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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第3章 束の間の休息

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奴隷牛娘の勝算

 

「……ッ!?」


 いきなり耳が壊れるかと思うような歓声が、地下闘技場に響き渡る。

 たぶん人気の試合で誰かが勝利したんだろう。

 万を超える牛人の女達が一斉に叫んでるんだから、そうなるのは分かるんだが……。


「あー、耳痛ぇー。ばっちゃん。ヴェラの試合はまだなのか? 俺、もう帰りたいんだけど……」

「まだ予選が終わったばかりじゃないか。これから本選が始まるから、そこでヴェラがどこまでいけるかだね」


 ばっちゃんが、試合の予定表を書いてる紙を眺めながら答えてくれる。

 はぁー、従姉のヴェランジェが大会に出るのは良いんだけど、無理矢理連れてこられるとは思わなかったぜ。

 酒をばっちゃんが奢ってくれるって言うから嫌々来たけど、めんどくせぇーな。


 客席の裏側にある飲食店通りをばっちゃんと歩きながら、酒のつまみになりそうな物が置いてないかと屋台を覗き込む。

 さすがに、牛人の女達の一大行事だけのことはあるな。

 見渡す限りの牛人の女、女、女。

 しかも、どいつもこいつも俺が見上げないといけないくらい縦に大きいし、横にもでかいと来てる。

 

 俺も成人の儀を終えたら、こんなにでかくなるのかねー。

 でも、うちの家系の女は皆細いって言うし、たぶんここまではでかくならないだろう。

 ばっちゃんも筋肉はすげぇあるけど、締まっていて細いしな。


「なんだい、アズ。あたしのナイスバディに、見惚れたのかい?」

「それはない」

「お前も『戦女神様の加護』を手に入れたら、その加護でこの素晴らしい美貌を手に入れられるんだぞ? あたしの若い頃はな……」


 あー、また始まったよ。

 ばっちゃんの自慢話が。

 ここからが、長いんだよなー。

 

「あたしも20代の頃は、血反吐を吐きながらも身体を鍛えるために、厳しい修行をしまくったさ。それはもう、ツライツライ毎日だったよ」

「ふーん」

「でも、30も間近になった頃に、ようやく裏闘牛祭で優勝してさ。今のじっちゃんを手に入れたからはもう、薔薇色の人生ってやつだったのさ!」


 握りこぶしを作りながらばっちゃんが熱く語り続けるのを、適当に相槌をうって目的の物を探す。

 もうこれで何百回目か分からないぐらいに聞かされて、大体の内容もとっくに覚えてるからな。


「『戦女神様の加護』を手に入れてから、実際にそのすごさを目の当たりにしたよ。まずはパーティー補正の凄さだね。なにしろ、闘牛士、魔剣士、忍者、聖騎士の上級職業を持つ者達とパーティー申請した時と同じ、パーティー補正が得られるんだよ! すごくないかい? 基礎能力の低い初級職業では分かりにくけど、中級職業以上の者にはこの恩恵が目に見えて分かるのさ。アレには驚いたねー」

「お! スンスン……この匂いは?」


 あーもう、邪魔だなー。

 良い匂いがするのに、前が見えねー。

 

「しかも更に驚いたのが、パーティー申請をした時に必ず発生する『経験分配の掟』。これが、『戦女神様の加護』を持ってる者とパーティー申請したらなんとまあ、一切の無視! まさに反則とも言えるその加護の恐ろしさ。だがそれよりも、最も驚くべき秘密が『戦女神様の加護』には隠されているのさ、それは……」

「でけぇよ。邪魔だなー」

 

 屋台の前で立ち話をしている牛人の女性達に、若干イラッとする。

 なんだ、そのアホみたいな筋肉は?

 お前は男かよ。

 なんで丸太みたいにでかい筋肉を見せ合って自慢してるんだよ。


「そう、何を隠そう『戦女神様の加護』の第3の能力、その名もナイスバディ! 見なさい、この時が止まったかのような美しき身体! 美貌! この破壊力、正に戦女神様級!」

 

 何だよ戦女神様級って……。

 腰に手を当て上半身を逸らすような、誰に見せびらかしてるのかよく分からん体勢をとるばっちゃん。

 でも、確かにばっちゃんて周りの婆さん達に比べても若いよなー。

 乳もケツも全然垂れてないし、シワもほとんどないし。

 60は過ぎてるはずなのに、30代にしか見えないぜ。

 

「老化が遅れるというこの能力には、当時の私も戦慄したものさ。確かに、殴り倒しでも他の牛人の女から奪いとりたくなるのも、分かる気がしたよ。戦巫女に頼んで、パーティー申請さえしちまえばこっちのもの。じっちゃんと婚約したのにも関わらず、諦めきれなかったのかじっちゃんに群がる馬鹿牛女共を、千切っては投げ、千切っては投げ。それはもう、屍の山を築きまくったものさ!」

「いや、殺しちゃ駄目だろ。そこは気絶させただろ?」

「細かい事はいいんだよ!」

「あっそ……」

 

 おいおいおい、やっと立ち話してた奴らがいなくなったと思ったら……。

 ばっちゃんに合いの手入れてる場合じゃなかったぜ。

 だから俺の前に立つんじゃねーよ。

 身体がでかくて屋台が見えねえだよ!


