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神子の奴隷  作者: くろぬこ
第1章 異世界のご主人様と5人の奴隷娘
2/60

異世界で奴隷を買ってみた 中

 

「戦奴隷になる事を希望した者を募った所、3人希望者がいました。ただし、全員が女性です」

「女性ですか……」

 

 3人というのも微妙な人数だが、全員が女性というのもまた微妙ではある。

 

「やはり未成人でも体力のある男子は、早くに売れてしまいます。お客様のように、戦奴隷や労働奴隷として安く買いたい者が多くいますので……」


 奴隷商人が申し訳なさそうに言う。

 なるほど。

 俺と似たような考えを持つ者はいたのか。

 

 誰だって安く買いたいものである。

 こういった事は早い者勝ちだ。

 決して成人奴隷にビビって、子供の奴隷を買おうと思った訳では無い。

 断じて無い!


「それは仕方ないですね。その人達で面談をお願いできますか?」

「分かりました」


 面談用の個室に案内されて、面談希望者が来るのを待つ。

 さっきは心の準備ができてなくて、奴隷商人や奴隷達の前で醜態を見せてしまった。

 こんな弱気なご主人様では、これから雇う奴隷達も俺にはついてこないだろう。

 

 ここは異世界だ。

 元の世界の常識は通じない。

 頬を両手で叩き、気合を入れ直す。

 

 出されたお茶を飲みながら、椅子に座って待っていると、奴隷商人が一人の女性を連れて来た。

 褐色肌に、頭の左右から尖った角が上に向かって生えている女性だ。

 

「お待たせしました。こちらは、牛人のアズーラと言います。年は14歳。迷宮には、荷物持ちとしてパーティーに参加した経験があるそうです。牛人は、獣人の中でも筋力と頑丈さに優れてる者であり、鍛えれば将来性が見込める人材です」


 確かに聞いてる分には、戦奴隷として連れて行っても問題なさそうな人材だ。

 14歳とは言ってたが背丈は俺と同じくらいあり、体も俺以上に鍛えられている気がする。

 ファンタジーでよく登場するミノタウロスというのが、牛の頭に人の体を持つ筋肉隆々の魔物としてよく登場する。

 ミノタウロスと言えば、大抵は尋常じゃない怪力を持つ描写が多い。

 その事から、牛人というのは強そうなイメージがあるし、当たりかな? とも思う。

 でも、そんな優良物件なら他の人が買いそうな気がするんだが。

 

「1つ質問をしたいのですが、彼女のような体力のありそうな人材だと、他にも雇う人がいたと思うのですが……」


 なんとなく、最初に思った疑問をぶつけてみる。

 そうすると、奴隷商人が苦虫を潰したような顔になる。


「酒」

 

 目元まで隠れたボサボサの小麦色の髪をかきあげ、アズーラがニヤニヤと笑いながらこちらに視線を移す。

 

「俺は酒が飲めれば、戦奴隷でも労働奴隷でも何でもするよ。逆に言うと、酒がでないんだったら何もしない。俺の言ってる意味が分かるかな? 貴族のお坊ちゃん」

 

 牛娘はそう言うとテーブルの上に行儀悪く片足を置く。

 驚いて奴隷商人に視線を移すと、額に手の甲を当ててやっちまったなぁと言った感じで、宙を仰ぐような仕草をする。


「アズーラ、足を下ろしなさい。申し訳ございません。まだ教育中なため少々態度に難がありまして。雇い主にずうずうしくも酒を要求するので、誰も買い手が無い状況でして……」


 あー、理解した。不良娘だからか。

 奴隷としてはここまで反抗的で上から目線だと、買う気が起こらないってわけね。


「1つ、言わせてもらっても良いかな? 俺は別に奴隷を雇うからと言って、貴族というわけでは無い。後、君が望む酒とやらがどれくらいの値段かは分からないが、普段の生活の中で買えるものであれば、買うのは別段問題無い。こんな回答でどうだろうか?」


 そう言うと、アズーラと呼ばれた不良娘が驚いたように目を見開き、さっきまでのこちらを馬鹿にした態度とは変わって、今度は食い入るように俺を上から下へとジロジロと視線を移す。


「ど、どうかな?」

「坊ちゃんは迷宮に潜りたいって言うけど、理由を聞いても良いかい? なんか、宝探しとか、英雄になりたいとか、そんな理由かい? いきなり深層とか、危険な所に連れて行かれるんじゃ、命がいくつあっても足りないから勘弁してもらいたいんだけど」


