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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第4章 中級者迷宮攻略<蜘蛛の巣編>

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適正試験

 

「ほら、こっちにも沢山いるだろ?」

「本当ですね。アカネにわざわざ探してもらわなくても、適当に歩いてすぐ見つかるとは……」

『レイナ、またゴブリンが沢山いましたよ。良かったですね』

『はい、お姉様!』


 ゴブリン亜種を討伐した瞬間、蜘蛛の子を散らしたようにゴブリン達が迷宮の奥に逃げ出して、獲物がいなくなってしょんぼりしていたエルレイナが、途端に元気を取り戻した。

 部屋の中を暴れ回ってお祭り騒ぎになってるゴブリン達に、キラキラと目を輝かせる野獣姫。

 嬉しそうだな。

 

「さて、それでは試験を始めよう。特に数のこだわりはない。この集団を相手にした場合、お前達がどのように戦うかを見せてくれ」

「分かりました。皆さん、集まって下さい」

 

 アイネスが皆を集めて円陣を組むと、いつものように作戦会議を始める。

 早く行きたくてそわそわしているエルレイナは、アクゥアに腕を捕まれてこっちにやってきた。

 人任せな俺は、皆が話し合ってる中で出てくるアクゥアの担当部分の内容だけを覚え、それをアクゥアに通訳して伝える。

 

「……という感じで、今回はいきましょう。旦那様はいつものように、誰かが怪我した時に回復をしてあげて下さい。たぶん、ないと思いますけど」

「うむ」

「後、皆さんの邪魔をしないように、大人しく立っていること。私から離れないこと。良いですね?」

「ほいほい」


 「俺は子供か!」と突っ込みたくなる内容だが、戦う事に関しては残念職な支援職の神子なので、大人しくアイネスの指示に従う。

 

「では、いきますよ。アズーラ、お願いしますね」

「へいへい。お? 良いのがあるじゃーん」


 アズーラがおもむろに、地面に落ちていた拳サイズの石を拾う。

 それをボールを投げるかのように、勢いよくゴブリンに向かって投げた。


「グギャア!? グゥゥゥ……グギャァアアア!」


 見事に後頭部ヘ命中した1匹のゴブリンがこちらへ振り向くと、怒り狂ってこっちに駆け出した。

 しかも、そいつと喧嘩していた最中のゴブリン達もこっちに向かってきて、それの連れなのか他のゴブリン達もやってきて……。

 うわぁあ……いっぱいゴブリンがこっちにやって来ましたよ。

 えーと、20匹くらいはいるんじゃね?


『さあ、レイナ。行きなさい!』

『はい、お姉様!』


 アクゥアに拘束されていた腕を放された野獣姫が、ゴブリン軍団に突撃する。


「あいあいあー! あいあいあー!」


 手当たり次第に斬り裂いて、半数以上のゴブリンを引き付ける狐娘。

 しかし、エルレイナと接触しなかったゴブリン達が、アズーラに殺到する。


「オラァア!」


 見た目とは裏腹に、俊敏な悪魔騎士が振り抜いた棘メイスの一撃が、先頭のゴブリンの顔に直撃して派手に転んだ。

 更にその後ろにいた奴を回転した勢いで、顔面に空中回し蹴りをして蹴り飛ばす。

 次から次へと、闘牛術を駆使した多才な技を見せるアズーラ。

 第2防衛ラインである黒い竜巻にぶつかったゴブリン達が、次々と殴られたり蹴り飛ばされている中、それを避けるように数匹のゴブリンがやってくる。


「グギャー!」

「甘いであります! ガァアッ!」


 第3防衛ラインにいるアカネが、飛び掛かってきたゴブリンの一撃を避けると素早く後ろに回り込む。

 足を踏み込むと両手で握ったロングソードが、ゴブリンの背中に勢いよく振り下ろされた。


「グギャアアア!」


 背中から大量の血を流し、地面を転がるゴブリン。

 アカネはそれに構わず、すぐに体勢を直して次に襲ってきたゴブリンの攻撃をバックステップでかわす。

 今度はすれ違いざまに、力強い一撃をゴブリンの腹におみまいした。

 おー、アカネも頑張ってますなー。

 