「アズもこれで分かっただろ? どうだい? 裏闘牛祭で優勝するような、牛人の女を目指したくなっただろ?」


 おっ!?

 上手そうなつまみ、はっけーん!

 馬鹿でかい牛人の女達を強引に掻き分けて、屋台の前に進み出る。

 

 うーん、激辛タレ漬けの焼き兎肉かー。

 それも悪くないんだが、今日はこっちだ!

 屋台に並べられた、とある野菜を漬した物を入れた木の器を持ち上げる。


「おばちゃーん! これ頂戴」

「アズ。あたしの話、聞いてたかい?」

「あいよ。500セシリルだよ」

「はいよ。うっひょうー! うまそー! あん? どうした、ばっちゃん?」


 ラウネの葉を辛い味噌に漬した自分の好物をつまみながら、何だかお疲れのようなばっちゃんを見つめる。

 しかし、これはまた辛ぇーな。

 うめぇんだけど、口から火が出るように辛いぜ。

 飲み物がすんげぇ欲しくなるな。

 

 周りを見渡してみる。

 ……お! 良い物、はっけーん!


「おばちゃーん! 酒くれー!」

「はぁー、姉より武術の才能のあった弟の子に産まれたっていうのに、誰に似たのか親子揃って、武術よりも酒好きになっちまって……」

「あいよ。千セシリルだよ」

「高いよー。まけてよー」

「駄目だよ。これはもう1セシリルも、まけらんないよ」

「ちぇー」


 腰に巻いていた小銭入れを探るが、目的の硬貨は見つからない。

 小銭を数えながら、今日は邪魔にならないようにとお金を家に置いてきたのを思い出した。


「ばっちゃん、金頂戴!」

「はぁー。……はいよ」

「いぇーい! ばっちゃん、愛してるぜ!」

「よく言うよ」

「ウシシシシ」


 後でじっちゃんにも、たかっとかないとなー。

 金を屋台のおばちゃんに払うと、木の筒に入った酒を受けとる。


「ほらほら、どいたどいた! 急患だー!」

「うおっ! あっぶねー、酒が零れるところだったぜ」

「おー、こいつはまた、派手にやられたねー」


 目の前を担架に乗せられて運ばれる重傷者。

 見るも無残な有様に、思わず顔が引き攣ってしまう。

 もう腕や足が、バッキバキに折れてんじゃん。

 何でそこまでして頑張るのかね?

 やっぱり、この世界は俺には理解できんなー。

 

「闘牛祭で優勝した男が、優勝賞品じゃねー。俺はちとやる気でんな。旨い酒をたらふく飲ませてくれる男だって言うのなら、少しは本気出すんだけどなー。やっぱり親父みたいに、浴びるほど酒を飲ませてくれる男が、一番だよな」

「はぁー、これだからこの子は。困った子だよ……」


 早く帰って、親父の酒蔵に籠もって酒を造る手伝いをしたいな。

 ついでに試飲と言って、酒をグビグビと……なんだ?

 

 顔に手を当てて上を見上げるばっちゃん。

 腕を組み直すと真剣な表情でブツブツと呟きだした。


「そろそろ、あの馬鹿息子の所に置いとくのは限界かねぇ。このままじゃ、せっかくの才能が埋もれちまうよ……」

「どうしたんだ、ばっちゃん?」

「アズ。お前、ヴァスの所に引っ越してみないかい?」

「はぁあ? 何で? 嫌だよぉ。だって伯母さん怖ぇし。うるせー奴が、酒ばっかり飲んでないでお前も訓練しろってすぐ言うし」

「それはアズがすぐ訓練をサボるからだろ? お前は才能があるんだから、真面目にやればすぐにヴェラに追いつくのに、すぐに逃げ出すってヴァスから聞いてるぞ?」


 闘牛祭を優勝した者のみに許された、ドレッドと呼ばれる変わった髪型をした伯母さんの顔を思い出して、俺は思わず震える。

 正直な話、あの鉄下駄で蹴り飛ばされて宙を舞うのはもうこりごりだ。


「お前だっていずれはあたしやヴァスみたいに、この大会で優勝して加護持ちの男を捕まえて婿にするんだ。それが、お前にとって一番幸せなんだよ。今のうちから、ヴァスの所で真面目に修行した方が良いと思うぞ。それにあたしもこの大会が終わったら、古い友人の弟子を鍛えるように頼まれてるんだよ。今年はその子にかかりきりになって、アズの相手が出来なくなるんだよ」

「えー、今年はもう俺と遊んでくれないのか? ばっちゃんの訓練はつまらないけど、ばっちゃんの旅の話は好きなんだけどなぁ~。どこの街で、どんな酒を飲んだとか……」

「結局、酒かい。サクラ聖教国のお偉いさん達のお願いだから、無下に断れないんだよ。彼女にはいろいろと昔、世話になった恩もあるからね」

「ぶー。つまらん」


 頬を膨らませてばっちゃんに抗議する。


「迷宮都市イルザリスに行けば、美味しい酒が沢山呑めるぞー。アズの住んでる田舎街なんかとは、比べ物にならないくらいにでかいぞ! なにしろ、オーズガルトで一番大きい街だからな。売ってる酒の種類も、国一番の……」

「本当か!? ばっちゃん、それ本当なのか! 俺、行くぜぃ!」


 街のいたる所に並べられた美味しい酒達を思い浮かべて、俺のヤル気がモリモリと湧き上がった!


