第五話
「広瀬くんの案内人だってことは話したけど、君と私の関係についてはほとんどはなしてなかった。それで…」
一旦、言葉を切った。
「広瀬くんの前世なんだな、私は。」
「…」
しばらく沈黙が続いた。
「案内人は、その対象の前世が行う仕事なんだ。
人が死ぬと、普通は生まれ変わることになるんだけど、たまーにだけど、私のように、案内人としてこの世界に留まることができるようになる。どういうやって決まる
のかは分からないけど。」
始めは、彼の言っていることの意味がよく分からなかった。
生きていた頃は、そう云う話には全く興味が無かったし、もちろん、自分に前世がいたなんて思ってもいなかった。
しかし、目の前の男は、自分が俺の前世だと言っている。
そこで、彼の話の、一つの矛盾に気が付いた。
なぜ、前世が―彼がここにいるのに俺が存在するんだ。
やはり、彼は、俺が考えていることが分かるようだ。
「それか。そのことは、あまり気にしないほうがいいんだけど、一応説明しよう。
簡潔に言うと、私が案内人になったのは、ここと違う宇宙でのことだ。そして、この宇宙だと、私は生まれ変わった事になっている。だから君がいるんだ。宇宙は絶えず分岐してるからね。」
とりあえず、なんとなくだが分かった気がする。しかし、そんなことは、もう、どうでもよくなった。
今までの話からすると、俺は、生まれ変わる方の人のようだ。
「そう。君は生まれ変わるんだ。」
「今すぐに?」
俺の質問に対して、彼はうなずいてみせた。
「最後に一つだけ質問。神を信じますか?」
突然の質問。
「信じない。もしいたら、俺が死なずに済んだかもな。」
「ああ、そうかもね。」
その声が聞こえた瞬間、体が沈みだした。心臓の拍動のリズムが速くなる。
周囲は、一面の暗黒に包まれた。そして、虚無。
絶対の暗黒だ。
だが、そのなかでも、自分の身体が下へ沈んでいくのが見える。
そして、身体の感覚が無くなる。奇妙な感覚にとらわれた。
分からない、が、何かが自分の身体で起こっているのは確実だ。
その刹那、絶叫にも似た凄まじい音が耳をつんざいた。
そして、静寂。
完全なる闇。
虚無。
本当は死ぬはずでは無かったのですが。