「旦那様、さがって下さい! 雷気線エレキライン!」


 狼娘に見とれていた俺を庇うように、アイネスが前に出ると右手を突き出す。

 その視線の先には、アカネすらも無視してこっちに来るゴブリンが1匹。

 アイネスの右手が帯電したかのような音と青白い光を放った後、高速の雷気線エレキラインがゴブリンに直撃する。


『アクゥア、迎撃!』

『承知』


 アイネスのニャン語の指示が出た瞬間、気を失って倒れようとしていたゴブリンの前に黒い影が忍び寄る。

 素早い動きでアクゥアが身体を捻ると、そのままの勢いで身体を回転させ、回し蹴りでゴブリンを蹴り飛ばす。

 宙を舞ったゴブリンが地面を激しく転がると、仰向けの状態になった。

 気絶したゴブリンが、喉から大量の緑の血を垂れ流している。

 あの量だと、目が覚めた時には死んでるかもしれんな。


 アクゥア先生の動きが早過ぎて、俺には何をしてるのかが目で追い切れなかったが、たぶんアクゥアが逆手に持った苦無で喉元を斬り裂いた後に、蹴り飛ばしたのだろう。

 相変わらずの職人技やでー。

 アクゥア先生は、本当に頼りになるな。


『レイナ!』

『はい、お姉様!』

「グギャ!?」

 

 アクゥアの名前を呼ぶ声に、エルレイナが反応してこちらに振り向く。

 同時に投げられた投擲ナイフが、別のゴブリンの背中に突き刺さった。

 それを見たエルレイナがターゲットを変更し、ロックオンする。

  

「あいあいあー! あいあいあー!」


 2本の剣を持った野獣姫が、周辺のゴブリン達を手当たり次第に斬り刻みながら、背中に目印のついたゴブリンがいる所まで駆け抜けた。

 目の前の狩りに夢中になって、アズーラとアカネから離れて行くエルレイナを誘導するために、時々アクゥアが投擲ナイフを投げてエルレイナを呼び戻す。

 持久力が無尽蔵にあるエルレイナには、持久力があまりないアズーラとアカネに数が集中しないように、大量のゴブリン達を引き付けてもらわないとね。


 ここまでの混戦は狼軍団以来だが、前回の反省点も踏まえて、皆が上手く連携を取っている。

 最初は沢山いたゴブリン達も徐々にその数を減らし、立っている魔物よりも地面に転がってる屍の方が目立ちだした。

 数が半分にも減ればこっちのモノで、後はそのままの勢いに乗って一気に畳み掛ける。

 

「ほう、これは驚いたな。15匹もいたから、少しは苦労するかと思ったが、私が出るまでもなかったか。各々が役割をこなしてエルレイナも上手く誘導し、敵が一箇所に集中しないようにもしているな。さっきの会話からしてアイネスが指示していたように見えたが、アイネスは元侍女では無かったのか?」


 あらかたゴブリンを掃討したタイミングで、いつの間にか俺の隣に忍び寄っていたサリッシュさんが、興味深そうな目でアイネスに問いかける。


「それはその……以前、お世話になっていた貴族の方が、趣味で迷宮騎士団の兵法書を読んでたことがありまして、私はあまり興味が無かったので話の付き合い程度で読んでたんです。その時に見た記憶をもとにして、皆さんといろいろ試しながらやってるだけです。今は、その人にはすごく感謝してますけど」

「ほう。変わった趣味を持った貴族だな。ふむ、その貴族とやらは、お転婆姫様だったのかな?」

「え? えーと……あっ、でも、最初の頃は連携も全然できなくて、すごく大変だったんですよ! ねえ、旦那様?」

「へ? あー、うん……ッ!?」


 なぜかアイネスに脇腹を抓られて、「もっと話を広げて下さい」と耳元で囁かれる。

 なになになに?

 どういう事!?


「私はそれよりも、さっきの魔法を使った方が気になったんですが。知り合いの魔法使いからは、雷気線エレキラインの魔導書を読む時に、語学力が足りなくて苦労したと聞いたことがあるんですが……。君は侍女なのに、ガヴァネスの教育を受けてたのかい?」

「えーと、それはその……」


 別の女性騎士がサリッシュさんの後に続けて質問をしてくるが、アイネスが困ったような表情をする。

 あまり言いたくない話なのか?