「酒の街イルザリスかー、楽しみだなー」

「いや、迷宮都市だぞ? あー、駄目だこの子、聞いてないよ。はぁー、本当に酒で釣られるとは、我が孫娘ながら将来が心配だよ……」

「よし、すぐに出掛ける準備をするぜ!」

「待ちなさい! せめて、ヴェラがどこまで頑張るかぐらいは見ていきなさい!」


 あーあ。

 まったく、ばっちゃんには騙されたよなー。

 何が酒の街イルザリスだよ……。

 親父の酒を作る手伝いを終わらせて、泣く泣く大好きな酒蔵から別れを告げて、ようやく伯母さんところに引っ越したと思ったら……。

 全然、話が違うじゃねぇーかよ。

 

 毎日毎日、明けても暮れても鍛錬、鍛錬。

 酒も禄に飲ませてくれないし、あそこは最悪だったなー。

 ほんと逃げ出して正解だったよ。


「おー、さぶさぶ。ヴェラのお古装備を売っ払った金も、そろそろ底を尽きてきたなー」


 嫌なことを思い出しながら、唯一手元に残ってる古びた外套を羽織り直す。

 冬も明けて春月になったとは言え、さすがに夜は冷えるぜ。

 夜のスラム街を歩きながら腰袋から小銭を取り出して数えてみるが、かなーり寂しい感じになってきたな。

 

 そろそろ真面目に親父の所に帰ることを考えないといけないのかねー。

 この街から実家に帰る旅費がねーから、やっぱり歩いて帰ることになるのかね?

 伯母さんに金を催促しに行くのも、さすがに厳しいよなー。

 

 はぁー、めんどくせーな。

 

 ボロボロに崩れた家の瓦礫をひょいひょいと避けながら、いつもの場所に移動する。

 ほとんど原型を留めてない階段を、適当に壁を三角蹴りしながら2階に上がる。

 いつものお気に入りの寝床に辿り着くと、見慣れない人物が目に入る。

 この辺りでは珍しい黒くて長い髪が、月の光に照らされている。

 

「おねぇさーん。そこ、俺の寝床なんだけど」

「ん? あー、すまんな。中々に月が綺麗に見える所だったから、ついつい居座ってしまった」

 

 春月と同じ桜色の耳と尻尾を持った猫族の女性が、楽しげな笑みを浮かべながら俺に席を譲るように移動する。

 

 ん? 何だコレ?

 黒髪の女性がどいた近くに、見慣れない大きな物が置いてある。

 水瓶か?

 

「あー、それには酒が入ってるんだ。そうだ。お詫びと言っては何だが、1杯奢らせてくれんか?」

「何ぃ! 酒か!? おー、1杯でも2杯でも、じゃんじゃん飲むぜ!」

 

 誰かと飲むつもりだったのか、酒を入れるための木の器が2つ出てくる。

 女が水瓶を開けると中から酒独特の匂いが……なんだこりゃあ?

 

「すっげー、良い匂いだな」

「フフフ。我が国の神酒と呼ばれる酒でな。名をソーマと言う酒だ。ほれ、お前のだ」


 器を手に持ってその匂いを嗅いで、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 飲まなくても分かる。

 これは間違いなく、旨い酒だ。


「それ、乾杯といこうか」

「おう。かんぱーい! ……んぐ」


 ……やばい。

 

 何だこの酒は?

 舌も喉も、溶ろけそうだ……。

 旨過ぎる!

 滅茶苦茶高い酒なのは間違いないんだろうが、味わう間もなく一気に酒を飲み干してしまった。


「なかなか良い飲みっぷりだな」

「おどれぇたな。こんな旨い酒があるんだな」

「フフフ。我が国でも、王族しか飲めぬ酒だ。お前はツイてるな。まだあるぞ、飲むか?」

「の、飲む! いや、飲ませて下さい!」


 思わず、丁寧にお願いしてしまった。

 王族しか飲めない酒と言われても納得してしまう旨さだ。

 ていうか、そんな酒を簡単にくれるなんて。

 もしかしてこの人、すごく偉い人?


「弟子がな、夜桜を見に行ってるんだ」

「桜? この街で、桜が咲いてる所なんてあったっけか?」


 夜空に浮かぶ月を見上げ、酒をちびらちびらと飲みながら、黒髪の女がぼそりと呟いた。

 んー、まず桜ってどんな花だっけ?

