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第5話:結婚式

続きは23時くらいにー

 帝国に到着した翌日。

 俺に与えられた休息は、たったの数時間だった。

 日の出とともに寝室に踏み込んできたマーサと帝国の侍女たちによって、俺は再び「磨き上げ」という名の拷問にかけられた。


「さあ、姫様、息を吐いて! 限界まで吐ききってください!」

「ふぐっ…む、無理、これ以上は肺が潰れ――」

「あと三センチ! 帝国の至宝である将軍閣下の隣に立つんです、カルヴァの恥を晒すわけにはいきませんわ!」

「ぐえぇぇぇ…!」


 マーサの無慈悲な掛け声と共に、背中の紐がギリギリと音を立てて引き絞られる。

 内臓が本来あるべき場所から押し出され、上の方へと大移動を開始した感覚があった。今、俺の胃袋はたぶん鎖骨のあたりにある。

 

 さらに、昨日の今日で結婚式だ。

 平和の証としての政略結婚。もたもたして王国の気が変わらないうちに、という帝国の冷徹なスピード感に、俺の体は悲鳴を上げていた。



 そして――あのプロローグのシーンへと繋がる。

 


 白亜の大聖堂。降り注ぐステンドグラスの光。

 何百人という参列者の視線に晒されながら、俺はフェルディナンド将軍の隣に立っていた。


(…やばい。本気で意識が飛びそう……)


 厚いベールの下、俺の視界はチカチカと火花が飛んでいた。

 酸欠のせいで頭がグラグラし、一歩動くたびにドレスの重みが肩に食い込む。

 神聖なパイプオルガンの音色が、今の俺には「お前の葬送曲だぞ」と言っているようにしか聞こえない。


(神様、ごめんなさい。俺は男です。女のフリをして聖域を汚しています。でも、すべては生きるため、いいえ、肉を食うためなんです…! どうか許してください…)


 内心で必死に懺悔ざんげしていると、隣に立つ「夫」がわずかに動いた。

 フェルディナンド将軍だ。

 儀礼用の白い軍服に身を包んだ彼は、神の彫像のように完璧な横顔で前を見据えている。

 

だが、その視線がふと、俺の方へ向けられた。


(ひっ…また首、見てる!?)


 顎を引いて、喉仏を隠す。

 だが、その拍子にコルセットがさらに食い込み、俺の三半規管が限界を訴えた。

 冷や汗が背中を伝う。吐き気が波のように押し寄せてくる。


「…気分が悪いのか」


 誓いの言葉を交わす直前、将軍が耳元で低く囁いた。

 気遣うような、あるいは試すような声。

 俺は「うふふ」と裏声で応えようとしたが、喉から出たのは「…っ、ふ、くっ…」という、今にも中身をぶちまけそうな苦悶の音だった。


「…………」


 将軍が無言になる。

 しまった。これは恥じらいではなく、嫌悪だと思われたか。

 あるいは、具合の悪そうな様子から偽物だと疑われたか。


(処刑…? やっぱり、肉を食う前に首をはねられるのか…!? まってそれだけは止めて!)


 絶望に目を閉じかけたその時、将軍の大きな手が、そっと俺の腰――正確には、ドレス越しでも分かるほどガチガチに固まった俺の背中に添えられた。


 支えられている。

 その体温の熱さに驚いている間に、儀式は淡々と進んでいった。

 

一言も耳に入らなかった聖職者の長い話が終わり、ようやく解放の時が来る。

 だが、俺に待っていたのは『豪華な披露宴』ではなく、『初夜』のための寝室への移動だった。


「披露宴は欠席だ。王女の体調が優れないのでな」


 将軍が周囲にそう告げる。

 会場にざわめきが広がるが、将軍の威圧感に誰も文句は言えない。


「兄上、問題ないか」


 将軍が、祭壇の特等席に座る人物――タヴェルニエ帝国の頂点、皇帝陛下へと視線を向けた。

 威厳に満ちた、冷徹なまでの美貌を持つ男。彼こそが、この国家詐欺がバレた際に俺の首をはねる最終決定権者だ。


(ひっ…! 皇帝陛下だ。終わった、絶対「ふざけるな披露宴に出ろ」って怒られる…!)


 俺はベールの下でガチガチに固まり、死を覚悟した。

 しかし、皇帝陛下はしばらくの間、俺と将軍をじっと…それこそ、穴が開くほど凝視した後。


「…構わない。好きにするといい。その…『王女』を大切にな」


 皇帝は片手で口元を覆い、どこか苦しげな、あるいは何かを必死に堪えているような声音で了承した。


(…助かった。なんだかものすごく低い声だったけど、やっぱり怒ってるんだろうか。常識人って聞いてたし、そんな皇帝陛下からすれば、こんな体調の悪い花嫁なんて不愉快極まりないよな…)


 まさか皇帝が、『弟の花嫁がどう見ても男なのが面白すぎて、今ここで爆笑するのを防ぐために必死』だとは欠片ほども思わず、俺はただその威圧感に震えるしかなかった。


「感謝する」


 将軍は短く応えると、俺の肩を抱き寄せた。


(…え、というか披露宴、なし? 豪華な食事は? 俺のローストビーフは!?)


 体調不良で死にそうなはずなのに、脳内では飯抜きへの絶望が上回る俺は、自分でも大概だと思う。

 俺は将軍に半ば抱き抱えられるような形で、大聖堂を後にした。


 目的地は、城の最上階の一角にある将軍の私室。

 そこは、俺が『男』だとバレた瞬間に死の部屋へと変わる場所。


(やばい、どうしよう! 披露宴の肉は逃したけど、このままじゃ俺自身が殺される…!)


 コルセットの苦痛と、正体発覚への恐怖。

 美味しい肉を食べるためにここまで来たが、その対価が命だなんて、いくらなんでも分が悪すぎやしないだろうか。…いや、まだ一口も食べていないのだから、現時点では完全なる負けだ。

 俺はそのことに、ようやく気づき始めていた。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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