第十一話 初デートは海中水族館で! 絶景と愛の告白
オーシャノスにエスコートされ、セレスティアラは魔法の泡(呼吸できるドーム)に包まれて海中へと繰り出した。たどり着いたのは、海国の絶景ポイント「七色の発光サンゴ礁」。
「……っ、とっても綺麗ですわ!! 海の恵みは本当にすごいですわね!」
セレスティアラは目を爛々と輝かせた。
頭上を巨大な海亀がゆったりと横切り、周囲を光り輝くクラゲや極彩色の魚たちが舞い踊る。
「全方向水族館ですわぁ~!! 前世で高いチケット代払って見ていた景色より、何万倍も贅沢ですわ!」
はしゃぐ彼女を愛おしそうに見つめていたオーシャノスの表情が、ふと真剣なものへと変わった。発光サンゴの幻想的な光が、彼の琥珀色の瞳を揺らす。
「セレスティアラ……。マリナマスがフロレスタやエリアルに比べて小国だということは知っているよね? 僕たちは魚人族、海を拠点に生きる民だ」
彼は自嘲気味に、ポツリポツリと語り出した。
「僕は、この国の王太子として民と海を守る責務がある。……けれど、僕は海の中では強くあれても、陸に上がれば何の役にも立たない王子なんだ。幼い頃から水がなければすぐに体調を崩し、身を守る術さえ身につけられなかった」
「……殿下」
「父上にはいつも厳しく叱られたよ。『お前は大切なもの一つさえ守れない、弱い王になるのか』とね。毎日、ひっそりと泣いていた。そんな僕をいつも撫でてくれたのは、母上だった。……けれど、その母上も僕が十歳の時に亡くなってしまったんだ」
オーシャノスは、そっとセレスティアラの肩に頭を乗せた。
「それからかな。全てに期待することを諦めたのは。……陸では『高貴な王太子』として見られるけれど、本当の僕は、君が思うよりずっと弱いんだよ」
(……殿下は、ずっと孤独だったのね…)
セレスティアラの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
ゲームのシナリオを思い出す。だからこそ、彼は自分を全肯定してくれる母のような「光」を求めて、アリシアに恋をしたのだ。そしてその恋に破れ、絶望の中で国ごと沈んでしまう……。
(そんなの、あんまりですわ! 殿下はこんなにも、自分を律して国を想っているのに……!)
セレスティアラは、迷わずオーシャノスをぎゅっと抱きしめた。そして、いつものように、けれどこれまでで一番優しく、その海色の髪をよしよしと撫でる。
「……ふふっ。やっぱり、君に撫でられると心が温かくなるよ。君はやっぱり僕の女神だ。……好きだよ、セレスティアラ」
真っ直ぐに向けられる、体温を持った告白。
その瞳に射抜かれた瞬間、セレスティアラの心臓が「トゥンク……!」と、今まで聞いたこともないような音を立てて跳ねた。
(……待って。オーシャノス殿下って、スカイフォール様より何億倍もいい男じゃないかしら!? 画面越しじゃなくて、今、目の前にいるこの人を……私、好きになってしまいそうですわ……!)
「よしよし。殿下は、きっと立派な王になりますわ。だって、あなたほど優しくて繊細で、国を想う方は他にいませんもの。弱くても良いのです。不慣れな陸国でも、あなたが弱音を吐かずに頑張っていたこと、私はちゃんと知っておりますわ!」
彼女の言葉に、オーシャノスの尾鰭が水中で小さく、けれど幸せそうにピチャリと跳ねた。
(頑張っている人が報われない展開なんて、私が許しません! 私、オーシャノス殿下を絶対に、三国一幸せな王太子にしてみせますわ!!それが最大の恩返しになるはずですわ!!)
鼻息荒めなセレスティアラ。
幸せな決意に満ちる海中デート。
しかしその頃、不穏な影が「空」に差していた。