 坊ちゃんは固定ですか。

 理由か……。

 今のところ、命を賭けて目指すようなことは無いしな。

 

「特に大層な理由は無いが、あえて言うなら生活費を稼げる程度に潜りたい」

「しょぼっ!」


 俺の理由が何か彼女のツボに入ったのか、ゲラゲラと牛娘が笑いだす。

 

「コラッ! お客様に対してなんて態度を! も、申し訳ございません。やはり、まだ奴隷にするには教育が足りないようで……」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 奴隷商人は申し訳なさそうに頭を何度も下げるが、俺は別にそんなに怒ってはいない。

 理由がしょぼくて、自分でも今更ながらちょっと恥ずかしいかなと思うくらいである。

 やっぱり、「竜を倒すのが目標です!」くらいに言った方が良かったのかな?

 郷に入れば、郷に従えと言うし。

 もっと、異世界風の考え方に変えていかないといけないのだろうか?


「アハハハハ。坊ちゃん、おもしろいね。坊ちゃんだったら雇われても良いぜ。そのかわり、酒は必ず買ってもらうぜ」

「分かった。それについては前提条件として考えておく」

「期待してるぜ」


 そう言うと、俺の肩をポンッと叩いて、奴隷商人に連れられてアズーラが部屋を出ていく。

 ドアが閉じる直前に、奴隷商人の説教をするような声が聞こえた。

 おそらく、雇い主に対して態度があまりにも軽いからたしなめてたのだろう。

 

 でも、奴隷商人の対応から察するに、反抗的な態度に対して暴力を振るってる感じもなかった。

 たぶん、割と平和的に奴隷教育をしようとしてるのだろう。

 そういう意味では、ここの奴隷商人は良い人なのかも知れない。

 

「先程は、大変申し訳ございませんでした。次の者を連れて来たのですが、宜しいでしょうか?」

「全然大丈夫ですよ。どうぞ、お願いします」

 

 次に現れたのは、金の髪をボサボサにした少女。

 一言でその容姿を現すとするなら、とにかく痩せている。

 頬がこけており、体も骨と皮だけと言った感じで、とても戦えるようには見えないのだが。

 しかも、若干目がうつろだ。

 

「えっと……」

「彼女はアカネ。年は14歳でして、このようにやせ細っていますが、狼人だそうです」

「だそうです?」

「スラム街に住む者は、身分証明となるものを持っていない者が多く、その出身を確認できない場合があります。よって、本人の自己申告を信じる形となります。狼人という言葉を信じるなら、犬族でもかなりの力と俊敏性を持つ種族でして、将来性を考えるとおすすめの人材です。たぶん」

 

 おい!

 最後に、たぶんとか言いやがったぞ。

 何で目をそらしとんのじゃ!

 全部、仮定での話かよ!

 

「狼人なのは良いのですが、えらく痩せてますね」

「それが、どうやら彼女は奴隷の食事を受け付けないらしく、食べても吐いてしまって……だからと言って、奴隷以上の食事を与えると、他の奴隷達にも示しがつかなくなります。なので、こちらとしてもいろいろと困っているのです」

 

 奴隷商人が眉間に眉を寄せ、「決して、体罰を与えてる訳では無いのです」と申し訳なさそうに言う。

 一瞬、たしかに彼女に対する体罰を疑ったが、何となくこの人はそういったことをするようには見えない。

 むしろ、奴隷である彼女に気を使ってるようにも見える。

 それが演技でないという前提の話ではあるが。

 

「えっと、もし、俺の所に雇われる場合の希望とか、条件とかある?」


 そう言って、ぐったりとしている彼女に希望を聞いてみる。


「奴隷飯以外のご飯を食べさせて欲しいでありますッ!」

 

 すると、突然彼女は青色の瞳をカッと見開き、なぜか天井に向かって叫ぶ。

 ですよねー。

 

「い、戦奴隷として雇いたいんだけど、迷宮に潜るのは問題ないかな?」

「おいしいご飯が食べれるなら、何でもヤリマスッ!」

 

 すごい気合いの入れようだな。目をギラギラとさせてこちらを睨みつけてくる。

 なるほど。なかなか迫力がある。

 なんとなく狼っぽい感じがするな。

 

「どうでしょうか?」

 

 奴隷商人が俺に聞いてくる。

 なんかそう言った話を聞くと、雇わないといけない気分になってくる。

 すがるような視線で彼女がこちらを見つめてくる。

 そして、なぜか同じように奴隷商人も上目遣いで、すがるような視線でこちらを見つめてくる。

 

 きめぇ。

 

「け、検討します。とりあえず、面談はもう良いです」

 

 俺がそう言うと、奴隷商人に体を支えられる形で、少女が部屋を出ていく。

 部屋を出ていく時に、しきりに少女がこちらをチラ見してたけど、やっぱり雇わないといけないのかな?

