第二話
今時、「太郎」なんて、全く変哲のない名前、否、それが逆に個性とも
いえるが…。それでも、周りからは、「あだ名がわからない」云々いわれる
こともある。両親は一体、何を思い、この名を付けたのか。以前から理解し
かねていた。
それが多少、広瀬太郎のコンプレックスになっていたのを、知ってか知らずか、
親友の三浦夕太は、彼のことを「広瀬」と、名字で呼んでいた。
「なあ、広瀬」
「ん、何だ?」
「今から走らないと間に合わないんじゃなかったのか?」
夕太がたずねる。
「ああ…」
生返事。
「ああ、じゃないだろ。走るぞ!」
少々、焦った様子で広瀬を促す。
「うむ…」
二人は駆けだす。
もう、道には二人以外の学生の姿はない。
二人は息を切らしながら疾駆している。
途中、道路を横断しようとした時、車からはねられそうになったが、なんとか到着。そして、沈黙。
いつもなら開いている校門だが、この時ばかりは、侵入者を迎えるがごとく、
固く閉ざされている。
「間に合わなかったか…。」
夕太が落胆して言う。
「よくある事だろ?そこまで落ち込むなって」
慣れた様子で、軽く答える広瀬。
「とにかく、行くぞ」
広瀬は教室に向かっている。
途中の廊下で、担任と八合わせしてしまった。
いまのところ五分遅刻。だが、何も言われなかった。元々、こういう事には関わってくれないタイプらしいのだが、それでも、
初めて遅刻した時は、愕然とした表情をしていたのを憶えている。
教室には誰もいない。
荷物をロッカーへぶち込む。二人は体育館へ急いだ。
校長の話が、単調な音の連続に思えてくる。広瀬はその顔を凝視していた。
そうでもしない限り、集中をたもっていられない。
途中、幾度となく意識が飛びそうになったが、どうにか最後まで持ちこたえた。
正午を過ぎ、広瀬たちはもう学校から出ていた。
今日は特に予定も無いので、まっすぐ家へ向かう。
家と学校は、川を一つ隔ててほぼ向かい合っている。走って行けば五分もかからない
のだが、そこからくる安心感が裏目に出てしまい、家をでるのはいつもギリギリになってしまう。そのため、いつも全力疾走で通学する。
学校側の道路が国道になっていて、交通量もそれなりに多い。今朝も車列の切れ目
を見計らって渡った。そのときも轢かれそうになったが、高校に入ってから、よくそんなことがある。いままで轢かれなかったのがおかしいくらいだ。
「今日も暇だなぁ」
正直、この高校に入った事を後悔している。
中学時代、周りから「百点先生」と、もてはやされるほど好成績だったこともあって、
当時の担任から薦められた、この地域で一番の進学校、さっきまでいたあの高校
に入学した。もちろん推薦で。
ここまでは良かったのだが、入学してからは、ただ、与えられた課題をこなすだけ。
一般的にはそれで良いのかも知れないが、やはり、どうしても何かが足りない気が
する。
それはともかく、今日はやけに頭が冴えない。どうしたものか。昨日は特に遅くまで
起きていたわけでもない。
「おいっ!危ないぞ!」
何だ、いきなり。
「あ…」
声を出す余裕も無かった。
右側30センチにトラック、か?
完全に思考が停止し、蛇と対峙した蛙の様に立ちつくす。
こうなってしまったら、もう、力に身を任せてやるしかない。
痛みは無い。脳は、電気信号が伝わる前に、機能を停止させている。
誤字脱字に加えて、展開にかなりの無理がありますがあまり気にしないで下さい。
主人公のお名前は、ただネタが無かっただけです><;