 名前は知ってるんだけど、酒以外のことにあんまし興味がわかないから、花の名前を言われてもすぐに思い出せない。

 

「あるぞ。私は毎年見に来てるんだがな。連れて行ってやろうか?」

「いいや。俺は、花見には興味ねぇ。この上手い酒が飲めれば、何でも良いよ!」


 今まで飲んだこと無いような旨い酒を飲みながら、さりげなく目の前の女を観察する。

 よく見ると着流しの和服、だっけかな? を着ていて、装具も着けず武器も何も持ってない素手の状態だ。

 華奢な身体な上にえらい美人だから、正直こんなスラム街を夜に出歩くのは知らない他人とはいえ、さすがに危ないじゃないかと心配してしまうほどの身軽さだ。

 でも、隙だらけに見えて妙に隙が無いように思えてしまう。

 

 妙な女だ。

 いや、どちらかと言うと、油断が出来ない武術者と言った方が正しいな。


「勘が良いな。もう、私が普通じゃないと気付いたか?」

「まともな女なら、こんなとこをウロウロ1人で出歩かねぇよ。それとさっき、弟子がどうとか言ってたからな。何か、体術でも使うのかい?」

「ふむ。まあ、そんな所だ。どれ、もう1杯飲むか? 心配するな。毒は入れてない」


 若干警戒しながらも酒をあおる。

 吸い込まれそうな黒い瞳で、俺を楽しげに見つめ続ける猫族の女。

 

「お前は牛人だろ? やっぱり、裏闘牛祭での優勝を目指してるのか?」

「んー、そうだな。優勝した賞品が男って言うんじゃ、目指す気にはならないね。この神酒ソーマがたらふく飲めるって言うのなら、少しは頑張るけど」


 唐突な質問に驚くが、うまい酒を飲んで機嫌がとても良いので適当に思ったことを話す。

 ほんと、このソーマが優勝賞品ならいくらでも頑張れそうだ。


「ふむ、なるほど。どれ、空いたぞ。もう1杯飲むか?」

「おー、わりぃね」

 

 怪しいところはいろいろあるんだけど、なぜかこの女は大丈夫だと確信できるんだよな、なんでだろう?

 うーん、ていうか。

 どっかで見たことあるよな、無いような……どこだっけ?

 ……駄目だ……思い出せん。


 酔いが回ってきたのか、若干ぼぉーとしてきたので思わず頭を左右に激しく振る。

 あー、でもやっぱうめぇーな、この酒は。


「では、もし裏闘牛祭で優勝したら、この神酒ソーマを浴びる程に飲ましてやると言えば、どうする?」

「そりゃあ、ゆうひょうめらすに……きまっへ? ありゃん?」


 ん?

 何か舌が回らなくなって。

 身体もグラグラしてきて……あれれ?


「ちなみにその酒はかなり旨いが、後からかなりくる酒でな。初めて飲む奴は、必ず倒れるんだよ。しかし、普通は1杯目で潰れるはずなんだが、アズーラはよっぽど強いんだな」


 楽しげな笑みを浮かべた黒髪の女が言うように、身体が急にいうことをきかなくなってくる。

 親父の酒を飲みまくって酒には強くなってるはずだが、予想以上にこれはキツイ。

 ていうか、俺はこの女に自分の名前をいつ教えた?

 

「アズーラ。もし、お前が私の主催した特別・・な裏闘牛祭で優勝する程の実力者であれば、また神酒を浴びるほど飲ませてやろう」


 泥酔して意識が朦朧としてきた時に、ふと黒髪の女性の言葉が耳に入る。

 目の前の女性の顔が大きく歪んでいる。


「なに、アイツの孫娘のお前なら簡単なことさ。ヴァスの弟は、ヴァスが認めるくらい武に関して天賦の才があることは、私も知っている。その娘もまた然り。ただし、親子揃って興味の方向性がちと酒に大きく偏っていて、普通の牛人とは変わっていたと聞いてるがな。しかしな、アズーラ。結局はその才を、生かすも殺すもお前次第なんだぞ?」


