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第三十三話 深海の戴冠式。永遠の蒼に誓う

数週間の月日が流れ、マリナマスにはかつてないほどの穏やかで清らかな潮が満ちていた。

セレスティアラの献身的な看病のおかげで、オーシャノスの重傷だった傷は跡形もなく消え去っている。しかし、セレスティアラの白い背中には、あの日受けた矢の傷が、細く白い線となって残ってしまった。

鏡の前で身支度をするたび、それを見つけたオーシャノスの剣幕は凄まじい。

「僕の傷はこんなに綺麗に消えたのに……。どうして君のだけが残るんだ! やはり、君を傷つけたあの騎士を一度海の底へ沈めて、深海の重圧を味あわせないと気が済まない!」

憤慨して拳を握りしめる彼を見て、セレスティアラは可笑しそうに、けれど愛おしそうに笑う。

「そんなに怒らないでくださいまし。普通、傷のある女子は殿方に嫌がられると言いますが……シャノ様は嫌がるどころか、この傷跡さえ私の一部として愛してくださる。それが、私はすごく嬉しいのですわ」

「当たり前だよ、ティア。君の全てが、その傷跡さえも、僕を守ろうとしてくれた誇り高い証だ。愛おしくて、片時も離したくないくらいなんだから」

そう言って、オーシャノスは背後から彼女を包み込み、傷跡をなぞるように熱い口づけを落とした。

***

そして今日。マリナマスの王宮は、七色の真珠と発光サンゴで彩られ、幻想的な輝きに包まれていた。

全魚人たちが歓喜の声を上げる中、オーシャノスとセレスティアラの婚儀、そして戴冠式が執り行われる。

セレスティアラが纏うのは、海国の秘宝『星屑の鱗紗』で編まれた純白のドレス。彼女が動くたびに、ドレスは波紋のように美しく煌めく。隣に立つオーシャノスは、漆黒の王衣に身を包み、その琥珀色の瞳は一秒たりとも愛する妃から逸らされることはなかった。

「……綺麗だ、ティア。宇宙のどんな宝石も、今の君の輝きには敵わない」

大勢の参列者の前だというのに、オーシャノスは隠そうともせず、セレスティアラの手をとり、指先に、手の甲に、そして腕にと、幾度も熱烈なキスを捧げる。その溺愛ぶりに、カスピアンが「殿下、式の間くらいは自重を……」と小声で嗜めるが、オーシャノスはどこ吹く風だ。

王冠が二人の頭上に戴かれ、ついに新しい王と王妃が誕生した瞬間、海全体が祝福の歌に震えた。

「僕の王妃。僕の愛しいセレスティアラ。……世界で一番、いや、永遠の時をかけても足りないくらい、君を愛しているよ」

オーシャノスは彼女の腰を抱き寄せると、誰に遠慮することもなく、深く、甘い誓いの接吻を交わした。

「私も、愛しておりますわ。シャノ様……私の、愛する海王様」

かつて陸で「悪女」と蔑まれ、絶望の淵にいた少女は、今、深い海の底で世界一幸せな「女神」となった。

二人の愛は、寄せ返す波のように途切れることなく。

永遠に続く蒼い世界で、二人は寄り添いながら、幸福な歴史を刻み続けていく。

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