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第二十二話 蒼き海の収穫祭。王太子の素顔と女神の微笑み

マリナマスは年に一度の『海神祭(収穫祭)』で沸き立っていた。

二人は目立たないようシンプルな服で街へと繰り出すが、オーシャノスの正体は隠しようもなかった。彼が歩くだけで周囲の海水はキラキラと浄化され、色とりどりの魚たちが歓喜して舞い踊る。

「シャノ様、見てください! 皆さん、あんなに笑顔ですわ」

街へ出ると、民たちが次々とオーシャノスに駆け寄ってきた。

「殿下! 今年も大漁ですよ!」「シャノ様、おかげで子供の病気が良くなりました!」

民たちは彼を「冷徹な王族」としてではなく、自分たちの命を繋ぐ「慈愛の兄」のように慕っている。かつて病弱だったオーシャノスがこうして立派に歩いている姿に、涙ぐむ老婆までいた。

(シャノ様は、本当にこの国の太陽なんですのね……ただの甘えん坊ではなく、この国を背負って愛されている本物の王太子。……そんな彼を、これからもずっと側で支えていきたいですわ!)

改めて彼に惚れ直すセレスティアラ。そんな中、彼女は祭りの片隅で、元気がなくなり茶色く変色したサンゴを売る店を見つける。店主は「最近、この辺りの潮の流れが悪くて……」と肩を落としていた。

「そんな……こんなに黒くなってしまって……」

セレスティアラが寂しそうにそのサンゴに触れた、その瞬間だった。

彼女の指先から溢れ出した『アビス・グレイス』の輝きがサンゴを包み込み、一瞬にして鮮やかな紅紫色へと蘇らせたのだ。

「わ、わぁっ!? サンゴが、息を吹き返した!」

「このお方は……噂の女神様だ!」

あっという間に民に囲まれるセレスティアラ。「女神様、ありがとうございます!」「この国に来てくださって嬉しい!」

温かい言葉の数々に、彼女の胸は熱くなる。

(感謝されるのって、こんなに嬉しいことなのですわね……。私でも誰かの役に立てる。ここには、私の居場所があるわ……)

愛するシャノ様がいて、楽しげな声が行き交うこの国。

(私、この国が好き。この国の人たちが。そして……彼が守るこの景色が!)

祭りの夜。二人は喧騒を離れ、静かな海中テラスで海面から差し込む月明かりを見上げていた。

すると、オーシャノスが背後からセレスティアラを抱きしめ、耳元で低く甘い文句を囁いた。

「……さっきの漁師と楽しそうに長く話しすぎだよ、ティア。嫉妬で海を荒らしそうになった」

「もう、シャノ様ったら。……でも、本当に素敵な国ですね。私、この国と、この国を愛する貴方を、ずっと守っていきたいです」

ティアの真っ直ぐな言葉に、オーシャノスは胸がいっぱいになり、彼女の肩に深く顔を埋めた。

「君がそう言ってくれるなら、僕はどんな敵からもこの国を守ってみせる。……ティア。愛してる。君のいない海なんて、僕には必要ない。死が二人を分かつまで、君を離さない」


夜の海中に、祝祭の光の玉(海の花火)が次々と打ち上がる。その幻想的な光景を背景に、二人は長く、情熱的な口づけを交わした。

だが、この時、二人はまだ知らなかった。

この幸せな光景を壊そうとする「悪意」が、すぐそこまで迫っていることを。

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