第二十四話 禁じられた尾鰭
「シャノ様、あれほど! 人の姿の時は大切なところを隠してくださいと申し上げておりますわ! なぜ毎回、生まれたままの姿なのですか!? シャノ様は裸族ですか!?」
セレスティアラは顔を真っ赤にし、両手で顔を覆いながら叫んだ。
人間の姿であっても水に浸かる習慣が抜けないオーシャノスは、風呂上がりや水浴びの後、よく「生まれたままの姿」で平然と歩き回っているのだ。
「ごめんね、ティア。だけど、人魚の時も何も身につけていないのが普通だから、これが一番楽なんだよね」
「えへへ」と笑いながら、申し訳程度に腰にタオルを巻き始めるオーシャノス。その無防備で完璧な肉体美は、セレスティアラにとって毒が強すぎる。
(もう〜〜〜!! このお方は本当に、私をドキドキさせる天才なんですの!? 私の心臓が持ちませんわ!)
「ふふ、ごめんね?」
そう言いながら、オーシャノスはタオル一枚の姿でセレスティアラをひょいと持ち上げ、自分の膝の上に座らせて抱きしめた。逞しい胸板の鼓動が直接伝わり、セレスティアラの脳内は爆発寸前だ。
そんな幸せで甘い静寂を破ったのは、血相を変えて飛び込んできたカスピアンだった。
「殿下、一大事ですぞ! 陸のネズミどもが、狂った噂を流し始めました!」
カスピアンの切迫した報告に、オーシャノスの表情が瞬時に氷点下まで凍りつく。
「『人魚の肉を食べれば不老不死になれる』……だと?」
「左様です! すでに陸では、腕利きの猟師やフロレスタの魔法騎士団が海への侵攻準備を始めております。彼らの狙いは、我ら人魚族の『肉』……一欠片でも手に入れようと、殺気立っておりますぞ!」
セレスティアラは、そのおぞましい内容に血の気が引くのを感じた。
「そんな……。どうして、そんな残酷なことが言えるのですか!? マリナマスに住む人々の命を、なんだと思っているのかしら!」
「……欲に目が眩んだ人間は、もはや獣と同じだ」
オーシャノスは震えるセレスティアラの肩を強く抱き寄せ、決然とした声で命じた。
「カスピアン、全魚人に告げろ。今日この時より、当面の間『人魚の姿になること』を一切禁じる。人間の姿であれば、奴らも見分けはつかないはずだ。それから、街の結界を最大出力に引き上げろ」
「しかし殿下、それだけでは防ぎきれませんぞ。奴らは魔法の網や、深海まで届くモリを用意しているとの情報も……!」
「分かっている。……ティア、君は絶対に僕の側を離れないで。あの女は、君をおびき寄せるために、もっと卑劣な手を使ってくるはずだ」
オーシャノスの琥珀色の瞳には、甘い愛称で呼び合っていた時とは別人のような、冷徹な王としての光が宿っていた。
愛する民を守るため、そして愛する女を狂気から守るため。
穏やかだった深海に、ついに「狩る者」と「守る者」の血生臭い戦いの幕が上がろうとしていた。




