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なぜに我らは北を目指すのか

「一緒に行くはずだった友達がいけなくなったから、ライブのチケット余ってるんだけど、母さん、一緒にどう?」


「いいね、どこ?」


「北海道!」


「いいねいいね、ついでにジンギスカン食べてこようぜ!」


 これが全ての始まりだった――



 12月11日、乗ったのは朝早い便だった。

 元々寒波だとか雪の予報だとかはあったのだが、それでも出発地は快晴、まさか現地があんなことになっているなんて……


 たどり着いた新千歳空港は、すでに雪の中だった。

 札幌の街へ出れば一面真っ白、脛の辺りまで積もった雪が目に眩しい。

 車道は白い雪が白いまま踏み固められたアイスバーンになっていて、中央線も横断歩道も見えないくらい。


 そして歩道は、さらさらと心地よい雪にふんわりと覆われていて、下がレンガなのかアスファルトなのかも全くわからない。

 何なら出っ張りがあるのか窪みがあるのかも全くわからない。


 地元の人たちが踏み固めた行き道を辿って、1日目の昼は楽しく札幌の街を歩き回った。


 時計台に、セントラルパーク。

 セントラルパークはクリスマスバザーのイベント中で、深い雪に一際目立つ赤と緑が楽しい。

 そこで寒さよけにホットワインを飲んで腹の中を温めてから、再びフラフラと円山公園へ。とは言っても動物園に行くには遅く、誰も踏んでいない親切の上に飛び込んでみたり、雪玉を投げてはしゃいだり。


 私は、この時点ではまだ、ことの重大さに気づいていなかった。

 なぜならそれほどの大雪であっても街には人が行き交い、市電は平気な顔で走っており、“ごく普通の生活”がそこに平然とあったからだ。


 しかしこの時すでに、千歳空港では遅延や欠航が相次いでいた。


 何も知らない私はライブを楽しんで、その日の宿であるホテルへ。

 娘がネットで格安で撮ってくれた宿は、セミダブルのベッドがドーンと置いてあるだけ、椅子もテーブルも、部屋の中にトイレすらない狭小物件。

 だが旅の相手は抱いて育てた可愛い娘、幼い頃のようにきゅっと抱きしめて寝れば北国の夜も寒くない。


 旅の1日目は、こうして何事もなくすぎた。


 しかし、私は気づいていなかった……寝相の悪い娘にがっちり関節を極められて「あー、そうそう、この子小さい頃からこうだったわ」なんて呑気なことを考えている間にも、シンシンと雪が降り続けていることを。

 この雪が二日目の旅程を粉々にぶち砕くことを……


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