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第21話:緊急招集

パソコンの調子が悪すぎて投稿遅れたごめん

続きは明日のこの時間くらいにー

 幸福とは、実に脆いものである。

 昨日の鹿肉のレアステーキ。あの滴る肉汁と、野性味溢れる歯ごたえ。俺は今朝まで、自分の人生はあの鹿肉と共に永遠に続くものだと信じて疑わなかった。

 だが、現実は非情だ。


「……視察団、ですの?」


 朝食のテーブルで、俺はフォークを握りしめたまま、彫像のように固まった。

 目の前では、フェルディナンド閣下が優雅にコーヒーを啜りながら、一枚の親書を眺めている。


「ああ。カルヴァ王国から連絡があった。『最愛の王女の健やかな姿を、この目で確認したい。ついては、来週にも視察団を派遣する』とな」


(嘘をつけええええええええ!!)


 俺は心の中で絶叫した。

 最愛? 健やかな姿? どの口が言う。

 あいつらは俺を「死んでもいい生贄」としてこの国に放り込んだのだ。今さら視察に来る理由はただ一つ。俺の正体がバレて、帝国と王国の間に亀裂が入っていないか、あるいは俺が無様に処刑されていないかを確認し、もし生きていたら「もっと上手く騙せ」と釘を刺しに来るに決まっている。


「……ど、ど、ど、どうしましょう! 閣下! わたくし、急に『視察団アレルギー』が発症したみたいですわ! 顔を見ると全身から魔力が噴き出して、城が消滅してしまうかもしれませんの!」

「案ずるな、エルゼ。お前がどんなに『魔力』を噴き出そうと、俺がすべて受け止めてやる。…それよりも、準備が必要だな」


 将軍の目が、俺の体を上から下まで眺めた。

 その視線には、いつになく真剣な…いや、何かを企んでいるような色が混じっている。


「視察団が来るということは、お前が『カルヴァ王国の王女』として完璧な姿を見せなければならないということだ。…違うか?」

「は、はいっ! さようでございますわ! わたくし、完璧な…さながら鋼鉄の美しさを誇る王女にならねばなりませんの!」


 そうだ。バレるわけにはいかない。

 「実は男でした!」なんて知られたら、俺は王国へ連れ戻され、今度こそ地下牢で一生を終えることになる。それだけは、あの鹿肉にかけて阻止しなければならない。


「カミラ! リサ! 今すぐわたくしに、世界で一番硬い、ダイヤモンド製のコルセットを持ってきてくださいまし! 肋骨が三本くらい折れても構いませんわ! ウエストをマイナス十センチ…いえ、二十センチ絞り上げるのです!」


 俺は立ち上がり、侍女たちに命じた。

 そう、女装の基本はシルエットだ。俺のこの、肉食によって逞しくなりつつある体躯を、強引に可憐な少女の形に押し込めるには、物理的な圧力しかない。


 しかし、控えていたカミラは、困ったように眉を下げた。


「殿下。…それは、あまりお勧めできませんわ」

「なぜですの!? わたくしの細胞は、今まさに締め上げられることを切望していますわよ!」

「閣下からの厳命でございます。…『エルゼは病上がりゆえ、体を圧迫するような不健康な装いは一切禁止する』と」


 俺は、隣に座る将軍を二度見…いや、五度見した。


「…閣下? い、いいのですの? コルセットをしない王女なんて、具の入っていないピロシキのようなものですわよ!?」

「いい。…というか、絶対に嫌だ」


 将軍は、コーヒーカップを置くと、椅子を引いて俺の正面に立った。

 そして、俺のウエストのあたりに手を伸ばし……触れるか触れないかの距離で、その形をなぞるように動かした。


「俺は、お前の今の姿が気に入っている。…必死に呼吸を止め、顔を真っ赤にしてまで、不自然な形に体を歪める必要がどこにある? お前は、そのままで十分に…『エルゼ』だ」


(えっ。何その、殺し文句みたいなトーン。怖い)


 将軍の瞳が、至近距離で俺を捕らえる。

 その熱量に、俺の脳内にある『国際詐欺師アラート』が激しく鳴り響く。

 

「で、でも…王国の人々が、わたくしのこの…ボリュームのある体型を見て、不審に思ったら…」

「お前は、帝国の豊かな食文化によって成長したのだと言えばいい。…事実は事実だろう? 王国でガリガリに痩せ細っていた王女が、俺の隣で健康的に肉を食らい、しなやかな…筋肉を、いや、気品を身につけた。これほど喜ばしいことがあるか」


 将軍の手が、俺の肩をぽんと叩いた。

 …重い。その手には「余計なことはするな」という無言の圧力と、同時に「俺が保証してやる」という、奇妙な包容力が同居していた。


「いいか、エルゼ。来週の視察団の前では、コルセットも、不自然な白粉も、高い襟も必要ない。…お前が、お前らしく(男として、とは言わないが)そこにいるだけでいい。…分かったな?」

「…は、はい。閣下が、そこまで仰るなら……」

 俺は渋々、承諾した。

 

(…これ、もしかして、将軍なりの『嫌がらせ』じゃないよな?)