 これで彼女を雇わなかったら、なんかすごい悪い人な感じになりそうで、すごく嫌だなー。

 あれ? 何で俺は、こんな憂鬱な気分になってるんだろう……。

 やっぱり、奴隷を雇うとか考えるんじゃなかったかなぁ。

 思わず大きなため息をついてしまった。

 

「お待たせしました。最後の戦奴隷の希望者を連れてきました」

 

 しばらく経った後、奴隷商人が違う少女を連れて部屋に入ってくる。

 

 おや?

 

 彼女を初めて見て思ったのは、黒。

 他の人達にはいなかった黒髪に黒い瞳。

 そして、黒耳に黒い尻尾という全身黒づくめの少女。

 もしかして、ここまで黒を強調した人は、この世界に来てから初めてではないのだろうか。

 

「こちらの少女なのですが、名前はおそらく、アクゥア。年齢はおそらく14歳。その容姿から、おそらく猫人。迷宮には潜った経験はあるようなので、おそらく戦奴隷として雇うことができると思われます」

「なんか、おそらくが多いですね」

「実は……」

 

 奴隷商人の少女の紹介内容に、素直に疑問をもったので聞いてみると、奴隷商人は申し訳なさそうな顔をする。

 また、ワケ有り少女か?

 

『私の名前は、アクゥアと言います。って言っても、通じませんよね?』

「ん?」

 

 突然、猫耳少女が喋り出す。

 しかし、すぐに諦めたような表情で溜め息をつくが、俺がひっかかったのはそこではない。

 俺の困惑した表情を誤解したのか、奴隷商人が話し始める。


「彼女はおそらく、ここから遥か東にある島国、サクラ聖教国の出身の者かと思われます。現在、通訳できるものがいないので、詳細は分かりませんが、サクラ聖教国に商売をしに行った事がある者と会話をさせた結果、断片的に先程言った情報が判明したのです」


 なるほど。

 しかし、俺が本当に欲しい情報はそれではない。


『今喋ったのって、日本語?』


 俺がそう言った瞬間、猫耳少女が目を見開いて俺を見つめる。

 

『あれ? もしかして通じてない?』

 

 ていうか、今更ながらものすごい違和感を感じたんだが、今まで俺が普通に喋ってたのは何語?

 なんで、彼女が喋った言葉を日本語だと思った?

 意識しないと日本語が喋れないなんて、あれれ?

 

 混乱する思考に沈みそうになってると、突然俺の両手が握り締められる。

 

『私の言葉が、分かるのですかッ!?』

『え!? あ、うん。みたいだね』

 

 顔が触れるかと思わんばかりに猫耳少女は顔を俺に近づけて、目をキラキラと輝かせる。

 

『お願いします! 私をここから連れ出して下さい! お礼は何でもします! ここにいても誰も話が通じなくて、気付いたら、なぜか奴隷にされちゃって、私、私、もうどうしたら良いのか……』

 

 突然、土下座するような姿勢になって、床におでこを擦り付けんばかりの体勢で、猫耳少女にお願いをされてしまう。

 

 参ったなー。

 困惑した表情で奴隷商人に視線を移すと、熱いまなざしで目をキラキラと輝かせて、俺を見つめてくるおっさん。

 だからおっさんがやってもきめぇだけだって。


「ハヤト様。彼女の言葉が、通じるのですね?」


 嬉しそうに言うんじゃねぇよ。


『とりあえず、頭を上げて下さい。まだ、彼と話し合いをしないと、そのぉ、すぐに誰かを雇うとか、お金の関係もありますし、ねぇ?』

『お願いします! 戦うことしか能がありませんが、戦奴隷としてならお手伝いができます! 迷宮を潜るのでしたら、きっとお役に立てると思います!』


 駄目だこの人、話を聞いてくれそうに無い。

 参ったなー。

 この流れは、雇わないといけないフラグか?


