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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第4章 中級者迷宮攻略<蜘蛛の巣編>

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ウォーリア

 

「旦那様は悲観的に考え過ぎです。そもそも、教皇の候補者としてお名前が載ることだけでも、私はすごいことだと思いますよ?」

「でも、他の人達はすごそうな名前の貴族ばっかりだし……」

「旦那様も貴族じゃないですか? 何をそんなに気にされてるのですか?」


 いや、まずその貴族ってところが間違ってるからね?

 そんなことを言ったところで、何を間違ったのかあの妙なリストに名前が載っちゃったことで、アイネスはますます俺の事を貴族と断定しだしてるから、最早何を言っても無駄なんだろうけど……。

 

 はぁー、ホント失敗したなー。

 こっちに来た初日は結構テンパってたせいで、いろいろやらかしちゃってるからな。

 アイヤー店長に教えられて奴隷を買う為に、探索者ギルドに登録した時の会話を思い出す。

 

「お名前は、何ですか?」

「桜坂、です」

「……家名でなく、お名前もお願いします」


 という受付の人との会話をして頭に疑問符が浮かんだけど、今度はハヤトを名乗ったら『ハヤト=サクラザカ』で登録されてるし。

 病院の受付で名前を聞かれた時みたいに、条件反射でいつもの名字を名乗ったら、即座に家名持ちの貴族扱いだもんな。

 しかも昨日になって、サクラを家名で使うのはサクラ聖教国の貴族くらいだってアイネスに教えられたし。

 サクラの名を勝手に使って悪いことをしてるのがバレたら、即座に身分詐称の疑いをかけられて怖い猫族達がサクラ聖教国からやって来るから、堂々と家名を使ってる旦那様は貴族だと最初から思ってたとサラっと言いやがって。

 堂々と使ってるって、本名だから当たり前だろ?


 ていうかそういう大事な事は、先に言えよ……なぜこのタイミングまで黙ってたし。

 そういう恐ろしい事をニコニコしながら笑顔で隠し通すから、お前は腹黒う詐欺だと呼ばれるんだぞ?

 いや、俺が勝手に読んでるだけなんだけど。


「何か言いましたか?」

「何も言ってません」

 

 アイネスがジロリと俺を睨んできたので、すかさず視線を逸らす。

 どうりで猫耳生やした受付嬢が、すごい胡散臭い目で俺を見てたのか今更ながら理解したよ。

 あの人はたぶん、サクラ聖教国の人だったんだろう。

 

 お陰様でその後の手続きは、妙に事務的で冷たい感じがしたけど、そういうことかよ。

 適正検査をした後に、転職できる探索者職業の結果が神子だったのを見て、若干同情するような視線はもらったけど。

 いろんな意味で、可哀想な人と見られてた可能性有り?

 

 あれ? じゃあ、俺がサクラ聖教国の貴族と認められたタイミングはいつだ?


「ほらほら、そんな難しい顔をしてないで。エルレイナ達が戻るまでまだ時間は掛かりますから、ゆっくり待ちましょう。お茶のおかわりは要りますか?」

「え? あ、うん。いる」


 俺が教皇の候補者になった話が出た途端に、いつも以上に甲斐甲斐しく俺の世話を焼き始める兎娘。

 現金なやつであると思いながら、アイネスから携帯水筒のお茶を注いでもらう。

 難しいことを考えてると頭が痛くなってきたので、しばらく貴族の話は棚上げにしておいて、のんびり昼休みを過ごすことにした。


 時々「あいあいあー!」という奇声が遠くで聞こえるので、思わず視線が小部屋の入口の方に向かった。

 するとゴブリン亜種のミイラ首が、地面に置かれているのが視界に入る。

 昼休みの間は暇なので、昨日と同じく暇つぶしにエルレイナが隣の部屋でゴブリン狩りを楽しんでいるのだろう。

 アクゥアが付き添いで一緒に行動しているから、大丈夫だと思うけど。

 エルレイナに虐められて逃げだしたのか、時々俺達のいる部屋に入ろうとしたゴブリンがミイラ首に気づいて、慌てて部屋の外に逃げ出す光景が繰り返される。

 

