら、「わりぃ、わりぃ」とあまり詫びいれた様子も無く謝る。

 アカネがアズーラを見つけるまでは、アイネスも「アズーラ、大丈夫かしら?」と何度も呟いてすごく心配してたから、ケロッとした表情で帰って来たアズーラにガミガミと叱っている。

 アイネスの説教を蛙の面に水と言った感じの顔で、不良牛娘が耳を穿りながら聞き流している。

 

「心配したぞ、アズーラ。よくあの集団から逃げてこれたな」

「ハヤトにも心配させちまったか、わりぃな。いやー、あんまりボコボコ殴ってくるから腹立ってよ。1匹おもいっきりメイスで殴って、頭をカチ割ってやったらアイツら怯んだからさ、その隙を付いて逃げてきたぜ」


 そう言って、何という事はないと言った感じでケラケラと笑うアズーラ。

 相変らず肝が据わっている不良牛娘である。


「アジュ! アジュ! あいあいあー!」

「わりぃって……。もうしねぇから、そんなに怒るなよぉ」


 エルレイナも実は心配していたのか目を吊り上げて激しく地団駄を踏むと、アズーラの鎧をシミターの鞘でポコポコ殴って、怒ってるかのような奇声を上げている。

 ちゃんと無事に帰ってきたのがよっぽど嬉しかったのか、尻尾は左右に振っているので内心は喜んでいるのだろう。

 

 何となく「別にあんたのことを、心配して待ってたんじゃないんだからね!」と脳内再生された。

 ツンデレだな。


「申し訳ないであります、アズーラ殿。『蜘蛛の巣』のことは知らずに、魔物や探索者がいない所だけを考えて案内してたであります」

「アカネ、貴方はそこまで気にしなくていいのですよ。私もまだマルシェルさんの日記全てに目を通したわけではないので、今回のことは見落としてました。私にも責任があります」


 狼娘と兎娘が耳を垂れさせて、しょんぼりした様子を見せる。


「そうだぞ、アカネ。気にすんな。『蜘蛛の巣』とぶつかる危険がある鉱脈を、わざわざ通るパーティーの方が少ねぇんだ。人がいなかったのは当然だ。『蜘蛛の巣』と正面から喧嘩しようとする奴らは、よっぽど腕に自信のある奴らか、金に困ってる奴らだ。俺は『蜘蛛の巣』にぶつかっても何とかなると分かってたから、あえて何も言わなかっただけだから」

「まったくです。大丈夫だと分かってるなら、そのまま倒してきてくれても良かったのですよ?」

「ひっでぇなー。これでも無茶した方なんだぜ? そこはもう少し、優しくしてくれても良いだろう?」

「知りません!」


 心配損だったと分かったのか、アイネスが頬を膨らませてそっぽを向く。

 アイネスに視線を移すと、小部屋の入口からアクゥアが入って来たのが目に入った。


『周辺を偵察してきましたが、この辺は安全だと思います。コボルトスリングやインプの追跡もなさそうなので』

『分かった。ありがとう』


 『蜘蛛の巣』からは上手く逃げ切ったようなので一安心である。

 一時はどうなるかと思ったが、ようやく一息つけるな。


「アズーラ殿、怪我は無いでありますか?」

「あん? おー。怪我って言っても、ちっと火傷したくらいだからなぁ」

「治そうか?」

「おーおー、ハヤトは優しいねー。大丈夫だよ。魔法に少し強い黒鉄の鎧だから、インプの火球ファイヤーボールぐらいじゃ、大した火傷にもなりゃしねぇーよ。ほっときゃすぐ治る」


 腕に軽い火傷をしてるのか、大丈夫だと見せるようにプランプランと軽く腕を振る。

 アズーラの軽いノリに、未だに不満顔のアイネスが口を開いた。


「ゴブリンウォーリアは、戦士のレベル25、獣戦士のレベル15、剣士のレベル5相当がいるパーティーが望ましいとマルシェルさんの日記に書いてました。浅層にしてはレベルが高いと気にしてましたが、あのような『蜘蛛の巣』を相手にするとなると、初級職業でもそれくらいのレベルは必要なのかもしれませんね」

「ここは中級者迷宮だぞ? いつまでも初級職業で踏破できるような迷宮じゃねぇよ。あれでも『蜘蛛の巣』じゃ、小っちゃい方だぞ。浅層でも一番深い所だと、ゴブリンウォーリアが30匹くらいの『蜘蛛の巣』も出てくるぜ。しかもリーダーがゴブリンウォーリアの亜種とかになるからなー。ありゃあ、もう分隊どころか小隊レベルだぜ。アイネスの言うレベルでも足りないくらいだと思うぞ?」

「はぁー。探索者として稼ぐ道というのは、容易では無いみたいですね」

「だな」

 

