表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

第六話

暗黒。


静寂。


それから、少しあって、遥か彼方に僅かな光が見えた。それにどんどん接近してゆく。

そして、ものすごい勢いで光に突入した。

広瀬は身ぶるいした。突然、電気が体じゅうを走りぬけ、全身を痙攣させた。

次の瞬間、空気が変わった。唐突に、自分の身体そのものが、それを鮮烈に体感した。

心臓の鼓動。骨格を包み込む肉体。それを下向きに引っ張る重力。足にかかる自分の

重み。刹那、吐き気のするような激しい頭痛に見舞われたが、感じた頃には、激しい頭痛

は去った。


強烈だが、どこか懐かしい。浅緑の光が全身をつつみこんだ。顔をしかめ、まばたきをする。

気がつくと、空と陽光の下に立っていた。

肌で、ひんやりとした空気を感じる。少し湿度が高い。周りをみると、うっそうと茂った木々

が、高々と天に突き出している。それによって、太陽の光が、心地よい程度に遮られて

いた。

俺は生まれ変わったはずだ。なぜこんな所にいるのだろうか。

近くで何か音がした。人の声のようだ。その方向に顔を向ける。誰かが木に寄りかかっていた。

「何か…食べ物を…。そこの…竜人…」

簡素ではあるが、体に甲冑をまとっている。どうやら兵士のようだ。傍らには剣のような

ものが置いてある。

「ん?竜人?」

周りには、こいつと俺以外、人のいる気配はない。

どうやら俺のことを言っているようだ。

体の感覚が完全にもどった。

腕を見ると、そこには柔らかい肌色の皮膚は無く、代わりに、

鋼のように重厚で、薄く蒼味がかった、白銀の鱗があった。指の爪は、墨色がかった鉤爪

へと変化している。

腹部は、その部分だけは他と違った風合いの、白い鱗が覆っている。その鱗は、股間から伸びる尻尾へと続いていた。そこから来る感覚は未知のもので、骨盤を、何も

していないのに揉まれているような感じだ。

そして、顔に手をやる。同じく堅い鱗に覆われていた。上下の顎は前へ突き出し、

鼻孔は上顎の先端へと移動している。耳は、その位置と形を変え、人のそれよりも良く音を拾い、不完全な掴みどころの無い音でさえはっきりと聴こえる。

ここで、眉間より少し上のあたりからまっすぐに伸びるもの、角があることに気がついた。

多少重さを感じるが、気になる程ではない。

西洋竜の特徴とも云える、背中に生える翼が、自分の肩甲骨のあたりにもあった。

身の丈の二倍はあろうかという程巨大で、しなやかだ。だが、動かそうと思っても、全く

制御しきれない。それでも、人間だった時よりも身長が高くなり、かなり筋肉がついている

のだが。

変わり果てた自分の身体。これが現実だとは受け入れ難かった。完全に、人間として

生まれ変わると思っていたので―そもそも、竜人が存在している事自体、とても信じられ

ない。

目の前の兵士は、たべものをくれと言ったが、今、そんなものを持っているはずがない。

とにかく近づいてみることにした。兵士の方も、立っていそいそと歩み寄ってきて、こちら

へ腕をのばした。いきなり俺の腕をわし掴みにし―驚くほどの腕力だった―俺の体を

地面にねじ伏せた。兵士の喉から、甲高い笑い声がほとばしった。そのまま馬乗りになって、鞘から剣を抜く。

「かかったな!まぬけな若僧が!」

そう呟きながら剣を振りかぶった。

よく見ると、後ろの方に2人―仲間だろう、こちらをしっかりと見ている。

どうしていいかわからず、大声で助けを呼ぶ。声をふりしぼって、思い切り叫んだ。

兵士は、思いがけない反応に、きょとんとして剣をおろした。が、すぐにまた、剣を振り上げる。その刹那、すさまじい速さで、何かがこちらに飛んでくる。それが何であるのか、すぐに分かった。竜人が―深紅の鱗をまとった竜人が剣を手に、

それを、まだ気づいていない兵士に向け、大きくひと薙ぎした。兵士の首が鮮血を散らし

ながら高々と宙を舞う。首を失った胴体は、血を噴き出しながら倒れはじめる。白銀の鱗

は、大量の血飛沫を浴び朱に染まった。

死体を押しのけて立ち上がると、深紅の竜人が地に降り、こちらへ近づいてくる。

「この森は野盗が多いから気をつけろって…まあ、その様子じゃ知らなかったみたいだな」


「あ、危なかったぁ…」

緊張が解け、深くため息ををつく。

「とにかく、この森を出たかったら俺について来るんだな。結構すぐだから、歩いて行くか。

聞きたいこともあるしな…色々と。」

そう言うと、すぐに歩き出した。このまま一人でいても、ここから出れそうにないので、とにかくついて行くことに決めた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