第9話~マリー・アルウェッグの末路~
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マリーがこの家に来てから数日が経った。
マリーは自室に引きこもっているようで全く姿を見せない。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
庭で剣を振るっていても、母やキャロルだけが確認できる。
父は仕事のために王都へ向かっているので不在だ。
剣を振りながら義妹マリーについて考えをまとめる。
どうしてマリーはデイヴィスを名乗れなかったのか……
捜査資料に記載されていたのは【マリー・アルウェッグ】。
最終的にマリーは旧アルウェッグ家の屋敷から遺体で発見された。
新聞報道という形で俺のもとに報告が届いた。
捜査中だった俺が新聞に後れを取ったのかは分からず仕舞いだ。
「うーん……」
俺は剣を振るのをやめて、地面に座り込む。
本当は今すぐにでもマリーにこの家に来ることになった経緯を聞きたい。
けれど、マリーは部屋から出てこないし……なにより……
視線を微妙に動かす。
視界の隅で小さく動く影を捉えた。
またいるよ……よく飽きないな……
キャロルが俺のことを見張っている。
俺が見ていることに気付くと、金色の髪を揺らして物陰に隠れた。
キャロルは俺が剣の練習をしているとよく来る。
最初は偶然かと思っていたが、何度も続くと流石にわかる。
なんでこんなに執着されているんだ?
そうならないように避けていたのに……
この状況でマリーに会いに行けば、キャロルが黙っていないだろう。
「はぁ……どうしたものか……」
俺はため息を吐きながら空を見上げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜中にこっそり会うしかないよな。
みんなが寝静まった夜。
俺は森へ特訓に行く前に気配を消しながら歩く。
この時間なら誰にも会うことなくマリーの部屋まで行けるだろう。
俺は気配察知の範囲を広げながら慎重に進む。
あそこだ……周りに人影はない……
マリーの部屋の近くまで来てから俺は動きを止めた。
俺は足音を立てないようにゆっくりとマリーの部屋に近付く。
扉の前に立つと、中からすすり泣くような声が聞こえてきた。
泣いているのか!?
俺は扉に耳を当てる。
「ぐすっ……お父さん……お母さん……」
マリーは悲痛な声を押し殺すように出していた。
こうしてドアに耳を当てていなければわからない声量だ。
俺はそんなマリーの声を聞いて胸が締め付けられるような感覚に陥る。
「どうして……私を置いて行っちゃったの……」
マリーは両親を恋しがっているようだ。
4歳の子供には両親がいない状況は耐えられないだろう。
本当にマリーの両親は亡くなった!? 教会に捨てられた孤児じゃないのか!?
俺は捜査資料の内容との食い違いに頭を抱えた。
「ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ……」
マリーは泣き続けている。
この泣き方は嘘じゃない……
でも、それならどうしてお母さんはお墓の場所を言えなかったんだ?
俺は母からマリーの両親の墓は教えられないと言われた。
俺が嘘と決めつけていたことが真実だったかもしれないのだ。
「ぐすっ……ぐすっ…………」
マリーの泣き声は徐々に小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
寝たみたいだな……
一体どうなっているんだ……
話をしに来たが、寝るのを邪魔してまですることではない。
それに、起きたらまた悲しみで涙を流すことになる。
俺はマリーの部屋の前からゆっくりと離れた。
訓練をする気が無くなったため、部屋に戻って自問自答する。
王宮魔法団の調べた内容に間違いがあった?
そんなはずはない!!
王宮の魔導士が担当した捜査に間違いなどあってはならない。
だが、今聞いたマリーの泣き声が演技とは思えなかった。
俺は……どうすればいいんだ……
俺は頭を抱えて呟く。
俺がマリーと仲良くすれば解決するのか?
いや、そんな単純な問題じゃないだろう。
「はぁ……考えても仕方ないか……」
俺はため息を吐いてからベッドで横になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マリー! おはよう! 起きているかいマリー!!」
もうマリーに直接話を聞いた方が早い。
俺は人目も気にせず、朝食前の時間にマリーの部屋のドアを叩き続ける。
「マリー、起きているんだろう!? ドアを開けてくれないか!? 一緒に朝食を食べよう!!」
俺がドアを叩き続けていると、母が慌ててやってきた。
「ロジャー!? あなた何をやっているの!?」
母は俺を止めるように後ろから抱き締めてくる。
思いのほか力強くて苦しいが、止まる気はない。
「マリーと仲良くするために、朝食を一緒に食べようと誘っていたんです」
「それにしたって早いわよ!? マリーが寝ていたらどうするの!?」
母が俺を扉から離すと、怒鳴りつけてきた。
前世では滅多に怒ることがなかった母を俺はもう何度も怒らせてしまっている。
しかし、そうでもしないと前回と|同じ結末〈妹に刺される〉になってしまうのだ。
俺は母に向き直って頭を下げた。
「ごめんなさい。でも、僕はマリーと仲良くしたいんです」
「そ……そんな急に言われても……」
母は俺の行動に困惑している。
そんな俺の後ろからドアノブが開く音が小さく聞こえてきた。
「私と……仲良くしてくれるの?」
俺が振り返ると、扉の隙間から銀髪の少女マリーがこちらを覗いていた。
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