 パーティー申請さえしていれば、『経験分配の掟』とやらの不思議パワーで経験値が自動的に分配されるらしいから、レベルの低い俺達には大助かりである。

 1匹魔物を倒せば、1匹分の経験値が6人に分割されるからかなり少なくなるけど、魔物を倒す力の無い支援職の俺には大変ありがたいファンタジー能力である。


 アイネスの話だと、加護の力で1匹分の経験値が分割されずに、パーティー申請した皆が取得できるすごい物もあるらしい。

 でも、加護を取得するのは条件が滅茶苦茶厳しいらしいから、俺達には到底無理なので地道に頑張るしかないとのこと。

 まあ、しょうがないさ。

 世の中、そんなに甘くはないさ。

 

「グフフフ。メリョンが、メリョンがいっぱいあるであります……じゅるり」


 小部屋の地面に大の字になって、口から涎を垂らしながら寝言を呟くアカネ。

 夢の中でも食い物が出てくるのは、さすがハラペコ狼娘であると言えるだろう。

 朝からツアングさんのスパルタ指導を受けて、午前中のゴブリン戦で疲労も溜まっていたのか、お昼ご飯をペロリと平らげるとすぐさま夢の中に旅立ってしまった。

 アズーラもいつものように、棘メイスを腕に抱えて、壁に背を預けて座った状態で寝ている。

 傍目から見れば、悪魔騎士が周りに睨みを利かせて座ってるようにしか見えないがね。


「あっ、旦那様。卵が割れそうですよ?」


 アイネスに言われて、視線を小部屋のとある場所に移す。

 土壁から、白くて丸い塊が突き出ている。

 アイネスが言うように、先程からミシミシと何かが割れていく音と共に、亀裂が大きくなっていく。

 一際大きな卵が割れるような音と共に、卵の底が割れて何かの塊が落ちてきた。

 灰色の毛皮に包まれた動物ような何かが、しばらくするとモゾモゾと動き出す。


「これが中級者迷宮で産まれる二角兎ですね」


 兎のような長い耳を持った動物がむくりと起き上がる。

 頭から小さな角を2つ生やし、一角兎の倍はある大きさの身体を持ったそれが、匂いを嗅いでるのか鼻をスンスンと動かしている。

 二角兎がつぶらな瞳でこちらを見ると鳴き始めた。


「ブヒ、ブヒ……ブヒィ?」

「……アイネス、豚ではないんだよな?」

「ブタ? いいえ、二角兎です」


 フゴフゴと豚鼻・・を鳴らしている不思議動物の名前を尋ねると、即座に否定された。

 なるほどな。

 アイネスが作ってくれた、二角兎を使った挽き肉のハンバーグのような物を食った時に、豚肉を食った感覚を思い出して気になってたがそういうことか。

 いつも解体済みの肉しか見たことなかったから、生二角兎を見てようやく納得したよ。


 そんな風に物思いに耽っていると、二角兎の背後に怪しい影が忍びよる。

 静かに二角兎に近づくと、素早い動きでそれを持ち上げた。

 捕まえられた二角兎の顔に、透明な粘りのある液体がぽたぽたと落ち、身の危険を感じたのか二角兎がジタバタと暴れている。


「ブヒ! ブヒィー!」

「アイネス殿! 持って帰って良いでありますか!」

「駄目よ、アカネ」


 即座に兎娘に却下をくらって、しょんぼりと狼耳が垂れるアカネ。

 お前、爆睡してたんじゃないのかよ。

 いつの間に起きてたんだよ。

 それと涎を拭け。

 顔がすごい事になってるぞ?


「1匹だけでも、駄目でありますか? 解体は、私がするでありますから……」

「駄目。何の為に、わざわざ解体済みの二角兎を、お店から買ってると思ってるの? 貴方達には、最優先で探索者としての身体を作って欲しいから、解体する作業なんかで時間を無駄に取られないようにと思って、二角兎を買ってるのよ? 沢山美味しい兎肉を食べたいのなら、それだけのお金を稼げるように、早く身体を鍛えて頂戴」

「うー、分かったであります……」

 

 アイネスに諭されて、アカネが渋々二角兎を手放す。

 地面に置かれた二角兎が豚のように「ブヒブヒ」と鳴きながら、慌てて小部屋の外に走って逃げて行った。

 アカネがその後ろ姿を残念そうに見送る。


 そんなやり取りをしてると、程なくしてアクゥア達が戻って来る。

 沢山ゴブリンを狩ってご満悦なエルレイナがラウネをシャリシャリと齧っていると、アズーラも目が覚めたのか欠伸をしながら腕を伸ばす。

 

