ヤンデレ妹のシゲキ
「お兄ちゃんいつ式をあげよっか」
「ねぼけてんじゃないぞ妹よ」
夕食を食べながら呆れるほど続けてきた日常会話が始まる。俺は毎日軽くあしらっているが、しかしこの妹は懲りない。
「え……でももうできちゃったし」
「お前と交わった覚えは一度足りともない」
まったく毎回毎回よく嘘が思いつくものだな。
「うふふ、実はね。お兄ちゃんのゴミ箱からちょちょいとティッシュをね……」
ブーーーーッ!!
俺は思わず含んでいた味噌汁を吹き出す。目の前にいる妹に思いっきりぶちまけてしまった。
「お、お前なにやってるんだよ!」
「えへへ、嘘だよお兄ちゃん、でも今、私けがされちゃったね! 責任とってよね!」
「いや、すぐ拭いてやる、だから喋るな騒ぐな1ミリも動くな」
俺はすぐ妹を拭いてやる。それはもちろん放って置くと何をしでかすかわからないからだ。
「いや……お兄ちゃん変な所さわったでしょ。感じちゃうよ」
「いやいやいや、俺は今お前の髪の毛を拭いてるだけだろ! お前の性感帯は髪の毛かっ!」
ペシッと頭を叩く。そうすると嬉しそうにニヤニヤする妹。
「いやーん、お兄ちゃんにセクハラされちゃったー」
まったく……どうしようもない妹だ。
「それじゃこの婚姻届にサインしてね」
「それじゃじゃねーし! てかなんで婚姻届なんて持ってるんだよ」
覗きこんだが本物のようだ、しっかり二人の名前が書いてあってあとはもうサインするだけとなっていた。
「いや、だってできちゃったって言ったじゃない」
そういってお腹をポンポンする妹。
……いや……マジで?
ありえないだろ? そうでしょう?
「毎日お兄ちゃんの部屋はチェックしてるからね、抜かりはないよ」
「抜かりはないよじゃねーよ! 本当なのか? マジなのか? てか嘘だと言ってくれ本当に」
俺はもうパニックに陥っていた。
もし本当だとしたら、俺は妹に手をだしたド変態として名が知られてしまうことになる。親にもなんていえばいいのだろうか。目の前が真っ暗だ。
「お兄ちゃん、安心して、私がんばって元気な赤ちゃん産むから」
「ああ……もうどうにでもなれ」
「えっ! 本当? じゃあこれから本当に赤ちゃん作ろっか」
「ってやっぱり嘘だったんかーい!」
俺は思いっきりデコピンをかましてやった。
「あー鬱だよ! お兄ちゃんの子供はできないし!」
そういってぷんすか怒る妹。
訳がわからないのはいつものことだが、今日はいつもの斜め上なくらい意味がわからない。まず怒ってる意味がわからない。
「妄想だけで妊娠したらいいのに」
なんて物騒なことをいっているのだろうか。そんな事になったら世界中おおごとだな。
「とにかくだ、俺とお前は兄妹なんだ。お前も早く彼氏でも見つけて俺を安心させて……」
「やだ」
即答だった。てか俺が言い終わる前に否定しやがった。
「なに? 私が邪魔なの? そんなにお兄ちゃんがしてるときに聞き耳立ててるのが嫌なの!!?」
「嫌だよ! てか何してくれてるんだよお前は! つーか聞かれてたのかよ恥ずかしいいぃぃぃぃ! 穴があったら入りてぇぇぇぇ!!」
「うん、いいよ、私の……」
「わかったいい、それ以上は言うな」
危ない発言は即シャットダウンだ。
「てかお前……俺の部屋に盗聴器とかは仕掛けてないよな?」
「うん、盗聴器『は』仕掛けてないよ」
ん? なんか引っかかるな。
「盗聴器『は』って……違うのはあるのか?」
俺がたずねると妹は目をそらして、
「さて、洗い物しないとね! おっにいちゃんのぉ~箸ぃぃ~♪」
「まて、あからさまに話をそらすな、てかその歌はなんだ、てか箸をどうする気だ!」
もういろいろツッコミが間に合わない。
疲れてきた。
もうこうなったら話さないだろう。となれば最後の手段だ。
「妹よ、交換条件だ。俺の部屋に仕掛けてあるのを教えるならば、今日一緒に風呂入ってもいいぞ」
俺がそう言うと、妹は振り返り満面の笑みで、
「プレゼントであげた人形の中に隠しカメラがあるの」
俺はすぐさまその人形を捨てた。
「あぁぁ、お兄ちゃん気持ちいいよぉ」
「変な声を上げるんじゃありません、ただ風呂に入ってるだけだろうが!」
「だって本当に気持ちいいんだもん」
約束は約束だ。俺たちは今一緒に風呂に入っている。
子供のころはよく一緒に入っていたんだ! 今更どうということもない! そう言い聞かせる。想像しろ……想像するんだ! 目の前にいるのはあの頃の妹だ。
しかしあまり見ない間にいろいろ成長しやがって……
くぅ、邪念が!
俺が悶々としていると、
「お兄ちゃん! 立った! 立ったよ!」
――――えっ!
まじで? ありえない! こんなに邪念を払っていたのに!
「ほら! このフィギュア凄いバランスで湯の上に立ってるよーすごいね」
「まぎらわしいわーーーー!」
二度と一緒に入るもんかと俺は誓うのであった。




