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第二十六話 女神の逆鱗。愛を奪還する悪女

「おねえちゃん……! 助けて、助けて……っ!」

泣き叫びながら王宮へ駆け込んできたのは、一人の小さな魚人の子供だった。その腕には無惨な切り傷があり、青い血が滲んでいる。

「落ち着いて……大丈夫よ、まずは手当てをしましょう」

セレスティアラが震える子供を抱き寄せ、優しく傷口に触れる。淡い光と共に傷は癒えていくが、子供の涙は止まらない。

「僕の……僕のせいで……シャノ兄ちゃんが……っ!」

その言葉に、セレスティアラの心臓が大きく跳ねた。

「えっ? シャノ様に……何があったの?」

子供は嗚咽を漏らしながら、断片的に何が起きたかを話してくれた。自分の身代わりになって銀色のモリに貫かれたこと。そのまま網に引き揚げられ、連れ去られてしまったこと……。

セレスティアラは子供を侍女に預けると、静かに立ち上がった。その瞳からは既に温度が消えていた。

(話を聞く限り、シャノ様が人魚だとバレた可能性が高いわ。……こんな深海深くまで来られる魔法騎士団を動かせるのはただ一人。アリシア、貴方しかいない。……でも、アリシアならシャノ様を簡単に殺したりはしないはず。ならば、まだ間に合う!)

彼女は自分の中に眠る、強大な「女神の加護」が怒りに応えて脈打つのを感じた。

(アリシア姫。首を洗って待ってなさい? 貴方が言う『悪女』の本気を、たっぷりと思い知らせてあげるわ)

***

セレスティアラは国中の子供たちを王宮の最深部へ避難させると、カスピアンを呼び寄せた。彼にだけ事実を伝え、単身での奪還を決意する。

「なりませぬ! もし貴方様の身に何かあれば、それこそ殿下は正気を失って死んでしまいますぞ!」

カスピアンは必死で食い下がるが、セレスティアラの意志は揺るがなかった。

「彼はこの国の太陽よ。この国には彼がいないとダメなの! 私は、この国も彼も守ると約束したわ。……カスピアン、留守をお願いね。必ず、彼と一緒に帰ってくるから」

その凛とした眼差しに、カスピアンは深く膝をついた。

「……承知いたしました。マリナマスの守護は、この老いぼれにお任せください」

セレスティアラは王家しか知らない秘密の通路を抜け、地上へと這い出した。そこから馬を飛ばし、かつて自分が捨てられた地、フロレスタへと向かう。

変装は完璧だ。目立つ群青の髪は帽子の中に押し込み、貴族の娘の面影を消すためにわざとボロボロの古着に身を包む。庶民に紛れるのが情報を得るのに最適だと、前世の記憶が囁いていた。

フロレスタの街へ入ると、人々はある「噂」で持ち切りだった。

「聞いたか? アリシア姫が、それはそれは美しい人魚を手に入れたそうだ」

「人魚の肉を食べて不老不死になるのか?」

「いや、姫様は随分とその人魚に心酔しているらしくてね……。食べるのではなく、生きたまま『展示』するらしい」

(展示……? シャノ様を、見せ物にするというの!?)

怒りで拳を握りしめたセレスティアラの耳に、さらなる情報が飛び込んでくる。

「明後日行われるアリシア姫主催の『仮面舞踏会』で、大々的に披露されるそうだ。我々庶民も、その時だけは広場から見学していいときいたぞ」

(明後日……仮面舞踏会。……いいわ、アリシア。最高のお膳立てだわ)

セレスティアラは帽子の影から、高くそびえ立つフロレスタの城を睨みつけた。

(シャノ様を救い出すなら、そこが最初で最後のチャンス。……覚悟しなさい。愛する人を奪われた女が、どれほど残酷になれるか教えてあげる)

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