「皆さん、昼休憩は十分にできましたね? それでは朝言ってたように、午後は6階層へ挑戦します」

「了解であります!」

「ふわぁー。あいあい」


 食費を稼ぐために気合十分な返答をするアカネと、まだ寝ぼけてるのか欠伸をしながら生返事で答えるアズーラ。


『午後は予定通り、6階層に行くってさ』

『分かりました。レイナ、移動しますよ。はい、首を持って行きなさい』

『はい、お姉様!』


 アクゥアにゴブリン亜種のミイラ首を渡されて、嬉しそうに受け取るエルレイナ。

 アイネスに先導されながら、エルレイナがカクテルをシャカシャカと上下に振るかのように、ミイラ首を楽しそうに振っている。


「あいあいあー! あいあいあー!」

「こっちですね」

 

 雑貨屋で買った地図をほぼ丸暗記してるらしいアイネスのおかげで、道中を迷わずに進む。

 しばらくすると穴が下に向かって掘られている道にたどり着いたので、そこを降って歩いて行く。

 

 下に降る道を通って、出口を抜けた瞬間に階層が変わったと気づいた。

 この違和感はどこかで覚えがあると思ったら、狼がいる階層に初めて行った時の感覚だ。

 空気に妙な痛みを感じ、迷宮の奥から強い何かの気配を感じる。


「さーて、中級者迷宮らしくなってきたぞ」

「アカネ、一番近い魔物を探せる?」

「スンスン、大丈夫であります。沢山・・匂いがありますので、すぐに見つけれるであります。こっちであります」


 あまり有り難くない台詞を言うアカネに先導されて、皆で移動する。

 エルレイナも違和感に気づいたのか、遊んでいたミイラ首を静かに持ち歩き、周りを警戒するようにキョロキョロと見渡している。

 相手にすぐ見つからないように迷宮灯は照らさず、迷宮内を薄暗く照らす光苔の明りのみを頼りにして、息を潜めるように移動する。


「いたであります。……こっちに近づいて来るであります」


 狼耳をピンと上に立てたアカネが相手の足音を捉えたのか、手を横に差し出して俺達の歩みを止めると人差し指を口に当て、囁くような小さな声で待ち伏せの合図をする。

 近くの壁に丁度良い窪みをアクゥアが見つけたので、皆でそこに身を隠した。

 アクゥア曰く、周辺に光苔が生えてない上に削ったような跡が見られるので、待ち伏せポイントとして他の探索者が使ってたのかもとのこと。

 へぇー、なるほどね。

 

 普段は騒がしいエルレイナも空気を読んだのか、皆と同じように息を潜めて、ミイラ首を腕に抱えながらじっとしている。

 アカネが指差していた先を見ていると、程なくして迷宮の奥から、探索者のような複数の人影が視界に入る。

 

『探索者では無いですね。……アイネスさん、魔物、伏兵無し、迷宮灯、です』


 しばらく様子を見ていると、夜目の利くアクゥアが相手を魔物と判断した。

 アイネスに伝わりやすいように、アクゥアが事前に打ち合わせていた単語をゆっくりと区切って教える。

 最近、ニャン語スキルが急成長しているアイネスが、自作翻訳資料も見ずに理解したような表情で頷く。


「分かったわ。皆さん、魔物です。伏兵はいないみたいですね。明りを点けますよ?」

 

 微かに緊張したアイネスの声色と共に、迷宮灯に付いてる外枠の下半分を上にスライドさせる。

 迷宮灯の明りによって、迷宮内が明るく照らされた。


 光に照らされて現れたのは、お馴染みの緑の肌を持った5匹のゴブリン。

 ただし、その様相は5階層にいたゴブリンとは違う。

 目の前にいるゴブリン達は、薄暗い迷宮内だと探索者と間違えそうになる物を装備していた。

 

 全員が剣を持ってるのは当然で、それ以外に灰色の小盾を持ってたり、胸当てのような物を装備しているのもいる。

 急に明るく照らされたせいか、眩しそうにかざしていた手をゆっくりと下げると、金色の瞳でこちらを睨みつけてきた。

 

『アイネスさん、ゴブリンウォーリア、5匹、です』

「分かったわ。皆さん、見えてると思いますが、ゴブリンウォーリアが5匹です」

 

