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私には高校入学を期にちゃんとやろうと思ったことがあった。

 一つは授業中にちゃんとノートを取るということ。小中学校の時、私は殆どノートを取らなかった。鉛筆なりシャーペンを手にしている時というのは、私にとっては教科書に落書きをしている時かページの端にパラパラ漫画を描いている時だった。全くノートを取らなかったという訳でも無かったのは、其れは周りの生徒の真似をして板書をやってみたという程度にはノートに書いたことはあったからだ。「稀にやってみた」に留まったのは、「書いてみたところで何もならない」からだった。「どうせ読み返す事など無かった」ということもあったのだけれど。

私は悪筆だった。後になって見返してみたところで、書いた本人にも可成りの部分が読めないくらいには。

鏡文字と左右両利き。それから酷い悪筆。子供の頃の私には右と左の違いが理解出来ず、其の為に自然、「右と左の区別がつく人間は天才だ」と信じていたし、ましてや、そんな条件を満たした上で、「ちゃんと読める文字をどの文字でもちゃんと書ける人間は更にとんでもない天才だ」と信じて疑っていなかった。そんなことを謂い出したら、「世の中天才だらけだ」などとは考えもしなかった。…バカである。

 「右も左も解らない」という謂はあるのだが、私には其の概念すら解らない、いや、そんな概念が存在する事すら分かっていたかは怪しい。「箸を持つ方が右手」と言われても、「使いやすい方が右手」と言われても、どちらが右手なのか左手なのか判らない。食事の度にどちらかの手では箸なりスプーンなりを持って使っていた訳だし、どちらも同じ様に使いやすいので気にもならなかった。両利きだったという事だろう。鏡文字というのは、書く文字が全て或いは特定の文字が鏡写しの様に左右が逆というのとは一寸違った。私の場合は其の時に其の文字を実際に書いてみないと其れが左右反転するかはわからないというものだった。書く度に、アットランダムに、左右正しかったり、向きが逆だったりという有様だった。当然、書いている本人には、どれが鏡文字でどれが正しい向きなのかなど判別がつかない。鏡文字を書く人間としてはたちの悪い患い方をしている部類だったのだろう。そして、書く文字自体が物凄く下手糞ーー。

 それらを矯正する為に、私は小学校中学年頃迄ペン習字に通わされた――「それが嫌だったら、せめて他の家の子みたいにどこか塾に通え」と親に言われ、「学習塾に行かされるよりはまし」と思い、私はそちらを選んだ――のだが、そのおかげか、先の二つは直ったのだが、此の二つが原因だと思われていた悪筆は、文字の左右の向きが正しくなっても、利き腕が右腕に定まっても、全くうまくはならなかった。

もう一つ、子供の頃の私にはおかしなところがあった。資質と謂ってしまうと美化のし過ぎであろうが。これは特に矯正の対象にはならなかった。矯正しようにもどうしたらよいのか解らないということはあっただろうが。親も多少は心配していたようだが、ちゃんとまともにも機能していたので、「まあ、そのうち治るだろう。鏡文字やはっきりしない利き腕、下っ手くそもいいところの字と違って、この先生活が不便になったり、人様に迷惑をかけたしないだろうし」という感じだったかもしれない。それは数字の視え方である。数字に色がついて視えていたのだ。だがそれは眼がおかしいという訳でもない。ちゃんと印刷されている文字の色に――黒インクで書かれていれば普通に黒に――見えている一方でカラフルな色がついて視えるという感覚があった。後に稀にそういう人もいるものだと後に知ったのであるが、そういう感覚が理解出来た。そこから更に少しして、「数字から匂いを感じる」「数字には色も匂いも有る」という人がいるという話を耳にしたのだが、流石に私には匂いまでは解らなかった。そういえば、「数字には味がある」と言っている人の話は聞いたことがないのだが、流石にそこまでの人はいないのだろうか。まあ、本や本のページを、好きで齧ったりする奴などいないのだろうが。ヤギじゃあるまいし。

「カラフルな数字」の話はそこまでにして、「書いた本人ですら判読不能な悪筆」の話に戻ろう。


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