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鳥籠に眠る猫   作者: 御羊 藍沙
一章・春告猫は風に乗って
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緑の瞳に至ってから

 始まりは要女が六年生の夏の頃、中学二年生だった守がクラスメイトと喧嘩をして、頬を真っ赤に腫らして帰ってきた。

 どうやら要女と同じ学年の弟妹が居るクラスメイトが要女の噂を聞いたのか、複数人でつるんで守をからかっていたのだ。

 守も最初は相手にしていなかったが、調子に乗ったクラスメイトが行き過ぎた暴言を吐き、逆上した守が拳を振るった。

 両親はその晩に守を連れてクラスメイトの家に謝罪に伺い、どちらにも非があるということで大事には至らなかった。

 喧嘩の詳しい内容や、互いの両親同士でどのような話し合いがされたのかを要女は知らないが、両親に『暴力を振るった』という点についてはしっかり叱られて項垂れていた、兄の背中をよく覚えている。


 そして小学校を卒業し、守と同じ中学への入学のための支度をしていたまだ肌寒い三月に、守は髪を金に染め、赤いカラーコンタクトを入れるようになった。

 制服も幅広のズボンにシャツの裾を出して、今までは優等生の部類に入っていた兄の変貌は強烈だった。

 まるで典型的な不良の風貌であったが、美容師の父に染めてもらった髪を摘みつつ、「綺麗に染まってるだろう?」と照れ臭そうに笑う顔は、何時もの兄であった。

 守は入学してくる要女から視線や話題を逸らすため、わざとこのような格好をするようになった。


 要女を悪く言う人間には、舌打ちや威嚇をするようになり、暴力沙汰にはならなかったものの、兄の友人は殆ど去ってしまったという。

 教師ウケも当然良い訳もなく、勉学は怠ってなかったため成績こそ学年の上位に食い込む実力を持っていたが、内申はボロボロになったらしく、本命だった進学校から適当な公立高校に進路を変える事になったのである。

 罪悪感から一度そのことについて謝った事が有るが、守は優しい顔で「要女は気にするな」と微笑むだけだった。

 兄の変貌を、自分のために捨てたものの大きさを思えば、要女の胸は痛んだ。

 しかし、それと同時にトゲだらけの外側の中には、昔の兄がちゃんと居て、寄り添ってくれている事が要女の勇気や希望にもなった。

 優しい両親と大好きな兄。暖かい家族が、帰る場所が有ったからこそ、要女は挫けずに中学時代を乗り越えようとしていたのだ。


 しかし、運命というものは残酷である。

 優しい両親を失ったのもまた、凍えるほど寒い冬の日であった。



 気持ちが沈んで、あれ以降片付けは殆ど進まなかった。

 冷蔵庫に入っていた叔父お手製の弁当(朝食にも出た鮭や卵焼きを詰めたものだったが、美味だった)を温めて食べてから、要女は着替えて外へ出ることにした。

 このまま家にいても気が晴れることは無いような気がしたからだ。そして、これから自分が生きていく新しい町を、己の目で見てみたかったのである。


 ピンク色のパーカの上にお気に入りのコートを羽織り、素足の上にデニムスカートと黒のハイソックスを履く。

 赤いスニーカーを履いて玄関の鏡を見れば、そこには焦げ茶色のボブカットの幼さが残る緑の瞳の女の子がこちらを見ている。

 瞳の色以外は、何処にでも居る少女だ。

 叔父が外出したいなら、と玄関に置いておいてくれた合鍵を手に取り、ファンシーキャラのワンポイントが入ったトートバッグを片手に引戸を開ける。

 まだ少し肌寒いが、風が無く柔らかな陽の光も有るため凍えるほどでもない。


 鍵を締めた要女は、何処へともなく歩き始めた。

明日は要女の散策パートと、新しい出会いの予定です。

引き続き宜しくお願い致します。

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