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春を待つ猫
「……こうして、猫の神様は娘と結婚して、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
それは、幼い頃の他愛もない記憶だ。
怖い夢を見て泣きながら起きてきた幼子だった私を、母が抱きとめてくれた。
そして一緒に布団に潜り、物語を聞かせてくれた夜の記憶だ。
「ねこのかみさまって、すごいんだね」
「そうだよ。今でも猫たちにお願いして、悪い夢を見せる鳥をやっつけてくれるんだ」
「猫さんすごいね!」
寄り添う母が、頭を撫でながら微笑んでくれる。
「そろそろお休み。明日も学校だよ」
「うん……ねえお母さん、私も猫さんに会えるかな」
「……夢の中でも良い子にしていたら、会えるかもね」
クスクスと笑いながら母の胸元に潜り込む。そうして目を閉じれば、夢の入り口はもうすぐである。
ーー幼い頃の、他愛ない記憶。今ではもう、かなわない夢だ。
これは、私たちが春を迎えるまでの物語である。
※本作にはガールズラブ/ボーイズラブ的な関係性の描写がありますが、恋愛を主軸とした物語ではありません。
関係性の深さや依存、執着を含みます。