 戦闘が始まると理解したのか、いつの間にかゴブリン亜種のミイラ首を地面に置いていたエルレイナが、2本の黒鉄製シミターを鞘から抜き始める。

 それを見たゴブリンウォーリア達も剣や盾を構え、迎撃の様子を見せるような陣形を組む。

 アイネスがさっき話してたが、ゴブリンウォーリアは武器や防具を使って戦う知恵を持ったゴブリンだと言ってたが……なるほどな。


 バックラーのような小型盾を前に差し出して、空いた腕で剣を構えるゴブリンウォーリアが前衛に2匹。

 その後ろに、両手で剣を握りしめたゴブリンウォーリアが2匹。

 最後尾に胸当てを装備したゴブリンウォーリアが、同じく両手で剣を握りしめてこちらを睨んでいる。


「皆さん、始めますよ」

 

 アイネスがアカネ達と視線を交わした後、アクゥアに視線を移す。

 

『アクゥア、始める』

『承知。レイナ、行きなさい!』

『はい、お姉様!』

 

 アクゥアに掴まれた腕を解放されると、野獣姫が弓から放たれた矢の如く突撃した。

 集団にぶつかると挨拶代わりの斬撃を、手当たり次第にぶつける。

 

「あいあいあー! あいあいあー! ッ!?」

 

 5階層のゴブリン集団と同じ戦法で通りすがりに斬り刻もうとしたら、全部の斬撃を剣や盾で跳ね返された上に、エルレイナが突然に後方へ飛んだ。

 見ると一番後ろにいたゴブリンウォーリアが、突進してくるエルレイナへのカウンター攻撃を狙ったのか、振り下ろした剣が地面に突き刺さっている。

 地面に突き刺さった剣をゴブリンウォーリアが引き抜くと、自身の剣を見つめながら何かを考えるような素ぶりを見せる。

 

「……グギャ!」

 

 すぐ近くにいたゴブリンウォーリアが持ってる片手剣を指差すと、自身の持っていた刀身幅の広い両手剣と交換した。

 他の奴が胸当てをしてないのに1匹だけ胸当てをしてるし、他の奴に命令しているような素ぶりを見せているから、たぶんコイツがリーダーなのだろう。

 

 アイネスの話だと、全員が同列みたいな考えのゴブリンとは違い、ゴブリンウォーリアは上下関係を作る種族らしい。

 ゴブリンウォーリアは同種族同士でパーティーを組む時に、剣を使って剣術の訓練をして勝った方が上位になるシステムのようだ。

 迷宮蜘蛛が落とす(・・・)剣や盾は皆に与えられるが、誰がどれを使うかはパーティーのリーダーが決めてるみたいだな。

 あの灰色の小盾や胸当ては、迷宮蜘蛛が脱皮した物から作った古皮だっけ?

 

「アカネ、行くぞ! 俺が囮になるから、おめぇはいつも通り、周りにいる奴を1匹ずつおびき出して倒せ!」

「了解であります!」

「……グギャー!」

 

 ゴブリンウォーリアのリーダーが、アズーラとアカネを指差す。

 すると他の4匹が、ゴブリンウォーリア達の前に立っているエルレイナを無視して、アズーラに向かって一斉に動き出した。

 ゆっくりとゴブリンウォーリア達に近づく悪魔騎士を、エルレイナより危険と見なしたのだろう。

 見た目で判断するとそうなるわな。


 背中に背負っていたもう1本の剣も取り出して、二刀流の構えを見せたゴブリンウォーリアのリーダー。

 「ガキは俺が遊んでやる」と言わんばかりの笑みを浮かべて、2本の剣を持ったゴブリンウォーリアのリーダーがエルレイナに歩み寄る。

 馬鹿にされてると知らない子狐娘は、嬉しそうに尻尾を左右に振っている。

 

「オルァ!」

「グギャ!?」

 

 見た目の重装備に騙されたのか、素早く前に出たアズーラの一振りが先頭のゴブリンウォーリアに命中した。

 反射的に皮の小盾で身を守ったようだが、棘メイスでいきなり殴られ、体勢を崩したゴブリンウォーリアが地面に転がる。

 

