第三話
ふいに、今まで立っていた足場が消え、落下した。
パニックになり、自分がどうなったのか理解できなくなる。
なおも落下を続ける自分の体。
ここはどこなんだ。俺は一体、どうなってしまったのだろう。
自問自答しているとパニックはおさまった。
今、落下し続けているこの場所、まっさらで、限りなく澄んでいて、距離感が無く、不思議な感覚だ。光が満ちあふれており、かなりまぶしい。それでいて、風圧で喉や胸を圧迫されるせいか、息も苦しい。
今の姿勢を保っているのが辛くなってきた。
そう思った時、体が落下するのをやめ、空中で静止した。体勢を立て直して、これまでの
状況を整理しようとした瞬間、目の前がひらけ―スクリーン上に映像を映したような感じに
なった。映し出された映像―空中からの視点で映し出されるその光景は、一人の人間が
大きめのトラックから轢かれる瞬間のものだ。その人間が、広瀬太郎―自分自身であるこ
に気がつくのに、時間はかからなかった。
トラックは10メートルほどさきに停車した。ドアが開き、青ざめた顔の運転手が出てくる。
自分の、無残な姿をさらけだす体の近くには、親友の夕太が立っている。
これで解った。完全に思い出した。
俺はあの時、あまり頭が冴えてなかったこともあって、自分で気づかないまま道路に
でてしまった。そして、夕太の叫んだ瞬間―その時にはもう俺のギリギリ真横にまでトラックがきていて、そのままはねられたてしまった。
「はぁ…」
広瀬は嘆息した。
「まさか、俺が死ぬとは…」
込みあげてくる絶望。
「ここへ来た、人はみんなそう言うんですよ」
後ろの方から聴こえたため、即座に振り向いた。
そこには、50代とおぼしき長身のおっさんが、こちらを向き、微笑みながら接近してくる
ところだった。
「あ、今50代って思いましたね。」
当たり。
「はぁ」
とりあえず適当に返事をする。
「別に、年齢なんてどうでもいいんですけど、私はまだ49歳ですから。」
正直、少しうっとうしいとは思ったが、それよりも、自分以外に人がいたことに対しての
圧倒的な安心感が、そんな思いを消し去った。
その後彼は、自らをガイド―案内人と名のり、自分に付いてくるように言った。
しかし、それ以上は語ろうとはしなかったため、妙な安心感も
あって、よくわからないままだがついて行くことにした。
長くなりそうな気がしてきました><;