 あー、やっと思い出したわ。

 この猫人なら、それが間違いなくできるだろうな。

 俺の記憶が正しければ、この猫人は確か……。


「ほんろに、さけぇ、いっぱいのませてくれるんらな?」

「ほう、まだ意識があるか。フフフ……良いぞ、アズーラ。約束だ。サクラの名に誓っても良い。必ずお前の願いを叶えてやろう」

「うぃー! よっひゃぁー! やくそくりゃぞぉお?」

「ただし、条件がある。私の弟子であるアクゥアの相手ができる牛人になること。これが最低条件だ。裏闘牛祭で優勝できる者になるのなら、簡単なことだろ?」


 身体も立ち上がれないくらいになって、急激に瞼が重くなり、俺の意識は深い闇に包まれた。






   *   *   *






「懐かしい、夢だねー」


 布団を押しのけると、最近は慣れ親しんできたタタミの上に立ち上がって伸びをする。

 スラム街の解体前日の出来事をあんだけはっきりと思い出したのは、今回が初めてかもしれないな。

 あの時は酔っ払い過ぎて、「何で牢屋に入ってんだっけ?」て感じで朝になって目が覚めたからな。

 いつもなら上手く逃げるんだけど、さすがに泥酔した状態では逃げ切れないわなー。


「はぁー、さてと……」


 頭をボリボリと掻くと古びた座布団に腰を下ろして、長くなった髪を適当に後ろで縛ると、ちゃぶ台の前に座る。

 ばっちゃんやあの夜の夢を見るきっかけになった、昨日までに起こったことをもう一度整理する為に、両手で頬を叩いて目を覚ます。

 ちゃぶ台に紙を置き、昨日までに疑問に思ったことを紙に書きながらもう1度整理する。


 ハヤトは、何かがおかしい。

 それは前から薄々気付いていた。

 ただ、昨日の転職でほぼ確信に近づいた。

 

 昨日までに起こった事とばっちゃんの話が正しいのであれば、ハヤトには間違い無く『戦女神様の加護』がついている。

 そういうことであれば、今まで俺の周りで起こった不思議なことが納得できる。

 

 まず、パーティー補正。

 初めてハヤトの奴隷になった日に、戦巫女のカルディアにパーティー申請をしてもらって気付いた違和感。

 自分の手を、強く握りしめる。


 ハヤトとパーティー申請してから、身体能力が上がってる。

 

 普段から身体には気を遣ってたつもりだ。

 何かあっても厄介事から逃げれるように、その日の身体の具合を毎朝必ず確認している。

 普段から鍛えてるわけでもないのに、ハヤトとパーティー申請をした日にすぐ自分の身体の違和感に気づいた。

 

 俺達のパーティーには戦士職が誰もいなかったから、獣戦士が5人以上パーティー申請したことによる身体能力の重複補正がつくわけがない。

 その日に獣戦士への転職もしてたら、自分が獣戦士になったことで職業補正がされたんだろうで終わっていたんだけどな……。


 もしかしたら、この事はアクゥアあたりも本当は気づいてるんじゃねぇのか?

 魔法職のアイネスや激やせのアカネは、もしかしたら違和感に気づかなかったかもな。

 

 ハヤトがあの時、俺達に獣戦士の転職を勧めなかったからこそ、気付けたことだけどな。

 獣戦士になったことで、奴隷の俺達が強くなり過ぎるのを警戒してたのかと思ったが、大して何も考えてなかっただけっていうのが、超世間知らずのハヤトらしいよな。

 あの後の「希望したい職業とかはある?」には驚いたな、「獣戦士以外に、俺達に何へ転職しろっつんだよ。頭の良い貴族みたいに魔法使いになれってのか?」って思わずあの時は文句を言いそうになったよな。

 

 次に気になったのが、この短期間でハヤトが神子のレベル6になったってことだ。

 ハヤトが1人で潜って魔狼の亜種を倒したっていうことなら、神子のレベル6になったとしても別段驚かねぇ。

 だが今回の俺達は違う。


 俺達は、6人でパーティー申請をしている。

 そうなると必ず『経験分配の掟』が始まり、魔物を倒すたびに必ず経験値を分けることが起きるはずだ。

 戦奴隷がご主人様より隠れて強くならねえようにするために、戦奴隷は必ずご主人様とパーティー申請をしないといけねぇ決まりがある。


 ていうか5人も戦奴隷を買うとか、ハヤトはアホなのか?

 普通買っても1人か、多くて2人だろ?

 神子の探索者職業で戦奴隷を買うとか、「俺を煮るなり焼くなり好きにして下さい」とか言ってるようなもんだろ?


「たぶん奴隷が逆らった時とか、考えてないんだろうな……」

 

 今までのハヤトの超世間知らずな行動を思い出して、思わず本音が口から出てしまう。

 まあ奴隷なのに、こんだけ良い生活させてもらったら誰も逆らう気はおきんわな。

 ていうか普通の探索者が、神官ならまだしも神子の男とパーティー組もうとかは絶対思わんよな。

 そう言う意味では、探索者生活をするためには戦奴隷を買うしかあの時のハヤトには選択肢が無かったのかもな。

 

 神子で思い出したが、あの時のハヤトがロリンに毒の治療魔法を使って治せたのもおかしいんだよなー。

 アイネスが、毒の治療魔法が巫女のレベル3で使えるから神子も同じかと聞いてきたが、その話はばっちゃんから聞いたことあるから、それはたぶん正しい。

 問題はあの時点でレベル3になってたのがおかしいんだ。

 アイネスが変に思ったのは正しい。

 

 確かにロリンと会った日には、エルレイナがゴブリンを沢山狩っていた。

 でも、その日にレベル3になったのなら、その日はレベル2の魔力量だから毒の治療をしても、すぐに魔力が尽きて気絶するはずだ。

 

 ハヤトは迷宮に潜ったことが無いと言ってたし、魔力を大きく引き継ぎそうな魔法使いとは親が無縁の感じみたいだしな。

 親や家族のことをハヤトにそれとなく尋ねても言葉を濁されることが多いが、おおむね探索者とは関係無い暮らしをしてたはずだ。

 そうなると、もともとハヤトは生まれ持って魔力を持って無い可能性がある。

 アイネスも、ハヤトが魔力の流し方すら知らなかったから教えたと呆れてたくらいだからな。

 

 ということは、エルレイナがゴブリン狩りをする前日に、ハヤトは神子のレベル3になってるはずだ。

 初級者迷宮でゴブリンと山犬達を数匹倒しただけでレベル3?