 溜め息を吐くアイネスと視線を合わせて、苦笑し合う。


「アクゥアが戻って来たなら丁度良いや。ハヤト、さっきの『蜘蛛の巣』の魔物がどれだけいたのか、アクゥアに聞いてみてくれ」

「え? おー、分かった」


 アズーラに尋ねられた内容をアクゥアに聞いてみる。

 アクゥアがしばらく考えるような様子を見せると口を開く。


「ゴブリンウォーリアが10匹、コボルトスリングが8匹、インプが5匹いたってさ」

「さっき逃げる時に思ったより少ない感じがしたけど、やっぱり当たりだったか。その数なら、何とかなるかもな……」

「アズーラ、何の話ですか?」


 ブツブツと呟くアズーラに、アイネスが不審の目を向ける。

 ふいにアズーラが、あぐらをかいた足をパンッと叩いた。


「よし! それじゃあ、『蜘蛛の巣』討伐と行こうか?」

「はぁあ!? アズーラ、何を言ってるのですか! アクゥアの話を聞いてなかったのですか? あっちは魔物が、23匹もいるのですよ!?」

「ゴブリンウォーリアは、さっき俺が1匹潰したぞ」

「それだと、ゴブリンウォーリアが9匹になったでありますから、22匹でありますね」

「22も23も大して変わりません! こっちは6人ですよ! しかも足手纏いの神子がリーダーだから、実際に戦えるのは5人です!」


 しくしく……。

 足手纏い言われちゃった。


「ハヤトを守りながら戦うのはいつも通りだろ? それに15匹までならゴブリンで経験済みだし、今度は剣や盾を持ったゴブリンが9匹だから問題ないだろ?」

「大問題です! なぜ、コボルトスリングとインプを数に入れてないのですか!?」

「それはアクゥアとアイネスに任せた!」

「投げっぱなしですか!?」


 アイネスが呆れたような顔でアズーラを見る。

 アズーラはニヤニヤした表情から、突然に真剣な表情に変わる。


「真面目な話な、全身鎧って言っても無敵じゃないんだ。さっき逃げる時に気づいたが、『鎧通し』っぽいのがゴブリンウォーリアの中に2匹いた」

「鎧通し?」


 気になったキーワードを俺がオウム返しで尋ねると、アズーラが頷く。


「インプがわざと迷宮蜘蛛の剣を細くして、全身鎧の隙間に通せるようにした剣を持ったゴブリンウォーリアだ。数が少ない時はコイツがいても良いけど、数が多いと他の奴に気を取られて、背後から脇とか鎧の隙間にブスリとやられちまうんだ」

「それは厄介ですね。なるほど、アズーラ1人をそのまま突っ込ませようかと思いましたが、それがいると難しそうですね」

「おい」


 鬼畜な発言をするアイネスをアズーラが睨む。

 だが、気を取り直して話を続ける。


「今回は数が多いから、俺も無駄にそいつを警戒してゴブリンの時みたいに激しく動き回りたくねぇんだ。だから、いつもみたいにエルレイナやアカネの援護も欲しい。そうなると今度は、コボルトスリングとインプが厄介になる」

「コボルトスリングの投擲にインプの火球ファイヤーボールの嵐の中では、エルレイナは何とか避けれるかもしれませんが、アカネは厳しいでしょうね」

「スリングと火球ファイヤーボールを気にしながら戦うのは、少し辛いであります。ゴブリンウォーリアに集中させてもらえるのなら、数が少し多くても頑張れると思うであります!」


 アズーラとアイネスの話の内容に、皆の視線がアカネに向かうと、アカネが拳を握りしめて気合十分に答えた。

 俺達にとっての課題は、コボルトスリングの投擲にインプの火球ファイヤーボールをどうやって上手く対処するかということか。


「うーん。私達のレベルだと、『蜘蛛の巣』と戦うにはまだ早くないかしら? 最近ギルドカードを更新しに行ってないから、もしかしたら少しはレベルが上がってるかもしれないけど……。それでも、今の私達にはやっぱりあの数はまだ厳しいと思うのは私だけ?」

「レベルは確かに低いけど、実力的には問題無いと思うんだけどな~」

「何でそんなことが言えるのよ?」

「う~ん、牛人の女の勘?」

「何よそれ」


 頭の痛い難題に、アイネスから弱気な台詞が出る。

 今までの戦闘に比べれば、ゴブリンウォーリアは倍の数だし、コボルトスリングも大量にいる。

 おまけに初めて戦うインプも混ざってるとなると、アイネス的にはもう少し小さな集団から数を重ねて、挑戦する難易度を徐々に上げていきたいところなのだろう。


「それに、迷宮蜘蛛って倒したら1匹20万くらいで売れんだろ? ばっちゃんと一緒に倒した時、それくらいの金を貰ってた気がするけど……。アレを倒したら20万って言ったら、アイネスはどうする?」

