本州に辿り着けばいける気がする
私は娘に言った。
「本気で金に物言わせてみる?」
「?」
「まず、フェリーで青森へ行く、そして青森空港から羽田へ行く、そのあとはリムジンバスだ!」
この時点で思いつく最速の移動手段はこれであった。
幸いにも青森からの飛行機は予約できた。
青函フェリーの夜便が函館から出るのは夜中の2時。
青森の港に着くのは6時ちょっと前だ。
空港までの交通さえ確保できれば……いける!
函館に着くと、スマホの充電が娘も私も残り1%。
情報を繋いで繋いで前へ進む弾丸ツアーにおいて、情報ツールであるスマホは命綱だ。
娘は駅を出たところにあった貸出式の充電器を借りることにした。
ところがである、貸出QRを読み込もうとスマホをかざしたその瞬間、ついに充電切れで画面が落ちた。
それでも、とりあえずの見通しが立って安心したからか、娘は笑った。
「完璧なタイミングじゃない? 映画かよってくらい」
娘曰く「本州に辿り着ければ行けそうな気がする」
そう、フェリーは確保できた、航空券の予約も取れた、映画で言えばここからは終幕に向けて全てが解決に向かう第三幕。
充電もどうにかして、充電器を借りることができた。
フェリーの出航時間まで余裕もある。
私と娘はフェリーの乗船待合所の隅で、自動販売機のカップラーメンを食べた。
本日昼に食事してから、空腹を飴玉で凌いでようやくありつけた食事だ。
なんの変哲もないカップ麺だったが、涙が出るほどうまかった。
一つ印象的だったのは、待合所にいるおっさん二人が「いやー、一人だったらこんな無茶しないんですけどね」という会話をしていたこと。
私と娘も思った。
「ほんまそれな」
多分、慎重派の娘が一人きりならば、こんな無茶をしようとは思わなかっただろう。
私が一人きりでも同じ、ここまで来る途中のどこかで心折れて立ち尽くしていただろう。
「さあ、出港だ、とりあえず本州には辿り着くぜ!」
私と娘は2時発のフェリーに乗船した。
ちなみにフェリーは初めてである。
まず驚いたのは設備が綺麗なこと。
絨毯が敷いてある大部屋に長い枕が置かれた雑魚寝スタイルではあるが、清潔だし女性専用室もある。
シャワーもあるし、ドライバー向けの寝棚の部屋もある。
しかもお値段的にもネカフェで夜明かしするのと変わりない程度。
今回のツアー中一番高かったのは、実は北斗号である。
値札的な話ではなく、電車で、4時間立ち乗りで。ノロノロ走ってあのお値段⁉︎という。
北斗号は特急券の他に長距離の通常運賃を取られる。
しかも途中ICが使えない区間があり、窓口での清算だったが、「嘘っ、電車でその値段?」という金額だった。
まあ、普通でも3時間の距離分走ってるからね、まあ、うん。
それに比べてフェリーのお安いこと!
お安いのに仮眠できて、人も少なくて、おまけに綺麗。
船酔いもせず3時間ほど快適に仮眠したあと、目を覚ますと青森の街明かりがはっきりと見えた。
さあ、いよいよこの旅も終わりである。