『分かりました。まず一番にあなたを雇えるかどうか、彼と相談してみます。だから頭を上げて下さい』

『ありがとうございます! ありがとうございます!』


 ペコペコと何度も頭を下げられて、何とも言えない空気が部屋に流れる。

 おそらく俺達の会話は理解できてないだろうが、俺達のやりとりから何か通ずるものがあったのだろう。

 奴隷商人が嬉しそうにニコニコしている。


「彼女は戦闘能力はかなりあるようで、スラム街を解体する時に激しく暴れていた者を、見慣れない体術で抑え込んでいたそうです。戦奴隷として迷宮に潜るには、問題ないと思います」

 

 なるほど。

 戦闘は問題無しと。

 

「はあー。とりあえず、迷宮に潜るには問題なさそうですね。彼女については少し検討させて下さい」

「分かりました。アクゥア、こちらに」

 

 部屋に入ってきた時の暗い表情はどこへやら。

 ニコニコとした表情で、奴隷商人に連れられて部屋を出る猫耳少女。

 

『よろしくお願いします!』

 

 部屋を出る直前に、こちらに振り返って嬉しそうな顔で深く一礼されてしまうが、今の俺には何とも答えようがない。

 

「あ~、きっつ……」

 

 本当にきつい。

 ソファに深く腰かけて天井を見上げる。

 さて、どうしたものかね?

 とりあえず、奴隷商人には彼女達の金額から交渉を始めないと。

 

「ハヤト様、大変申し訳ないのですが、後2人ほど面会をして欲しい者がいるのですが……」

 

 出されたお茶を飲みながら部屋で待ってると、奴隷商人が他の子も紹介したいと言ってくる。

 

「戦奴隷は3人だけだったのでは?」

「ええ、まあ、そうなのですが……」

 

 どうにも歯切れが悪い。

 どうせまた碌でも無い人材なんだろう?

 これ以上、曲者を連れてきても俺には買う意思は無い!

 鋼のような意思で、断固として反対させてもらおう。

 

「実は、家内奴隷として育てていた者なのですが、本人に確認を取ったところ、戦奴隷と兼業してもかまわないと言われました。ハヤト様がこれから雇う奴隷達の面倒をみるには、ハヤト様だけでは苦労されるかと思い、こちらからせめてものお詫びの印として薦める者です。兎人と言われる種族なのですが、胸も大きく、可愛らしい女性ですよ」

「すぐに連れてきて下さい。とりあえず、面談だけでもしましょう」

 

 俺は紳士だ。

 困ってる女性がいたら見捨てられない。

 きっと彼女は訳有りなのだろう。

 家庭の事情とか、他人に言えないような不幸なことが有って、奴隷になったのだろう。

 話を聞くだけでも問題ない。

 

 もしかしたら、将来的に家を買うとかの話になった場合に、家事を手伝ってくれる必要があるかもしれない。

 家内奴隷がいたら、いろいろと役に立ちそうだしな。

 決して、可愛くて、胸が大きい、という言葉に釣られた訳では無い。

 バニーガールの衣装を着た紛い者ではなく、生の兎耳とか尻尾とかが見たいとか思った訳では無い。

 断じてない!

 

「そうですか。お優しいハヤト様であれば、きっと面談をしてくれると思いました。アイネス、入りなさい」

「はい。失礼します」

 

 ドアを開けて部屋の中に入ってくる兎耳美少女。

 こ、これは……。

 

 なるほど、確かに可愛い。

 桃色の長い髪を腰まで垂らし、その髪色に合わせたのか、ピンクと白を組み合わせたメイド服を着ている。

 更に素晴らしい事に、メイド服の胸元から強調された谷間が……。


 ぐぬぬ、なぜ完全に胸を隠さない。

 なぜ胸の上半分だけ肌を露出するデザインになっている。

 このメイド服には悪意しか感じないぞ!

 けしからん! もっとやれぃ!

 

 素敵な谷間を、つい食い入るように見てしまう。

 ふぅ……じゃなかった!?

 思わずにやけてしまいそうになった表情を、慌てて引き締める。

 

「……え、えっと。自分は戦奴隷を求めているのですが、迷宮に潜るのは問題無いですか?」

「はい、旦那様。あまり力は無いので、可能であれば魔法使いなどの後衛をさせて頂けるのであれば、特に問題は無いです」

 

 優しそうな目元と可愛らしい笑顔に、思わずほっこりとした気分になる。

 まだ雇うと決まった訳では無いが、旦那様という呼び名にも、俺の中での彼女に対する好感度がうなぎのぼりである。

 この子が台所でメイド服を来て料理をする所を想像する。

 家に帰った時に、「お帰りなさいませ、旦那様」と笑顔で出迎えてくれるのを想像する。

 さ、最高じゃないか!