「アズーラ、それは本当ですか? 貴方の記憶力は曖昧なので、少し信用できません」


 アイネスが胡散臭いと言った感じで、目を細めてアズーラを睨む。

 でも、お金の話はやっぱり聞き逃せないのか、三角帽子を外したことで現れた兎耳が、一言も漏らすまいとしっかりと直立していてる所がアイネスらしい。

 20万か……それが本当なら、少し挑戦しようかなと思う金額だな。

 

 魔狼亜種の60万に比べれば少なく感じられるが、あれは一生にあるかないかの奇跡みたいなもんらしいからな。

 今考えれば、中級探索者パーティーが倒すやつを初級職業じゃない子供達で倒すとか、かなり無茶してるよね。

 正確な情報を知ってれば、アイネスは絶対にあの場で転移石を即座に使って、退却してたって言ってたしな。


「魔狼の亜種のことも、中級探索者2人でどうとでもなるとか言っておきながら、本当は違いましたよね? それは狼の集団を相手にした時であって、魔狼が相手ならまだしも、魔狼の亜種相手にはそれじゃあ足りないとマルシェルさんに言われましたしね。初級者殺しの掲示板の内容もよく見れば、魔狼で無く魔狼の亜種って書いてましたし。貴方の記憶力には、正直な話……」

「まあまあ、そのことは良いじゃないか。あれはあれで、結果的に上手くいったんだし」


 過去の苦い記憶を持ち出して、アイネスがグチグチと説教を始めだしたので、仲裁に入る。

 この話になると長くなるからな。

 すると今度は、アイネスが俺を睨む。


「旦那様はアズーラに甘すぎます。奴隷にやる気を出させるために、衣食住を良くするという考えは素晴らしいことだと思います。しかし、御主人様が飲まないお酒まで奴隷に出すというのは少々行き過ぎた……」

 

 仲裁に入ったら、アイネスの怒りの矛先が御主人様に来たでゴザル。

 理不尽でゴザル。


「俺はあのパーティーなら、いけると思ってたんだけどな~。アクゥアもいたし。あっ、これも牛人の女の勘ってやつだけどね」


 やめなさい、アズーラ。

 アイネスの目が、更に吊り上がってるから!


「20万あれば酒が飲み放題だなーって思ったのを覚えてるから、報酬金は合ってると思うぜ?」

「あ! 思い出したであります。マルシェル殿の日記にも、後ろの方に迷宮蜘蛛は金になるって書いてたでありますよ。確か20万くらいだって……」

「本当ですかアカネ!」


 アズーラを無視して兎耳が角に見えるような表情で、俺にグチグチと説教のような愚痴を言ってた兎娘が、ものすごい勢いで狼娘へ飛びついた。

 アカネの両肩に手を置くと、アカネを前後に大きく揺すり始める。

 アズーラの話は信じないくせに、アカネの話なら信じるんかい。


「ほほほ、本当であります! 日記に軽く目を通している時に、値段の所だけチラッと目に入ったので読んでたでありますけど、20万もあれば高級メリョンが20個買えるでありますと思いながら見てたので、本当でありますぅ~」


 その時のことを思い出したのか、じゅるりと涎を垂らしながら遠い目をするアカネ。

 お前ら、自分の好きな物になったら記憶力がすごいよな。


「20万……1匹倒せば、20万……」

「アイネス殿、目が怖いであります……」


 さっきまで弱気な姿勢だったアイネスも金の話を聞いた途端に、瞳に闘志がこもったようだ。

 いや、むしろ邪な感情が目に見え隠れしてるというか……。

 金は人を変えるというが、アイネス変わり過ぎだろ……目が据わってるぞ?