 ……ねーよ。

 ありえねーよ。

 

 迷宮に潜り初めて最初の3日くらいは、アカネのことも考えて休憩を頻繁に挟みながらだったから、あまり魔物を積極的に狩りに行かなかった。

 あんな小さな子供が迷宮へ遠足に行ったような迷宮探索じゃ、上がったとしてもレベル1からレベル2になるくらいだ。

 

 そこから考えられるのは、『戦女神様の加護』の能力の1つである『経験分配の掟』の無視だ。

 

 だがそうなると、別のありえねーことがいろいろ起きるんだよなー。

 まず、ハヤトは人間だ。

 『戦女神様の加護』っていうのは、闘牛祭で優勝した牛人の男にしか『武神』である戦巫女から授けられない加護だ。

 闘牛祭に参加権の無い、ましてや貧弱なハヤトが大会で優勝して、あの加護を得られるとは思えないんだよなー。


 つじつまが合わない……。

 

 だからこそ、ありえねぇと言いたいところだが、気になるのはハヤトの持つ家名であるサクラザカ。

 サクラ聖教国の国民は猫族しかなれないと聞いてるが、もしかしたらハヤトは、サクラ聖教国の貴族の可能性もまだ諦めきれない。

 

 それと気になるのが、探索者ギルドの連中がこの事に関しては何も言ってこないことだよな。

 もしハヤトに『戦女神様の加護』があることが分かれば、魔狼の亜種を倒したどころじゃない大騒ぎになってたはずだ。

 マルシェルは俺達に不利になるような隠し事をするようには見えないし、となると知ってるのは上の連中だけ?

 例えば、ハヤトをやたら敵視するような目をしていた副ギルド長とか……。

 

 やっぱりハヤトは、サクラ聖教国に関わりがある人間?

 しかもサクラ聖教国の上の奴らが、他の連中にその素性を口止めしようとする程に、かなりの大物?

 

 もし、ハヤトがサクラ聖教国に関わりがある人間であり、何らかしらの理由で『戦女神様の加護』を持ってるとしたら?

 何しろ俺にこんなひどい目に合わせた奴が、大物級の超大物なんだからな。

 彼女が今回の件に、大きく関わってるとなると……。

 

「ん?」


 部屋の外の廊下をバタバタと走り回るエルレイナの声が聞こえる。

 それに続いて、アカネやアクゥアの挨拶と会話が聞こえる。

 ついでにハヤトの絶叫のような声も聞こえた。

 恐らく叫び声の内容から、エルレイナに襲撃されたんだろ。


「……あいかわらず、朝から元気な奴らだなぁ」


 今日は休みだって言うのに、朝から訓練とは殊勝なことだねーと思いながらも、俺も部屋の外に出る。

 せっかく獣戦士に転職したんだし、今の自分がどれくらいの実力があるのか確認してみないとな。

 それにどうしても、もう1つ確認しておきたいことがあるしな。






   *   *   *






『組手ですか? それはかまいませんが』

「やっても良いってさ」

「おうよ。頼むよ」

 

 裏庭に出るとさっそく剣術の訓練を始めようとしていたアクゥア達に声をかけ、ハヤトに通訳してもらうと良い返事がもらえた。

 

「アズーラ。アクゥアが、闘牛術の方が良いのかって聞いてんだけど?」

「へー。アクゥアは闘牛術を知ってるんだ。じゃあそっちで」

 

 わざとらしく驚いたフリをしながらも、また1つ自分の中で予想してたことが確認できたことに、「やっぱりな……」と心の中で呟く。

 さて、最後の答え合わせといこうか?

 アクゥアが一体、誰にその闘牛術を教わったのか。

 

「おー。アズーラって、意外と身体柔らかいんだな」

「あん? おー、柔軟は口煩いばっちゃんによくやらされていてねぇ。これくらいは、すぐにできるようになってんだよ」

 

 尻が地面につくまで足を大きく開脚し、そのままいつものように胸を地面につけるように柔軟していたら、ハヤトが驚いたような声を出す。

 

「アクゥアも柔らかいなー」

 

 俺と同じことを繰り返すアクゥア。

 ふーん、なるほどねー。

 

「それじゃあ、いっちょやりますかー」

『宜しくお願いします、アズーラさん。アズーラさんが闘牛術を使うとは思わなかったので、すごく楽しみです!』


 何か良いことでもあったのか、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて俺には分からない言葉を喋るアクゥア。


「ほいほい。……ッ!?」

 

 何気なく手を出してきたアクゥアに応じて手を出して握手をしたら、小柄に似合わない怪力で俺の手を握り締める。

 

「アクゥア、痛い……」

『あっ、すいません! まだ、転職したばかりで力加減が……』

 

 申し訳なさそうにペコペコと何度も頭を下げるアクゥア。

 早くも『戦女神様の加護』の効果が大きく出始めてるのかね?

