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第10話:完璧すぎる演技

続きは12時くらいにー

 帝国ライフ2日目。俺の全能感はとどまるところを知らなかった。


 朝食のステーキを完食し、死神将軍の鋭すぎる視線を『秘密の成長期』という神がかり的な言い訳で切り抜けた俺は、自室のふかふかのソファに深々と腰掛けていた。


(…余裕。ぶっちゃけ、余裕すぎる。本業スパイとして各国に潜入できるくらいだ、俺)


 窓から差し込む陽光を浴びながら、俺は心の中で自分に拍手を送っていた。

 考えてもみてほしい。男が女装して、敵国のトップである将軍の妻になりすましているのだ。普通なら一秒でバレてギロチン行きである。

 それがどうだ。俺は今、こうして最高級の紅茶を飲み、昼食に魔獣の肉が出るのをワクワクしながら待っている。


(将軍も皇帝も、それから帝国の使用人たちも、案外抜けてるよな。あんなに肩幅ががっしりしてて、声がカラスみたいな王女、普通はおかしいって思うだろ? やっぱり、俺の醸し出す『儚い美少女オーラ』が、物理的な違和感をすべてねじ伏せているに違いない)


 鏡に映る自分を見る。金髪のウィッグ、丁寧な化粧、そして三倍盛りのパッド。

 うん、どこからどう見ても、遠目なら美少女だ。俺の演技力は天才的なんじゃないだろうか。


 そんな俺の自画自賛タイムを遮るように、侍女たちが「お風呂の準備が整いました」とやってきた。


(…っ! 風呂、きたか!)


 これは正体を隠すために必要な最大の難関。しかし、俺には秘策があった。

 俺は立ち上がると、昨日特訓した、おしとやかな咳払いを一つ。


「…ええ。でも、わたくし、王国の聖なる教えで…『入浴は一人で、一糸まとわぬ姿は神以外には見せてはならない』という掟があるのですの。うふふ」


 デタラメもいいところである。カルヴァ王国にそんな教えはない。そもそも俺は王国では泥水みたいな風呂にしか入らせてもらえなかった。

 しかし、帝国の侍女たちは驚いたように顔を見合わせると、すぐに深く頭を下げた。


「まあ、なんと神聖な…。申し訳ございません、姫様。私どもの不勉強でしたわ。では、浴室の外でお待ちしておりますので、何かあればすぐにお呼びください」


(…よし。チョロい。まじでチョロすぎるぞ、帝国!)


 俺は心の中でガッツポーズを決め、広々とした浴室へと足を踏み入れた。

 そこはもう浴室というよりは、温水の宮殿だった。大理石の床、湯気と共に立ち上るバラの香り。お湯の中には色とりどりの花びらが浮かんでいる。


「…うおぉぉ……すげぇ……」


 誰もいないことを確認し、俺は地声で感嘆の声を漏らした。

 服を脱ぎ、たっぷりのお湯に肩まで浸かる。

 

(最高だ…。肉は旨いし、風呂は広いし、ベッドは柔らかい。正体がバレて処刑されるリスクを考えても、この生活は良すぎる。…いや、バレる気がしないんだけどな、今のところ)


 俺は湯船の中で、自分の細い――しかし確実に男の形をしている腕を眺めた。

 筋肉はそれなりにあるが、不遇な生活のおかげで肉付きが薄いのが幸いしているのかもしれない。


 その時。浴室の外から侍女たちの話し声が微かに聞こえてきた。


「(…ねえ、さっきお洋服を片付けたけど、やっぱり下着の詰め物の量が尋常じゃないわよね?)」

「(しっ、静かに。あれは『王国の聖なるボリューム』なんですって。陛下からも『突起物を見ても、それは神秘的なパーツだと思え』って通達が来ているでしょう?)」

「(そうだったわ。…でも、あんなに肩幅が逞しいのに、仕草が一生懸命で可愛らしいわよね。なんだか、大きな猫を飼っている気分だわ…)」


 浴室の音で、俺の耳には「可愛らしい」「聖なるボリューム」といった単語しか届かなかった。


(…うふふ。やっぱり俺、完璧に信じられてる。神秘的なパーツってなんだよ、俺の美少女オーラが神格化され始めてるのか? 帝国の人たち、ピュアすぎて逆に申し訳なくなってくるな!)