 なにやら我がパーティーの作戦参謀長がヤル気を出したので、皆であーでもないこーでもないと『蜘蛛の巣』討伐の作戦会議をすることになった。

 いつもの深く考える姿勢である長い兎耳を垂れさせて、目を閉じていたアイネスが口を開く。


「1つ、作戦を思いつきましたが、上手くいくかどうかは実際にやってみないと分かりません」

「まあ、やれるだけやってみようぜ。無理そうなら、また今度にすれば良いんだし」


 皆の意見を出し合った結果、アイネスが一番現実的な案を出したので、それで行くことにした。

 作戦が決まると、さっそくアカネの先導のもと『蜘蛛の巣』捜索に向けて動き出す。

 アズーラの話だと、迷宮蜘蛛はかなり腹を空かしてるようだったので、さっき俺達がいた鉱脈でしばらく食事してるはずだから、戻れば同じ奴らがいるだろうとのこと。


「20万……20万ですよぉ!」

「今夜は、うめぇ酒が飲めそうだな」

「20万あれば、またメリョンが買ってもらえるでありますぅ~……頑張るであります!」

「あいあいあ?」

『レイナ、狩りの時間ですよ。今回は数が多いので、思う存分に暴れてきなさい』

『はい、お姉様ぁ~』


 大群を相手にすると分かってるのか、それとも『狩り』という言葉に反応したのか、凶悪な笑みを浮かべてニタァ~と白い歯を見せる野獣姫。

 動く大金討伐に、肉食系女子達が目をギラギラとさせる。


 頼もしいな……。


 若干ビビリ気味な俺は、さっきの光景を見て不安の方が大きかったので、「もう少し、皆のレベルが上がってからでも良いんじゃないか?」と意見したら、「20万が目の前にあるのですよ! 今倒さなくて、いつ倒すんです。今でしょ!」と、お前はどこの予備校講師だ的な台詞をアイネスに言われてしまったでゴザル。

 最初は一番ヤル気が無かった兎人が、いつの間にか一番ヤル気のあるう詐欺人に豹変してしまったでゴザル。

 この世は理不尽なことばかりでゴザル。


 はぁー。

 それじゃあ、『蜘蛛の巣』討伐と参りますか……。






   *   *   *






「クキャキャキャキャー!」

『インプに見つかったようです。あちらの様子を見てきます』

『よろしく』


 迷宮灯の無い薄暗闇の中を、アカネに先導されながら蜘蛛の巣に向かって移動していたが、夜目の利く偵察中のインプに発見されてしまったようだ。

 ここまでは作戦通りなので、アクゥアが蜘蛛の巣の様子を確認しに走って行った。

 

「さて、あちらはどんな感じなのかねぇー」

 

 アズーラの呟きを聞きながら待ってると、アクゥアが戻って来た。

 

『天井で食事中の迷宮蜘蛛を中心にして、ゴブリンウォーリアが9匹。その周辺にインプが5匹。私達の方に向かって、一番前にコボルトスリングが8匹と、迎撃の陣形を作ってました。それ以外に、伏兵はいないようです』

『分かった。ここまでは予定通りだな』

 

 アクゥアの偵察した内容を皆に伝える。

 するとアイネスが、迷宮灯をアズーラの腰に固定させるような動きを見せる。

 

「アズーラ、しっかり私を守って下さいね。私とアクゥアが、どれだけコボルトスリングとインプを黙らせるかで、その後の勝敗が決まるのですから」

「分かってるよ。せいぜい、盾として頑張らさせてもらいますよ」

「正直、貴方に身を任せるという状況は不安でしか無いのですが……。アズーラ、もし私に傷一つ付けずに守り切れたら、1万セシリルのお小遣いをあげます」

「へぇ~。いいぜ。例えゴブリンウォーリアが全員やってきても、傷一つ付けずにハヤトのもとに返してやるぜ」

「はぁー。それは安心ですね。……さて、行きますよ」

 

 呆れたようなアイネスの声がした後に、若干緊張した様子の声色でアイネスがアズーラを盾にするようにして、アクゥアと共に蜘蛛の巣に向かって歩いて行く。

 薄暗闇の中、皆が息を潜めているのでガチャリガチャリと悪魔騎士の鎧が擦れ合う音と、迷宮蜘蛛が鉄鉱石を噛み砕く音のみが遠くから聞こえる。

 

「クキャキャキャキャー!」

 

 静寂を破るように、インプの奇声と暗闇の中を火球ファイヤーボールの火が灯る。

 木の棒のような物に火を付けると、インプがこっちに向かってそれを投げてきた。

 投げられた松明は、空中で放物線を描き悪魔騎士に向かってぶつかることはなかった。

 闇夜から黒猫娘が突然に現れ、松明を器用にキャッチすると投げ返した。

 

「キャイン!?」

 

 まさか松明が自分の方に帰って来ると思わなかったのか、コボルトスリングの1匹が松明をぶつけられて、慌てふためている。

 慌てて地面に落ちてる松明を取ろうとしたコボルトスリングに、闇から飛んできた投擲ナイフが突き刺さったのか、「キャイン! キャイン!」と鳴きながら片腕を押さえて逃げ出した。

 予定通り、松明の光に照らされたコボルトスリングがこちらの的となった。

 

雷気線エレキライン!」

 

 アイネスの声が聞こえると、薄暗闇の中で青白い光が放たれ、高速の雷気線エレキラインがコボルトスリングに直撃する。

 雷気線エレキラインが一瞬光ったことで、悪魔騎士を盾にしてその後ろから半身だけを出し、雷気線エレキラインを放つ魔法使いの姿が見えた

 アイネス達は、あそこにいるのね。

 

