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第26話:宣戦布告

続きは明日のこの時間くらいにー

「……さて」


 謁見の間の空気が、一瞬で凍りついた。

 先ほどまで腹を抱えて笑っていた皇帝マクシミリアンが、その残っていた涙を指先で拭い、ゆっくりと玉座に深く座り直したからだ。

 その瞳から「笑い」の色が完全に消え、代わりにあらゆる国家を蹂躙してきた軍事帝国の長としての、冷酷な「法」の光が宿る。


「笑い話は、ここまでだ」


 皇帝の低い声が、静まり返った空気に重く響く。

 俺を膝の上に乗せたままの将軍フェルディナンドも、その手で俺の髪を愛おしそうに撫でながら、視線だけは床に這いつくばる王国の視察団へと向けた。


「ベルツァー卿。そして……そこの、自称『本物の王女』。お前たちは、重大な過ちを犯した」


 皇帝が、脇に控えた書記官に顎で合図を送る。


「カルヴァ王国は、我が帝国との和平条約において『第二王女エルゼを人質として差し出す』ことを約束した。だが、実際に送り込まれてきたのは、性別を偽った第三王子レナートであった。…これは明白な国際詐欺であり、帝国の威厳に対する冒涜だ。違うか?」

「あ…あ、あ…わ…。そ、それは、その……」


 ベルツァー卿は、口をパクパクとさせるだけで、もはや言葉にならない。

 一方で、衛兵に押さえつけられた姉上――エルゼは、未だに現実が受け入れられないようだった。彼女の中では「レナートが男だとバレた=レナートが処刑される」という数式しか存在しなかったのだろう。


「…あ、あはは、あはははは!! 何を言っているの!? 騙されたのはあなたたちでしょう!? この…この化けレナートを殺しなさいよ! 私が、私が本物の王女なのよ! 私を受け入れなさいよ!!」


 エルゼが、狂ったように叫ぶ。

 その言葉を聞いた瞬間、俺を抱きしめ閣下の腕に、ピキリと血管が浮き出た。


「……化け物、だと?」


 閣下の殺気が、物理的な圧力となって広間を震わせる。

 俺は「ひえっ」と喉を鳴らした。怖い。


「レナートは、俺の唯一無二の伴侶だ。性別を偽らざるを得なかったのは、お前たちがこいつを『いないもの』として扱い、死地に追いやったからではないか」

「そんなの、こいつが平民の女の子供だからでしょう!? 当然じゃない! こんな泥棒猫の息子、生かしておくだけでも慈悲だわ!」


 エルゼは止まらなかった。

 かつて王国で、誰もが当然のように俺に浴びせていた罵倒。彼女にとっては、それが帝国の皇帝の前でも通用する「正義」なのだと信じ込んでいるらしい。


 だが、その言葉こそが、皇帝マクシミリアンの逆鱗に触れた。


 ドォォォォォン!!


 皇帝が、玉座の肘掛けを拳で叩きつけた。

 凄まじい音に、壁際の照明がガタガタと揺れる。


「……黙れ、分をわきまえぬ小娘が」


 皇帝の冷徹な声が、エルゼの叫びを力技でねじ伏せた。


「我が帝国において、最も貴ばれるのは力と忠誠、そして個の価値だ。血筋などは二の次、三の次よ。…我が弟が選び、私が認めたレナートを、その程度の理由で侮辱するか」

「で、でも…!!」

「さらには、帝国という国家を騙し、茶番を演じさせた挙句、今この場に及んでも己の保身のために唾を吐きかける。…カルヴァという国は、これほどまでに礼節も知性も欠いたゴミ溜めだったのか」


 皇帝は、冷たく笑った。


「ベルツァー卿。帰国して、貴殿の王に伝えよ。…カルヴァ王国が帝国に送り込んだのは王女ではない。帝国に宣戦布告するための火種であった、とな」

「そ、宣戦…布告……っ!!」


 ベルツァー卿が、ついにその場に白目を剥いて倒れ込んだ。

 視察団の他の面々も、死を宣告された罪人のように震えている。


「フェルディナンド。許可する。我が軍を動かし、あの無礼な小国を地図から消し去れ。……レナート、お前の故郷を跡形もなく焼き払ってやろう」

「……御意」


 将軍が、俺を抱き上げたまま立ち上がった。

 そのまま、俺の頬に軽く口づけをし、俺の耳元で甘く、だが残酷な声で囁く。


「レナート。…お前を苦しめた奴ら全員の絶望を、お前への『結婚祝い』にしてやろう。楽しみにな」

「あ……はい…。…あの、閣下。宣戦布告はいいんですけど、お腹空きました」


 俺が地声でボソリと言うと、将軍の殺気が、ふっと和らいだ。


「ははは! そうだったな。戦の前には、栄養を摂らねばならん。……おい、調理場に伝えろ。鴨肉のローストを予定の五倍だ。レナートが最高の笑顔で完食できるよう、最高の質を用意しろ」

「はっ!!」


 侍女たちが、一斉に、そして今までで一番誇らしげな顔で走り出した。

 彼女たちにとっても、正体がバレるかどうかのハラハラ期間が終わり、これからは堂々と小動物を甘やかすフェーズに入れることが嬉しいのだろう。


 一方で。

 「連れて行け」という皇帝の命により、衛兵たちに引きずられていくエルゼは、まだ喚き続けていた。


「嘘よ! こんなの、おかしいわ! 私が王女なのよ! 私が主役のはずよ! レナート、あんた、覚えてなさいよ! 呪ってやる……呪ってやるわぁぁぁ!!」


 俺は、その惨めな姿を、将軍の腕の中から冷めた目で見つめていた。


「…お姉様。呪う暇があったら、今のうちに泥の味をよく覚えておくといいですよ。…これからは、それすら贅沢に感じる生活が始まるんですから」


 俺が地声で放った最後の一撃に、エルゼは顔を真っ赤にして絶句し、そのまま引きずり出されていった。


 広間には、勝利の予感と、香ばしい肉の匂い……を待つ期待感が満ち溢れている。


「レナート。お前は、本当にいい度胸をしているな。皇帝である私の前で、真っ先に飯の心配をるとは」


 皇帝が、再び楽しそうに笑いながら、玉座から降りてきた。


「だがお前のような、生命力に溢れた変人が身内になるのなら、帝国の未来も退屈しなさそうだ」

「恐縮です、陛下。俺、美味しいものを食べるためなら、細胞レベルで期待に応えますので」

「ははは! それは心強い。……さあ、レナートを食堂へ運べ。軍の進軍準備は、その後のデザートの時間にでも話し合おう」

「心得ております、兄上」


 俺は閣下の逞しい腕に揺られながら、食堂へと向かった。

 ただ最高級の鴨肉と、俺を狂おしいほど愛でてくれる変態……素敵な家族が、そこにはいた。


お姉様に絶叫させ足りない気がしたので、足しておきました



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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