 もう嫌な予感しかしねぇな……。

 

 若干、逃げ出したい気分になりながらも、俺にも『戦女神様の加護』の効果が出始めてるはずだからと自分に言い聞かせて、闘牛術の構えをとる。

 アクゥアも真剣な表情になり、俺と同じ構えをとる。


『いきます』

「……ッ!?」


 可愛らしい声と共に、アクゥアが目の前から消えた。

 左側から何かがくることに身体が反応して、反射的に腕で身を守るような体勢になる。

 しかし、衝撃は俺の腕をすり抜けるようにして、腹にミシリと嫌な音を立ててやってくる。

 

 腹筋に無意識のうちに力を入れていたから、たぶん骨は大丈夫だと思うけど……キツイ。

 一瞬で俺の目の前にまで接近したアクゥアが放った回し蹴りで、自分の身体が宙に浮いた事に「ねーよ」と思いながら、本能的に次の攻撃に備える。

 俺に強烈な一撃を与えたと同時に、気付けばフワリと俺の頭の高さにまでアクゥアの身体が浮いていた……おいおいおい。

 アクゥアが身体を捻るようにして回転させると、空中を舞うようにしてさっきより更に重い、飛び回し蹴りが斜め上から来る。


 腕でその衝撃をなんとか受け止めるが、さすがに空中で体勢を崩し、上半身が地面向けて勢いよく落ちていく。

 頭を守るように地面へ両手をつき、腕にもらった痛みを我慢しながらも衝撃に耐える。

 自分の体勢を整えるのに精一杯なフリをしながらも、次の狙いに向けて構える。

 更に駄目出しの3撃目をアクゥアが繰り出そうとするのに大して、空中に浮いてるのなら避け様が無いだろうと、一気に反撃に出る。

 逆立ちの状態のまま身体を捻ると、アクゥアの飛び回し蹴りの攻撃に合わせて、足を回転させるように3撃目をかわしながら、アクゥアの胴体目掛けて勢いよく回し蹴りを入れる。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 あえて誘い込むようにして繰り出した反撃の1手は見事に読まれて、俺の回転する脚の上へ器用に両手を置いて逆立ちしたアクゥアに避けられてしまった。

 俺の回転する蹴りの勢いで、放り投げられるように空中を舞ったアクゥアが、ひらりと宙返りをして地面へと着地する。

 体勢を立て直して俺に、アクゥアがものすごい勢いで駆け寄ってきた。

 

『驚きました、アズーラさん! 1撃目は確かに私の速さに反応できていないようでしたが、2撃目をわざと貰うようにして体勢が崩れたように見せかけ、私の勢いを加速させて止めの3撃目を入れるように誘い込んだところで、あの反撃。私の動きに追いついてないかと思えば、しっかりと不利な状況でもあれだけの反応ができる条件反射……凄いです! 初見でこれだけの素晴らしい反応をされた方は、同い年では初めてかもしれません!』

「……そりゃ、どうも」


 目を輝かせて熱の籠もった表情で、えらく早口で意味の分からない言葉を喋ってるなと思ったが、ハヤトが訳してくれた言葉に思わずげんなりしてしまう。

 2撃目はわざとじゃなく本気で流せなかったんだよ。

 3撃目は本能的に身体が動いて、無意識のうちに反撃したようなものだ。

 ぶっちゃけ、まぐれだ。

 考えながら反応できる速さじゃねーよ。

 さすが武術者の頂点にいる奴の弟子は違うね、師匠が化物なら弟子も化物ってか……。

 

 さっきの鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を思い出して、まだ身体が痺れてるのに気付く。

 ほんと、なんつぅ馬鹿力と重さだよ。

 お前は牛人の闘牛士か!


 そんな小さな身体で、従姉より速い上に従姉並みの馬鹿力とかありえねーよ!

 

 たぶん『狩人』と『戦女神様の加護』の組み合わせで、もともと強いのが更に化物並みの強さになったんだろうけど……。

 こっちも『戦女神様の加護』で『獣戦士』の身体強化をされてなかったら、さっきの蹴りで骨に軽くヒビが入ってるぞ。

 従姉と本気で組手をした時に骨を折られた嫌な思い出が頭に浮かんで、背中に冷や汗が流れた。


 その後も組手を繰り返したが、さっきアクゥアに反撃できたのはやっぱりまぐれだったのかと思うような猛攻に、防戦一方になってしまう。

 ていうか、防御するので精一杯なんだよ!

