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第十五話 現れた陸の姫。自覚する恋心

幸せそうに眠るオーシャノスの髪を、愛おしさを込めて撫でていたセレスティアラ。だが次の瞬間、視界がくるりと回り、ひょいっと力強い腕に引き寄せられた。

「……っ!?」

気づけば彼女は温かな水の中に誘われ、正面からオーシャノスにぎゅっと抱きしめられていた。

「朝から君に触れてもらえるなんて、僕はなんて幸せなんだろう。……こんなに幸せでいいのかな?」

「ふふっ……。私の存在がそこまで殿下を幸せにできているなんて、光栄ですわ」

不安げに揺れる琥珀色の瞳を見つめ、セレスティアラは彼の頬を両手でそっと包み込んだ。

「殿下、この世の者は皆、幸せになる権利があるのです。もちろん貴方様も。……あなたが幸せそうに笑ってくれるだけで、私の心もこんなに温かくなるのですから」

慈愛に満ちた彼女の笑顔。それはオーシャノスにとって、どんな深海の秘宝よりも眩しく、抗いがたい輝きだった。

「ごめん、セレスティアラ。……もう、抑えられない」

低い声が響いた直後、顎をそっと持ち上げられ、柔らかな唇が重なった。

驚きに目を見開くセレスティアラだったが、不思議と嫌な気はしなかった。それどころか、彼の優しく甘い熱に溶かされていくような感覚に、自然と腕を彼の首に回し、その熱に応えていた。

(ああ……私、本当にこの方が好きなんですのね……)

二人の甘い空間。しかし、そこに「現実」を告げる影が差す。

「おっと! 二人の仲睦まじい光景は、実に微笑ましいですな!」

「きゃああああっ!?」

カスピアンの軽快な声に、セレスティアラは顔を真っ赤にしてオーシャノスの胸に顔を伏せた。一方のオーシャノスは、邪魔をされて不機嫌そうにしつつも、満足げな顔で彼女をさらに抱き寄せる。

「……うん。今日の僕の女神様は、いつもに増して赤くなってて可愛い。毎日そばにいればいるほど、もっと好きになっちゃうな」

「殿下……っ!(そんな瞳で見つめないでくださいまし!)」

心臓が壊れそうなほど高鳴る中、セレスティアラが「私も、貴方が……」と想いを伝えようとした、その時。カスピアンが神妙な顔で告げた。

「……何やら陸の方から、きな臭い匂いがすると思えば。先ほど、国王の間へ入っていくアリシア姫を見かけまして。殿下の耳に入れておくべきかと思いましてね」

その言葉に、セレスティアラは頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。

(アリシアが、マリナマスに!? ……待って、ゲームの記憶があるわ!)

オタ友が泣きながら語っていたシーンだ。アリシアが観光でマリナマスを訪れ、彼女に片思いしていたオーシャノスが必死にもてなす。けれどアリシアの瞳にはスカイフォールしか映らず、オーシャノスの瞳が絶望で濁っていく悲劇のイベント……。

(今の殿下は私を好きでいてくれる。でも、もしゲームの強制力が働いて、殿下がまたアリシアに恋をしてしまったら……?)

一瞬、身を引くべきかという弱気が過る。けれど、すぐに彼女は首を振った。

(嫌! 奪われたくない! たとえアリアを持つ聖女が相手でも、今度ばかりは譲りたくありませんわ!!)

不安げな顔をしていたセレスティアラを、オーシャノスが心配そうに覗き込む。

「……大丈夫、セレスティアラ? 顔色が悪いよ」

「だ、大丈夫ですわ! すみません、少し考え事をしておりまして。……それで、その。殿下は、アリシア様をどうされるのですか?」

恐る恐る尋ねる彼女に、オーシャノスは至近距離で耳元に囁いた。

「どうもしないよ。僕はいつも通り、君に愛を伝えて、君を抱きしめるだけさ。……いつも通りにしているだけで、急に現れた陸の姫君の『醜い思惑』も、自ずと明らかになるだろうからね」

「???」

意味が分からず目を白黒させるセレスティアラだったが、オーシャノスの瞳に宿る冷徹なほどの自信と、自分に向けられる過剰なまでの熱に、ただ固まることしかできなかった。

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