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好きですと言わないための練習会シリーズ

『好きだと言って、全部壊した日』

作者: 月見酒
掲載日:2026/01/23


『好きだと言って、全部壊した日』


「好きです」


それは本当に、ただの一言だった。


マグカップを置く音よりも小さくて、

心臓の音よりも確実で、

今まで何百回も頭の中で言ってきた言葉だった。


でも、実際に声に出した瞬間、

世界が音を立てて崩れ始めた。


「……は?」


彼女は笑っていた。

困ったみたいに、冗談みたいに。

それが致命的だった。


「ごめん、今の、何?」


聞き返された瞬間、

溜め込んでいた全部が決壊した。


「好きなんだって言ってるだろ!!」


声が大きすぎた。

店の空気が一斉にこちらを向いた。

それでも止まらなかった。


「ずっとだよ!

 ずっと我慢して!

 何も言わないで!

 いい友達のふりして!

 それで全部うまくいってる顔してたんだよ!」


彼女の表情が、

理解から拒絶に変わる。


それを見て、

さらに止まらなくなる。


「別に付き合ってほしいとかじゃない!

 いや、付き合ってほしいけど!

 でも振られてもいいし!

 ただ、知らないままなのは無理だった!」


言葉が感情に追いつかない。

感情が現実を破壊していく。


「……落ち着いて」


その一言で、

最後の理性が吹き飛んだ。


「落ち着いて!?

 何年だと思ってるんだよ!!

 練習も覚悟も全部してきたんだよ!!

 それを今、“落ち着いて”で終わらせるの!?」


涙が勝手に出てきた。

惨めで、みっともなくて、

でも止まらなかった。


周囲の視線も、

彼女の沈黙も、

全部どうでもよくなった。


「好きなんだよ!!

 好きで好きで、

 何も言わない自分が一番嫌いだった!!」


沈黙。


彼女はゆっくりと息を吐いて、

小さく首を振った。


「……ごめん」


その一言で、

世界は完全に壊れた。


椅子を引く音。

去っていく背中。

残された冷めたコーヒー。


感情は全部、使い切った。

未練も、余白も、保留も残らなかった。


ただ、胸の奥に

焼け焦げた空白だけが残った。


――ああ。


好きだと言えば、

こんなふうになるって、

ちゃんと分かっていたはずなのに。


それでも言ってしまった。


だからこれは、

恋愛じゃない。


自爆だ。


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