 仲間のコボルトスリングが突然にバタバタと気絶していく様子に、現状をようやく理解したコボルトスリング達が、慌てて暗闇に向かって反撃を開始した。

 明りを増やそうとしたインプが、松明をアイネス達の方向へ投げる度にアクゥアがそれをキャッチして、コボルトスリングに投げ返している。

 雷気線エレキラインを放てば一瞬位置が分かるので、コボルトスリングがそっちに向かってスリングを使った投擲攻撃をする。

 しかし、アイネス達も薄暗闇の中を移動しているのため、次に雷気線エレキラインを放てば別の所にいるので、夜目が利かないコボルトスリングはパニック状態になっている。

 

「クキャー!?」

 

 埒があかないと思ったのか、火球ファイヤーボールをそのまま投げようとしたインプに、闇から飛んできた投擲ナイフが突き刺さったのか、火球ファイヤーボールが手から零れ落ちた。

 コボルトスリング達がほぼ壊滅状態になった所で、奥にいたゴブリンウォーリア達が前線にやって来て、迎撃の陣形を見せる。

 そのタイミングに合わせるように、アズーラの腰についてた迷宮灯が光を放ち、アズーラ達がこっちに戻って来る。

 

「さあ、私達の仕事は終わりました。今度はアカネ達の出番ですよ!」

「了解であります!」

『レイナ、行きなさい!』

『はい、お姉様!』

 

 エルレイナが勝手に行動しないようにアカネが捕まえていた腕を放すと、野獣姫が解き放たれる。

 アクゥアの掛け声と共に、沢山の松明に照らされたゴブリンウォーリア達に向かって、野獣姫が突撃する。

 

「あいあいあぁああああ!」

 

 手加減無しの最初からサリッシュさんモード全開の野獣姫が、ゴブリンウォーリア達に接触した。

 9本の斬撃が嵐のように降り注ぐが、エルレイナは2本の剣を使って、数えきれない程の剣が撃ち合う音を鳴らせて素早く捌いている。


雷気線エレキラインを魔力切れになるくらいまで使いましたが、8回のうち3回も外してしまいました。初めてやることだと、予定通りには上手くいきませんね」

「ぶっつけ本番なんだ、5匹も気絶させられたなら良い方だろ?」

『もう伏兵はいないようですね。後は、アズーラさん達が上手くやってくれることを信じるしかないですね』


 こっちに戻って来たアクゥアが、アイネスが撃ち洩らした残りのコボルトスリングもインプも全部、投擲ナイフで顔や利き腕を狙って攻撃したと報告してくれた。

 アクゥアが伏兵もいないと言ってるから、おそらく投擲支援をしてくることは無いだろうということをアイネスに伝える。


「オラオラオラー! 黒牛鬼様のお通りだぜぇ! 挽き肉になりたくない奴は、さっさと逃げ出せや-!」


 1対9という完全に不利な状況の中にいるエルレイナとゴブリンウォーリア達に、悪魔騎士が棘メイスを振り回して突撃する。

 悪魔騎士が腰に提げた迷宮灯を光らせながら、横から突然にやって来たので、ゴブリンウォーリア達の隊列が乱れた。


「隙ありであります! ガァアアアアア!」


 集団から大きく離れたゴブリンウォーリアには、狼娘の咆哮と同時にロングソードが振り下ろされる。

 3方向からやってきた襲撃に、ゴブリンウォーリア達も乱れた隊列を組み直すのに、苦労してる感じだ。

 ゴブリンウォーリア9匹対前衛3人組の大混戦状態となっている。


『レイナの動きが、以前と変わりましたね。アズーラさんやアカネさんに、よく目がいくようになりました』

『そうなの?』

『たぶん先程の撤退で、自分がこのパーティーでしっかりしないと、アズーラさんがまた無茶をやらかすと思ったのかもしれません。もしかしたら……』


 さっき迷宮蜘蛛を虐めていた悪魔騎士が一番危険と思われてるのか、ゴブリンウォーリアの半数以上がアズーラを取り囲んで攻撃している。

 近くにいる盾を持ったゴブリンウォーリア達に、棘メイスや回し蹴りを果敢に食らわす悪魔騎士。


「チッ、うぜぇ! 邪魔だゴルァアア!」

『まずいですね。鎧通しを狙ってるゴブリンウォーリアがいます。アズーラさんが他に気を取られて気づいてないようですし、アカネさんもアズーラさんを気にする余裕が無さそうですね』


 アクゥアに言われてアズーラを取り囲むゴブリンウォーリア達を見ていると、確かに他と違った動きをするやつがいる。

 何かを狙ってるのか、アズーラの死角に回り込むように隙を伺うゴブリンウォーリアが1匹。

 その手には、細長い剣が握られている。


『あ、いけません!』

「グギャー!」


 アズーラの背後を狙っていたゴブリンウォーリアが、突然に奇声を上げてうずくまる。

 アクゥアかと思って視線を移せば、手頃な石を拾って投げようとした状態で静止しており、驚いたような表情で目を見開いている。

 その視線の先には、アクゥアが持ってないはずの投擲ナイフが、ゴブリンウォーリアの腕に突き刺さっており、握っていた剣が地面に滑り落ちていた。

 

