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4-3


 高校に進学しノートをちゃんと取る様になって直ぐに気付いたのは、「黒板に教師が書くことを全部書く必要は無い」ということだった。「教科書と照らし合わせて其処に書いてないこと書き留めればそれで十分じゃないのか?」ということになった。其れ迄に碌にやったことがなかったから、そんなことにようやくこの時点になって気が付いた次第である。板書を全て書くよりも手間は減ったののだが、この調子なら間もなく、ノートを取るのを止めただろう。殆どは教科書に書いてある訳だし。但し、従来の精神状態なら、“駆り立てなければ”、である。

……であった。

 まだ私が“派閥”の一員だった時――但し、最大派閥はいよいよ色々な意味で圧倒的最大派閥になりつつあり、他のメンバーに“置いていかれる”と感じる様になった頃と、ノートを取るのを止めようした時期は重なる。それで私が如何したのかと謂うと、よりノートをしっかり取ろうとしたのである。普通であろうと。「変な奴」「不気味な奴」「気持ちが悪い奴」と思われ、更に置いていかれない様に。取り残されない様に。

 そんなものは全くもって無駄だったのであるが。

 だが、“派閥”から零れた後も私はノートを取ることは止めなかった。とても授業中に眠れる状態などではなくなっていた。「「何で俺がこんな目に遭わなければならない!」――常にこんな感情が渦巻いていた。憤り、情けなくて仕方が無くて、それどころではなかった。教科書に落書きしたり、パラパラ漫画を描く様な気分にも、到底なれる筈もない。そんな感情を逸らす為にノートを取った。取っていた。一生懸命気を逸らす為に。何もしないでこんな嫌な気持ちに沈淪などしたくなかったし、普通に見える様に「負けていない!」「負けてなんていない!」と虚勢を張っていたのでもある。

 今にして想えば、「一体何に負けるっていうんだ?」――其れでで終わりなのだが。

 只管に自分の内側に意識が閉じ籠り収縮し凝縮する様は、或る意味集中している状態なのだろう。だが、これは私の学習スタイルにはマイナスであった。著しくは其の特性を阻害するものすらであった。「見るともなしに見る」「聞くともなしに聞く」――私の受講スタイルというのは謂ってしまえば、「ながら勉強」である。此れで何とかなっていたのは――何処かで見聞きしたことが何時の間にか幾らかでも血肉になっていたのは、一つの事に集中していなかったからであろう。意識が分散していたから良かったのだろう。分散していただけ同時にその分それなりに同時処理出来ていたのだろう。唯一つの事に集中出来たなら、そのことだけなら、其れ迄以上に血肉に出来たのだろう。

ただ其れが、只管に嫌な事、嫌で堪らない事のみに内向、収斂して硬直したらどうなるか――。

他は殆ど何も頭に入ってこなくなった――――

一所懸命板書することで一つに――授業だけに集中出来たのならどれだけ良かったか。若しかしたら、かえって学力が向上したりしたのだろうか。……いや、授業中以外の全て――高校生活があの様では、やはりKをはじめとした“派閥”の連中に、其れに追随する其の他に、何よりも自分自身に憤り、絶望するしかなかっただろう。

 家での勉強などもとても手につかなくなった。手につく訳がない。自分なりの勉強方法は確立したが、私の頭にあるのは、常に「どうして私がこんな目に遭わなければならない!」であり、屈辱感と無力感と怒りに漲る。

こんな嫌な気分に絶えず打ちのめされながら生きていたくなかった。

やがて自殺することが常に頭から離れなくなった。


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