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第3話:片道切符

続きは21時くらいにー

 いよいよ、運命の出発の日がやってきた。


 王宮の裏門付近。そこには、俺を乗せて帝国へと向かう一台の馬車が停まっていた。

 表向きは、敵国へ平和の礎として嫁ぐ第二王女の旅立ちだが、実際は生贄をこっそり運び出す密輸に近い。

 なにせ、国王である父上すらここにはいないのだ。彼は「見送るなど時間の無駄だ。適当にやっておけ」と言い捨てて、今頃は愛妾と朝食を楽しんでいるはずだ。


「……うう、苦しい。ベールが重い……」


 俺は、何重にも重なったシルクのベールの下で小さく零した。

 顔は一切見えない。これなら近くに寄られない限り、バレることはないだろう。…というか、バレた瞬間に殺されてもおかしくない空気感だが。


「ちょっと、レナート。そんな湿気た声出さないでちょうだい。縁起が悪いわね」


 馬車の陰で俺を見送りに、というか、ちゃんと入れ替わったか監視しに来た姉上が、優雅に扇子を広げた。

 彼女は今、俺が着ていたボロ布のような服を身にまとっている。まとっているのだが、王女のオーラが隠しきれておらず、どう見ても『趣味で貧乏人のコスプレをしている高慢な女』にしか見えない。


「…姉上…。一応聞きますが、本当に、戻ってこなくてもいいんですか?」

「当たり前でしょ! あんな野蛮な帝国、誰が行くもんですか。あんたはそこで、私の代わりに精一杯『死神』に怯えて、適当に可愛がられていればいいのよ。あ、バレて殺される時は、絶対に私の名前を出さないことね。分かった?」


 はなむけの言葉が『死ぬ時は黙って死ね』である。

 この姉貴、帝国よりよっぽど野蛮なんじゃないだろうか。


「あと、これ。一応、姉としての情けよ。持っていきなさい」


 姉上が俺の手に握らせたのは、小さな巾着袋だった。

 お、意外と優しいところもあるのか? もしかして隠し持っていた宝石か、路銀ろぎんの足しにでも…。


 期待して中を覗くと、そこにはカピカピに乾燥した、いつものパンの欠片が数個入っていた。


「…一応聞きますが、姉上、これは?」

「あんたの大好物でしょ? 帝国は肉ばっかりで胃がもたれるでしょうから、それを食べて私のことを思い出しなさいな。オーッホッホッホ!」

 

 いらない。全力でいらない。本気でいらない。

 道中の俺の食費を浮かせようとしたのか、あるいは単なる嫌がらせか。

 俺は「うふふ」と裏声で応えながら、その巾着をドレスの奥深くにねじ込んだ。


「準備が整いました。エルゼ姫様、参りましょう」


 マーサが冷徹な声で告げる。彼女は帝国まで俺に同行し、正体がバレないように監視し続ける役目だ。…というか、彼女も王国に見捨てられた側なのだろう。心中お察しする。


 俺は重い腰を上げ、ドレスの裾をこれでもかと慎重に捌きながら、馬車へと乗り込んだ。

 一歩踏み出すたびに、膝の筋肉が「これじゃない」と文句を言っている。


「じゃあね、レナート! 一生、私のために帝国で尽くすのよ!」


 遠ざかる姉上の勝ち誇ったような笑い声。

 俺は馬車の小窓から、どんどん小さくなっていく王宮を眺めていた。


 十五年過ごした俺の家。

 カビたパンと、冷たい床と、誰も俺を見てくれない灰色の世界。

 …正直、未練なんてこれっぽっちもない。


(…さよなら、カルヴァ王国。さよなら、カビたパン)


 俺の目は、まだ見ぬ東の空――タヴェルニエ帝国の方向を向いていた。

 そこには、俺を殺そうとする将軍がいるかもしれない。

 俺を処刑しようとする皇帝がいるかもしれない。


 だが、同時にそこには――。

 火を通したばかりの、ジューシーで、暴力的なまでに分厚い『肉』があるのだ。


「……肉…。待ってろよ、帝国。絶対に腹いっぱいになるまで食ってやる…!」


 ベールの下で、俺は不敵な笑みを浮かべた。

 それは王女の微笑みではなく、獲物を前にした猟師の、あるいは飢えた獣の表情だった。


 馬車がガタゴトと音を立てて加速する。

 俺の命がけの身代わりが、今、幕を開けた。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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