『好きだと言って、全部壊した日』
『好きだと言って、全部壊した日』
「好きです」
それは本当に、ただの一言だった。
マグカップを置く音よりも小さくて、
心臓の音よりも確実で、
今まで何百回も頭の中で言ってきた言葉だった。
でも、実際に声に出した瞬間、
世界が音を立てて崩れ始めた。
「……は?」
彼女は笑っていた。
困ったみたいに、冗談みたいに。
それが致命的だった。
「ごめん、今の、何?」
聞き返された瞬間、
溜め込んでいた全部が決壊した。
「好きなんだって言ってるだろ!!」
声が大きすぎた。
店の空気が一斉にこちらを向いた。
それでも止まらなかった。
「ずっとだよ!
ずっと我慢して!
何も言わないで!
いい友達のふりして!
それで全部うまくいってる顔してたんだよ!」
彼女の表情が、
理解から拒絶に変わる。
それを見て、
さらに止まらなくなる。
「別に付き合ってほしいとかじゃない!
いや、付き合ってほしいけど!
でも振られてもいいし!
ただ、知らないままなのは無理だった!」
言葉が感情に追いつかない。
感情が現実を破壊していく。
「……落ち着いて」
その一言で、
最後の理性が吹き飛んだ。
「落ち着いて!?
何年だと思ってるんだよ!!
練習も覚悟も全部してきたんだよ!!
それを今、“落ち着いて”で終わらせるの!?」
涙が勝手に出てきた。
惨めで、みっともなくて、
でも止まらなかった。
周囲の視線も、
彼女の沈黙も、
全部どうでもよくなった。
「好きなんだよ!!
好きで好きで、
何も言わない自分が一番嫌いだった!!」
沈黙。
彼女はゆっくりと息を吐いて、
小さく首を振った。
「……ごめん」
その一言で、
世界は完全に壊れた。
椅子を引く音。
去っていく背中。
残された冷めたコーヒー。
感情は全部、使い切った。
未練も、余白も、保留も残らなかった。
ただ、胸の奥に
焼け焦げた空白だけが残った。
――ああ。
好きだと言えば、
こんなふうになるって、
ちゃんと分かっていたはずなのに。
それでも言ってしまった。
だからこれは、
恋愛じゃない。
自爆だ。
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