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5-2


 件の担任教師が及第点に達していないという客観的なエピソードもある。尤も此れは人づてに聞いた事だが。

 高校入学して最初に行われた試験での私の席次は三位だった。其の時私の前に座っていた席次二位の生徒は大人しくて物静かな女子だった。彼女の性格が判ったのは、必要に迫られて彼女と話す事になったからだ。最初の試験から間も無くして、二人一組になって互いに受験の主要科目である数学と英語を教え合う時間というのが毎日設けられたのだが、其の時私とペアを組むことになったのが彼女だった。彼女と組んでみて分かったのは、「こういうのが全国レベルなのだろう」ということだった。「本当に基礎や基本というべきものがきっちりしていて、土台と呼べるようなものがめちゃくちゃしっかりとしている。(私の様に)弥次郎兵衛のみたいにそもそも根本がフラフラしていて安定感がまるでなく、危なかしいーー浮き草の様なところがちっともない」というのが、彼女に対する私の素直な感想だった。数学はまだ理系の私が文系の彼女に「教えられてはいる」という感じだったのだが、英語は一方的に教えられることしかなかった。彼女からすれば、私の英語力などお粗末そのものであったろうに、嫌な顔せず丁寧に教えてくれた。数学ですら感覚でやっているような私と違って、奇妙な謂い方だが、遥かに理知的であった。此のペアで勉強を教え合うというのは“教育熱心”な担任教師の“実験”の一つだったのか、それ程長くは続けられなかった。彼の教師の他の試みとしては、「学校で教わる以外の教養を身につけさせる」という意図で定期的にクラス全員に同じ本を購読させ、感想文を提出させるといったことをやっていたのだが、こちらは卒業する迄で続けられたのだが。

その後、いつの間にか彼女は高校に登校して来なくなる――

 一体彼女に何があったのかは知らない。知らないのだが、聞こえてきたところによれば、「担任が彼女の家を一度訪れ、『高校に来るように』説得したが、『馬鹿野郎!』と罵られ撃退された」ということだった。

 「たったの一度かよ!」。

其れが当時の私の感想だった。

「読書感想文書かせてる暇があったらもっと行けよ! もっとちゃんと向き合えよ!」。

特別進学科の特待生に期待されている事など、高校の宣伝の為に大学への進学実績を稼ぐ以外の何物でもない。彼女はA特待――最高位の待遇で入学させた、最も“結果”が期待できる生徒だった筈である。

「メンタルケアも碌に出来ないのかよ! 満足にしようともしないのかよ!」。

其れが出来れば、彼女は必ず進学実績を稼いだだろうに。いや、そうに違いないのだ!

「全く教育熱心なこったな!」。

……「間違いなかった」のだ…………。


 其の後、噂を耳にした。

「彼女は、自らの手で自らの命を断った」と。


 「一体何してやがる!」

 私は叫んだ。

 其れは、彼女に対してだったのか、それとも、「教育熱心な特別進学科の担任の英語教師」に対してだったのか…………。

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