「そんなちっこい盾で、俺に勝てると思ってんのかよ!」

「グギャン!」


 同じく皮の小盾を持って呆けていた2匹目に、再び勢いよく棘メイスを横から衝突させ、ゴブリンウォーリアを殴り飛ばす。

 しかし、その2度にわたる大きな隙を、さすがに見逃してはくれなかったようだ。

 飛び掛かって来た3匹目のゴブリンウォーリアの剣が、アズーラに振り下ろされる。

 ゴブリンウォーリアの剣が悪魔騎士の鎧にぶつかり、火花が飛び散る。


「あん?」

「グギャグギャ!?」


 「だからどうした?」とばかりに、悪魔騎士が3匹目のゴブリンウォーリアを睨む。

 三度大きく棘メイスを振り回し、他の2匹が転がって行った方向にゴブリンウォーリアを殴り飛ばした。


「グギャン!」

「そんなナマクラ剣じゃ、俺の鎧に傷一つ付かねぇぞ!」


 アカネに背を向けるようにして、アズーラがゆっくりとした動きで移動する。

 他の3匹を救援しようとしたゴブリンウォーリアの前に、狼娘が立ち塞がっている。


「お前の相手は、私であります!」

「グギャー!」

「フンッ! 負けないであります!」

「グギャギャ!?」


 両手で握り締めた剣が勢いよく振り下ろされるが、アカネがロングソードで弾き返した。

 予想以上の腕力だったのか、逆に攻撃を仕掛けた方のゴブリンウォーリアがよろめいて後ずさってしまう。

 痩せた身体に似合わぬ腕力でロングソードを振り回し、火花を飛び散らせながらゴブリンウォーリアを後退させる狼娘。

 どうやら予定通り、ゴブリンウォーリアを集団から分断させることに成功したようだ。


『レイナ、また遊んでますね』


 困ったような表情のアクゥアが見てる先へ視線を移すと、二本の剣を持った野獣剣士達が剣劇を繰り広げている。

 エルレイナが楽しそうな笑みを浮かべて剣撃を捌いてる様子から、アクゥアが言うようにまだまだ余裕があるのだろう。


『初めて見る相手だと、好奇心が優先して、すぐに決着を付けずに遊ぶのは、レイナの悪い癖ですね。ゴブリンウォーリアはゴブリンの亜種より、少しは剣術の心得があるようなので、良い遊び相手だと思ってるのでしょうね……』

『まあ、エルレイナだからな』

『周りに余裕がある場合は良いのですが、何を本当に優先させるべきかの判断は、今のレイナにはまだ難しいかもしれませんね』


 そう言って苦笑いを浮かべるアクゥアと見つめ合うと、視線をアズーラ達に移す。

 既に1匹目のゴブリンウォーリアを仕留めたアカネが、アズーラが上手く分断した1匹に激しい剣撃を食らわせて追い詰めている。

 アズーラが相手をしていた3匹のうちの1匹が、脳天に強烈な棘メイスを食らったのか動かぬ骸と化していた。

 最後の1匹を小盾が壊れるんじゃないかと思うくらいの勢いで、アズーラが棘メイスで殴ったり、蹴ったりしている。

 悪魔騎士に追い詰められて、必死な形相で小盾を使って身を守っているが、最早救援も来ないこの状況ではどうにもならないだろう。


 ゴブリンの乱戦を繰り返したおかげか、この2人のコンビもなかなか良い連携が取れている。

 エルレイナのようにやりたい放題で予測不能な暴走列車じゃなく、お互いが役割をしっかりこなしているから、このコンビは見ていて安心できるな。


「5階層のゴブリンよりは、こっちのゴブリンウォーリアの方が、私達のパーティーには相性が良いかもしれませんね」

「かもな」


 数もいつもの半分以下だし、アクゥアの投擲支援も必要なさそうだしな。

 魔法を使って支援するまでもなかったアイネスに返事をしていると、アズーラとアカネがそれぞれ相手にしていたゴブリンウォーリアを仕留めた。


『レイナ、いつまでも遊んでいては駄目ですよ。そろそろ終わらせなさい』

『はい、お姉様!』


 アクゥアがそう言って呼びかけると、空気を読んだのかエルレイナの動きが少しずつ加速し始める。


「あいあいあー! あいあいあー!」

「グ、グギャア!?」


 ギアアカネからギアサリッシュにギアチェンジをしたのか、身体から湯気が出たり腕がゴムのように伸びたりはしないが、サリッシュさんとの真剣練習の動きに加速していく。

 まさか自分の剣速に合わせて、スピードを落として遊んでいたとは思ってなかったのか、ゴブリンウォーリアが突然に慌てふためきだすが、時既にお寿司。


 あっ、間違えた。

 時既に遅し!


「あいあいあぁああああ!」


 おチビ野獣姫の咆哮と共に全身を斬り刻まれて、前回のゴブリン亜種と同様にゴブリンウォーリアが地に伏した。

 ゴブリン亜種の時と同じように勝利すると、野獣剣士ゴブレイナが喜びの雄叫びをあげている。


 はい、お疲れ様でしたー。


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