 俺はすっかり上機嫌で風呂から上がり、再び鳩のような胸部装甲を装備して、昼食会場へと向かった。


 昼食のテーブルに並べられたのは、今日という日のメインイベント。

 ――『炎牙猪フレイムボア』のグリルだ。

 

 皿の上で、赤黒い肉の塊がパチパチと音を立てている。スパイスの香りが強烈に鼻腔を突き、視覚だけでヨダレが止まらなくなる。


「…お帰り、エルゼ。これが帝国の魔獣だ。お前が好きそうなものだろう」


 対面に座るフェルディナンド将軍が、珍しく楽しげな様子でナイフを動かしている。

 俺は「淑女」であることを思い出し、早く食べたくて震える手で肉を切り分け、口に運んだ。


「っっっ!!!」


 衝撃が走った。

 噛んだ瞬間、肉汁が爆発した。濃厚かつ野性的で、それでいて口の中で溶けるような極上の脂。ピリッとしたスパイスが後を引く。


(うまい…! 何これ、魔獣ってこんなに旨いの!? これなら魔王でもドラゴンでも喜んで食うぞ俺は!)


 俺は必死に「うふふ、野性的ですのね」という顔を作ったが、あまりの旨さにナイフとフォークが止まらない。マナーで教わった「豆粒を分けるような食べ方」なんて、魔獣の肉の前では無力だった。


「…ふふ。やはり、食べている時が一番いい。…エルゼ、そんなに急がずとも、誰も取らない。…もっと焼かせるか?」


 将軍が、俺の口元に手を伸ばし、親指でソースを拭った。


「は、はい。……あ、いえ。…おほほ、わたくしとしたことが、あまりの美味しさに、つい…」

「構わない。…お前が逞しく育ってくれるなら、料理長も喜びぶだろう。…それにしても、エルゼ。お前は首筋に汗をかくと、よりいっそう雄々しいな。王女とは思えぬほどに、頼もしい頸動脈だ」


 …おうおうおう?

 

(また変な言い方を!? でも、逞しく育ってほしいってことは、やっぱり俺を強い王女として期待してるってことだよな? 頸動脈が頼もしいとか、帝国の褒め言葉は独特すぎてついていけないけど……きっと最高級の賛辞なんだ、うん)


 俺は完全にポジティブな解釈で乗り切った。

 将軍は、俺が必死に喉仏を引っ込ませようとして首を不自然に曲げているのを、ニヤニヤしながら見つめている。


「…そういえば、閣下。わたくし、庭園で見かけた魔獣の像に興味がありますの。…今度、詳しく教えていただけますか?」


 俺はこれ以上自分の首を話題にされたくなくて、適当な話題を振った。

 すると将軍は、満足げに頷いた。


「ああ、いいだろう。今夜、俺の書庫に来い。…お前にぴったりの…『化けの皮を被った魔物』についての資料を見せてやろう」

「ま、魔物の資料! 楽しみにしておりますわ、うふふ!」


 化けの皮?

 …ああ、擬態する魔物とかの話だろうか。面白そうだな。

 俺はそんなふうに呑気に考えながら、皿に残った最後の一切れの魔獣肉を幸せそうに頬張った。


(勝った…。今日も一日、俺は完璧に『王女』だった。将軍様も俺との会話を楽しんでるみたいだし、これはもう、帝国のお墨付きを貰ったも同然だろ。余裕、余裕!)


 城のバルコニーでは、皇帝マクシミリアンが側近たちと昼食をとりながら、俺たちの様子を眺めていた。


「…あの少年、取りつくろうことを忘れているだろう。『秘密の成長期』だっけか? フェルディナンドのやつ、あんなに出鱈目な嘘を平然と受け入れて、あいつの方がよっぽど悪い男だぞ」

「陛下、閣下は今、あの小動物をどこまで甘やかしたら、自ら正体を明かすかという賭けを楽しんでおられるようですわ。…ちなみに料理長、肉の量を増やしたことで、あの王女(?)殿下の顔色が良くなったと喜んでおりました」

「いいぞ、もっとやれ。あの幸せそうな顔を見ていると、こちらまで飯が旨くなる」


 帝国全土を巻き込んだ『壮大な餌付け計画』は、俺の知らないところで着実に、そして加速度的に進行していた。


(肉…夜の書庫でも、何かお菓子とか出るかな。うふふ…帝国ライフ、最高じゃん!)


 俺はベッドの上で夜のお菓子を考えながら、幸せな昼寝についた。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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