第四話
俺は今、案内人と名乗った男の家に向かっている。
案内人の歩行速度がかなり速く、ついて行くだけでもかなり大変だ。
そこまで急いで行く必要があるのだろうか。
彼が言うには、その家が結構離れた場所にあるようで、それでいて今急がないと駄目なのだそうだ。なぜ駄目なのかについては、彼は何も言わなかった。
それに、ここに来た直後は全く気づかなかったが、どうやらこの世界には、昼と夜の区別があるようだ。その証拠に、数分前までこの世界には光があふれていた
が、さっきから、急速に光量を減らしてきている。彼に理由を聞くと、多分、こうなった方がよく眠れるからだ、と言われた。答えになってないが、あまり気にしない。
歩き続けて30分ほど経っただろうか。突然、彼が歩くのをやめた。
「そろそろ暗くなってきたし、疲れただろうから…」
一度言葉を区切った。
「飛びますか。」
頭の上に無数の疑問符が生まれた気がする。
「太郎君、飛べる?」
太郎はかぶりを振った。
「この世界は、やろうと思えば何でもできるから」
予想もしなかった展開に驚きつつ、太郎は言う。
「そんなこと言ったって、さっき来たばかりなんだぞ、俺」
少し間を置いて、
「じゃあ、私の腕に掴まって」
やはりそうきたか。と、太郎は思った。
とりあえず、案内人の腕をがっちり掴む。結構筋肉質な腕だ。
案内人も太郎の腕をしっかりと掴んだ。
案内人が、ゆっくりと深呼吸し、跳ぶ。
「速っ!…」
ジャンプした瞬間、振りおとされそうになったが、どうにか持ちこたえる。
もっとゆっくりと飛ぶものだと思っていたが、実際はまったく違った。
息ができなくなるほどの風圧がかかる。
「さっき言ったことを思い出すんだ。自分が呼吸ができるような環境をイメージするといいよ。」
これは、どうにかイメージできた。言われたとおり、かなり呼吸が楽になった。
冥々たる漆黒の中、空気を裂く音だけが聴こえる。
もう光は一切存在しない。
彼が先に着地した。自分は足ではなく尻で着地。
「ほら、着いたよ」
そう言われて顔を上げたが、何も見えない。辺りを見回すが、やはり何も見えない。
すると、目の前の空間が―ドアが開いた。それから、中に入った。
中は結構広く、中央には簡素なつくりのテーブルに椅子が四つ。床から天井まで色は白系のもので統一されている。
「着いて早々で悪いが、重要な話があるから真ん中の椅子に座ってくれ」
そう促され、言われたとおり椅子に座った。
「早速聞くけど、自分が死んだってことは解るよね?」
あの映像が本当なら、そうなんだろうと考え、首を縦に振る。
それから彼は、この世界が何か、簡単に説明すると言った。
そこで、ここは、現世で死んだ生命の意識、の存在する場所、要するに死後の世界
といわれる場所であること。この世界と現世は互いに干渉することは無い、ということを言われた。
「やっぱり、未練はあるよね?」
それは、もちろんそうだ。特に、友達や家族がどうしているか、心配で気になってしかたがない。
「でも、ここにいるということは、それほど大きな未練を抱えてるわけじゃないね。」
実際、そうだ。未練があっても何かが変わるわけでもないから。この世界に来てから、極力そのことは考えないようにしていた。
「ん?ここにいるということは、ってどういう意味なんだ」
「未練が大きすぎる者は、ここじゃなくて、もう一つの世界にいってしまう、という事さ」
それに続けて、
「その世界はここと違って、現世とまったく同質なんだ。そして、現世とは互いに干渉もする。
けど、「同一」ではない。干渉するといっても、現世では一部の人しか分からないくらい
小さなことだ。その例が、霊現象さ。」
生者が知ることのできない秘密を知った。多少の優越感のようなものを覚えたが、
それには何の意味も無い。
「あ、そうだ。私が何なのか詳しく言ってなかったね。」
そういえば、そうだ。この人物が何者なのか、以前から気になっていた。
少し長くなりました。あまり意味はありませんが。