「あいあいあー! あいあいあー!」


 ゴブリンウォーリア達を斬り裂きながら、アズーラに向かって駆け抜ける獣人が1人。

 悪魔騎士に殴られたのかよろけてうずくまったゴブリンウォーリアを踏み台にして、勢いよく跳躍した野獣姫。

 アズーラを取り囲むゴブリンウォーリアの壁を飛び越えると、驚異的な跳躍力でアズーラの死角になる背後に飛び込んだ。


「あいあいあぁああああ!」

「グ、グギャ!?」


 投擲ナイフが刺さってない方の腕で、鎧通し用の剣を持ち直そうとしゃがんだゴブリンウォーリアに、頭上から斬撃の嵐が降り注ぐ。

 鎧通しを狙っていたゴブリンウォーリアを、2本の剣で何度も素早く斬り裂いて、エルレイナがゴブリンウォーリアを地に伏せた。

 ゴブリンウォーリアが倒れたのを確認すると、素早い動きでゴブリンウォーリア達の攻撃を避け続け、アズーラを中心にしてアカネと反対方向へ駆け抜けた野獣姫。


『もしかして、狙ってやったのか?』

『フフフ……。ハヤト様。どうやらレイナが、自分の意思で遊撃を始めたようです。投げた投擲ナイフも、きちんと腕に刺さってますね。たぶん私が、いつものように投擲支援をする動きを見せたので、先に動いたのでしょう。ようやく、レイナが本当にやればできる子になったようですね』


 すごく嬉しそうな表情で、両手で小さくパチパチと手を叩くアクゥア。

 ここにきて急成長を見せたエルレイナが、よっぽど嬉しかったようだ。


「あいあいあー! あいあいあー!」


 その後もいつもみたく好き放題に暴れるのではなく、アズーラ達の周辺にいるゴブリンウォーリア達を攪乱させるように、激しく動き回るエルレイナ。

 確かに視線も外側に向くのではなく、アズーラ達がいる内側に向くようにして戦っている。

 ゴブリンウォーリア達も内側の悪魔騎士と外側の野獣姫の二重攻撃に、どっちつかずの状態でかなり苦戦しているように見える。

 耐えられなくなって集団から外に出れば、今度は狼娘が待ち構えており、負傷したゴブリンウォーリアに勢いよくロングソードが振り下ろされた。


 1匹1匹を殲滅するやり方から、アズーラとアカネの周りにいる危険な奴らを負傷させていくやり方に変わったから、エルレイナの殲滅力は落ちてしまったが、パーティーの安全は一気に上がったとアクゥアが嬉しそうに語ってくれる。

 アクゥアが投擲支援をする動きを見せるとそれを見て行動してる節があり、自分で考えてどれが一番危険かを判断する能力はまだまだ低いとアクゥアが言えば、エルレイナが自分の意思でパーティーの安全を確保しようとしだしたことが、一番重要だとアイネスが熱く語りだした。