 ふと、疑念がよぎる。

 わざとコルセットをさせず、俺の男らしい体つきを王国側に晒し、俺がパニックになるのを見て楽しもうとしているのでは…?

 だが、将軍の表情を見る限り、そこにあるのは冷酷な愉悦ではなく、どこか満足げな、…そう、自分の宝物のありのままの姿を誇示したい、コレクターのような情熱に見えた。



 ――その後。

 俺は自室に戻り、侍女たちと作戦会議を開いた。


「どうしましょう、カミラさん! 閣下がああ仰る以上、コルセットは使えませんわ! このままでは、わたくしの鋼鉄の大胸筋(詰め物)が、ただの不自然な肉の塊に見えてしまいます!」

「落ち着いてください、殿下。閣下が『圧迫するな』と仰ったのであれば、私たちはそれに従うまでです。…ですが、シルエットを整える方法は、物理的な締め上げだけではありませんわ」


 カミラが取り出したのは、薄くて柔らかい、だが非常に巧妙なカッティングが施された、新しいシュミーズだった。


「これなら、締め付け感はゼロです。…ですが、殿下のその、しなやかで力強いラインを、より『健康的で豊かな淑女』に見せるように、光の反射と影の配置を計算してありますの」

「…光と、影?」

「ええ。閣下が仰る通り、今の殿下は以前よりもずっと…その、艶やかになられましたから。…隠すのではなく、あえて『こういう形の女性なのだ』と、周囲に信じ込ませるのです」


 リサも横から頷く。


「そうよ、殿下。コルセットで苦しそうな顔をしているよりも、美味しいものをたくさん食べて、ツヤツヤした肌で笑っている方が、視察団への『ざまぁ』にもなりますわ。…『私はこんなに幸せよ、ざまーみろ!』って、体全体で表現するんです!」


 ……なるほど。

 一理ある。というか、百理くらいある。

 

 あいつらが期待しているのは、俺の不幸だ。

 ならば、俺が最高級のドレスを纏い、コルセットの苦しみからも解放され、将軍に溺愛されている(ように見える)姿を見せつけることこそが、最大の復讐になる。

 

「分かりましたわ! やってやりますわよ! わたくし、世界で一番『リラックスして肉を食う王女』として、あいつらを迎撃いたしますわ!」

「その意気です、殿下! さあ、練習しましょう。…まずは、コルセットがない状態での、優雅な『猪の骨の折り方』からです!」

「……それは淑女の練習なんですの?」

「閣下が喜ばれます」

「なら仕方ありませんわね!」


 俺の細胞は、再びあらぬ方向へと活性化を始めた。

 


 一方、王宮の別の場所。

 皇帝マクシミリアンは、弟から届いた報告書――「視察団にエルゼのありのままの姿を見せる。コルセットは禁止した」という内容を読み、静かに天を仰いだ。


「…フェルディナンドよ。お前、ついに隠す気すらなくなったのか。…視察団が来るというのに、お前の『自慢の珍獣(男)』を、そのままの形で見せびらかすつもりか…。正体がバレて国際問題になる恐怖よりも、自分の愛でているものがコルセットで苦しむ姿を見る方が耐えられないとは…。……もう、私の腹筋は限界だ。誰か、代わりの腹筋を持ってきてくれ…」


 皇帝の絶望的なうめきなど、レナートの耳には届かない。

 


 一週間後。

 帝国に到着した王国の視察団。その中に、煤汚れを無理やり落とし、憎悪の炎を燃やす一人の侍女…もとい、変装したエルゼ王女の姿があることを、今のレナートはまだ知らない。

 

「見てなさい、レナート。あなたのその化けの皮、私がこの手で剥ぎ取ってやるわ…ッ!」


 嵐の予感を孕みながら、帝国と王国の正面衝突の幕が上がろうとしていた。

 


 当のレナートは、その頃。


「コルセットがないから、今日はいつもよりステーキが二枚多く入りますわ!」


 と、満面の笑みでナイフを研いでいたのである。


どうも、体型補正コルセットを駆逐しろ過激派委員会会長です



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


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