第二十一話 初めての手作り料理と、愛の隠し味
セレスティアラは、今、猛烈に張り切っていた。
オーシャノスの自室に併設されたキッチンで、彼女はフリル付きのエプロンを締め、見たこともない海国の食材と格闘している。
(いつもシャノ様には助けていただいてばかり……。今日は、私の手料理で日頃の感謝を伝えるんですの!)
メニューは、前世の知識を活かした「海鮮のクリーム煮」と「特製オムレツ」。だが、ここは深海。火の代わりに魔石の熱を使い、陸の野菜の代わりにシャキシャキとした食感の不思議な海草を刻んでいく。
そこへ、公務を終えたオーシャノスが帰ってきた。
「ただいま、ティア。……あれ、いい匂いがする」
「あ、シャノ様! お帰りなさいまし。今、夕食を作っておりますので、座って待っていてください……ひゃっ!?」
背後から、ひんやりとした、けれど心地よい体温が伝わる。オーシャノスが当然のように彼女の腰に腕を回し、肩に顎を乗せてきたのだ。
「シャ、シャノ様、危ないですわ! 今、包丁を……」
「無理。エプロン姿のティアが可愛すぎて、料理が出来上がる前に僕が君を食べてしまいそうだ。……ねえ、こっち向いて?」
「だ、ダメです! 今日は感謝を込めて作っているんですから!」
セレスティアラが顔を真っ赤にして抵抗しても、甘えん坊将軍(王太子)の勢いは止まらない。首筋に柔らかい唇が寄せられ、耳元で「愛してる」と何度も囁かれる。結局、料理が完成するまでに、通常の三倍の時間を要することになった。
ようやくテーブルに並んだ、少し形が崩れたオムレツとクリーム煮。
セレスティアラは不安そうに彼を見つめる。
「……お口に合いますでしょうか?」
オーシャノスは、まるで世界一の至宝を見るような目で料理を見つめると、一口食べてその場に固まった。
「シャノ様……? やっぱり、お口に合いませんでした……?」
「……逆だよ。美味しすぎて、心臓が止まるかと思った。ティアが僕のために、指を切りそうになりながら作ってくれた……。この皿、一生洗わずに宝物庫に保管してもいいかな?」
「それは不衛生ですのでお止めください!」
幸せそうに、一粒のソースすら残さず完食したオーシャノス。彼は食後、セレスティアラの手を優しく取り、絆創膏が貼られた指先にそっと口づけをした。
「ありがとう、ティア。君の愛が、僕の一番の栄養だよ。……お返しに、今日は僕が君をたっぷり、甘やかしてあげるからね」
そう言って、彼はセレスティアラを軽々と横抱きにし、寝室……ではなく、いつもの大きなバスタブへと連行していったのだった。