「アクゥア、よくやりましたよ! 本当によくやりましたよ!」

『良かったですね、アイネスさん。ここまで長かったですが、ようやく私達の理想とする陣形の1つが、見えてきましたね』


 俺が2人の会話を訳していると、アイネスがアクゥアの手を握りしめ、喜びを隠し切れないのかピョンピョンと飛び跳ねる。

 シミターを初めて持った時に、ゴブリンでスイカ割りごっこをして遊んでた狐娘とは思えない、野獣姫の超進化である。

 「戦略ぅ? 戦術ぅ? そんなの知ったことか!」と好き放題やってた野獣姫とは思えない行動だから、アイネスが大喜びするのも無理はないな。


 ソロバトルとコンビバトルから、トリプルバトルに進化した前衛組の猛攻に、立っていたゴブリンウォーリア達の数がどんどんと減っていく。

 ついには全てのゴブリンウォーリア達が地に伏した。

 ゴブリンウォーリア達が殲滅できたら、今度はアイネスの雷気線エレキラインで気絶していたコボルトスリング達に、アズーラ達が止めを刺していく。


 基本的に臆病なインプ達は、既にアクゥアの投擲ナイフを食らって逃げ出していたみたいなので、仕留めることができず経験値は稼げなかったようである。

 同じくアクゥアの投擲ナイフで負傷したコボルトスリング達も、この戦況に勝ち目無しと悟ったのか逃げ出していた。


「なんだ、エルレイナ。珍しいじゃねぇか。アクゥアが指示しなくても、俺達の周りの敵を蹴散らしてくれたのは初めてじゃねぇのか?」

「アジュ! アジュ! あいあいあー!」


 エルレイナがアズーラを指差すと、「私が助けないと、お前が無茶するからだろ!」とでも言ってるのか、まるで文句を言ってるかのような奇声をあげる。

 さっきアクゥアと話してたことをアズーラに話すと、ショックを受けたように悪魔騎士がうな垂れた。


「何だよそれ。俺はエルレイナに、考え知らずな無茶をする奴だと思われてるのかよ。俺なりに考えてやってたのに、そりゃねーぜ……」

「アジュ! アジュ! あいあいあー!」


 アクゥアの仮説が正しいのであれば、「私より弱いくせに、私やお姉様を差し置いて、あんな無茶な囮役をするとは生意気だぞ! これからは、お前が無茶しないように私が守ってやる!」とでも言ってるようにも見えるな。

 慰めてるのか怒ってるのかよく分からないが、アズーラの鎧をバシバシとシミターの鞘で叩くエルレイナ。

 どう見ても、アズーラを自分よりも下と見てるような、偉そうな態度である。


「エルレイナにも心配されたのですから、それくらいは受け入れなさい。普段がいい加減で適当な貴方が、皆を守ろうとしてすごい無茶をしたように見えたから、よっぽどの事があったと思ったんでしょ?」

「くっそー。たまには良い事してやろうかと思ったら、ここまで裏目に出るとは思わなかったぜ……」

「エルレイナが協力的になって、ちゃんと遊撃の仕事をしてくれるようになったのだから、結果的に良かったんじゃないかしら?」

「ぐぬぅ……何か納得できねぇー!」


 悪魔騎士の兜を外したアズーラが、髪の毛を手でグシャグシャと乱暴にかき乱す。


『レイナ、よくできました! 貴方はやっぱり、できる子でしたね』

『はい、お姉様!』


 うな垂れるアズーラの横で、アクゥアがエルレイナの頭を撫でて褒めちぎっている。

 エルレイナも褒められて、嬉しそうにフサフサの大きな尻尾を左右に激しく振っている。

 とりあえずは、『蜘蛛の巣』との戦いは勝利したようである。






   *   *   *






「あちゃー。4つ目か……ツイてねぇな」


 周りに他の魔物がいないかを確認した後に、ようやく本来の目的である迷宮蜘蛛を見上げる。

 鉄鉱石を未だに美味しくいただいてるのか、頭上からゴリゴリと石を噛み砕く怪音が聞こえる。


『ハヤト様。アイネスさんに、投擲ナイフ15本が回収できませんでしたと、伝えてもらえますでしょうか?』

『良いよ』


 申し訳なさそうにしているアクゥアの台詞を、そのままアイネスに伝える。

 15本となると、予備に持ってた分も含めて全部使い切ってしまったようだ。


「大丈夫です。今回はこちらの被害を最小限にするのが最優先課題でしたので、持ち逃げされた分は買い直しましょう。それよりアズーラ、何か問題があったのですか?」

「蜘蛛の巣が、小っちゃかった理由が分かったって話だよ。目が4つある」

「目が4つあることの何が問題なのですか?」


 アイネスがちゃんと説明しろとアズーラを睨む。

 アズーラ曰く、迷宮蜘蛛というのは本来4つの目を持っており、この4つの目を潰すことで息の根を止められるらしい。

 目以外の甲殻は硬い皮に覆われているため、破壊するのにとても苦労するみたいだ。

 ていうか、天井にいるから殴ることもできないしな。


 問題は目を潰すことにより、迷宮蜘蛛が身の危険を感じて逃げ出すこと。

 しかも、目が潰れる度に自分の身を守ってくれるゴブリンウォーリア達を探し出し、目の数が少なくなるにつれてその規模をでかくしていくのだそうだ。


「手っ取り早いのは、ここで目を4つ一気に潰すことなんだけど……」

「あの迷宮蜘蛛に届きそうな腕力を持ってそうなのが、アズーラ、アクゥア、アカネ、エルレイナの4人。私が標的の指輪で狙うことが可能なら、火球ファイヤーボールは当てられそうですが」

「迷宮蜘蛛の目は魔法に強いぞ? 火の魔法には特に強いし、初級魔法じゃ傷一つ付かねぇよ。それと、エルレイナがちゃんと決めたとこに投げてくれるかも分からねぇし。アカネは腕力があるけど、狙って投げるのは無理だ」

「申し訳ないであります……」


 アカネが狼耳を伏せて俯くと、人差し指を突き合う。

 あー、そういえばアクゥア達の投擲ナイフの練習に遊びで参加した時に、アズーラは意外と上手く当てれたけどアカネは的板にすら当てれなかったよな。

 投げるスピードは速いんだけど、俺より命中率が悪いもんな。


 あれ?