 

「他に何か彼女に聞きたい事などは、ありますでしょうか?」

「いえ、戦奴隷として働いてくれる上に、家内奴隷としても働いてくれるとなると、こちらとしても大変助かります。後衛を希望と言うことですが、そちらについては前向きに検討します」

「ありがとうございます。宜しくお願いします。旦那様」

 

 ああ、素敵だ。

 もう雇うのは彼女だけでも良いじゃないかと思えてくる。

 彼女のクスクス笑う仕草と、それに合わせて頭から生えてる長い兎耳がピコピコ動くのが、また可愛らしい。

 

 彼女が部屋を退室した後、奴隷商人が笑顔で声をかけてくる。

 

「いかがでしたでしょうか? 兎人というのは容姿の良いものが多く、貴族の間でも人気の種族となっております。その容姿を気に入って、莫大な金額が付いてでも性奴隷として買おうとする貴族が多いのも特徴的です。彼女もまだ14歳という若さですが、将来的には今以上の美人となるでしょう。まだまだ成長期ですからね」

 

 あれで成長期だと。

 すでに揉み応えのある胸を装備してるのに、さらに成長するだと!

 

「彼女についてはやはり人気の兎人という事と、将来性を見込んだ金額。そして、戦奴隷と家内奴隷を兼業するということで、100万セシリルという値段をつけてます」

 

 なん……だと……。

 100万だと。あの見た目凄腕の虎人や豹人のお姉さんと同じ値段だと。

 ぐぬぬ。悩みどころだな。

 

「しかし、これから面談して頂く者との契約次第では、彼女をお安くすることも検討します」

「え? 本当ですか?」

 

 あっ、いかん。

 実は安くなるという言葉に、思わず嬉しくなって、すぐに食いついてしまった。

 さっきの兎人を買っても良いんだが、あくまで俺がしたいのは迷宮探索であり、さすがに俺と魔法使いとコンビプレイでは心もとない。

 最低でも、さっき面談した猫耳少女はセットで買ってあげたい。

 武術もできるみたいだし、自分の身を守ってもらうためにも。

 

 ていうか、そういえばもう一人面談する人がいたんだよね。

 兎人に癒されて、妄想が暴走してすっかり忘れてたよ。

 

「と、とりあえず面談だけしてみます」

 

 動揺する心を抑えつけながら、次の面談者と面談する事にする。

 しかし、あの美人の兎人が安くなる条件となる人物だ。

 間違いなく、今までの中では最高クラスの問題児だろう。

 

「では、少々お待ち下さい。すぐに呼んでまいりますので」

 

 そう言って、奴隷商人が扉に手をかけようとすると、部屋の扉がいきなり勢いよく開く。

 

「ふぎゃっ!」

 

 突然開いたドアに、盛大に顔をぶつけて悶絶する奴隷商人。

 それと同時に、部屋の中に勢いよく飛び込んできたボサボサ髪の獣耳少女。

 少女は部屋の中をキョロキョロと見渡して、俺を視界に収めると目をキラキラと光らせて、俺に向かって一言。


「あいあいあー!」


 えええええ!?

 

「あいあいあー! あいあいあー! あい、あい、あぁああああ!」

 

 何かすごいの来たぁあああ!

 

 少女は部屋に入るなり、意味不明な雄叫びをあげると、部屋の中を楽しそうな表情で縦横無尽に飛びまわる。

 くすんだ色をした灰色の髪に、頭から狐のような獣耳を生やし、お尻から生えたフサフサの尻尾を振りまわす。

 

「……」

 

 突然の状況に唖然とする俺を前に、奴隷商人が鼻から出た鼻血を布でふき取りながらソファに腰かける。

 

「彼女の名前はエルレイナ。スラム街を解体していた時に暴れていたのを捕まえたそうです。このように、人の話を聞くような子ではないため、その素性は不明。女性というのは分かってるのですが、年齢に関しては本人が回答をしないので不明です。というか、会話が成立しないことが多いので聞き出せない状況なのです」

 

 ソファに座ることすらせず、部屋の中を飛びまわる少女に奴隷商人は苦虫をつぶしたような表情で、淡々と少女についての情報を答える。

 おいおいおい。その話だと分かったのは名前と性別だけじゃないか。

 ていうか、会話が成立しないのによく名前を聞きだせたな?

