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絶対、逮捕してやるんだからぁ!〜美人エリート刑事は女たらしの新聞記者に翻弄される〜  作者: 名無之権兵衛


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第8話「100万円が振り込まれているようだけど……」

「お客さま、この度はご迷惑をおかけいたしましたので、ささやかなお詫びではありますが1万円を送金させていただきました。四菱銀行の末尾02の口座に送金させていただきましたので、ご確認いただけますでしょうか」


 陈庆彩(チェンチンツァイ)に言われ、絵色はおそるおそるパソコンを操作する。


 何か嫌な予感がする。心にジワリと広がる感覚がする。それでも進んでしまうというのが人の常。銀行のページを開く。


 しかし、ページを見て絵色は眉をひそめた。


「ごめんなさい、1万円じゃなくて……()()()()()が振り込まれているようだけど……」


 陈庆彩(チェンチンツァイ)は電話の向こうで三文役者でさえ寒気がするほどの慌てたそぶりを披露する。


「あぁ、なんてことだ……。お客さま、大変申し訳ございません。私の手違いでこのようなことに……。あぁ、大変だ。これじゃあ、クビになる! 妻や子供だっているのに、家だってローンを組んだばかりなのに!」


 息をするように自身の窮状をまくし立てる陈庆彩(チェンチンツァイ)。マイクをオフにすると、部下の一人に向かって


「まぁ、嘘なんだけどね」

 と、したり顔。


「お客さま、大変申し訳ないのですが、そちらから私どもの方に差額の99万円を振り込んでいただけないでしょうか」


 絵色のパソコンはいまだに陈庆彩(チェンチンツァイ)らの手の上ですが、彼女が知るはずもありません。


「あのぉ、一度、上司に報告されたらどうでしょう……」

「そんなことしたら私はおしまいだ! 上司は外国人で、平気で人をクビにするんです! このままでは私は路頭に迷ってしまう!」


 人を信じることを生業にしてきたからでしょうか。こうも迫られると情に駆られてしまうと言うのが絵色一葉という人間でして、しばらく思案していたのですが、


「…………わかりました」




   * * *




 絵色が送金した瞬間、




 大型モニターに映っていた預金残高がいっせいに「0」になる。




 老後のために蓄えておいた2000万も、クレジットカードの上限400万も、教育を受けられない子供達を憂いて全国から集まった寄付2億1000万も。




 全て彼らに奪われてしまった!




 会場はまるでオリンピック開催地が決まったかのような大騒ぎ。


「みんな、よくやった! よくやった! 俺たちは最高だ!」


 陈庆彩(チェンチンツァイ)は20人の部下とハイタッチを交わす。


 その顔に浮かんでいるのは、

 無論、笑顔。




   * * *




「もしもし……もしもし?」


 絵色は電話に向かって呼びかけますが、応答はありません。パソコンの画面は真っ暗で、いくら触っても反応はない。


 これまで見え隠れしてきた〝嫌な予感〟が急に湧き上がってくる。


 全身から血の気が引いていく。


「もしもし……もしもし!?」


 スマホの画面を見るとすでに通話は終わっており、定年退職時に教え子たちと撮った待ち受け画像が、色褪せた思い出のように映し出されている。


 言葉にできない困惑を抱えたのも束の間、

 パソコンの画面がつく。




 パッと映し出された画面を見て————、




   * * *




 通報を受けた朝霧万里子はいつものように勇足で現場に向かうが、そこが絵色一葉の家だと分かると足は重くなり、ついには玄関前で立ち止まってしまった。


「主任……」


 部下の花垣に声をかけられ、やっと前に進む。家の中はどこか薄暗く、物悲しい雰囲気がする。


 リビングに案内され、ダイニングチェアに小さい背中を一つ見つけますと、胸がキュゥッと締まる。


「…………絵色、さん」

「万里子ちゃん……」


 絵色の顔を見た万里子は背筋がゾッとした。


 数時間前に会ったはずなのに、そこから30年も時が流れたかのように、顔に血の気はなく、シワは深くなり、髪は縮れて、今しもこときれてしまいそうな様相でした。


「万里子ちゃん……、あそこに全財産あったのよ。生活費もお友達との旅行代も……。それに、それにね。全国の方々からいただいたお金を……お金をォ…………」


 突然、絵色が万里子の肩をガシッと掴む。

 その細腕からは考えられないほどの力と震えが、若い主任の全身に伝播する。


「ねぇ……、私のお金、戻ってくるわよね? 万里子ちゃんなら、きっと犯人を捕まえてくれるから、お金も取り戻してくれるわよね」


 万里子は「はい」と言うことができませんでした。

 犯人が検挙されたとしても、すでに使われていたり、別の組織に流れていたりするなどして、全額返金されるケースは極めて稀なのです。


 しかし、その事実はあまりにも酷すぎる。


 万里子は唾を飲み込んで「大丈夫です、大丈夫ですから」と言い淀むことしかできませんでした。




   * * *




 夜になり、万里子は警視庁の廊下の隅で地べたに座り、膝を抱えていました。


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