 分かってはいたが、予想以上にアクゥアは速ぇ。

 ほとんど条件反射で防御して、アクゥアの技をかろうじて流しているようなものだ。

 反撃しようにも、かなりの技を貰わないとなかなか攻撃に移れねえ。


 でも、アクゥアと組手をやってる間に、知ってる牛人の影がチラついて1つの確信めいたのものを得た。

 アクゥアは間違いなく、ばっちゃんに技を指導されている。

 ばっちゃんから闘牛術を教わってた俺だからこそ、アクゥアのありえない速さの動きを何となく読めて、かろうじて身体が反応できているんだ。

 「武術の癖って言うものは、教えを長く受けた師の癖が身につくもんだ」とばっちゃんも言ってたしな。


 何となく読めてるんだけど……今のアクゥアには、勝てる気がまったくしない。

 そもそも体力がもたん。

 さすがに普段のサボリのツケがきたのか、ついには膝が笑いだしてきた。

 最初はよかったんだけどすぐに身体が疲れて、思うように足が動かなくなってきた。


「わりぃ、ちと休憩するわ……」

『え? あー、そうですか……』


 俺の言葉をハヤトが通訳すると、アクゥアが残念そうな顔をする。

 たぶん、俺とは違ってようやく準備体操が終わって、これからって感じなんだろう。

 さっきまで楽しそうに左右に振ってた黒い尻尾も、哀しそうに垂れている。

 こっちは、おめぇみたいに無限の体力があるわけじゃねぇんだよ……。

 

 肩で息をするくらいに呼吸も乱れだしてきて、さすがにこれ以上続けたら俺が死ぬわ。

 地面に仰向けに寝転びながら、組んだ両腕で顔を覆うようにして目を瞑る。

 

 さっきハヤトに確認させたが、アクゥアは俺のばっちゃんから闘牛術を教わったと言っていた。

 教わった時期も、ばっちゃんが知り合いの弟子を指導するとか言ってた時期と同じだ。

 今回の件には、間違いなく彼女とアクゥアとハヤトの3人は絡んでる。

 じゃなきゃ、ただの人間のハヤトに自分の弟子が奴隷になってるのを、師匠である彼女が放置しておくわけがねぇ。

 となると、やっぱりハヤトに『戦女神様の加護』がある可能性は高い。

 なんで、探索者ギルドが黙っているのかはよく分からねぇが……。

 

 いや、探索者ギルドが黙っているのは、むしろ好都合かもしれないな。

 今はこの事実を知ってるのは俺だけだ。

 とりあえず俺さえ黙っておけば、牛人の女達の厄介事にハヤトが巻き込まれることも無いだろう。

 後は時間を稼いで、裏闘牛祭で俺が優勝しちまえば全て丸く収まるってところかな?

 そして俺は、『戦女神様の加護』のおかげで他の牛人の女達より楽して強くなれると。


 やべぇな、ほんと笑いが止まらねぇよ。

 『武神』の用意した最高の酒と男が手に入る修羅の道ってか。

 面白ぇじゃねぇか、のってやるよ!

 

 むしろ従姉の悔しがる顔が見えるっていうのが、俺としては一番面白いな。

 わりぃな、ヴェラ。

 恨むなら、俺を選んだ連中を恨めよ。


 うめぇ酒をくれねぇ奴、ましてや俺を奴隷として連れまわそうなんて馬鹿な事を考える奴に付いて行く気はサラサラねぇけど、今回だけは別だな。

 ハヤトが何の目的でこの街に来たのかは知らねぇが、お前が俺の望む物をくれる男っていうのなら、地獄の果てでもいくらでもついて行ってやるし、お前の女になってやっても良い。


 彼女がなんで俺をハヤトとアクゥアに会わす為に、こんな回りくどいやり方を選んだのかは知らねぇが、今の俺にはもう関係ねぇ。

 むしろ今は、奴隷にしてくれたのを感謝してるくらいだ。

 だけどな、俺を本気にさせた代償は高くつくぜ?

 

 裏闘牛祭で、貴族達がいる主催者席に座っていた1人の女性の顔を思い出す。

 『武神』の2つ名を持ち、『戦女神様の加護』を優勝者に授けることが可能な神獣の1人である猫人。


 今度会った時は、おめぇさんが悲鳴を上げるほど神酒を飲み尽くしてやるよ。

 戦女神様の名の下で誓約した約束だ、必ず守ってもらうぜ。

 

 楽しみに待ってろよ、モモイ様。


 おまけ『とある神子の日常風景』

 (異世界初日、ハヤト君が市場を散策中の出来事)


 とある牛人の漢女Sさん「力こそ正義。良い時代になったわね……」

 とある牛人の漢女Jさん「誰が牛人の女は不細工だって? 私の名を言ってみろぉ!」

  とある不運な探索者達「ヒィッ!」

 とある牛人の漢女Aさん「これが良いわね。あら? 潰れちゃった」

   とある防具屋の店主「コラァ! またあんたかい!」

   とある防具屋の店主「何回迷宮蜘蛛の硬皮籠手を、握り潰せば気がすむんだよ!」

 とある牛人の漢女Aさん「んー? まちがったかしら……?」

   とある防具屋の店主「闘牛士用の籠手はこっちだよ! さっさと弁償代を払っとくれ!」

その他大勢の牛人の漢女おとめ達「ヒャッハー! 『戦女神様の加護』を持つ男は私の物だー!」

         ハヤト「……この世界の牛人の女性って、逞しいんだな」


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