 

「えっと、俺が欲しいのは迷宮で戦える戦奴隷なんですけど……」

「戦闘に関しては問題無いです。スラム街で捕まえようとした時に、奴隷達の中で最も大勢の騎士に被害を出した人物です。こちらでも、その戦闘力を生かして戦奴隷として育てようとしたのですが、我が商会にいる者たちでは怪我人を出すだけで、育てるのは不可能と判断したのです」


 言葉が通じない子供の次は、言葉が理解できない野生児かよ。

 ていうか、どんだけぇえええ?

 俺にお勧めする人材としておかしいだろ!

 

「えっと、その話を聞く限りでは、俺にはこの子を止めることはできそうに無いのですが……」


 そう俺が言うと、待ってましたとばかりに奴隷商人が書類を机の上にだす。

 内容から察するに、見積書と契約書になってるようだ。

 

「ハヤト様! そこで、お願いがあります」

 

 一度大きく奴隷商人が息を吸い込むと、捲し立てるように口を開く。

 

「本日、紹介しました奴隷ですが、牛人のアズーラを戦奴隷として40万セシリル、狼人のアカネを戦奴隷として25万セシリル、猫人のアクゥアを戦奴隷として15万セシリル、兎人のアイネスを戦奴隷兼家内奴隷として100万セシリル、たぶん狐人のエルレイナを1万セシリルという値段で、まずは見積もりを出させて頂きます」

「あいあいあー!」

 

 隣で俺の髪をひっぱり、意味不明の言葉を叫ぶ少女を無視しながら、奴隷商人が記入する金額の見積書に目を通す。

 とりあえずエルレイナを外すとして、180万セシリルか。

 雇えんな。

 悔しいが、アイネスは外すか。

 

「ただし! もし万が一にもハヤト様が、このエルレイナを含めて5人全員を買うとした場合……」

「買うとした場合?」

「あいあいあ?」

 

 奴隷商人の雰囲気から、おそらくこの厄介な子供を雇えば安くするという事だろう。

 いくらだ……。

 

「ご、50万セシリルという値段で、提供をさせて頂きます」

 

 な、なんだと!

 このあいあいあーをセットで雇えば、おっぱいバニーちゃんを雇えるだと。

 しかも、今の全財産の半額で。

 

「あいあいあー!」

 

 そうだ!

 まさに、「あいあいあー!」じゃねーか。

 ていうかうるせー!

 耳元で叫ぶな! 鼓膜が裂けるわ!


 うー、よく考えるんだぞ俺。

 これは奴隷商人の罠だ。

 そもそも、まだ解決できてないことがあるじゃないか。

 

 さっき奴隷商人はこの子について、何て言っていた?

 

『その戦闘力を生かして戦奴隷として育てようとしたのですが、我が商会にいる者たちでは怪我人を出すだけで、育てるのは不可能と判断したのです』

 

 そうだ。確かこの子は、奴隷商人達でもさじを投げる程の暴れん坊だと言っていた。

 やはり、俺にはコントロールは不可能だ。

 

「実は、此処だけの話なのですが……」

 

 俺が悩んでると奴隷商人が声を潜め、俺にだけ聞こえるように何やら語り始める。

 

「スラム街で、国の騎士が大勢でエルレイナを取り押さえたという話ですが、これは真実ではありません」

「どういうことですか?」

「実際に彼女を捕まえたのは国の騎士では無く、今日紹介しました猫人のアクゥアなのです」

「え? そうなんですか」


 それって、アクゥアは言葉が通じないけど、滅茶苦茶強いって話じゃないですか。

 

「つまり、アクゥアを含めて買っていただけますと、その暴れん坊を止める抑止力となります。どうですか?」

「その話って、本当ですか?」


 思わず俺が奴隷商人に嘘が無いかを問いかけると、奴隷商人は大きく頷く。

 うーん。そうなると、この暴れん坊さえ目を瞑れば、俺の中での厄介事がおおかた片付くな。


「奴隷商人さん!」

「ホーキンズです」

「ホーキンズさん。あなたの提案でお願いします」


 こうして俺は奴隷商人とがっしりと握手を交わし、交渉を無事成立させ、5人の奴隷達を雇うことになった。


(Illustration:chro様)

挿絵(By みてみん)


『兎耳美少女 アイネス』


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