 もしかして、詰んだ?


「そうなると、2つしか潰せなくなりますね。ここまで来て、目の前のコレを取り逃がすのは悔やまれますね。20万……」

「うーん。……お? そうだ!」


 アズーラが何かを思いついたのか手をポンと叩くと、アクゥアに聞いて欲しいことがあると言われる。

 その内容をアクゥアに伝えると、アクゥアが上を見上げて1つ頷いた。


『できると思います。お師匠様との訓練で、4本同時投げの練習をしたことがありますので。的が動かなければ、この距離でも何とかなると思います』

「できるって」

「よし。それじゃあ、お手並み拝見といこうか」

「他に手が無いのであれば、アクゥアに頼らざるをえませんね。アクゥア、お願いしますね」

『レイナ、貴方の投擲ナイフを借りますね?』

『はい、お姉様!』


 アクゥアが、エルレイナから投擲ナイフを4本受け取る。

 4本の投擲ナイフを、おもむろに指の間に挟み始めた。


『そんなんで、上手く投げれるのか? すごいな』

『修得するのは容易でありませんが、コツさえ掴めば何とかなります』

『アクゥアって、何でもできるんだな』

『お師匠様のご指導のおかげです。その時は、「いつか役に立つ時がある」とお師匠様に言われて練習してましたが、今がその時のようですね。この距離は初めてですが、狩人に転職してますので、脚力も腕力の補正もされてますから大丈夫でしょう。それに……』


 アクゥアが俺に目線を上げると、可愛らしく微笑む。


『私には、ハヤト様の御加護・・・もありますから』

『え? 俺?』


 加護って何?

 俺の御加護?

 ……神子の加護とか?

 と思ったが、「どんな加護だよ!」と思わず脳内1人ツッコミをしてしまった。

 

 思い当たるモノが無くて俺が首を傾げている間に、アクゥアが迷宮蜘蛛の真下に移動する。

 顔を上げると、迷宮蜘蛛を静かに見つめる黒猫娘。

 腰をゆっくりと落とすと、天井裏に飛び上がる時のように真剣な表情になる。


『いきます』


 小さな呟きと共に、アクゥアが大きく跳躍する。

 空中で腕を素早く振ると、アクゥアが落ちてきて着地した。

 しばらくして、突然に迷宮蜘蛛も落ちてきた。

 

『当たりました』

 

 いつの間にか俺の横に立っていたアクゥアの呟きと同時に、黒い巨大な蜘蛛が地面に激突した。

 激しい衝突音と共に地面を若干陥没させて、仰向けになった迷宮蜘蛛が足をビクビクと痙攣けいれんさせている。

 赤い4つの瞳からは、赤い液体が零れ落ちている。

 本当に、4つ投擲ナイフが刺さってやがる。

 ジャンピング片手4本投擲ナイフ同時投げとか、お前はどこのサーカス団員だ。


「倒したぞ。……何?」


 俺が後ろを振り向くと、ニヤニヤした顔で俺を見るアズーラ、不満そうに頬を膨らませるアイネス、目をキラキラと輝かせるアカネ、白い牙を剥き出して俺を睨むエルレイナと、不思議な光景が目に入る。

 アズーラが近づき、俺の肩に手を回すようにして掴むと口を開いた。


「なあなあ、さっきアクゥアと何を話してたんだ? 言葉は分からなかったけど、何か意味深な会話に見えたぞぉ?」

「私もです。気に入りません。2人で何の話をしてたのですか?」

「アクゥア殿、すごいであります! さっきの技は、何でありますか!?」

「ウーッ!」


 なぜエルレイナは俺を威嚇している。


「いや、別に大したことじゃないぞ? 4本同時投げとか難しいんじゃないの? って聞いたら、『前に似たようなことをやったことあるし、狩人の補正をされてるから大丈夫です』ってアクゥアが話してただけだぞ」

「ふ~ん。そうなんだー。つまんねぇーの」

「すごく気に入りません。異国語だと、私達の前でも2人だけの秘密の会話がし放題ですからね。早くニャン語を覚えた方が良さそうですね」

「秘密の会話でありますか? サクラ聖教国の秘伝の技でありますか?」

「かいしょうなし! かいしょうなし! あいあいあー!」


 ちゃんと答えたのに、なぜか俺に疑いの眼差しを向ける女性達。

 本当に、何だよ……。

 エルレイナが駆け寄るとアクゥアに抱き着いて、まるで『甲斐性無しは、お姉様に近づくな!』とばかりに俺を威嚇している。


 よく分からん奴だな。

 まあ、とりあえず目的のモノは手に入れたんだし、ここは1つ異世界ネタを……コホン。


 上手にできました~。


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