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「いくらでお前が飼える?」
「今.............なんて?」
私の目の前に立っている高貴なお方が言うはずがない、いや、言ってはいけない言葉を口にした気がして聞き返してしまう。
「だから、いくらでお前を飼うことができるかと聞いている」
おーのー。
言ったよ。言っちゃってたんだねやっぱり。
確かに良く私は小動物っぽいと言われる。
目がまん丸くて、髪はふわふわでウェーブがかかっている。そして身長も低め。
けれどもこの国では奴隷は禁止だ。人を人とも思わない扱いをすることは禁止されている。
だから、人を飼いたいなんて言葉を言ってはいけないなんて誰もがわかっていることだし、言うはずがない。
.....ましてやこの国の公爵家の人間が知らないはずがないのに。
それをあろうことかこの方は普通に言ってしまった。
「.....婚約者に....ではなくでしょうか?」
私、サリエナ・ミュールは男爵家の娘であり、公爵家へ嫁ぐなんて身の程知らずだ。
他の公爵家であれば、だ。
ことかいてはダーウィン公爵家は魔物の多い辺境の山地にある。それは常に死と隣合わせであり、まともな令嬢なら誰も嫁ぎたくはないだろう。
だから相手が見つからず、男爵家の私をまだ妻にと言われるなら分かるが何故飼われなければならないのか理解できない。
「妻ではなく、お前を飼いたいのだ」
「....」
怖い。普通に怖すぎる。
言っていることも怖いけれど、ダリウス・ダーウィン公爵と言えば別名鬼公爵と呼ばれ、とにかく血気盛んなのだ。
魔物を相手にし、たくさんの血を浴びた状態でパーティへ参加したこともあったり、ある時はある伯爵をベランダから突き落としたとも噂されていた。
「.....申し訳ありませんが、私は人ですので飼われるのは難しいかと思います。」
「...重々承知の上で言っている」
そう言うと公爵は1枚の紙を私に差し出した。それを受け取り記載内容を見る。
1.食事は共にし、ダリウス・ダーウィンからサリエナ・ミュールに食べさせること
2.着替えは毎日ダリウス・ダーウィンが選んだものを着用すること
3.夜は共に寝ること
4.ダリウス・ダーウィンが許した時のみ外出を許可する
5.身の回りの世話はダリウス・ダーウィンに任せる事
「...これは...」
「私がお前に望むことを記してきた。」
本格的に私を飼うつもりなんだと私は記載内容を見て思った。
まず食事についてはこれは食事ではなく餌やり。私に餌やりをしたいと言っているってこと?
服も自分が選んだものを着せたい?貴族令嬢のペットのような着せ替えを私にしたいってこと?
外出の制限だって散歩か?散歩の時だけ外出が許されるとかそういう事じゃないわよね?
....信じられない...。この人、本当に私を飼いたいんだわ...。
「それで?どうしたの?断ったのよね?」
後日友人であるアイリス.トート伯爵令嬢が屋敷に来た時にその話をした。
「ははは」
私は苦笑いで目を逸らす。
「え...まさかそんなことあるわけないわよね?」
信じられないだろう。...私も信じられない。
「...この話、どこでしたと思う?」
「え?応接室でとか?まさかパーティの間とかではないでしょう?」
場所の問題ではない...。
「...父の前よ」
私の言葉にアイリスは口をあんぐり開ける。
「うそ!しんっじらんない!貴方の父親!クズだとは思ってたけどそれほどのクズだったなんて」
そう。あの話は父の前で話され、父は喜んで娘の私を差し出したのだ。
こんな常識では考えられない言葉を父の前で話したことも驚きだったが、流石の父でも娘を妻ではなく飼いたいと言われ、承諾するとは思わなかった。
そう。父は支給金額に釣れたのだ。
「来週には私、公爵家で仕える事になったわ。使用人として雇われるみたい。ははは」
遠い目をしながら私は告げた。
私が人間でいられるのはあと5日。余命宣告をされたも同然な気分だった。
「鬼公爵はサリエナのどこを気に入ったのかしらね」
「これを気に入ったと言っていいのか分からないし、どこが目に止まったのかも確かに分からない...会ったことすらない気がするもの...」
あの人は私のどこに目をつけたんだろう...。
男爵家と公爵家なんて早々会うことは滅多にないのに。
それからあっという間に時は過ぎ、私が公爵家に行く日になった。
小さな鞄を持って屋敷を出ると、目の前には立派な馬車があった。人生で乗ったことないとても高級な馬車だ。
「お迎えにあがりました。サリエナ様」
そう言った御者も今まで見た人たちの何倍も所作が綺麗だった。
「はは、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って馬車に乗り、私は地獄への道...じゃなかった...公爵家への道を走った。
辺境の地まで行くのだからそれなりに時間がかかると思っていたし、いつも乗っているような馬車を想像してお尻が痛くなることを覚悟していたが、もう本当に快適に過ごせた。全然長時間乗っていても苦じゃなかった。
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