第2話:家族の香りに解き放たれて
「初めまして…ナカオ タカヒコです。これからお世話になります。よろしく。」
静かにタカヒコは淡々と言った。
1999年4月5日正午頃、タカヒコは三重県鈴鹿市にある孤児院
「タンポポ」
に預けられた。タカヒコは一人っ子で、両親は麻薬密売のディーラーと呼ばれる仕事をしていた。両親はまだタカヒコが幼いうちから自分達の仕事の内容を真剣に話した。両親はタカヒコを心から愛し、タカヒコも両親を心から愛していた。
しかし1998年5月8日、タカヒコの父親が取引していたヤクザとトラブルを起こし殺された。タカヒコの目の前で。ヤクザはタカヒコのほうを見て薄気味笑いをして、こう言い残し去って行った。
「僕は天竜会直系藤本組の藤本清太郎だ。僕を殺したいだろ?だったらいつでも殺しに来い。僕はいつでも待ってるよ。もし覚えていたら必ず俺を殺しに来いよ。」
当時タカヒコ8歳の頃だった。
警察はタカヒコに事情聴取したが、タカヒコは何も言わなかった。その後タカヒコは父親の母に預けられたが、1999年3月25日に他界してしまい、孤児院に預けられたのだ。
「こんにちは、タカヒコ君。今日から先生と他の子達と暮らすんやけど、大丈夫かな?」
タンポポに勤める藤本茜がそう言った。タカヒコは藤本の甘酢っぱい香水に不快感を思いながら言った。
「はい。僕は大丈夫です。」
藤本はタカヒコを仲良し教室と書かれた部屋に連れて行った。その部屋には一歳児から8歳までの子供が12人いた。タカヒコの額から異常なくらい汗が流れ始めた。ザワザワし始める教室。その声を聞いてタカヒコはまた緊張と不安で押し潰される気分になった。それを察知した藤本は大声で言った。
「はーい!静かにして!今日から新しいお友達が入りました。ナカオ タカヒコ君です。みんな仲良くしてあげてな。じゃ、タカヒコ君も一言お願い。」
タカヒコは必死で流れ落ちる汗を腕で拭いながら言った。
「初めまして。今日からタンポポで住む事になった、タカヒコです。仲良くしてください。」
すると子供達が拍手し始めた。タカヒコは無償に嬉しい気分になり、無意識に笑顔になっていった。
その日の夜タカヒコは藤本の部屋に行き、聞きたかった事を聞いた。
「先生。僕の父さん、母さんの事知ってる?」
藤本は暗い表情を浮かべ、首を縦に振った。タカヒコは目に涙を浮かべ、藤本にこう言った。
「先生を母さんって思っていいの?」
藤本も涙を流し、タカヒコを優しく抱きしめた。
「先生、タカヒコ君のお母さんに近づけるように頑張るからタカヒコ君も一緒に頑張って行こうね」