「まあ、良いじゃないか。人それぞれ、いろんな過去があるんだ。奴隷になるような過去があるんだら、言いたくないこともあるだろ?」

「そうでしたね。失礼しました」

「あ、いえ。大丈夫です……」


 お互いが頭をさげる。


「あー。やっぱエルレイナが、先に暴れてくれた方が楽だなー。前半はキツイけど、後半は俺の所に来るのが怪我して動きが遅くなった奴ばっかりだし」

「エルレイナ殿は、優秀であります!」

「サリィ! サリィ! あいあいあー!」

「お前達、なかなか良かったぞ」


 サリッシュさんが、こっちに戻ってきたアズーラ達を褒める。

 それと同時に、アズーラ達にさっきの戦いを見てのアドバイスを始めだした。

 チラリと横にいるアイネスを見る。


「何ですか?」

「ガヴァネスって、何かなーっと思って……」

「旦那様が、それを知らないのはどうかと思いますが……まあ、男性の貴族は知らない方もいるかも知れませんね。ガヴァネスと言うのは、要は女性の家庭教師です。男性の家庭教師のように、文字の読み書きや算術などを教える人達ですよ」


 へー。

 俺が頷いてると、なぜかアイネスが深く溜め息を吐いた。


「そんな大した話では無いんですよ。私がお世話になっていた貴族の方は、冒険好きで活発なお嬢様だったのですが、ガヴァネスから教わる語学等についてのお勉強は嫌いでした。私は仲が良かったので、よく宿題のお手伝いをやっていたんです。その時に、いろいろ貴族の方が学ぶようなことをさせてもらったんです」

「そうなんだ」

「はい……」


 どうりで普段の講義とか、俺に対する教え方が上手いなと思ってたけどそういうことか。

 納得した。

 しかし、アイネスの表情がなぜか急に暗くなっていく。


「でも、その方にひどいご迷惑を掛けたことがあるのです。もしかしたら、私の過去を話せば、またその方にご迷惑を掛けることになるかもしれないので、できればそのことにはあまり触れないで頂けると助かります」

「分かった。次からは、その話になったら止めるようにするよ」

「え? あ、はい。ありがとうございます……」


 おや?

 珍しく、しおらしいアイネスが顔を出しましたぞ。


 正直な話、そんなに気にすることなのかなーと思うけど、悩むポイントって人それぞれだしなぁ。

 下手に根掘り葉掘りと過去話を聞いて、「次は旦那様ですね。私が話したんですから、もちろん話してくれますよね?」と笑顔で切り返されても困るからね。

 俺の場合は、説明しても理解してもらえるような内容じゃないからな。


「サリッシュさん、どうですか?」

「うーむ、そうだな」


 試験の結果を尋ねるとサリッシュさんが顎に手を当て、悩ましげな表情をする。


「ちなみにハヤト達は、この中級者迷宮を攻略するのに、どれくらいのレベルがあれば良いと思っている?」


 何か似たような会話を以前したような気がするなー。

 えーと、確か……。


「イルザリスの中級者迷宮に挑戦する目安としては、獣人のレベル15、戦士のレベル10、獣戦士のレベル5が一般的な基準ではないのですか?」

「そうだ。正解だ」


 俺が思い出そうと悩んでると、アイネスが先に答えてしまった。

 サリッシュさんの返答に、アイネスが満足そうな笑みを浮かべる。

 

「だが、それは迷宮の心臓が盗まれる前の話だ」

「今は、違うのですか?」

「これを見れば分かるだろ? 最近、ゴブリンを相手にして、死者が出ることも多い。だから今は、獣戦士でレベル10、戦士でも最低レベル15は無いと許可しないことにしている」

「では、私達は失格と言う事ですか?」


 サリッシュさんが、近くにいる女性騎士達に顔を向ける。


「いいえ、貴方達は合格ですよ」

「新人の中級探索者でも、さっきの数のゴブリンを君達程に上手く殲滅できない。君達の実力であれば、問題ないだろう」

「中級職業の獣人が、2人もいますしね。しかも、魔法職の2人を守りながらあの数と戦うというのは、貴方達の歳では結構すごいことなのよ」

「副団長から話は聞いてましたが、実際に見ると彼女達の実力を信じるしかないようですね。これで14歳ですか……」

「探索者パーティーとして本格的に活動し始めてから、10日もしないうちに魔狼の亜種を討伐してるんだ。この程度のことは、彼女達には当然だろう」

「というわけだ」


 そう言って、サリッシュさんが笑みを浮かべる。

 どうやら、女性騎士達も実力的には問題無いと評価してくれたようだ。


「副団長、探索者の遺品回収が終わりました」

「ご苦労」


 先程エルレイナが倒したゴブリン亜種の装備を剥ぎ取り終えた部下の人達が、こちらに合流した。


「副団長、これを」

「うむ」


 サリッシュさんが風呂敷に包まれた物を、合流した女性騎士から受けとる。


「よし。お前達は、先にゴブリン達を間引きしていろ。私は後で合流する」

「はっ!」


 6人組の女性騎士達が、部屋の奥で未だ暴れているゴブリン達に足を向ける。


「ガァアアアア!」


 うおっ!?

