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第三話 ラブコールの宛先は、深海の王子様?

……失敗した。

久々に訪れたフロレスタの情勢をこの目で確かめようと、お忍びで上陸したのが間違いだった。

燦々と照りつける太陽。ここは相変わらず地獄のような場所だ。

我らマリナリスの民にとって、水のない陸は死地も同然。約五百年の同盟の間、一族がこの地を避け続けてきた理由だ。

だが、僕は次期国王だ。民と海を愛する生き物を守る責務がある。……そう自負していたのだが。

(意識が、遠のく……)

焼けるような渇きの中、僕は砂浜に沈み、意識を失った。

どのくらいの時間が経っただろう…。

いつのまにか、灼熱の太陽は沈み、現れたのは

眩く輝く満月。

その時、朦朧とする意識の隙間に、その人は現れたのだ。

月光に照らされ、夜空を溶かしたように輝く群青の髪。

心配そうに僕を覗き込む、潤んだアメジストの瞳。

そして、唇に触れる、ひんやりとした水の甘み。

ああ、彼女は僕を救いに来てくれた「海の女神」に違いない。

(……忘れない。僕が初めて捧げた、この熱い口づけを)

走り去るその後ろ姿を見送りながら、僕は確信した。

女神様。君こそが、僕の運命の人だ。


****


「ふぁ~あ……それにしても、あんな波打ち際に美男子が日干しになりかけていたなんて、びっくり仰天ですわ!」

自室のベッドにダイブし、私はゴロゴロとのたうち回る。

「でも、息を吹き返してくれて本当に良かった! 美男子は世界を救う! きっと何か徳を積めたはずですわ、ご利益に期待!」

当の本人は、あの日干し美形が『海・陸・空のラプソディ』不動の人気を誇るサブヒーロー、オーシャノス・ネプチューン・マリナリス殿下だとは、一ミリも気づいていなかった。

「よし! この勢いでスカイフォール様の心もゲットよ! 作戦を立てましょう!」

私は鼻息荒く、前世で読み漁った攻略本(知識)を総動員した。

「定番は『香り袋』に『手作りお守り』! 香りは本能をくすぐると言いますし、私の愛用しているラベンダーで癒やしをお届けする作戦ですわ!」

徹夜で刺繍を刺し、エリアル王国の象徴である鷲の紋章を入れる。

「仕上げは、恋愛成就のローズクォーツ! 満月の光をチャージして……あの方に想いが届きますように……!」

翌朝。

私はパンパンのクマを化粧で隠し、稽古中のスカイフォール様に突撃した。

「スカイフォール様! ラベンダーの香り袋を作りましたの! ぜひ日頃の疲れを癒やしてくださいませ!」

だが差し出した私の手は、無慈悲に払われた。

「……妃教育をサボって、何をしている」

氷のような声。地面に転がり、泥にまみれる香り袋。

「目障りだ。香り袋なら、アリシアからマグノリアの香りをもらった。それで十分だ。お前のような濁った香りは必要ない」

「あ……」

「アリシアはもう街へ傷の手当てに出かけたぞ。お前も少しは見習ったらどうだ?」

……一蹴。どころか、フルスイングで場外ホームランを食らった気分だ。

鼻を鳴らして去っていく推しの背中を見送りながら、私はポロポロと涙をこぼした。

「……せっかく、心を込めて作ったのに。また届きませんでしたわ……」

割れたローズクォーツと、汚れ果てたラベンダー。

悲しみに暮れる私の元に、スッと長い影が差した。

「……これ、僕に譲ってくれないかな?」

「……えっ?」

顔を上げると、そこには琥珀色の瞳を細めた絶世の美男子。

(ななななな、なんで!? ここにオーシャノス殿下がいるの!?ゲームじゃセレスティアラと殿下の接点なんて、塩分濃度ゼロの真水くらい無かったはずよ!?)

「地面で汚れましたし、そのような……っ。もしよろしければ、新しいものを作ってお渡ししましょうか?」

思わず口走った私に、殿下はガシッと両手を握りしめて詰め寄ってきた。

「僕のために作ってくれるの? 嬉しいな! ありがとう、女神様!」

(……ち、近い! オーシャノス殿下、なんか距離感バグってません!? 初対面のはずですよね!?)

戸惑う私の手を離さず、オーシャノス殿下はとろけるような笑みを浮かべていた。


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