【夢:自宅】
こんな夢を見た。
それは丁度、家族との夕飯のひと時であった。
テレビから流れるバラエティの音と、カチャカチャと控えめに響く、食器の音。
見渡せば、そこは生まれ育ったマンションのリビングだ。
家具もインテリアも何もかもが記憶のままで、今ではもう懐かしさすら感じられた。
目の前には、ほかほかと湯気を立てる料理たち。
「沢山作ったから、どんどん食べてね」
そう微笑む母の、少し和風の味付けの手製のペペロンチーノが私は一番好きだった。
今はもう、味わえない料理だ。
私は誘われるがまま、スプーンとフォークをつかい、くるくると巻いて口に入れる。
「楽しいね」
左側に座る父が、嬉しそうに笑う。
「ずっと此処に居たいね」
右側に座る母が、そう私に囁く。
懐かしい筈の料理の味は、まったく分からない。
何処かで羽ばたきのような音が、聞こえる。
何かに突き動かされるままに、私は料理を口に運び続ける。
「沢山お食べ」
「沢山お食べ」
「そして」
「もっと美味しくおなり」
父と、母の声が重なって聞こえる。それはまるで、知らない人の声にも聞こえた。
身体はとてもだるいのに、フォークを口に運ぶ手だけは止まらない。
足元には柔らかな糸のようなものが絡まり、私を此処に留めている。
りん、と綺麗な鈴の音が聞こえたような気がして、私は視線をあげる。
正面の席、空席になっているそこには、誰かが座っていた筈だ。
りん、と一際はっきりと鈴の音を耳が拾った瞬間、私の視界は暗転したのであった。
続きは明日(7月12日)更新予定です。
皆様の見る夢が、良いものでありますように。