 びっくりした。


 女性騎士がアカネのような狼人特有の大きな咆哮を放つと、ゴブリン達が驚いて静止した。


「行くぞ!」

「はっ!」


 分隊長の掛け声と共に、女性騎士達がゴブリン軍団に突撃する。

 全身鎧に身を包んだ女性騎士達の突然の襲撃に、ゴブリン達はパニック状態になっている。

 騎士用の両手剣が勢いよく振り抜かれる度に、ゴブリン達の四肢が切断されていく。


「やっぱり迷宮騎士団は、格好良いであります!」


 力強くも華麗にゴブリン達を殲滅する女性騎士達に、アカネが目を輝かせながら見つめている。

 まあ、アカネの気持ちも分からんでもないな。

 女性とはいえ、さすが迷宮騎士団に所属する狼人である。

 

「本音を言えば、ゴブリンとは言え数が多いから、できれば複数パーティーの小隊に入れてもらって攻略しろと言いたいところだが。まあ、お前達ならコレもあるし、問題無いだろう」

「何ですか? それは」

「さっき、お前達に言ったことを忘れたか? お前達は、ツイていると」


 サリッシュさんが、女性騎士から受け取った風呂敷を広げる。

 げっ!? 生首……。

 アイネスも若干引いている。

 

「商人ギルドに登録している店に持って行け。乾燥した、魔除けの細工がされた物と交換してくれるはずだ。この階層にいるゴブリン達を追い払うのに、とても良い物だ。これはナマ物だから、腐る前に早めに持って行った方がいいぞ」

「わ、分かりました」


 さっきエルレイナが倒したゴブリン亜種の生首を、アズーラが受け取った。

 

「では、また後でな」


 サリッシュさんと別れた後、探索者ギルドに戻る。

 道中をアズーラが悪ふざけで、わざわざゴブリン亜種の生首を見せびらかすように探索者ギルド内を移動したから、また他所の探索者達の注目を浴びる事になりましたが……。

 風呂敷から「ちょっとだけよ~ん」とチラ見させる所か、おもいっきり見せびらかしてましたからね。

 アレはまた、悪い噂が立ちそうだな。


 いつものアイヤー店長のいる雑貨屋に立ち寄って、ゴブリン亜種の生首交換をお願いしたら快く了承してくれた。

 すると店長が、店の奥から厳重に鍵の掛かった箱を持ってくる。

 予想通り、箱の中から良い物が出てくることは無く、ミイラ化した生首が出てきた。


 ミイラ化しても、やっぱりきめぇ……。

 

『レイナ、今日は貴方がゴブリンの亜種を倒しました。ですので、これは貴方の物ですよ』

『はい、お姉様!』


 アクゥアから渡された物を、嬉しそうに受け取る狐娘。

 うーん、その反応もどうなんだろうか。


 今日は昼前に迷宮探索を終了してしまったので、午後は裏庭でアズーラ達はみっちり訓練をすることにしたみたいだ。

 夕方までお昼寝をして、風呂に入って居間に行くと、予想通りぐったりとした状態で横になってるアズーラとアカネがいましたがね。

 

 晩御飯を食べている時に、サリッシュさんと朝一緒にいた女性騎士達が風呂を借りにやって来る。

 風呂上りはツヤツヤお肌で、高級石鹸の良い香りをさせながら、幸せな表情で帰って行ったのが印象的だった。


 うむ。

 今日も無事に、1日が終わりそうである。

 そんなことを思いながら食後のお茶を飲んでいると、エルレイナが何かを思い出したように、居間に置いてあった自分の背負い袋をゴソゴソと弄り出す。

 嬉しそうな表情で、背負い袋から取り出した物を持って、ロリンに近づくエルレイナ。


「ロリン! ロリン! あいあいあー!」

「レイナちゃん。それ、なぁ……イャァアアアア!」


 エルレイナの『本日の戦利品』を見たロリンの悲鳴が、家中に響き渡った。


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